旅レポ

新型リゾート列車「えちごトキめきリゾート 雪月花」に乗車

2016年4月23日 運行開始

糸魚川駅に入線した雪月花。遠目にもインパクト抜群

 えちごトキめき鉄道は4月23日、妙高はねうまライン・上越妙高駅と日本海ひすいライン・糸魚川駅間で、新型リゾート列車「えちごトキめきリゾート 雪月花」(せつげっか)の運行を開始した。

 2両編成で運行される列車は、糸魚川側の1号車がカウンター席中心のラウンジタイプ、直江津側の2号車はボックス席中心の座席配置。1、2号車共に前面展望を楽しむことができる展望ハイデッキが設けられているが、2号車は4名までのグループで独占できるコンパートメント(要別料金)となっている。また、2号車には沿線の地酒やワインなどを提供するカフェ・バーも設けられる。定員は1号車23名、2号車22名。4月から6月の運行日は土日祝日が予定されている。

上越妙高駅発(午前便)

上越妙高駅(10時19分発)~二本木駅(10時35分着/10時51分発)~妙高高原駅(11時10分着/11時27分発)~二本木駅(11時45分着/11時59分発)~直江津駅(12時28分着/12時38分発)~名立駅(12時54分着/13分06分発)~糸魚川駅(13時30分着)

糸魚川発(午後便)

糸魚川駅(14時10分発)~直江津駅(14時46分着/14時56分発)~二本木駅(15時24分着/15時43分発)~妙高高原駅(16時02分着/16時20分発)~上越妙高駅(16時48分着)

 運賃は1号車利用で食事が付かない「花コース」が6000円、2号車利用で食事付きの「雪コース(上越妙高発)」「月コース(糸魚川発)」はともに1万4800円。雪コースの食事は「ミシュラン二つ星が手がける・越後上越フルコース」、月コースの食事は地元糸魚川の老舗割烹「鶴来家」による「和食のフルコース」。花コースを含めた全コースにウェルカムドリンクが付き、「雪月花オリジナルスパークリングワイン」(またはノンアルコールドリンク)が提供される。

 4月23日の運行開始を前に報道陣向けの試乗会が実施され、記者は21日の午後便に乗車することができた。この便は関係者向けで、営業運行とは異なり食事などのサービスはないものだったので、「列車に乗ってみた」印象をお届けしたい。この列車の特徴でもある食事の情報は文末の「えちごトキめきリゾート 雪月花」へのリンクからぜひご確認いただきたい。

「えちごトキめきリゾート 雪月花」にいよいよ乗車

 東京駅から北陸新幹線「はくたか」に乗り約2時間。日本海ひすいラインとの乗換駅となる糸魚川駅に到着。えちごトキめき鉄道の改札口を抜けてホームに降り立ってみると、側線を備えた長大なホームに驚く。国鉄時代の雰囲気を色濃く残したホームからは、旧北陸本線の要所だったことがうかがえる。

 13時30分。上越妙高発の午前便が2番線に入線してくる。当日はあいにくの曇り空だったが真っ赤な車体は遠目にも鮮烈な印象。2両と短い編成ながらもホームでは抜群の存在感を放っている。列車に近寄ってビックリさせられるのは、窓の大きさだ。客席部分の窓は横幅2300mmの1枚板で、なんでも鉄道車両では国内最大級の大きさとか。天井部分にもアールの付いた大きなガラスが回り込んでいて、さながらサンルームのような開放的な雰囲気だ。

糸魚川駅に入線してくる雪月花。遠目にもインパクト抜群
2号車側
1号車側
午前便の乗客を迎える横断幕が用意されていた
前面。ゴールドの金属部分は燕三条の金物
海側から見た連結部
2号車のグラフィック(山側)
1号車のグラフィック(山側)
横幅2300mmのワイドな窓が特徴

 外観のチェックもそこそこに、まずは1号車に乗り込んでみる。「豊かな実りの黄金色」をイメージしたという車内は、越後杉をはじめとした木材が随所に使われており、ウォームなトーンで描き出された木目の美しさが楽しめる。カフェタイプのシートに腰を下ろすと「視界すべてが窓」といった感じ。海側はもちろん山側のシートからも眺望は抜群だ。ここまで窓が大きいと夏は厳しいかも、と思いきや、使われているガラスは紫外線透過率0.01%以下&遮熱性も備えた機能性タイプとか。この日はあいにくの天気だったため、確認はできていないけれども、これなら夏場でも快適に過ごせそうだ。

1号車の室内
2号車側から。車端部はボックス席になっている
メインはカフェタイプのシート
山側のテーブルは折り畳み式でスムーズに乗り降り可能
ボックス席
1号車の展望ハイデッキ
車端部にある飾り……、と思いきや実は換気用
海側は波をイメージした造形
山側は山なみをイメージ
海側のボックス席
1号車のドアは左右で位置が異なる。中央に見えるのはトイレ
ドア横に飾られているえちごトキめき鉄道の路線図

軽いエンジンを響かせて糸魚川駅を発車

 と、1号車を眺めているうちに発車時間に。古い国鉄形気動車とは異なる軽いエンジン音を響かせ、ゆっくりと糸魚川駅をあとにする。駅構内にあるいくつかのポイントを、かなり遅いスピードで通過してゆく。聞けば「快適に過ごしていただけるよう、通過速度を15km/hに制限している」とか。さらに「水を満たしたワイングラスを運転台に置き、こぼさないで走れるように練習した」なんて、どこかで聞いたような話も。「イニシャルS(etsugekka)かぁ」なんてつまらないことを考えていると、大きな窓にポツポツと雨粒が付きはじめた。このあと、天気は下り坂方向らしい。

 トイレとカフェ・バーを通り過ぎて2号車へ。窓のサイズは同じながらも、2名または4名用ボックスシートが並ぶ車内は、黒系の木材とグリーン系のシート表皮が組み合わされ、落ち着いた雰囲気に一変。テーブルもサイズが大きく、家族や友人と食事を楽しみながら過ごすにはよさそうだ。

2号車の表示
車端部にカフェスペース
ウエルカムドリンクとして供されるオリジナルスパークリングワイン
スタンプも押せる
フロアのタイルは安田瓦。濡れても滑りにくい
限定グッズも発売
2号車はボックス席のみで構成
2名用のボックス席

 先頭部に設けられた3段の階段を上ると、そこはグループ用のコンパートメント。普通なら壁に小さな窓が付くだけの運転席部分もガラスになっており、左右の足元から前方まで、車窓のパノラマが楽しめる。ここを利用するには運賃に加えて1万5000円の追加費用が必要となるけれど、車窓を楽しむなら間違いなく特等席。直江津や二本木でのスイッチバックで方向転換も行なわれるから、前方だけでなく後方ビューも楽しめる。1度で2度美味しい欲張りスペースでもあるわけだ。

貸し切りスペースとなる展望ハイデッキ。ものすごい開放感
階段の先には展望ハイデッキがある
展望ハイデッキからボックス席を見る
2号車の換気口は雪だるま

 なお、1号車にも同じようなデッキが設けられていて、こちらはパブリックスペース。ちょっとだけ雰囲気を味わいたい、なんて場合はこちらを利用するといい。

 全長約11㎞の頸城トンネルと、その途中にある筒石駅を堪能しているとまもなく有間川駅が近くなる。ここから谷浜駅の間は日本海ひすいラインの真骨頂。車窓には日本海の風景が広がる。ただし、せっかくの景色もこの日はどんより。「天気がよければ」と思わずにはいられない。

頸城トンネルにある筒石駅を通過中
有間川駅からは車窓に日本海が広がる
2号車から日本海を眺める
日本海を展望ハイデッキから
直江津駅に到着。隣のホームには特急「しらゆき」が停車中
直江津駅のホームにある0キロポスト

 その後、車内において雪月花の設計デザイン統括を行なった川西康之氏にお話を伺うことができた。コンセプトは「いかにお客さまに旅の感動を与えることができるか」。そのため車両デザインは“展望”が最優先。当初は前面を総ガラス張りにすることも考えたものの、安全性や強度面から断念。可能な限り前面ガラスを大きくするとともに、左右ガラスをコーナーまで回り込ませることで展望を確保したという。また、燕三条の金物や越後杉、安田瓦のタイルなど、“メイドイン新潟県”にもこだわり、地元のお客さまにも愛していただけるように配慮していると語ってくれた。

 糸魚川駅を出発して30分ほどで直江津駅に到着。ここで列車は方向転換。妙高はねうまラインへと向かう。その前に10分ほど停車時間があるので、ホームにある「0キロポスト」なんかを眺めるのも楽しい。直江津駅を出発すると沿線の風景は一変。海沿いの幹線から一転、住宅地と田畑が広がる、いかにもローカル線といった雰囲気になる。春日山駅あたりでは上杉謙信の居城、春日山城跡がチラリと見えるはずだが、山の方向は霞がかかった状態だ。

妙高はねうまラインに入ると単線になる
妙高の山々が車窓に
のどかな田園風景が広がる

 列車は午後便の終着駅となる上越妙高駅をいったん通過、折り返し駅となる妙高高原駅へ向かって徐々に勾配がきつくなってくる。車窓に広がる山々もだいぶ距離が近くなってきたものの、「妙高山は何とか見える」ぐらいの状況。ただただ恨めしい。

二本木駅のスイッチバックを堪能

 でも、天気がわるくても楽しめるのがこの路線のいいところ。妙高はねうまラインの(鉄ちゃん的な)ハイライトとなるのが二本木駅だ。ここは現在では数少なくなった「スイッチバック」駅なのだ。スイッチバックとひと口に言っても数タイプあるけれど、この駅の場合は急こう配の路線に駅を設けるためのもの。蒸気機関車時代は上り勾配のきつい所に駅を作ってしまうと、停車することはできても発車することが難しかった。そのため平らな方向に駅を作って本線から分岐、スムーズに発車できるようにする仕組みを作ったってワケ。こうしたスイッチバック駅は電車化によって多くが廃止された(かつては隣の関山駅にも存在した)ものの、ここはまだ現役なのだ。

 列車は本線から分岐した支線に入り、スノーシェルターに頭を突っ込んで停車。バックしながら本線を横断、二本木駅へと向かう。ここでは約20分の停車時間が設けられている。ホームに降りて上越妙高側の線路を眺めていると、グッドタイミングで直江津行きの列車が向かってきた。この列車は先に出発していく。スイッチバックを雪月花の車内からだけでなく、ホームからも楽しめるって寸法だ。

二本木駅のスイッチバックに侵入
右側が本線。走行中の線路は駅へ向かうための側線
車掌がサポートしつつバックして二本木駅へ
二本木駅のスイッチバック。直江津行きの普通列車がやってきた
左側が上越妙高からの本線。右奥が妙高高原への本線
直江津行きの普通列車もホームに入る。この列車が先に出発
二本木駅のホームからスイッチバックを望む
雪月花と普通列車が並ぶ
先に普通列車が発車していった

 関山駅を過ぎると車窓は高原の雰囲気。蛇行する関川を眺めていると、まもなく妙高高原駅だ。この駅はえちごトキめき鉄道の南端に位置し、長野方面へ向かうしなの鉄道北しなの線との乗換駅。標高は約500mとそれほど高くはないものの、この時期だと上着がほしくなるくらいの肌寒さ。余裕があればここで下車して、妙高高原温泉郷まで足を延ばしてみたい。今日は終着の上越妙高駅までとんぼ返りになるものの、20分近い停車時間があるので駅前の土産物屋に足を延ばす、ぐらいはできそうだ。

 妙高高原駅を出発すると、あとは上越妙高駅までノンストップ。今度は二本木駅にも立ち寄らず60km/hほどの速度で軽快に駆け下りていく。ディーゼルカーの場合、通常下り勾配ではクルマと同じようにエンジンブレーキを併用する。だが、雪月花ではエンジンブレーキによる車体の振動を嫌い、通常のブレーキだけで下っていく。新型車両というハードウェアに満足するのでなく、運用する側にも乗客の満足度を高める細かな配慮が詰め込まれているわけだ。

停車時間は約20分
妙高高原へ
妙高高原駅
妙高温泉や斑尾高原への玄関口でもある
長野駅方面へ向かうしなの鉄道の普通列車
ホームには雪月花のポスターが貼られていた

 糸魚川駅を出発して約2時間半。終着駅となる上越妙高駅に到着して雪月花の旅は終了。天気がわるかったのが返す返すも残念だが、乗っているだけでも十分にリゾート気分を味わうことができた。午前便、午後便ともに北陸新幹線の駅が始発&終着駅なので、日帰りでのアクセスも良好。新緑の季節を迎える上越を、雪月花に乗って楽しんでみてはいかがだろうか。

2時間30分ほどの旅を経て上越妙高駅に到着

安田 剛