旅レポ
「えひめいやしの南予博2016」の旅(前編)
海の恵みとみかんの1日目。愛媛県南予地域の自然と食、文化に触れる旅
(2016/3/15 00:00)
けわしいながらも包み込むようにそびえる山と透明で穏やかな海、そして味わい深い歴史文化が残る愛媛県南予(なんよ)地域。まもなく、観光振興イベントとして「えひめいやしの南予博2016」が開催されようとしている。今回、愛媛県では宇和島市、西予市、愛南町を中心に、南予地域の魅力を実際に体験できる「『えひめいやしの南予博2016』プレスツアー」を開催。日ごろ、仕事と都会の喧騒に揉まれお疲れ気味の記者だが、ゆったりとした時間のなか、南予の自然や産業、歴史が育む魅力を堪能してきた。
「えひめいやしの南予博2016」とは?
まず、先に今回のツアーのメインコンセプトとなる「えひめいやしの南予博2016」について紹介しておきたい。愛媛県は「伊予」と呼ばれていたことをご存知の方も多いと思うが、この「伊予」は生産業が盛んな東予、観光地としても有名な松山市を中心とした中予、そしてリアス式海岸と山地という地形を活かした自然の恵みと独自の文化を持つ南予の3地域に分かれる。この南予地域に入るのは、愛媛県西南部に位置する宇和島市、八幡浜市、大洲市、西予市、内子町、伊方町、松野町、鬼北町、愛南町だ。
今回の「えひめいやしの南予博2016」ではそんな南予の自然と歴史文化に触れ、豊かな食文化を味わいながら、サイクリングや民俗芸能、街歩きなど約270あるイベントを体験できる場となっている。開催期間は2016年3月26日~11月20日までの8カ月間。場所は先に紹介した南予の市町に、隣接する伊予市が加わった5市5町になる。
さて「えひめいやしの南予博2016」の説明が終わったところで、ここからは早速、食・産業・歴史文化と三拍子揃った南予博プレスツアーのレポートへ。
真珠の輝きと養殖の過程に魅せられる
松山空港から1時間半以上、山のなかを走っていくと突然、穏やかな海が開けてくる。ツアー最初の目的地は真珠の養殖・加工を行なっている土居真珠だ。真珠というと三重県の伊勢志摩を真っ先に思い浮かべるかもしれないが、土居真珠の土居一徳代表取締役によると、実は真珠のシェアは愛媛県宇和島が日本一だという。リアス式海岸により、入り江が深く波が穏やかな宇和島は真珠を作るアコヤ貝にとっては恵まれた環境。
まずは実際に真珠を作るための「核入れ」の様子を見学。真珠を作るにはアコヤ貝に「核入れ」で真珠の芯となる核などを埋め込んで、1年から2年、海の中で育てる必要がある。ここでは専用の器具を使ってまずアコヤ貝の「外套膜」、いわゆるヒモの部分を取り出しきれいな部分を切り出す。この外套膜が真珠の輝きの元になる真珠層を作り出すのだ。
そして、アコヤ貝の体内をメスで切開し、ドブ貝の貝殻から作られた「核」とカットした外套膜を生殖器部分に埋め込む。細かい作業だが、一人の職人当たりこれを1日600~700個こなすという。また、貝に「手術」するため、あえて通水性のわるいカゴに入れて仮死状態にし、「核入れ」後は波の少ない場所で養生させるなど、アコヤ貝の扱いにも手間がかかっている。
海では、実際に土居代表がアコヤ貝から真珠を取り出す作業を行なった。専用の貝むきで貝を開いて真珠を取り出すのだが、貝からお宝の真珠が出てくる様は見ていて楽しい。また、人間にも個体差があるように、同じ場所で育ったアコヤ貝でも真珠の色や形に差が出るため、どんな真珠が出てくるのか確かめる瞬間はドキドキする。
土居真珠の建物内にある販売所で真珠の品質についてうかがった。真珠の品質を決める要素として「大きさ」「形」「色」「光沢」「エクボ」「巻き厚」の6つがあるという。「エクボ」とは真珠の表面の凸凹のことで、もちろん少ない方が価格も高くなる。そして重要なのが「巻き厚」。これは真珠層の厚さで、この「巻き厚」が薄いと光沢が少なく安っぽい見た目に。実際に「巻き厚」が厚い真珠と薄い真珠の両方を見せていただいたが、明らかに厚い方は高級感があって輝きが違う。
一応は女性である記者は、思わず真珠の品質について詳細にメモを取ってしまった。買えるだけの経済力があるかはとりあえず置いといて。
土居真珠では真珠を養殖しつつも真珠製品の販売を行なっており、真珠のアクセサリーにも惹かれたのだが、今回のツアーではそれ以上に養殖場で採れた真珠がさまざまな色や形、輝きを放っているのを見て自然の妙に心揺さぶられた。土居代表は「一つとして同じ物がないのが真珠の魅力」と語る。アコヤ貝から真珠が獲れると頭では分かっていても、やはり実際に見てみると感動が違う。
実は土居真珠では「核入れ」から真珠の取り出しまで体験できるツアーを行なっている。このツアーは費用1080円で所要時間は1時間~1時間半(要予約)。「真珠は女性のもの」と思っている男性諸氏も、「核入れ」から取り出しまでの作業で自然の不思議と宝探し感にワクワクし、さまざまな個性を持つ真珠を見れば真珠の奥深さに驚かされると思う。
土居真珠
所在地:愛媛県宇和島市三浦西5121-9
TEL:0895-29-0011
トロの贅沢な味わい! 幻の魚「スマ」を食べる
旅の楽しみの一つは何と言っても「食」だが、この日の昼食は宇和島市よりさらに南にある愛南町のお店、黒潮海閣で鮮魚のメニューをいただくことになった。
伊予の海というと真っ先にタイを思い浮かべてしまうところ。しかしここで食べるのはスマ。関東圏の方なら、葛西臨海水族園でクロマグロに代わって試験投入された魚としてニュースになったのでご存知の方もいるかもしれない。実はこの魚、「全身がトロ」と呼ばれるほど脂が乗っている幻の魚なのだ。そんな貴重な魚が食べられると聞いてときめく色気より食い気の記者。
愛南漁協の藤田知右事業部長によると、スマの「幻の魚」と呼ばれるゆえんは元々、カツオに交じって少数混獲される程度で水揚げ量が少ないことが一つあり、現在、愛媛県では収益性の高い魚種として養殖の実証実験を行なっているとのこと。スマを養殖している愛南町では黒潮海閣を初めとする4店舗でスマを使ったメニューを出すという。
今回、店舗で提供されたスマ料理は寿司と刺身、さらに、貴重なスマの身を余すことなく活用するため試験的に作ったメニューということで血合いのユッケとスマのラーメンも今回特別に加わった。
まずは魚の身の味を知りたいので刺身からいただいたのだが、口に入れると身が引き締まっているのが分かり、噛んでいくとうまみの強い脂分がとろけて身が口の中でほどけていく。口どけのよさはマグロのトロ以上かもしれない。しかも、血生臭さはまったくない。
続いては黒潮海閣の店主おススメの寿司。生のまま握ったものと、あぶりの2種類があり、まずは生のままから。食べてみて驚いたのが、スマの脂と酢飯のさわやかさの相性が抜群だということ。濃厚すぎる身は刺身だと人によってはくどいと思うかもしれないが、寿司だと余計な脂分を感じさせず、スマの魅力を最大限に引き出している。また、あぶりでは身のうま味が凝縮されリッチな味わいに。
試験メニューの血合いのユッケでは、血合いという生臭くなりがちな部分がゴマ油の風味と味わいでお酒によく合う1品に。食べていて、日中からビールがほしくなったのは内緒だ。もう一つの試験メニューであるスマのラーメンは、スマのアラのから取ったダシで、スマのうま味がスープに溶け出していて味わい深いのはもちろん、具として乗っていたスマのフライは魚独特のクセがなく食べやすい。
なお、ここで紹介したメニューのうち、寿司と刺身は「えひめいやしの南予博2016」の期間中、週末のみ数量限定で提供される。とにかく、土日に南予博に行ったら早めに黒潮海閣へ行くことをおススメしたい。
黒潮海閣
所在地:愛媛県南宇和郡愛南町蓮乗寺57-2
TEL:0895-72-6091
道の駅「みしょうMIC」でみかん愛が暴走!?
食後に向かったのが道の駅。道の駅はあなどれない。なぜならその土地の食材の集合地だからだ。記者も旅行に行くと、道の駅を見つけてはうろついている。この日、訪れたのは愛南町の「みしょうMIC」。規模はどちらかというと小さく、最初は正直なところ「何があるのだろう」と不安になった。
しかし、店に足を踏み入れて驚愕。南予の特産品はもちろん、柑橘類の売り場面積が広く、品揃えが非常に豊富なのだ。普通のスーパーでは温州みかんと伊予柑の2種類しか置いておらず、たまにポンカンやデコポンといったラインアップが常だが、「みしょうMIC」は違う。伊予柑、デコポンは当然として、文旦や果実が赤いブラッドオレンジ、ほかにも関東ではなかなかお目にかかれない品種が置いてある。しかも店内には、文旦が大袋に入れられた状態で床に転がされ、気を付けないと蹴とばしてしまいそうだ。さすが愛媛。
ここで記者のみかんオタクの血が騒いでしまった。いろんな種類を買いたいけれど、持って帰れる荷物には限りがある。悩んだ末、「はるか」という品種を購入。この品種、東京ではたまにオシャレなスーパーや自然食品店においてあるものの、1個150円~200円とお高い。それが「みしょうMIC」では6個で300円。1/3から1/4の値段だ。
さらに店の出口には「愛南ゴールド」という柑橘のソフトクリームが販売されていた。元々の品種名は「河内晩柑」だが、愛媛では「愛南ゴールド」という名称で呼ばれるのだそうだ。実は先の黒潮海閣で女将さんが「木で長いこと熟すから美味しいのよ。本当はデザートに出したかったんだけど季節がこれからで。残念」と何度もおっしゃっていた。それほど美味しい柑橘で作ったソフトクリームなら食べてみたくなるのが自然の流れだろう。
道の駅の方が「形が崩れちゃってごめんね」と出してくれたソフトクリームは淡黄色で、食べてみたところ甘みと酸味のバランスがよく、ほんのりグレープフルーツっぽい風味も感じさせる絶妙な味。生ではないけど、女将さんが大絶賛した理由の一端が分かった気がした。
スマのコースに「愛南ゴールド」のソフト。幸せな気分だったが、イイことは長く続かない。脂分の多いスマを食べた直後に冷たいソフトクリームを食べて車に乗ったせいか、宿までの道中で胃が悲鳴を上げて苦しい思いをしてしまった。両方ともぜひ食べていただきたいほど美味しいのだが、どちらも挑戦したい方は食休みを十分に取るなど、胃のコンディションの調整をしていただきたい。
道の駅みしょうMIC
所在地:愛媛県南宇和郡愛南町御荘平城4296-1
TEL:0895-72-1115
静かな波の音が響く海の上の宿
南予の海とみかんの魅力を堪能したあと、宿泊したのは宇和島市の北にある西予市の宿「シーサイドうわかい」。船宿である本館とアットホームなペンション風の雰囲気をたたえる新館の2つがあるが、今回、記者が宿泊したのは新館の方。
宿泊室は和室で、お風呂に入るには部屋を出て浴室まで行くことになるものの、部屋自体は肩ひじを張らずに過ごせる作りだ。そして素晴らしいのは、窓から一面広がる宇和海と入り江の風景。宿泊した部屋は2面が窓だったが、片方は海、片方は海岸が見えてまるで海の上にいるような感じである。
夕食は船宿の本館にいるご主人が獲ってくるというタイとアジを中心としたコース。この日は、タイはいよかんの果汁の甘みと酸味を活かしたカルパッチョに、ラー油とガーリックを利かせた、中華風なたたずまいのアジの刺身、角切りの山芋を添えたアジのしょうゆ漬け、キムチでスパイシーさを出しているタイと豆腐のグラタンなど。使っている魚はアジとタイのみであるにも関わらず、さまざまな味と食感を演出したバリエーション豊かなコースになっていた。
また、終盤にはなんとアコヤ貝の貝柱を使ったクリームパスタも登場。こちらはアコヤ貝の貝柱の淡白な味わいとクリームソースの濃厚さがマッチした内容だ。
入浴のあと、部屋に戻ると静けさの中に内海特有の「ちゃぷんちゃぷん」という穏やかな波の音がかすかに響いて心地よい。都市で生活すると普段、さまざまな音に囲まれてしまうだけに、波の音だけ聞いて過ごす時間は貴重かつ癒しのひと時かもしれない。