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ドイツ・ハンブルクに新しいランドマーク「エルプフィルハーモニー・ハンブルク」がオープン

2017年1月11日 グランドオープン

2017年1月11日にオープンするエルプフィルハーモニー・ハンブルク(C)Sophie Wolter

 2017年1月11日にドイツ・ハンブルクにおいてグランドオープンを迎えるコンサートホール「エルプフィルハーモニー・ハンブルク(Elbphilharmonie Hamburg)」。それに先立って12月14日、東京・赤坂にある東京ドイツ文化センターにおいて記者説明会が行なわれた。

 エルプフィルハーモニー・ハンブルクはスイスの著名な建築家ユニットである「ヘルツォーク&ド・ムーロン(Herzog & de Meuron)」によって設計された、音楽ホールを含めた複合施設。ハンブルク市内を流れるエルベ川沿いの再開発地域「ハーフェンシティ」に建設され、ハンブルクのランドマークとして期待されている。

記者説明会に設置されていたエルプフィルハーモニー・ハンブルクの断面図。コンサートホール、音楽教室、展望台、レストラン、ホテル、アパートメントを備えた複合施設
東京ドイツ文化センター所長のペーター・アンダース氏

 説明会の冒頭では、東京ドイツ文化センター所長であるペーター・アンダース氏が登壇。「後ろにハンブルクの旗がありますが、私もハンブルクとは深いつながりがあります。1970年代ですが最初に勤めたのがハンブルクにある会社であり、その当時から大きな経済拠点だけでなく、文化都市であることも知っています。本日皆さんにこちらのハンブルクを紹介できることを大変うれしく思います。今回はエルプフィルハーモニー・ハンブルクの紹介ですが、ほかにもイベントは数多くあり、ハンブルクを訪れる目的はたくさんあるかと思います。皆さんもぜひ、ハンブルクにお越しいただければと思います」と挨拶した。

ハンブルグ親善大使のニコラス・ボルツェ氏

 続いて、ハンブルグ親善大使であるニコラス・ボルツェ氏が登壇し「モイ!」と第一声を発した。これはハンブルクで使われている「こんにちは!」だそうだ。

「ハンブルクでも現在、クリスマス前ということでさまざまな場所でフェスティバルが開かれ、クリスマスマーケットも開催されております」と時節柄の風景を語り、ハンブルクについて説明した。

 日本と比較すると少ないが、ハンブルクは人口170万人を抱えるドイツの主要都市で、エルベ川沿いに位置し、北海からは100kmほどの上流に位置する港町。ハンブルクの800年におよぶ歴史のなかで繁栄を支えてきたのはこのエルベ川で、現在においても重要な役割を果たしている。ハンブルクの旗に描かれている門は、世界に通じる門を表わしており、飛行機がない時代、水運で遠く異国に通じる重要な拠点でもあったとのことだ。そのハンブルクの中心にある古い古い工業地帯を再開発したハーフェンシティのランドマークが、エルプフィルハーモニー・ハンブルクになる。

 また、ハンブルクは工業、商業だけの街ではなく、音楽の街としても歴史があり、古くはクラシックの巨匠である、マーラーやブラームス、クラシックではないが、ビートルズもハンブルクで活動していた時期がある。ニューヨーク、ロンドンに次いで、世界で3番目のミュージカルの街としても知られていると語った。

 日本とのつながりも深く、現在ではオリンパスやパナソニックをはじめとする100社以上の日本企業が拠点を置いている。ハンブルク市内には5000本以上の桜の木も植えられており、毎年5月になると桜のお花見や花火大会も楽しむことができるそうだ。

 エルプフィルハーモニーにとって、もっとも重要な音響に関わる部分は、永田音響設計の豊田泰久氏が担当しており、3台あるグランドピアノも世界的に有名なピアニストである内田光子氏が選定したそうだ。内田氏は1月18日にこちらでリサイタルを行なうとのことだ。

ハンブルクは画面のようにエルベ川沿いにあり、古くから海運で発展してきたドイツの都市。その中心部に位置する、エルプフィルハーモニー・ハンブルク
ハンブルク・マーケティング社 エルプフィルハーモニークロスセクター・マーケティングマネージャーのジルケ・スプラッツ氏

 エルプフィルハーモニーについては、グランドオープニングにおけるインターナショナルキャンペーン・プロジェクトマネージャーであるジルケ・スプラッツ氏が説明した。

 冒頭では「この建物を作るのに工期が10年かかりました。ようやく完成して、町中がワクワクしているところです」とし、建物の概要について解説した。

 エルプフィルハーモニーは、街の中心地から徒歩で行ける距離にあり、港にあるということでレジャー的にも魅力的な場所に建設されている。港の突端である3方向が水に囲まれている立地を活かして、全体が動いているような、波が漂っているようなデザインを取り入れている。また、ハーフェンシティのモダンな建物と近隣のユネスコ世界文化遺産に指定されている倉庫街やチリハウスとのコントラストも特徴とのこと。

エルプフィルハーモニーは再開発地域であるハーフェンシティの最西端に位置し、水辺に囲まれた美しい場所に建っている。ハンブルクは河口から100km上流にあるが、海沿いと標高がさして変わらないので潮による満ち引きもある
タバコやコーヒー、カカオを貯蔵する倉庫跡を利用して建築されており、新旧入り混じったコントラストが自慢となっている

 建物の特徴としては、一見では入り口が分からないような作りになっており、隙間から入っていくことで、先に何があるか分からない、想像力をかきたてるような設計が取り入れられている。そして、メインゲートにはドアがなく、誰でもこの建物の中に入っていくことができるようになっている。

 メインゲートからは波を打っているような弧を描いているエスカレータで上っていき、上にたどり着くと、港町が見えるガラス張りの窓が姿を現わす。このように港の全貌が見渡せる場所は今までなかったので、これだけでも価値があるとのことだ。さらにそこから階段を上がっていくと、プラザと呼ばれる広場があり、ここにも無料で訪れることができる。コンサートだけでなく、ここで待ち合わせすることも可能だ。

緩やかな弧を描いた傾斜になっているエスカレータ
周囲にはガラスのスパンコールが埋め込まれている
エスカレータを上がった先には港が一望できる場所がある

 このプラザからは、大ホール、小ホールにつながる階段があり、またプラザを囲むようにガラスの扉が設置されており、そこから外に出て建物の外周を回ることもできる。

 エルプフィルハーモニーの心臓部である大ホールは2100人を収容でき、永田音響設計の豊田泰久氏が音響設計を担当。「ホワイトスキン」と呼ばれる石膏ボードで音響をコントロールし、それぞれの席が一番遠いところでも指揮者まで30mの位置になるよう設計されているので、どの場所にいても身近に最高の音を楽しめるとのことだ。最近ではあまり見ないパイプオルガンも設置されており、目玉の一つとされている。

エスカレータホールからプラザに続く階段
無料で訪れることができるプラザ。奥に続くのは大ホールへの階段
プラザから外に出て、エルベ川を眺めることもできる
大ホールを取り囲むように設置されている階段
2100人を収容できる大ホール
指揮者まで最長で30mに設計されている座席
素晴らしい音響効果を生み出すという反射板とホワイトスキン
最終チェックをする音響設計担当の豊田泰久氏(左)
4765本に及ぶパイプで構成されているパイプオルガン

 エルプフィルハーモニーでは、クラシックをはじめとし、ジャズ、ワールドミュージック、ポップスにいたるまで多彩なプログラムが用意されており、最初のシーズンのほとんどのプログラムは完売となっているが、3週間にわたるグランドオープニングで幕が切って落とされる。

 そのあとは全部で9つのフェスティバルが予定されており、戦争で苦しんでいるが文化的に優れているシリアへのオマージュ、ニューヨークの多様な音楽を紹介するプログラムと続き、さまざまな音楽が演奏される。ほか、シカゴ、ロンドン、ウィーン、パリといった世界の著名なオーケストラのコンサートも予定されているそうだ。

 もう一つのコンサートホールである小ホールでもさまざまな音楽の演奏が予定されている。大ホール、小ホールとも所属する楽団があり、大ホールは「北ドイツ放送エルプフィルハーモニー管弦楽団(NDR Elbphilharmonie Orchestra、旧称:北ドイツ放送交響楽団)」の本拠地となり、小ホールは「アンサンブル・レゾナンツ(Ensemble Resonanz)」の拠点となる。

写真は完成した10月31日に撮影されたもので、やっと完成したことを市民に伝えたそうだ

 説明会の最後には「アンサンブル・レゾナンツ」のマネージング・ディレクターであるトビアス・レンペ氏が登壇し、同オーケストラについて紹介した。

アンサンブル・レゾナンツのマネージング・ディレクターであるトビアス・レンペ氏

 同楽団はハンブルクを中心に活動する室内管弦楽団で、1990年代に結成。首席指揮者はおらず、指揮者なしで演奏することもあるとのこと。その代わり、チェリストのジャン=ギアン・ケラス氏、バイオリニストのタベア・ツィンマーマン氏とともに共演もしている。

 古典から現代音楽まで、多様な音楽性を取り入れており、目指しているはクラシックを現代風にして紹介するとのことだ。そのためには必ず、現代的な音楽が登場し、ほかの芸術分野への橋渡しもするとしている。ハンブルクでは2つのコンサート拠点を持ち、その一つがエルプフィルハーモニーで、もう一つは元防空壕を利用した「レゾナンツラウム」。それぞれ演奏する音楽も客層も違い、レゾナンツラウムでは、どちらかと言うとファッションに関心を持つ人を対象にした音楽を演奏しているそうだ。

 ハンブルクだけでなく、さまざまな場所でも演奏活動をしており、ザルツブルクやアムステルダム、パリ、ニューヨークといった、その場所に合わせた音楽を提供しているとのこと。今回は初来日で(12月15日に東京公演、16日に名古屋公演)、トランペット奏者としてイエルーン・ベルワルツ氏を招き、日本のフルート奏者である瀬尾和紀氏にも参加してもらい、日本の方にアンサンブル・レゾナンツを知ってもらえることをうれしく思いますと語った。

エルプフィルハーモニーをバックに写るアンサンブル・レゾナンツの演奏家たち