旅レポ

よさこい祭りに沸く高知で名物料理を楽しんできた

定番料理や売り出し中のご当地グルメを堪能

 こちらの記事「まさかの踊り子としてよさこい祭りに参加!」にもあるように、筆者はよさこい祭りに踊り子として参加するため。8月上旬に高知を訪れた。高知のよさこい祭りは、今回が踊るのはもちろん、見るのも初めてだったので、それだけでかなり充実した旅ではあったが、筆者自身、高知に訪れるのは十数年ぶりだったこともあったので、ここはついでにと高知の名物料理やご当地グルメを堪能してきた。

1人でも「鰹のたたき」の藁焼きを体験

 高知には、名物料理がかなり多くある。そのなかで、高知と聞けば誰もが思い浮かべる料理が「鰹のたたき」だ。高知市内には、鰹のたたきを求めて観光客が常に行列を作る名店も数多く存在しており、とにかく定番中の定番といってもいい存在となっている。

 筆者も、高知に行ったら、鰹のたたきだけは外せないと考えていたが、どの店でいただくのがいいのかがよく分からなかった。高知市内で観光客が行列している店ならまず間違いないとは思うが、以前来たときにも高知市内の店で鰹のたたきを食べたので、同じではちょっと面白くない。そう考えて店を調べていて目にとまったのが、「土佐タタキ道場」という店だ。

 土佐タタキ道場は、高知市内から少し離れた、高知の定番観光地「桂浜」のそばにあるドライブイン「かつお船」の中の店で、ここではほかの店にはない体験ができるという点が大きな特徴となっている。

 その体験とは、藁焼きの鰹のたたきを自分で作って食べられるというもの。高知で鰹のたたきの藁焼き体験ができる店はいくつかあるそうだが、その多くが鰹1尾や半尾分ほどの量の身を使って藁焼き体験を行なうため、少人数だと食べきれないことも多いのだという。それに対し土佐タタキ道場では、1人で食べきれる量の鰹の身を使った藁焼き体験ができる。つまり、少人数や1人でも気軽に鰹のたたきの藁焼き体験ができる貴重な店だ。

 土佐タタキ道場では、鰹のたたき単品、またはご飯やみそ汁などが付いた鰹のたたき定食を用意。もちろんどちらを選んでも藁焼き体験は可能。今回は、藁焼き体験付きの鰹のたたき定食(1300円)をいただくことにした。

鰹のたたきの藁焼き体験ができる「土佐タタキ道場」
店の横には、木彫りの鰹とカツオ人間。否応なしに期待感が盛り上がる
鰹のたたき単品と、ご飯やみそ汁、ちりめんなどが付いたタタキ定食を用意。もちろんどちらも藁焼き体験可能だ

 店に入って料理を注文すると、早速藁焼きの体験となる。入り口レジ横に冷蔵ケースが置かれ、モリに刺さった生の鰹の身がたくさん並んでいる。パッと見ただけで、ツヤのある身からはその新鮮さが伝わってくる。しかも、鰹の身は1人前といっても結構な大きさで、ボリュームも満点だ。

 鰹の身を選んだら、藁焼き体験の開始だ。藁が敷き詰められた焼き場に鰹の身を差し出すと、係員が藁に火をつけてくれる。藁は乾燥しているので、すぐに勢いよく燃えはじめ、藁の焼けるいい香りと炎の熱気が伝わってくる。

 ここで気になるのが、どの程度の焼き加減がベストかという点。焼きすぎても、焼きが甘くても、せっかくの鰹が台無しになってしまう。しかし、そこは心配無用。横に付いている係員が、身を裏返したり、取り出すタイミングを教えてくれるので安心だ。筆者も、その指示に従って身を裏返し、無事に藁焼きの鰹のたたきが完成。出来上がった鰹のタタキは、表面だけに綺麗に火が入り、中は生の状態と、まさしくベストの状態。あとは、横に控えている板前さんが手早く身を切り分けて皿に盛り付けてくれ、完成だ。

焼き場にくべられた藁に火をつけ、鰹の身に火を入れる。火の加減の調整だけでなく、身を裏返すタイミングなどはきちんと教えてくれるので、初心者でも安心
冷蔵ケースには、モリに突き刺さった生の鰹の身がびっしり。どれも見るからに新鮮さが伝わってくる
藁の焼けるよい香りとともに、炎の熱気が伝わってきて、テンションが上がる
無事に焼き上がり、鰹のたたきの完成。見た目にもかなり美味しそう
焼き上がった鰹のたたきは、板前さんが切り分けてくれる
鰹のたたき定食の完成。小鉢も付いてなかなかのボリュームだ

 さて、自分で藁焼き体験を行なった鰹のたたきの味は、口に入れた瞬間、藁の焼けた香ばしい香りと鰹の風味が広がり、なんともいえない格別なものだった。しかも、鰹独特の生臭さもまったくといっていいほど感じない。これは、鰹の身が新鮮だからだとは思うが、普段東京で食べる鰹のたたきとは別物といえるほどの美味しさで、さすが高知は違うなと感じ入った。

 鰹のたたきといえば、ネギやミョウガなどの薬味にニンニクスライスを加え、ポン酢でいただくのが基本だとは思うが、高知では塩やわさびで食べることも多いという。

 そこで、塩とわさびだけて食べてみたが、確かにこの食べ方だと鰹の味がストレートに味わえて、普段とは違う鰹のたたきの美味しさが味わえる。もちろんそこに薬味を加えてもいいし、薬味とポン酢の組み合わせも言うことなし。最初に量が多いなと感じたが、その美味しさと、食べ方のバリエーションの多さからどんどん箸が進み、気が付いたら一気に平らげていた。個人的には、もう1人前おかわりしたいほどで、とにかく大満足だった。

きちんと教えてくれるので、出来上がった鰹のたたきも絶妙の仕上がり。口に入れると藁の香りも広がり、臭みもなくてなんともいえない美味しさだ
1人前としては結構量は多いが、薬味や塩、ポン酢などを使い分けて色々な味を楽しめ、あっという間に平らげてしまった

 今回は、お盆のまっただなかに店を訪れたこともあって、11時に到着したのに、すでに店内は満席で、待っている客も数グループいるほどだった。普段はそれほどでもないとのことだが、週末などはお昼前後はかなり混むそうで、長時間待つのがイヤなら早めの時刻に訪れた方がよさそうだ。

ひろめ市場で「軍鶏すきやき」を堪能

 今回筆者は、鰹のたたき以外にもう1つ、高知に行って絶対に食べたいものがあった。それはシャモ(軍鶏)だ。筆者出身のうどん県では、近年讃岐うどんに並び「骨付鳥」という食べ物を強くプッシュしている。これは、骨付きの鶏もも肉を、スパイスの効いた味付けで香ばしく焼きあげるというものだが、うどん県では昔から広く親しまれていて、筆者の好物でもある。つまり、筆者は鶏肉も大好きなのだ。そして、高知では鰹に並んでシャモも名産。となると、これは食べるしかないとなったわけだ。

 高知でシャモと言えば、やっぱりシャモ鍋だろう。坂本龍馬は京都の近江屋で暗殺されたが、その暗殺された日、龍馬はシャモ鍋を食べようと、部下にシャモ肉を買いに行かせていたという。結局そのシャモ肉が届く前に龍馬は暗殺されてしまい、シャモ鍋を食べ損なったという逸話はかなり有名だ。龍馬がシャモ鍋を本当に好きだったかどうかはともかくとして、やっぱりどうせならシャモ鍋をいただきたいところ。鍋ということで旬は冬かもしれないが、暑い真夏に食べる鍋も、また格別かもしれない。そう考えて選んだ店が、高知市内の観光市場「ひろめ市場」の中に店を構える「軍鶏伝」だ。

高知名産のシャモを味わうために向かった、高知市内の観光市場「ひろめ市場」
ひろめ市場には、鰹などの海産物やお寿司、唐揚げ、甘味処など、さまざまな業種のお店がひしめいている。午前中から飲む人が集まることでも有名
ひろめ市場のお店で買った食べ物を持ち寄って、大勢でわいわいと食べられるのも魅力の一つ
注文してから焼いて鰹のたたきを作ってくれる店もある
お昼前にはこの賑わい。人気店には行列もできている
今回のお目当ての店、「軍鶏伝」

 軍鶏伝は、高知県南国市のシャモ生産者組合「ごめんシャモ研究会」が運営するシャモ専門店。もちろん、冬だけでなく夏でもシャモ鍋がいただける。鍋だと2人以上いないと注文できない店もあるが、軍鶏伝のメニューには1人前のシャモ鍋もあるので、1人で行っても大丈夫。

 ということで、早速シャモ鍋を頼もうとしたのだが、その横に気になるメニューを発見。それは、「シャモすきやき」だ。しょう油ベースの割り下で煮込む、すき焼きそのものといった鍋だが、お店としてはそちらもオススメとのこと。どちらを注文するかかなり悩んだのだが、せっかくだからオススメということでシャモすきやきを選択した。

 まず、煮込む前の鍋を見せてもらったが、1人用の小ぶりな鉄鍋に、キャベツやニラ、ネギ、ごぼう、椎茸などのキノコ類に加えて、シャモの肉が乗せられている。シャモの肉は、綺麗なピンク色でプリプリっとした弾力のありそうな見た目で、この時点で美味しさを確信。そして、10分ほど待つと、煮込まれたシャモすきやきがテーブルに運ばれてきた。

注文した、1人前のシャモすきやき。ピンク色でプリプリとしてシャモの肉が、いかにも美味しそう
1人前の鍋で出してくれるので、大勢で行かなくても安心して食べられる
軍鶏伝の店内は、こぢんまりとしている。もちろん1年中シャモ鍋が楽しめる

 煮込まれたシャモすきやきは、野菜などがくたっと煮込まれており、割り下の香りが食欲をそそる。もう我慢ならんと、そのままシャモの肉を口に運んでみた。一般的な鶏肉にはない、シャモ独特の弾力の強い肉質で、かみしめるごとに割り下の奥からシャモの旨みがじゅわっとしみ出してくる。また、野菜にも割り下とシャモの旨みが染み渡っていて、野菜自身の甘さと相まって、なんともいえない旨みが引き出されている。

 ところで、すきやきといえばやっぱり生卵が不可欠。軍鶏伝ではこの生卵にもこだわりがあり、別料金(160円)にはなるが、高知県の地鶏「土佐ジロー」の卵が用意されている。一般的な鶏卵と比べると小ぶりだが、割ってみると盛り上がった白身と、濃い黄色で箸でつまんでもそう簡単に割れそうにない黄身からは、一般的な鶏卵とは違う品質だと一目で分かるほど。

 卵を解き、シャモ肉や野菜を付けて食べてみたが、とにかく甘くて濃厚な土佐ジロー卵の味わいに驚いた。比較的濃いシャモすきやきの味に負けることのないパンチのある味わいで、シャモすきやきの味わいをさらに高めてくれる。はっきり言って、シャモすきやきをいただくなら、土佐ジロー卵は欠かせないと感じるほどに相性がよく、食欲もさらに高まった。

 そして、ある程度シャモ肉や野菜を食べたところで、鍋の底にうどんが入れられているのに気が付いた。うどん県民として、すきやきの締めにうどんは欠かせないが、ここでうどんが入っているとは思ってもいなかったので、意表を突かれつつも、内心かなり喜んだ。割り下といっしょにシャモ肉や野菜からしみ出した旨みを吸い込んだうどんは、美味しくないはずがない。暑い夏ということも忘れ、一心不乱に食べ尽くしたのだった。

煮込まれて運ばれてきたシャモすきやき。野菜やシャモの旨みが染み渡り、抜群の味わいだ
すきやきに付きものということで生卵も注文。地鶏「土佐ジロー」の卵だ
プリンとして盛り上がった白身に、濃厚な黄身は、シャモすきやきとの相性最強だ
鍋にはうどんも入っている。旨みのしみ込んだうどんは、うどん県民として最高の喜びだ

 さて、軍鶏伝にはシャモ鍋、シャモすきやきに並ぶ、もうひとつの名物がある。それは「軍鶏ッケ」(2個で480円)だ。シャモ肉を使ったコロッケで軍鶏ッケと名付けられているが、もともと高知県立高知農業高校の学生が考案したものだそうで、「土佐の食1-グランプリ2015」で過去最多得票を得て優勝した、地元でも人気のコロッケだという。

 当然こちらも食べないと、ということで注文。一般的な牛肉や豚肉を使ったコロッケとは違い、ややあっさりとした印象も受けるが、シャモ肉の旨みがしっかりと味わえる。また、ねっとりとしたじゃがいもの甘みも合わさり、これまでにない新しいコロッケという印象を強く受けた。シャモすきやきにうどんが入っていたことと、軍鶏ッケ2つでお腹いっぱい。藁焼き鰹のたたきとともに、こちらも大満足だった。

 軍鶏伝では、シャモ鍋、シャモすきやき以外にも、シャモと土佐ジロー卵を使った親子丼やオムライス、シャモからスープを取った軍鶏ラーメンなど、シャモにちなんだメニューをたくさん用意している。ご飯やみそ汁、軍鶏ッケが付いた定食も用意されているので、そちらもオススメしておく。

高知県立高知農業高校の学生が考案した、シャモを使ったコロッケ「軍鶏ッケ」
シャモの旨みとねっとりとしたじゃがいもの甘みが合わさった、新しい味わいのコロッケだ
ご飯は頼まなかったが、うどんと軍鶏ッケでお腹いっぱいとなり、大満足
こちらは、シャモと土佐ジロー卵を使った親子丼の定食。軍鶏ッケもついてボリューム満点だ

高知名物「アイスクリン」で涼をとる

 せっかく高知に来たのだから、食べ歩くだけじゃなく観光地にも行っておかないと。ということで、高知に行ったら誰でも行くであろう、桂浜へと向かった。

 桂浜については、もはや説明の必要もないだろう。弓なりに広がる砂浜と、その背後に広がる松林とのコントラストは、まさに絶景。今回は昼に訪れたが、本来桂浜は月の名所として有名で、できれば月明かりに照らされる雰囲気も楽しみたいところだ。

 そしてもう一つ、桂浜といって外せないスポットが、右手を懐に忍ばせて太平洋を眺めるおなじみのポーズの坂本龍馬像。台座を含めて13.5mの大きな龍馬像も桂浜に来たら必見だ。このほか、坂本龍馬記念館や桂浜水族館など、桂浜周辺には見どころが満載で、できればゆっくり見て回りたいところだ。

高知の観光地といえは、やはりここ「桂浜」
弓なりの砂浜と東西の岬、そして背後の松林と、抜群の景観を誇っており、人気なのも納得だ
周囲は観光地としてきちんと整備されており、散策にも最適
岬から望む太平洋は雄大で気持ちがいい
桂浜でおなじみのポーズで太平洋を望む坂本龍馬像、そして同じように太平洋を望むのもお約束
桂浜周辺には、坂本龍馬記念館や桂浜水族館など、見どころも多い

 ただ、今回は観光よりも食べることが主目的。ということで、観光は早々に切り上げ、桂浜といえばこれ、という食べ物をいただくことにした。それは「アイスクリン」だ。

 筆者はアイスクリンと聞くと、その昔、朝の連続テレビ小説「はね駒」で、主役の斉藤由貴の兄役として出演していた柳沢慎吾が、横浜でアイスクリンを作って売るシーンをついつい思い出してしまう。それはともかく、アイスクリンは、以前は全国どこでも普通に売られていたものだ。筆者も小さい頃、実家周辺でよく食べていた記憶がある。しかし、近年ではアイスクリンが売られることはほとんどなくなり、日常的に売られているのは高知のみになっているのだという。そのため今は、アイスクリンは高知名物として人気を集めているわけだ。

 アイスクリンは、砂糖、卵、脱脂粉乳、香料などから作られていて、アイスクリームとは違うシャリシャリとした食感や、口の中でスッと溶けてさっぱりとした後味が特徴となっている。どちらかというとかき氷に近いという印象で、高知の暑い夏にちょっとした涼をとる手段として最適な食べ物となっている。そして、このアイスクリンの売店が、桂浜にあるというわけだ。

 桂浜の砂浜後方に、紅白のパラソルをさしたアイスクリンの売店を発見。値段は200円で、コーンに2段重ねで盛り付けてくれる。この値段の安さもうれしいところだ。この桂浜の売店では、フレーバーはバナナのみ。昔からアイスクリンは、バナナのフレーバーが定番だそうで、桂浜ではこれのみで勝負しているという。

見るよりも食べる方、ということで高知名物「アイスクリン」の売店へ
シャリシャリとした食感でスッと溶けるさっぱりとした味わいは、とにかく懐かしい

 味わいは、その昔に食べたアイスクリンそのもの。バナナの風味は弱めで、さっぱりとした甘さが口に広がり、美味しいというよりも先に、懐かしさを強く感じた。シャリシャリとした食感も健在で、アイスクリームのようなしつこさがなく、どんどん頬張ってしまう。ただし、暑い夏には要注意。アイスクリーム以上に溶けやすいので、早く食べないとどんどん手に垂れてきてしまうのだ。とはいっても、口当たりのよさやあっさりとした味わいなので、溶ける前に大抵の人は食べ尽くしてしまうはずだ。

2段重ねで200円という安さ。桂浜では基本のバナナフレーバーのみで勝負

 ところで、アイスクリンの売店は桂浜だけでなく、高知市内の高知城にもある。そして、高知城のアイスクリンの売店では、バナナ以外に、チョコレート、イチゴ、ゆず、抹茶、ソーダなど、多くのフレーバーが用意されている。しかも、値段は桂浜と変わらず200円で、最大3つのフレーバーまで選べるようになっている。色々な味のアイスクリンを楽しみたいなら、高知城の売店にも足を運んでみよう。

アイスクリンの売店は、高知市内の名所「高知城」にもある
高知城本丸入り口前にある売店、アイスクリンののれんが掲げられている
高知城の売店では、イチゴ、抹茶、ゆず、ソーダなどフレーバーが豊富。しかも3種類のフレーバーを選んでも200円だ

絶賛売り出し中、超豪快な見た目の「香南ニラ塩焼きそば」

 今回の高知ツアーは、高知県の外郭団体、高知県地産外商公社が企画したものだったが、その高知県地産外商公社の方から、“ぜひ行って食べてほしい”と言われていた、とあるグルメがあった。それが「香南ニラ塩焼きそば」だ。

 高知市の隣の香南市は、日本有数のニラ産地で、2010年から生産量日本一を続けているという。そのニラを使ったご当地グルメを作ろうということで生み出されたのが、香南ニラ塩焼きそばだ。香南市で採れたニラをふんだんに使い、「香南塩ダレ」というオリジナルのたれを使って味付けを行なうことが香南ニラ塩焼きそばの条件。数年前にマスコミに取り上げられて以降、高知で最も注目を集めるご当地グルメへと成長しているそうだ。そして、今回その香南ニラ塩焼きそばをいただくために訪れたのが、香南市の「廣末屋」という店だ。

 廣末屋は、香南市夜須町の山間に位置する。周りにはニラなどを栽培する畑が広がる田園地帯で、およそ飲食店があるとは思えないようなロケーションだ。レンタカーなどの足がなければまず行けない場所で、実際に店に向かっている途中も、本当にこの道で合っているのかと心配になったほどだ。ただし、マスコミで取り上げられて以降、休日には行列もできるそうで、地元の人にとってはなじみ店となっているようだ。

高知県香南市は、生産量日本一を誇るニラの産地。そのニラの畑が広がる山間に、「香南ニラ塩焼きそば」の名店がある
香南ニラ塩焼きそばの名店、「廣末屋」。高知龍馬空港から車で15分ほどの場所にあり、公共交通機関でのアクセスはまず無理だ

 店に入ってまず驚いたのが、巨漢のご主人。香南ニラ塩焼きそばの試作を繰り返すうちに食べ過ぎてしまったのかと思ったが、実際はそうではなく、元々力士として活躍されていたのだという。それを聞いてその巨漢にも納得だ。

 次に驚いたのが、香南ニラ塩焼きそばを作る場面。まずはじめに、鉄板に豚バラ肉を敷き詰め、イカのゲソや人参などの野菜と一緒に炒める。具材にいい感じに火が入ったら、ニラの茎の部分を投入して炒め合わせ、その後中華そばをひと玉。専用の香南塩ダレで味付けをし、そろそろ出来上がりかな、と思った直後、目を疑う光景が目の前に広がっていった。

左が廣末屋のご主人。元力士ということもあって、かなりの巨漢だ
豚のバラ肉やイカのゲソ、人参などを焼き、具材にある程度火が入ったらニラの茎を投入
ニラの茎。みずみずしさ抜群で、さすが日本一の産地だけのことはある
焼きそば用の中華そばを投入。専用の香南塩ダレで味付けも行なう

 ご主人が、背後に置いてあった山盛りニラの葉が入ったざるを取り、鉄板に投入。まずひとつかみ、続いてもうひとつかみ。結構ニラが入るんだなと思って見ていたが、そこからがすごかった。ご主人の手はまだまだ止まることがなく、どんどんとニラの葉を投入。最終的には、鉄板の上にうずたかく積もった、ニラの葉の山が出来上がった。スーパーで売っているニラの、4~5把分のニラを使うとのことだが、とにかくその量にあっけにとられてしまった。

 その後、先に作っておいた焼きそばがニラの山の上に乗せられたが、その焼きそばのなんとも少ないこと。いや、中華そば1玉を使って作られているのだから普通の量の焼きそばなのだが、その下のニラはその10倍ほどはあろうかという嵩となっているために、少なく見えてしまうのだ。その後、ニラの葉に火がとおるにつれて嵩は減っていったが、それでも焼きそばというより、そば入り焼きニラ、と言った方がいいのではないのか、という雰囲気。最後、トッピングに細切りの海苔と唐辛子が乗せられて香南ニラ塩焼きそばが完成した。

 そして、最後に驚いたのが、香南ニラ塩焼きそばの味わいだ。普通のニラは、独特のきついにおいがあり、当初この量のニラを食べきるのはきついんじゃないか、と感じていた。しかし、香南ニラ塩焼きそばのニラからは、ニラ独特のきついにおいをほとんど感じない。そればかりか、茎や葉からは甘みを感じるのだ。

 はっきり言って、ニラを食べているという印象はまったくなく、火を入れて甘さの増したネギを食べているかのような感じだった。廣末屋では、毎日当日朝に採れたニラのみを使って香南ニラ塩焼きそばを作っているそうだが、ニラが新鮮だからこそ、においが少なく、甘みを感じる味わいになるのだという。そして、香南塩ダレによる味付けも絶妙で、途中休むことなく一気に食べ尽くしてしまった。これほどまでに衝撃的な味わいの食べ物があるのかと、感動すら覚えるほどだった。しかも、この量で600円。味、量、値段、どれも文句の付け所がなかった。

背後のニラの葉が入ったざるをおもむろに取り出し、これでもかと鉄板に投入
先ほど作った焼きそばをニラの上に載せるが、焼きそばがやけに少なく見える
横から見たらこのような状態。スーパーなどで売られているニラの4~5把分を使うという
ニラに火が入ってきたら、再度香南塩ダレでしっかりと味付け
たれで蒸し焼き風に蒸されたニラと焼きそばをしっかりと混ぜる
最後に刻み海苔と刻み唐辛子を乗せて出来上がり。見た目からも、主役がそばではなくニラだということがよく分かると思う。そして、ほとんどにおいがなく、甘い味わいのニラの美味しさに感動

 香南市には、香南ニラ塩焼きそばを出す店がいくつかあるそうだが、店のロケーションも合わせ、どうせ行くなら廣末屋にわざわざ足を運んでもらいたい。そして、それだけの価値は十二分にあると断言したい。

お土産に最適、偶然見つけた「幻のわらび餅」

 今回、最終日は香南ニラ塩焼きそばを食べに行くこともあってレンタカーを借りていた。そして、昼前の用事まで少し空き時間ができたので、桂浜付近の裏道を通って港の方に写真を撮りに行こうということになったのだが、その途中で気になる店を発見。朝10時過ぎだというのに、店の外には行列ができている。何の店なのかはその時点では分からなかったが、その雰囲気と、行列ができているという状況から、急遽行ってみようということになった。その店の名前は「もち蔵屋」。軒に掲げられた「わらび餅」ののれん。この店は、わらび餅の専門店だった。

 クルマを店の駐車場に入れ、スマートフォンで店を検索してみると、入手が難しい「幻のわらび餅」が有名な店だという。店の営業は、金、土、日、月曜のみで開店時間も10時から14時までの4時間。しかも売り切れ次第終了とのこと。当日は金曜の10時過ぎだったが、店の前を通ったのがたまたまタイミングバッチリだったというわけだ。

クルマで移動中、行列ができているのを偶然見つけて立ち寄った「もち蔵屋」
行列のできるところに美味しいものがあると判断し、列の最後尾に並んだ
店が開いているのは、金、土、日、月曜の10時から14時まで。売り切れ次第終了とのこと

 もち蔵屋は、元々海藻を扱う店だという。その傍らたまに売り歩いていたわらび餅が評判となったが、なかなか買えないことから「幻のわらび餅」と呼ばれるようになったそうだ。今では週4日わらび餅の販売を行なっているが、午前中に売り切れてしまうことも多いそうだが、すべて手作りで製造している関係で、これが作れる量の限界とのこと。

 筆者が店先に到着したときは10時15分ぐらいだったが、すでに7組ほどの客が列をなしていた。その列に並んで待っていると、ご主人が出来たてのわらび餅を振る舞ってくれた。そのわらび餅は、これまで食べたどのわらび餅とも異なる食感。つるんとしていて、口に入れると溶けるようになくなってしまう。もち蔵屋のわらび餅は、わらび粉に寒天を混ぜるという独自の製法で作られているそうだが、それによって、つるんとして溶けるような口当たりが実現できているのだろう。振る舞われたのは、冷えていないわらび餅だったが、それでもその美味しさは飛び抜けていた。これを冷やして食べるとどれだけ美味しくなるだろうかと、買う前からわくわくしてしまった。

 わらび餅は、その場で作られた直後に箱詰めして売られており、まさに出来たてだ。値段は、250g入りが680円、500g入りが1260円。買ったのが10時過ぎで、東京に戻るのが高知18時25分発の羽田行きだったため、東京の自宅に戻るまでもつか不安ではあったが、店では保冷剤といっしょに丁寧に保冷袋に詰めてもらえたので、無事東京まで持ち帰れた(ただし、生ものなので買ってなるべく早く冷蔵庫に入れるのが基本であり、今回のような長時間の持ち歩きを避ける必要があるのは間違いなく、基本的にはまねしないでほしい)。

並んでいるときに振る舞われた、出来たてのわらび餅。つるんと溶ける食感は、それまでに食べたことのない味わいだった
250g入りのわらび餅は、1箱680円。保冷剤といっしょに保冷袋に入れてもらえる

 自宅で冷蔵庫に入れ、小一時間冷やして食べてみたところ、想像通りの美味しさだった。普通のわらび餅は、冷やすことで全体的にやや堅くなってしまうのに対し、もち蔵屋のわらび餅は、冷やしてもつるんとした食感が保たれているのに驚いた。しかも、寒天が入っているからといってわらび餅の風味は損なわれていないし、きな粉との相性も抜群。実際に食べてみて、確かにこれはすぐに売り切れてしまうのも納得だった。

 もち蔵屋は、桂浜から車で5分ほどの場所にある。買える日が少なく、店の開いている時間も短いが、時間が合うならぜひ足を運んでみてもらいたい。

平澤寿康

うどん県生まれ。僚誌PC Watchなど、IT系の執筆を中心に活動。旅&乗りもの&おいしいもの好きで、特に旅先でおいしいものを食べるのに目がない。ただし、うどんにはかなりうるさい。

Photo:安田 剛