旅レポ
南国土佐はとにかくアツかった! 本場高知で「よさこい祭り」を堪能してきた(後編)
まさかの踊り子としてよさこい祭りに参加!
2016年8月23日 00:00
前回は、高知の「よさこい祭り」を観覧してきた様子を紹介した。ただ、今回高知を訪れた本当の目的は、よさこい祭りの観覧ではなかった。踊り子としてよさこい祭りに参加することだったのだ。数十年前に、地元の夏祭りに参加したことはあったが、踊りにはまったく縁のない筆者。よさこい祭りに参加して無事踊りきることができたのか、その顛末を紹介しようと思う。
気楽に参加するはずが、本気で取り組むことに
7月某日、トラベル Watch編集部に書類を持って行ったときにすべては始まった。「平澤さん、8月に高知行きませんか?」そう言われて引き受けたのが、まさかこんなことになってしまうとは。
担当:「今回は、高知へ行って、よさこい祭りに参加してきてください」。
自分:「え、自分みたいなおっさんを担ぎ出してよさこい参加ってどうなの。それって絵的にも微妙だし、適任はほかにいるんじゃないの? それに踊りなんてやったことないし。よさこいってめちゃくちゃ踊り激しいし、さすがに厳しいんじゃないかと」。
担当:「いや、そんなにきつくはないみたいですよ。練習も2回ぐらいでよいそうだし、大丈夫ですよ」。
といった感じで結局押し切られ、参加することになった高知よさこいツアー。高知県の外郭団体、高知県地産外商公社が企画したイベントで、「高知家カツオ人間よさこいポジティブDancers」(以下、ポジティブDancers)というチームを立ち上げ、一般公募も加えた踊り子22名を招集。よさこい祭りに第1回から参加し、今年2016年で62回目の参加となる伝統チーム「四国銀行」チームに加わり、「四国銀行 with 高知家カツオ人間よさこいポジティブDancers」としてよさこい祭りで踊るというものだ。
四国銀行チームは、2015年まで伝統的な「正調よさこい鳴子踊り」をベースとした比較的おとなしい振り付けで参加しており、これなら初めてよさこい祭りに参加する人でも問題ないだろうと判断してのものだったそうだ。筆者としても、そういうことなら問題ないんじゃないかと思って参加を決めたのだが、その考えは直後に打ち砕かれることになる。
依頼を受けて数日後、担当から連絡が。「実はあとから分かったんですが踊りが結構難しくて、練習2回じゃ無理そうとのことです。もっと練習に参加して、自宅での自主練も必要といわれちゃいました。どうしましょう。あと、振り付けのビデオも届きましたのでメールしておきます」。
いやいや、どうしましょう、じゃないでしょ。最初とかなり話が違うんだけど。まあ、とりあえず振り付けのビデオを見てみるか。そう思いつつ、ビデオを見た瞬間、筆者の頭は真っ白になってしまった。
「想像していたのと全然違うんですけどこれ。というか、こんなの踊れるようになるのかよ……」。
これがビデオを見た最初の感想。練習用の振り付けビデオは紹介できないが、よさこい祭りには、かなり激しい振り付けのチームも多く参加しており、それらと比べると、四国銀行チームの振り付けはどちらかというとおとなしめではあった。しかし、踊りの経験がまったくない筆者にとっては、これでもかなり激しいという印象だった。
この新しい振り付けは、正調よさこい鳴子踊りの伝統を受け継ぎつつ、新しい扉を開き、暑い土佐の夏の青い海や空のもとで清々しく踊る踊り子をイメージして作られたそうだ。今年の四国銀行チームは、伝統と新しさ双方が息づくこの新しい振り付けを採用するとともに、衣装や音楽も一新し、心機一転入賞を目指して真剣に取り組むことになったのだという。つまり、その一員として参加する我々にも、同様の意気込みが求められることになったわけだ。
そして、7月後半の某日、都内のダンススタジオで行なわれた練習に初参加。その場には一般公募の参加者もいて、すでにかなりいい感じに踊れていた。そんななか、筆者は数回動画を見ただけでの参加だったこともあって、まったくといっていいほど踊れない。見かねたインストラクターがマンツーマンで指導してくれるほどだった。
ここで、「これではダメだ」と一念発起。当初2回のみ参加を予定していた事前練習にはトータル6回参加し、自宅での自主練も加えて、なんとかそれなりに踊れるようになった。とはいえ、外から見たら今の状態でも全然ダメなんじゃないかと不安を抱えつつ、高知へと向かったのだった。
よさこい祭り前夜祭をよそに最終練習に明け暮れる
高知に向かったのは、よさこい祭りの初日で、前夜祭が開催される8月9日。当日は、昨年2015年の入賞チームが演舞を披露したり、夜には花火大会が開催されるなど、前夜祭といえどもいきなり盛り上がるイベントが目白押し。しかし、我々ポジティブDancersには、演舞や花火大会を楽しむ時間はない。
実はポジティブDancersのメンバーには、東京だけでなく、高知から応募して参加しているメンバーもおり、それまで全員で合わせて踊ったことがなかった。もちろん、気合いを入れ入賞を目指して取り組んでいる四国銀行チームのメンバーとも合わせていない。そこで、高知入りしていきなり最終練習となった。
最終練習では、初めて本番の衣装を身にまとい、まずは四国銀行チームのメンバーに踊りを披露。おそらく、私の踊りを見た四国銀行チームのメンバーは、目の前が真っ暗になったに違いない。その後、細かな振り付けの修正や、歩いて踊る場合の足の運び方などを厳しく教え込まれた。この最終練習はかなりのスパルタで、3時間を超えてみっちり踊り続けることになった。
最終練習が終わると、疲れて床に倒れ込むほどだったが、筆者も含め、踊りに不安を抱えていたポジティブDancersの一部メンバーも、この最終練習でかなり自信がついたのだった。これなら本番もどうにかなりそうだと、全員がポジティブになったところで、初日は解散となった。
チーム一丸本気で取り組み、審査員特別賞を受賞!
明けて8月10日。ついによさこい祭りの本番当日を迎え、ここから我らポジティブDancersの、アツく長い2日間が始まった。
夏祭りや盆踊りは、その多くが夕方以降に始まって、2時間ほどで終わることが多いと思うが、前編でも紹介したように、高知市内の16ステージで行なわれるよさこい祭りの演舞は、早いところで午前11時から始まり、夜22時まで演舞が続く。そして、各チームはその時間内にステージを転々としながら演舞を行なうことになる。
ポジティブDancersのよさこい祭り初日のスケジュールは、12時過ぎに帯屋町演舞場での演舞を皮切りに、追手筋本部競演場、梅ノ辻競演場、上町競演場、升形地域競演場、万々競演場と、6カ所のステージを移動しつつ夜7時過ぎまで演舞を続けることとなった。メインステージとなる帯屋町演舞場や追手筋本部競演場から始まるのは、結構プレッシャーがかかる。それも、帯屋町演舞場は30分近く踊り続けることになるし、入賞を狙っている四国銀行チームからは、メインの審査ステージとなる追手筋本部競演場での演舞にかなり高いクオリティを求められる。ポジティブDancersのメンバーのなかでも、筆者のように踊りの経験なくよさこい祭りに初参加するメンバーにとって、いきなり試練が訪れることとなった。
とはいえ、始まってしまえばもう逃げられない。幸いだったのは、最初のステージが審査を行なわず距離が長い帯屋町演舞場だというところで、失敗を恐れず、ここでしっかり踊りを身体にしみ込ませようと、一心不乱に踊り続けた。最初こそ間違ったり、まわりの人たちとうまく合わせられない場面もあったが、帯屋町演舞場では1セット3分ほどの演舞を7~8セットほど踊り続けることになるため、最後の方はかなり安定して踊れるようになっていた。その流れで追手筋本部競演場へと移動し、改めて気合いを入れ直して踊ったのだった。
追手筋本部競演場での演舞後、四国銀行チームのメンバーから「帯屋町では最初バラバラだったけど、こっちはきちんと揃っていてよかったよ」といわれ、ほっと胸をなで下ろすとともに、かなり自信がついた。
この最初の2ステージは、緊張したのもあったし、しっかり踊らないといけないとの意識が強く出て、まわりを楽しむ余裕はまったくなかったが、それ以降のステージでは、観客を見渡しつつ、楽しみながら踊れるようになっていた。気温も高く、踊り続けるのは体力の消耗も激しいが、沿道の観客から送られる温かい声援に力をもらいつつ、なんとか脱落することなく初日のスケジュールは無事終了。翌日2日目も午前中に集合し、5カ所のステージで演舞して全スケジュールが終了した。
そして、2日目終了後に、とてもうれしいニュースが舞い込んだ。それは、我々ポジティブDancersが加わった四国銀行チームが、審査員特別賞を受賞したというものだ。200を超えるチームが参加するよさこい祭りで、入賞できるのはわずか20チーム。毎年入賞を目指す有力チームが多数参加するなか、目標通りに入賞を果たすこと自体とてもすごいことで、その話を聞いたときには、自分のことのようにうれしくなるとともに、その足を引っ張ることなく終われたことに心底安堵したのだった。
高知の夏のアツさを心の底まで堪能できた
正直なところ筆者は、当初は仕事と割り切って参加する心境だった。しかし、実際によさこい祭りに参加し、踊り子として踊っているうちに、その意識も大きく変化していった。
チーム全員が一丸となって真剣に取り組むひたむきさ、沿道の観客からうちわで煽ってもらったり、笑顔で声援をかけてくれる様子に心打たれるにつれ、その場にいられるうれしさがどんどん大きくなっていった。また、すれ違う他チームメンバーからかけられる「お疲れさまです!」の一声や、踊り終わったあとにボランティアの方からいただける飲み物や梅干しにも大いに励まされた。
踊りに関しても、大勢の観客の声援を受けながら踊ることにだんだんと快感を覚えるようになり、最後の方はもっと踊りたいと心境が変わっていた。我ながら、この心境の変化にびっくりしたほどだ。
全ステージでの演舞終了後、四国銀行チームのメンバーから「来年もぜひ一緒に踊りましょう」と声をかけてもらったが、その言葉で自分が仲間として認めてもらえたと感じ、とてもうれしくなった。そして、高知やよさこい祭りのことが大好きになるとともに、高知の人々がよさこい祭りにかける想いの強さも、こういうことだったんだと理解できた。
踊り子、観客、そして街全体が一体となった本場高知のよさこい祭り独特の雰囲気は、実際に参加しないと味わえないものだ。日本全国、よさこい好きは大勢いると思うが、よさこい好きなら一度は本場高知のよさこい祭りに足を運んでもらいたい。他とは違う本場ならではの雰囲気を体験すると、それまで以上によさこいが好きになるはずだ。
そして、今回のツアーはまたとない経験ができたと感謝するとともに、来年の夏もよさこい祭りのために高知に足を運びたいと思う体験だった。