旅レポ
南国土佐はとにかくアツかった! 本場高知で「よさこい祭り」を堪能してきた(前編)
高知の街を包み込む想像以上の迫力に圧倒される、よさこい祭り
2016年8月19日 00:00
高知の夏と言えば、なんといっても「よさこい祭り」だ。筆者は出身が香川県なので、よさこいと言えば高知のイメージが強いが、現在では“よさこい”と名の付く祭りが日本各地で開催され親しまれていることもあり、よさこい祭りの発祥は高知だということを知らない人も少なくないようだ。そこで今回、実際に高知に足を運び、本場のよさこい祭りの雰囲気を体感してみることにした。
よさこい祭りは高知の夏の風物詩
まず最初に、よさこい祭りについて簡単に紹介しておこう。よさこい祭りは、全国的な不況に見舞われていた1954年8月、不況を吹き飛ばし、市民の健康と繁栄を祈願するとともに商店街振興を促すため、高知商工会議所が中心となって開催したのが始まり。今年2016年で63回目の開催だが、年々規模が大きくなり、現在では全国有数の祭りへと発展している。開催日は毎年8月9日から12日までの4日間で、今年は205チーム、約1万8000人の踊り子が参加して演舞を披露した。
よさこい祭りの最大の特徴は、とにかく踊りの自由度が高い点だろう。初開催に合わせて作られた高知県民謡「よさこい節」のフレーズを取り入れた楽曲「よさこい鳴子踊り」と、それに合わせて作られた「正調」と呼ばれている振り付けがオリジナルではあるが、演舞の振り付けや衣装、音楽は、参加するチームごとに異なっている。
鳴子を持って前進する振り付けで、音楽に「よさこい鳴子踊り」のフレーズが必ず入っている、というように最低限のルールが決められてはいるが、そのルールに則りさえしていればそれ以外はなにをやっても自由。各チームは、毎年趣向を凝らした衣装や振り付けを考えて参加しており、その華やかさや趣向に富んだ舞踊が、ほかの祭りにはない、よさこい祭りの最大の見所となっている。
高知市内の全16カ所のステージで舞踏を披露
よさこい祭りでは、高知市内に用意される全16カ所のステージで舞踏が披露される。そして、参加チームは、それらステージを転々としながら舞踏を披露することになる。しかも、早いステージは午前11時からスタートし、夜22時まで舞踏が繰り広げられる。高知市内のさまざまな場所で、昼前から夜まで途切れることなく舞踏が繰り広げられるという点も、ほかの祭りにはないよさこい祭りの大きな特徴となっている。
ところで、全16カ所のステージは、「競演場」と「演舞場」の2種類に分けられている。
競演場は、演舞の審査が行なわれるステージで、競演場での審査をもとに、毎年入賞チームが決められる。最も大きな競演場は「追手筋本部競演場」で、中央分離帯のある全4車線の追手筋を南北2車線ずつ2レーンに分け、2レーン同時の演舞が行なわれる。追手筋本部競演場には、歩道に桟敷席も用意され、座ってじっくり観覧できる。競演場はこの他、「はりまや橋競演場」や「上町競演場」など、全部で9ステージが用意されている。
それに対し演舞場は、審査対象とはならず、純粋に舞踏を披露する場となる。こちらは、「高知城演舞場」や「帯屋町演舞場」など、全部で7ステージを用意。
競演場が審査対象で、演舞場が純粋な踊りの場となると、各チームは競演場での舞踏に全力を尽くし、演舞場では力を抜くのでは? と思うかもしれないが、その心配は無用。なぜなら、競演場だけでなく演舞場でも個人賞にあたる「メダル」が授与されるからだ。
メダルは、特に笑顔で元気よく踊る踊り子に対して個人賞として与えられたのが始まりで、競演場や演舞場(一部を除く)で授与されている。そして、特に優れた踊りを披露した踊り子には、花をかたどった「花メダル」をはじめとして、競演場や演舞場それぞれが独自に制作した特別なメダルが授与される。各チームの踊り子は、この特別なメダルをもらうことが何よりの勲章となるため、どのステージでも力を抜くことなく演舞する。そのため、どのステージでも全力の演舞が鑑賞できるわけだ。
追手筋本部競演場の桟敷席でゆったり観覧
筆者にとって、本場高知でのよさこい祭りの観覧は今回が始めて。高知市内の土地勘がないので、16カ所あるステージの位置関係がよく分からないし、参加するチームについても予備知識がまったくない状態だった。そこで、まずはじっくりと参加チームの演舞を観覧しようと考え、16ステージのなかでメインステージとして位置付けられている、追手筋本部競演場へと足を運んだ。
追手筋本部競演場は、毎週日曜日に日曜市が開催される通りとして有名な追手筋を舞台とするステージだ。先に紹介したように、南北2レーンでの同時演舞が行なわれるとともに、歩道に桟敷席が用意され座って観覧できる。今回は初めてのよさこい観覧だったので、桟敷席でゆっくり観覧することにした。
追手筋本部競演場の桟敷席には、指定席と自由席がある。南側レーンの桟敷席は大半が指定席で、北側レーンの桟敷席は自由席。また、指定席には屋根が付いているが、自由席には屋根がない。今年の高知はとにかく気温が高く、よさこい祭り期間中は35℃を超える日もあった猛暑が続き、屋根のある指定席がよかったが、前売り販売で大部分が売り切れていたようで、当日販売では端のほうの席しかな残っていなかった。そこで今回は、北側レーンの自由席で観覧。屋根がないのでかなり厳しい観覧になると覚悟したが、実際には街路樹の影が落ちる部分もあり、炎天下での長時間観覧とならなかった点はありがたかった。もちろん、夜の観覧ならそういった心配はないが、夜の桟敷席のチケットは毎年早々に売りきれるそうで、今回は当日券が残っていた昼の観覧となった。
桟敷席に腰を下ろし、初めてのよさこい祭り観覧となったが、座って早々、その迫力や美しさに圧倒された。先導の地方車が大音量で鳴らす各チーム独自の楽曲の迫力、大勢の踊り子が一糸乱れず演舞する迫力、そしてチームごとに考え抜かれた振り付けや衣装の美しさ、どれをとっても想像以上。一瞬でのめり込んでしまった。
また、楽曲や振り付けのバリエーションの多さにも驚いた。楽曲は、民謡調のものからロック、ラテン、アジアなど、まさに何でもあり。また、振り付けも、激しく舞い踊るものから、比較的静かなものまで、こちらも非常に幅が広い。激しい振り付けは見ていてとても迫力があるが、比較的静かな振り付けも奥ゆかしさが伝わってきて、それはそれでとても味がある。よさこいというと、若い踊り子が激しい振り付けで踊るというイメージが強かったが、そのイメージがいい意味で覆された。また、チームによってまったく異なる楽曲や振り付けのため、飽きることなく楽しめるのも、よさこいの大きな魅力と感じた。
一応木陰を陣取ってはいたが、さすがの猛暑で飲み物も切れ、座っているだけでもつらくなってきたところでふと時間を見ると、鑑賞開始から2時間以上が過ぎていた。そんなに長時間座っていた印象はなかったのだが、我を忘れてのめり込んでしまった。これがよさこいの魔力かと感心しつつ、追手筋本部競演場の桟敷席を後にした。
踊り子の躍動を間近に感じたいなら帯屋町演舞場
追手筋本部競演場をあとにして次に向かったのは、「帯屋町演舞場」だ。こちらは、アーケード街「帯屋町」をステージとした演舞場で、追手筋本部競演場からは1ブロック南に移動した場所に位置している。こちらはアーケード街がステージとなっているため、直射日光を浴びることがなく、商店街のお店から冷房の冷気が流れ込むことで、比較的涼しく観覧できるのがうれしいところだ。もちろん、環境のよさから帯屋町演舞場での観覧は非常に人気が高く、早朝から場所取りの椅子がたくさん置かれるほど。
とはいえ、観覧の列はせいぜい3列ほどしかなく、前方は座って観覧する人がほとんどなので、後方でもまったく問題なく観覧できる。また、ステージは全長550mほどと非常に長いため、大勢の観客が詰めかけたとしても、観覧場所がなくなることはほぼないだろう。
そして、この帯屋町演舞場の最大の魅力は、涼しく観覧できるという部分ではない。各チームは帯屋町を横めいっぱいに広がって演舞を行なうため、踊り子に手が届くような距離で観覧できるという点こそが最大の魅力。確かに追手筋本部競演場の演舞も非常に迫力があったが、踊り子までの距離はやや遠い。それに比べ帯屋町演舞場では、まさに目と鼻の先といった至近距離で、躍動感溢れる踊り子の演舞を堪能できる。踊り子の激しい息づかいやほとばしる汗も感じられるほどで、この迫力は一度体験すると病みつきになる。
観客は踊り子をうちわで応援し、それに応えるように踊り子は全力で演舞する。踊り子と観客の距離が近いことによる、踊り子と観客との一体感が感じられたという点も、追手筋本部競演場での観覧にはない魅力と感じた。そして、次から次へと途切れることなく参加チームが演舞するので、全く飽きることなく長時間観覧できる。こちらでも、時間を忘れ、のめり込むように観覧してしまった。気温の暑さだけでなく、踊り子の熱気や観客の熱気が合わさった、夏の高知のアツさを心の底から堪能できた。
さて、本場高知のよさこい祭りに触れ、その魅力に引き込まれた筆者だが、実は今回高知を訪れた本来の目的は、よさこい祭りを観覧することではなかった。では、その目的とは? 次回詳しく紹介したい。