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JR西日本、京都鉄道博物館で運行する「SLスチーム号」の新客車公開

SLの走行音や煙が感じられるセミオープン式トロッコの車両

2015年10月22日 公開

 JR西日本(西日本旅客鉄道)は10月22日、梅小路運転区構内(旧梅小路蒸気機関車館)にて、2016年春に開館する京都鉄道博物館で運行するSLスチーム号の2代目となる新客車を報道陣に公開した。

 新客車はレール運搬車をベースに改造した、セミオープン形式のトロッコ車両で、SL(蒸気機関車)の走行音や煙が間近に感じられるのが特徴。展望車の形式名を持っている客車「オハテ321 1」(定員108名)と、同じく展望車の形式名で、簡易運転台が設置されている緩急車の「オハテフ310」(定員100名)の2両編成。「オハテフ310 1」には車椅子4台分が乗車できるスペースも設けている。また、客室側面に窓ガラスは設置されておらず、荒天時用として雨よけを設置している。

会場となった梅小路運転区構内(旧梅小路蒸気機関車館)
完成したばかりの新客車を背景に式典が執り行われた
「京都鉄道博物館の目玉になってほしい」と、西日本旅客鉄道株式会社 代表取締役社長 真鍋精志氏

 「SLスチーム号新客車お披露目式」として、完成したばかりの新客車の前に式典エリアが設置され、主催者や来賓が並んだ。式典では、列席者紹介の後、主催者であるJR西日本代表取締役社長の真鍋精志氏が挨拶。真鍋氏は「来春に向け、着々と工事が進んでいる。キャラクターの選出をはじめとし、様々なプロジェクトも進んでいる。53両の車輌もすべて搬入が終わった」と、開業に向けての進捗と意気込みを語った。また、「蒸気機関車館の目玉として人気だったSLスチーム号が、新たな装いで新しい京都鉄道博物館と共に、目玉になることを願っている」と思いをはせた。

京都造形芸術大学講師の中脇健児氏は「長く愛されるようなデザインを」と指導した

 SLスチーム号客車デザインは産学連携の一環として、京都造形芸術大学の学生が、基本デザインの考案、提案をした。式典では、京都造形芸術大学講師の中脇健児氏が、「企業や自治体などからの要望に学生がアートやデザインの力で応える“リアルワークプロジェクト”のひとつとして、今回の客車のコンペに参加した。学生たちも高い士気で取り組んだ。この場所には、100年以上走っている車両があり、これからも100年続いていく。学生には、ただデザインするだけでなく、長く愛され、何度でも来たくなり、何年も通いたくなるような提案をするよう指導した」と語った。

新客車の基本デザイン製作をした学生の代表として挨拶する、京都造形芸術大学3回生の梶原薫さん

 新客車の基本デザイン製作をした学生の代表として、京都造形芸術大学3回生の梶原薫さんが挨拶し、「様々な調査の中で、客車のデザインをするには、この博物館と周辺地域の皆様との関係なしでは考えていくことができない」とデザイン考案の過程を披露した。また、初めて完成した車体を見た感想として「ヘッドマークの特徴を生かして、流れる日本の風景に見立てた外装デザイン画や配色が、忠実に再現されている」と、驚きと感謝を述べた。

 式典の締めくくりとして、真鍋社長から、京都造形芸術大学に感謝状が贈られた。「豊かな感性と熱意を持って作成し、すばらしい提案によって、新しい京都鉄道博物館に相応しい魅力的な新客車が完成した」と感謝の意を表し、京都造形芸術大学講師の百々祥人氏が代表として受け取った。

「魅力的な新客車が完成した」と、真鍋社長から京都造形芸術大学に感謝状が贈られた
関係者が集まっての撮影。新客車の出来栄えに笑顔がこぼれる

 式典が終わり、関係者の試乗となった。ディーゼル機関車「DE10 1156」が、新型客車を連結して移動。軌道を入れ替えて推進運転にて進入し、新客車はSL「C56 160」と連結した。SLスチーム号のホームは2016年春の開業に向けて工事中のため、タラップを設置して関係者が乗り込んだ。

式典が終わり、いよいよ試乗となる
新客車の移動のため牽引するディーゼル機関車「DE10 1156」
DE10 1156と新客車が連結
新客車を牽引するSLスチーム号として使用されたSL「C56 160」も準備完了
DE10 1156が新客車をC56 160の待つ線路に入れ替え
新客車を切り離し、去って行くDE10 1156
代わってC56 160が新客車を連結

 デザインをした学生たちは、乗車すると内装を見回しながら、自分たちのデザインした内外装が再現されていることに感動していた。開業後は往復1km、約10分の展示運転線を運行することになるが、今回は片道200mを2往復した。

完成した新客車を目の前にし、出来栄えに歓喜する学生たち
タラップを使って乗車する関係者
乗車すると内装を見回して感動している学生たち
ゆっくりと動き出す新客車
最初にC56 160がバックで客車を押す
推進運転するC56 160
構内の200mを2往復する
開業後は往復1km、約10分の展示運転線を運行する

 新客車は、「レトロ」をコンセプトに、“牽引する蒸気機関車と同年代に製造され、活躍していた客車”をイメージしてデザインされた。初代の客車よりも大型化され、定員は大幅に増加。出入口となる扉の幅も広くなるなど、利便性も高くなっている。

京都らしい優雅さを表現した「聚楽ぶどう色」を採用した車体。手前が「オハテフ310 1」
台車は、コンテナ車に採用されているTR223系列を装備。
形式名の文字のフォントは、国鉄のものともJR西日本で使われているものとも少し違う。周囲には、特急「つばめ」のヘッドマークに使われていたツバメの絵柄を配置
特急「さくら」をイメージした装飾
特急「富士」をイメージした装飾
梅小路のシンボルである梅をあしらったテールマーク

 車体色は、京都らしい優雅さを表現した、「聚楽ぶどう色」を採用した。また、往年の特急車両のヘッドマーク図柄をモチーフにしたデザインがあしらわれている。モチーフとした特急車両のヘッドマークは、2005年まで寝台特急として運行され、九州新幹線に名前が引き継がれた「さくら」と、2009年まで寝台特急として運行していた「富士」、東海道線の特急として運行され九州新幹線に引き継がれた「つばめ」、山陰本線で運行されていた時代の「かもめ」、2013年まで寝台特急として運行されていた「日本海」、東海道本線で運行されていた時代の「はと」、2006年まで24系寝台客車を使用して運行されていた時代の「出雲」、智頭急行が開通した際に運行を開始した「はくと」の8種類。

大阪寄りの「オハテ321 1」の車内
京都寄りの「オハテフ310 1」の車内
特急車両のヘッドマーク図柄をモチーフとしたデザインが配置されたボックス席
「オハテフ310 1」の天井部分。電灯は旧型客車に装備されていたものに似ている
「オハテフ310 1」の最後尾は後部が見晴らせるデッキに。左側に簡易運転台がある

 車内の床と座席は木製。ボックス席ごとに外装同様に特急車両のヘッドマーク図柄をモチーフとしたデザインが配置されている。「オハテフ310 1」は、往年の特急列車に連結されていた展望車をイメージしてデザインされており、梅小路のシンボルである梅をあしらったテールマークを掲げている。

京都鉄道博物館の工事のため、館内にあったSLは側線に留置されていた
床板のすき間からは線路が少し見える
後部デッキの座席は折りたためるようになっており、車椅子4台分のスペースとなっている
車いす兼用デッキ近くの入口は、他の入口よりも広くなっている
「オハテフ310 1」の簡易運転台。速度計や車掌ブレーキ、消化器、車内放送用のマイクなどが装備されている

(政木 桂)