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姫路城大天守の保存修理完了を祝う記念式典を実施

普段は非公開の「ロの渡櫓」2階部分なども特別公開

2015年3月27日 グランドオープン

式典日の朝を迎えた姫路城

 兵庫県姫路市は3月26日、2009年10月から約5年半をかけて行なわれた大天守の保存修理が完成したことを受け、「姫路城大天守保存修理完成記念式典」を開催した。3月27日よりグランドオープンとして一般公開を開始する。

 これに先立ち、地元自治体などの各種団体や観光大使、高額寄付者など約1400名を招待して開かれた記念式典は、航空自衛隊第11飛行隊「ブルーインパルス」の祝賀飛行や、陸上自衛隊第3音楽隊、地元姫路市の姫路白鷺太鼓の歓迎演奏により幕を開けた。

姫路駅前の大通りほか、街のいたる場所にグランドオープンを告げる案内が出ていた
姫路城近くにはブルーインパルスショップも出店
式典開始の2時間ほど前だが、大手門の外の公園でも多くの人がカメラを構えていた
大手門へ通じる桜門橋
桜門橋から大手門
三の丸広場にも多数の人
約1400名を招待した記念式典の会場
陸上自衛隊第3音楽隊の歓迎演奏
姫路白鷺太鼓の歓迎演奏

 主催者を代表して挨拶にたった姫路市の石見利勝市長は「姫路城の歴史においても記念すべき重要な日。先ほどブルーインパルスの華麗な飛行をご覧いただき、合間を縫って姫路市のブラックインパルス(※編集部注:カラス)も頑張っていたようだが、優美な姿を取り戻したことはこの上ない幸福」と喜びを表現。

 「このたびの保存修理では、大天守の外壁補強、構造補修/補強のほか、屋根工事では鯱瓦と7万5000枚の屋根瓦の打ち直しを行なうなど、昭和39年に完了した昭和の大修理以来の大がかりな工事となった。期間中は世界遺産の保存現場を常時公開し、見学施設『天空の白鷺』も開館。入館者184万人以上という成果をあげた。また、市民を始め全国のみなさんから目標を上回る5億円の寄付もいただき、たくさんの方に支えられて修理を終えた」と謝意を表明。今後は観光を中心に多様な施策を行なうことで、来場者の満足度を高めるよう取り組んでいく姿勢を示した。

 来賓として出席した文化庁の青柳正規長官は、「現在の姫路城は関ヶ原の合戦のあとに築城されたものだが、17世紀初頭の天守、櫓、門、土塀などが複合的に残る、我が国の城郭建築を代表するもの。天守閣を始めとする各棟が国宝、門や櫓など74棟が重要文化財に指定されている。1993年には法隆寺周辺の仏教建造物とともに世界遺産に登録された」と、姫路城の価値を強調。

 「大天守は屋根、壁ともに白鷺城の別名通り、漆喰が白く輝いている。それに対して、西小天守や乾小天守は若干黒みがかっているが、これは今回の修理で手を着けなかった結果。我が国の文化財建造物は、その保存のために適切な時期に修理を行なわなければならないが、必要以上の修理は破壊にも繋がりかねない。小天守は破損の程度から今回は修理が見送られ、将来の適切な時期を待つことになった。今回の大天守の修理はひとまず終わるが、櫓や塀などの小規模な修理は今後も続き、どこかで必ず修理が行なわれているという状態が続く、この継続的な修理により、伝統的な技術が連綿と引き継がれ、姫路城全体が将来に渡って適切に維持されていく」と文化財保護の面からコメントした。

 このほか、「今回の修理では総額23億円がかかり、うち文化庁が15億円を支援した。しかし、何よりうれしいのは5億円もの浄財が市民から集まったこと。場内の清掃・管理にはのべ人数で年間7000人もの人がボランティアとして助けているそうです。このような文化財を愛する気持ちこそが、文化財をまもっていく大切なこと。さらに、工事中の様子を皆さまに見ていただき、文化財を守っていくんだという気持ちを持っていただけるにしたことに感謝している。先の大戦でも戦火に遭わずに現存しているのは、姫路城下の人々の熱い思いの結晶でしょう。今回の工事は、計画立案から今後の活用方法検討まで多くの人々が関わった一大事業であり、“平成の大修理”として後世に語り継がれるべきことだと思う」と、関わった人々や市民に感謝を表した。

 続いて、兵庫県の井戸知事は、「一度も戦火に遭わなかった姫路城、まさしく平和の象徴としての勇姿をみんなで確認できる、素晴らしいことだ。“青と白 春の光が注ぎ込み 夢への期待 ここぞ現わる”(と短歌を詠んだ)。素晴らしい青空とブルーインパルスが描いてくれた白、そして白鷺城、姫路城の白。このコントラストが私たちを本当にワクワクさせてくれる」と感動を表現。

 そして、「姫路城が私たち兵庫・姫路のシンボルであり続けることを心から願う」とした。

姫路市消防音楽隊の演奏による国歌斉唱
姫路市の石見利勝市長
来賓の(左から)青柳正規 文化庁長官、井戸敏三 兵庫県知事、八木隆次郎 姫路市議会議長、ローデリック・ウォルス 在大阪・神戸オランダ総領事

 姫路市議会の八木隆次郎議長は「別名・白鷺城とも言われるが、今にも舞い立とうとする白鷺を連想させる天守群が、この改修で白すぎるといわれるほどに真っ白になった大天守によって、さらに優美な姿になった。平成の大修理は最新の技術を取り入れつつ、使用できるものは引き続き使い、伝統の技法を駆使するなど、本来の価値を損なわないよう細心の配慮がなされた大がかりな事業だったが、それだけに本日こうして完成式典を挙行できるのは感無量」とし、「名実ともに世界の宝である姫路城の価値を保存し未来に引き継いでいく責務が我々にはある。市議会としても、今後の姫路城の保存、管理にしっかり取り組む」とコメントした。

 このほか、関西にある18カ国の総領事/領事を代表し、領事団長を務める在大阪・神戸オランダ総領事のローデリック・ウォルス氏が挨拶。「姫路城の起源は1333年の赤松則村が、この地に砦を築いたことにさかのぼるが、彼も国内の戦乱や映画の舞台となり、数々の旅行雑誌に美しい姿を残すという、日本の歴史に果たすことになる役割を知ることはなかっただろう。そもそも、この城が現存していること自体が奇跡だと思う。平和な時、戦時を問わず、何度も破壊の危機に見舞われたが、その運命を逃れた。第2次世界大戦における大規模爆撃の被害を免れたことにも言及しておく必要だあるだろう」と歴史的な側面からコメント。そして「我々は今日、この美しく修復された姫路城のオープニングを目の当たりにしている。まさに豊かな日本文化という王冠の上に輝く真珠。この素晴らしい城が長きに渡って存在し続けることを祈る」と切望した。

 式典は、こうした来賓の祝辞ののち、修理工事に尽力した「鹿島・神崎・立 共同企業体」および「文化財建造物保存技術協会」に対する石見市長からの感謝状贈呈や、「姫路鷺の舞」の披露、白鷺小学校、白鷺中学校の生徒によるメッセージが述べられ幕を閉じた。

「鹿島・神崎・立 共同企業体」および「文化財建造物保存技術協会」への感謝状贈呈
姫路鷺の舞
白鷺小学校、白鷺中学校の生徒からのメッセージ

 また、場所を西の丸に移して、ドイツ・ノイシュバンシュタイン城との観光友好交流協定の締結式も実施。

 石見市長は「大切な建造物を未来の子ども達へどのように引き継いでいくかが2つのお城に共通するテーマ。交流はもとより、世界に価値を伝えていくための経験や知識を共通することが重要。さらに民間交流も進めていきたい」と締結の理由を説明。

 ドイツ側を代表して参加した、ドイツ・バイエルン州駐日代表部のクリスティアン・ゲンルティンガー代表は「内側も外側も姫路城は威厳のようなものを発しており、息をのむような輝きの中で新しい白い羽を広げていると感じる。青い空と白い城のコントラストといえば、我がバイエルン州の州旗も青と白」と、その縁に喜びを表した。

 また、バイエルン州と日本の関係についても触れ、「1988年には、バイエルン州として初めての海外代表部を日本に設けた。バイエルンには7000人ほどの人が生活し、姉妹都市提携も11カ所で結ばれている。日本と最初に提携を結んだのは、この兵庫県の尼崎市とバイエルン州のアウグスブルク市だった」と、関係の強さを強調。「ノイシュバンシュタイン城は一生のうちで一度は来て欲しい場所。もちろん一度と言わず何度も来て欲しい。来週には姫路城も桜が満開になるので、来週も来たいと思っている」とコメントした。

 日本側の立会人を務めた兵庫県の井戸知事は、「取り持つのはお互いの鳥。ノイは新しい、シュバンは白鳥を意味する。姫路城は白鷺。白と鳥が取り持つ仲」と解説。また、「ノイシュバンシュタイン城には早く世界遺産になって欲しい。姫路城にはノイシュバンシュタイン城なみにお客さんを集めるようにしてほしい」と、それぞれに注文を付けた。

 そして、「快晴に 五つの線と 白き城 絆を結び 未来を作る」の短歌を詠んで挨拶を締めくくった。

 ドイツ側立会人は、大阪・神戸ドイツ連邦共和国総領事館のインゴ・カールステン総領事が務め、「私は何年も前から姫路城を知っている。姫路にある妻の実家を訪れる時など、いつも姫路城が私を迎えてくれる。私の総領事の任期中にリニューアルされ、祝賀式典に参列できることが格別の喜びである」とコメント。同氏は、先のゲルティンガー氏に「日本人よりも日本人らしい人」とも評されている。

 姫路城については「ノイシュバンシュタイン城よりも250年ほど歴史が長く、戦争・地震を乗り越えてきた。そして世界遺産にも登録されている」とし、ノイシュバンシュタイン城については、「ドイツ以外でも有名で、毎年何百万人も訪れる。ドイツを訪れたことがない日本人も、この長くて、発音しにくく、難しい名前のドイツのお城についてご存じの方は多い」と、それぞれの城の魅力を紹介した。

終始なごやかな雰囲気で進んだドイツ・ノイシュバンシュタイン城と姫路城との観光友好交流協定締結式

大天守の非公開部も特別に披露

 この記念式典のあと、招待客らは大天守の見学を行なうことができた。一般公開部の大天守内部は、後ほどフォトレポートを掲載する。

 ここでは、寄付者が記名した瓦「記名瓦」を、「ロの渡櫓」から近くで見てもらうことを目的に特別公開された、池田輝政が城主だったころの古い板張りが残る「ロの渡櫓」の2階部分を紹介する。

 東小天守と乾小天守を結ぶこの櫓の2階は普段は公開されていない。また、グランドオープン後は火縄銃や槍などが一般公開部から取り下げられるが、ここには一部が置かれていた。

 期間限定の特別公開などで小天守などの一般開放が行なわれることもあるそうなので、気になる人はチャンスを待とう。

大天守から東小天守へと進む階段
階段の先は「イの渡櫓」と呼ばれる東小天守と大天守を結ぶ渡櫓
イの渡櫓の両側面
イの渡櫓
イの渡櫓から東小天守へつながる扉
東小天守の通路
東小天守
ロの渡櫓
ロの渡櫓と東小天守を結ぶ扉
赤絨毯に囲まれむき出しになっている部分が、池田家が居城としていた時代の板張りが残る部分で、この部分に対して文化財の指定がなされているという
文化財に指定されている板張り
左が古いの板張り、右が後世に張り替えられた板張り
火縄銃
火縄部分の装飾
床尾の装飾。
銃口
壁に掛けられた火縄や火薬入れと思われる巾着袋など
長槍
寄付者が記名した瓦が大天守1階部分に使われている
ロの渡櫓の1階へ

編集部:多和田新也