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沖縄県、「沖縄MICEネットワーク」設立

総会とともに記念シンポジウムも開催

2017年7月25日 開催

7月25日に行なわれた「沖縄MICEネットワーク設立総会・記念シンポジウム」

 沖縄県は7月25日、MICE振興を図ることを目的に産学官連携による「沖縄MICEネットワーク」を設立した。

 設立当日は総会が開催され、規約や役員選任、事業計画および収支予算についての議事がなされた。また、総会の閉会後には記念シンポジウムも開催。沖縄県はもとより、県外からもMICEのキーパーソンが来沖しパネルディスカッションが行なわれた。会場には200名の参加者が集まり、関心の高さをうかがわせた。

第一部:設立総会

沖縄県知事、副知事をはじめ、県外からの来賓も豪華な顔ぶれが並ぶ

 総会では最初に、設立発起人を代表して沖縄県知事 翁長雄志氏より設立趣旨説明がなされた。

沖縄県知事 翁長雄志氏

「沖縄県では2000年の九州・沖縄サミットを契機に、国際会議やインセンティブ旅行などの誘致に積極的に取り組んできた。昨年は1177件のMICEが開催されるなど、MICE開催地としての実績を積んできた。

 一方で、施設規模の制約などから大規模な会議や国際展示会などが取り込めず機会損失が発生しており、経済界からは大型展示場を備えた新MICE施設の整備の要望が出ている。これを受け、沖縄県では中城湾港マリンタウン地区に最大4万m2の展示会が開催できる大型MICE施設の整備事業を進め、今年(2017年)4月には整備・運営事業者を決定した。

 経済的・社会的効果の高いMICEの誘致、インフラ整備、人材育成も含めた受け入れ体制の強化、展示会や商談会の開催に向けた産業界の取り組み促進など課題は多い。

 5月に『沖縄21世紀ビジョン基本計画』を改定した際、沖縄経済成長のプラットフォームとしてMICEを位置付けることとした。7月20日には沖縄MICE振興戦略を公表。これは、MICE活用の方向性などを具体的に取りまとめた、県として初のMICE長期戦略である。

 本日設立される沖縄MICEネットワークは、全県的なMICE振興のけん引役になることを目指して活動する組織である。今年を『沖縄MICE躍進元年』と位置付けたい」と結んだ。

 続いて、沖縄県副知事 富川盛武氏の議事進行により設立総会が行なわれた。冒頭、2017年1月から検討会が立ち上がり、19団体が参加のもと規約や役員などについて検討がなされてきたことが説明された。

[第一号議案]沖縄MICEネットワーク規約について

 規約案には、事業、会員、役員、総会、部会、事務局、会計等について定められており、記載事項については全会の拍手をもって承認された。

[第二号議案]役員の選任について

 代表は、経済界、大学、行政より1名ずつが選出され共同代表となる。共同代表者は次の3名。

・一般社団法人 沖縄県経営者協会 会長 安里昌利氏
・一般社団法人 大学コンソーシアム沖縄代表 理事 大城肇氏
・沖縄県副知事 富川盛武氏

 また顧問には、日本コングレス・コンベンション・ビューロー会長の猪口邦子氏、沖縄MICE振興戦略策定委員会 委員長の下地芳郎氏など6名が選任。幹事には、沖縄県 経営者協会 部長の玉那覇紀宏氏、沖縄県 ホテル旅館生活衛生同業組合 副理事長の国吉真和氏など20名が選任。監査役には、沖縄県銀行協会 事務局長の福地邦男氏が選任された。

[第三号議案]平成29年度(2017年度)事業計画および収支予算について

 事業計画として、総会、幹事会、部会の開催、MICE啓発事業、MICE関連勉強会、MICEビジネス活動支援事業などの開催、会員向け情報発信などが挙げられた。

 収支予算については、収入が沖縄県からの委託事業費2217万3000円。支出が、MICE啓発事業に540万円、勉強会に330万円、ビジネス活動支援事業250万円のほか、合計2217万3000円。以上、全議案について全会の拍手をもって承認された。

一般社団法人 沖縄県経営者協会 会長 安里昌利氏(中央)

 続いて、共同代表挨拶として沖縄県経営者協会 会長の安里昌利氏が登壇した。「沖縄への観光客数の伸びは順調で、インバウンドも順調に伸びており2016年は213万人を達成した。これは全国のインバウンド数の9%にあたる。沖縄のGDPは全国の1%未満であるなか、9%という数は地の利が大きく影響しているのではないか。物流の拠点、交差点としても機能している。

 沖縄ではMICEを今後の経済振興の一つに据えており、沖縄MICEネットワークの設立がその起爆剤となり、展示会ビジネスをサポートしていきたい」と抱負を語った。

一般社団法人日本コングレス・コンベンション・ビューロー会長 猪口邦子氏(中央)

 続いて、来賓を代表して日本コングレス・コンベンション・ビューロー会長の猪口邦子氏が登壇した。「ICCAの発表では、2016年の国際会議は1万2000件で年々伸びている。そのうち日本で開催されたのは410件、国際ランキングも7位と、今後大きく成長する産業といえる。その急成長する分野に沖縄が取り組んでくれることはとてもうれしい。

 MICEの特徴は、平和の総合産業であること。一般の観光客も大事だが、大型会議を誘致することも、世界中から業界の人を集めることは波及効果が大きい。このたび4万m2のMICE施設を作るということで、収支が合うかどうかが課題になってくる。そこで個人的に考えるのは、IRとセットでやってはどうだろうかということ。沖縄の特殊性が活かせるのではないだろうか。

 また長寿県としても知られており、総合医療拠点とMICEをセットにするのはいかがだろうか。課題としては公共交通の利便性確保の必要がある。1時間以内で渋滞なく会場まで移動できることが理想」と期待を寄せた。最後に、女性の活用を積極的にやっていただきたい、と結んだ。

観光庁 MICE推進担当参事官 井上学氏(中央)

 また、観光庁 MICE推進担当参事官の井上学氏からも祝辞が送られた。「政府の策定した観光ビジョンでは、2030年までに訪日観光客数を6000万人、消費額を15兆円と定めている。特にビジネスインバウンドを重要視している。

 MICEは特定の団体にいかにセールスするかが重要。ICCAの発表で2016年の日本での国際会議は410件であり、中国と並んでいる。他国は集客ビジネスに取り組んでおり、日本は競争力が下がっている。MICEを推進するために、産官学みんなで取り組むことが重要。これまでMICEはプレイヤーのみでやってきたが大きなムーブメントになりにくい。経済産業省も文部科学省も一体となり、国としても推していこうと先日合意があった。

 国際的な競争に勝つために、地方も取り上げること。お客さんにフレキシブルに対応するための地域ネットワークが大事。他都市は数十年前から取り組んでいる。沖縄では今日からスタートしたことを喜ばしく思う。沖縄の何を売りにしていくかを議論し、MICE商品開発を検討していただきたい」と挨拶した。

第二部:記念シンポジウム

沖縄県副知事 富川盛武氏

 続いて記念シンポジウムが開催。富川盛武副知事による「MICEを沖縄経済成長のプラットフォームに」をテーマとした講演が行なわれた。

「2017年5月に改定された『沖縄21世紀ビジョン基本計画』に、新しい項目としてMICEが盛り込まれた。MICEを沖縄経済成長のプラットフォームとして新たに位置付け、MICE推進による各産業分野の成長発展と年ブランド力の向上を図る、と定めた。

 2020年には東京オリンピック・パラリンピックの開催、那覇空港新滑走路の供用開始、大型MICE施設供用予定など沖縄経済発展の礎となる話題が並ぶ。展示会は、一度開催すると毎年開催となる強みがある。東京オリンピックを前に東京のMICE施設から沖縄へのシフトが図れるのではないだろうか。

 MICEは高い経済効果があり、通常観光の7倍の経済効果があるといわれる。また先端のものが入ってくることによりビジネス機会やイノベーションが創出できる。さらにMICEを通じて人や情報の交流により都市の競争力、ブランド力の向上が図れる。

 平成29~38年(2017~2026年)の沖縄MICE振興戦略では、基本戦略としてマーケティングに基づくプロモーションの展開や受け入れ体制の構築、MICEプレイヤーの育成や確保がある。また誘致方針として、リゾート資源を活かした企業ミーティング、インセンティブ旅行の誘致や、大学・産業界との連携による質の高いコンベンションの誘致・開催、アジアの活力を呼び込む展示会や商談会などの誘致・開催を挙げている。

 今後の展望としては、地理的優位性を活かして海外、特にアジア地域からの観光客やバイヤーをターゲットとした展示会や見本市の開催の可能性があること、一方で県内産業界による新たな展示会の創出や既存展示会の規模拡大に向けた取り組みが必要であることなどが挙げられる。

 建設予定の大型MICE施設は、展示場が3万m2、多目的ホールが7500m2、それらを結ぶホワイエが3200m2と、最大4万m2規模の展示会に対応する。建設予定地の与那原町は沖縄本島の東海岸に位置し、東海岸は西海岸に比べて発展が遅れているが、うるま市や沖縄市などが国際物流拠点になっていること、北中城村のライカムに大型ショッピングセンターができたことなど、細長い沖縄本島のもう一本の背骨になると期待している。

 内閣府からは収支についてや周辺整備、交通アクセスについて課題が出されている。これらに対しては、潜在需要の掘り起こしを図ること、施設周辺の道路整備やホテル建設などの経済効果を図ることなどでクリアしていく。

 MICEはアジアのダイナミズムを取り込む千載一遇のチャンス。これを逃してはいけない。アジアの需要は20年、30年は拡大する」と話し、MICE市場の拡大と、大型MICE施設の建設で沖縄のMICE市場は大きな可能性を持っていることを感じる内容だった。

第三部:パネルディスカッション「沖縄の未来を描くMICE」

 続いて、「沖縄の未来を描くMICE」をテーマとしたパネルディスカッションが行なわれた。琉球大学 観光産業科学部 教授の下地芳郎氏を進行役に、パネリストには、MPI Japan Chapter名誉会長の山本牧子氏、日本コンベンション協会 業務執行理事の坂井太郎氏、日本展示会協会 会長補佐の田中嘉一氏、日本旅行業協会 沖縄支部 副支部長の杉本健次氏、沖縄観光コンベンションビューロー会長の平良朝敬氏が登壇した。

 最初に県外から見た沖縄MICEの可能性について山本氏、坂井氏、田中氏が回答。

山本氏:「交流人口が増えると地域への付加価値が大きい。一般観光客とMICE客との違いを認識してMICEの重要性を理解してほしい。例えば、MICEで来る人はLCCは使わない、ホテルは4~5つ星を使うなど経済効果が大きい。またMICEの前後には離島に遊びに行ったりアクティビティを楽しんだりというのも期待できる。

 先日ラスベガスで行なわれた見本市に行ったが、会場で働いているのが若い人だけでなく65歳以上の高齢者も。MICEは雇用も広がる。県民の生活が豊かになることが最終的な意義ではないか」

坂井氏:「一番の意義は経済波及効果。何回行なわれるか、何人来るかも大事なデータだが、どれだけ地元にお金が落ちたかが重要。大型クルーズ船で海外から来た観光客が大型バスで行くところはディスカウントストアやドラッグストア。そして夕方にはまた船で出航してしまう。MICEで来る欧米人は1回に20万とか40万円を使う。

 MICEは、人やモノ、コトなど、見ることができて触れることができる。見たことがないもの、会ったことのない人に出会えるのが大きな意義ではないだろうか。若い人たちにとって、勉強ができ情報共有ができる機会になる」

田中氏:「学会は毎回場所が変わるが、展示会は一度立ち上がると毎年同じ場所で開催するのがよいところ。ブースを作る企業や飲食、ホテルなど周辺の産業もうるおう。参加者は展示会の前後に周辺を観光をするなどが期待できる」

 続いて、沖縄県がどう取り組んでいくかについて杉本氏と平良氏が回答した。

杉本氏:「MICEには富裕層も来るので、高いレベルの受け入れ体制が求められる。MICEクラスタを作り、受け入れ体制を作っていくことが大事ではないか。DMC沖縄(那覇市にあるMICEのプロデュース企業)などがあるが、まだ少ない。沖縄にMICEを送り込む顧客にアピールし、勉強会を予定している。それぞれの課題を解決するためにMICEがある。その人たちと沖縄のよさをマッチングすることが大事。

 沖縄は人気も高く地の利がある。現状はハイグレードホテルが少なく会場のキャパシティも少ない。また食事のレベルなど、これまで選ばれなかった要因となっている。旅行会社とMICEネットワークが連携してマッチングをしていく必要がある」

平良氏:「2000年サミットでMICEへの意識が高まった。MICE目的の沖縄の知名度も上がっている。誘致には、広報、視察、提案、受け入れの4つがポイント。現地に見に行きたいと思わせる取り組みとして、沖縄の魅力を伝えるパンフレット作りやWebでの情報発信など広く広報宣伝していく。視察に来た人向けに体験プログラムを用意している。模擬パーティや県内企業との商談会などを実施。

 受け入れ体制では、実際の開催時にどのようなサポートができるか。ミス沖縄や伝統芸能の派遣、貸し切りバスの費用助成などを用意している。地道に確実に積み上げて信頼を得ることが重要だと考える」

 続いての質問は大型MICE施設について。どんなことが期待できるか。

田中氏:「2年ほど前に展示会について講演したとき観客からの反応は『ハテナ』だった。しかし今日は感動した。知事自らがMICEへの取り組みを宣言し、経済と行政が一体となっていると感じた。日本でこれだけ真剣に取り組んでいるところはない。大型MICE施設が完成すれば何百、何千の業界が集まる展示会が開催できる。会場ができれば、どんな展示会をやろうか考え始める。実際に今、20件の展示会を考えている」

坂井氏:「コンベンションの面からは、スペースがあるので5000~1万人規模の学会が開催できる。分科会会場も同時に動くし展示スペースも使う。学会をサポートする医薬品や医療品のメーカーのブースも出展する。3000~4000人の学会を開く場合、例えば1000人でディナーができる場所があるか? 都内でもなかなかない。展示会場に仮設パントリーを設けるか。県外の主催者へのアプローチがまだできていない。旅行代理店へのアピールだけでなく、主催者に直接アプローチしていく必要がある。

 受け入れ体制としては、ホテルも必要。宿泊できないとコンベンションは成り立たない。レストランや宴会場も必要。アクセスの面ももう少し改善が必要。会場の開業までに解決してほしい」

山本氏:「プランナーが何を沖縄に求めるかというと、非日常性。沖縄の人が毎日見る青い空や海は、都会から来る人には新鮮で、オンとオフの切り替えができる。世界的なトレンドは、ブッキングまでのリードタイムが短くなっている。予算が下がってもレベルは落とせない。インタラクティブが求められる。まだ発見されてないところに行きたいと思っている。沖縄はそういう場所になり得る。

 多目的ホールに沖縄らしい内装をするなど、ユニークベニューがあるとよいと思う。BBQができるとか。外国人はアウトドアが好きなので、ルーフトップの場所でカクテルパーティやBBQができるとなると飛びつくと思う。また、インターナショナルブランドのホテルがあると引きが強い。英語での対応も必須。沖縄が戦う相手はハワイやマレーシア、シンガポールである」

杉本氏:「これまでさまざまな機会ロスがあった。キャパシティの問題や、ディナーができるところがないなどが要因。大型施設がないためにこれまで失ってきたものを取り戻せると期待する。ハコを作っても人に伝えなければ意味がない。ラスベガスでは各施設が連携してMICEプロモーションをしている」

平良氏:「人材育成にも取り組んでいく。その一環としてMICE講座を立ち上げた。基礎から応用まで15コースを用意している。大型MICE施設ができるのを待つのではなく、そこに向けて準備することが必要だと考えている」

 最後に、来場者へ向けてメッセージが贈られた。

山本氏:「情報を共有してほしい。事例をどんどん作ること。外国人観光客を増やすのも大事だが、収入を増やすことが大事。MICEを、トレンドに左右されない産業の一つに」

坂井氏:「誘致だけでなく主催をしてほしい。沖縄ならではのものを創り出してほしい。スポーツ、文化、ビジネス、学術、いろいろな分野の一大拠点に。人材育成にも期待する。沖縄のために働きたい学生がたくさんいるはず。日本の沖縄でなく、世界の沖縄で活躍する人材を育ててほしい」

田中氏:「日本には展示会場が不足している。すべて予約でいっぱいで新しい展示会や拡大する余地がない。沖縄に大型施設ができるメリットはそうとう大きい。早めに、開業日や申し込みの開始日を明確にしてほしい」

杉本氏:「沖縄にMICEを誘致することは、沖縄のブランド力向上につながる。正のサイクルを回し続けたい」

平良氏:「環境、健康、次世代がキーワード。未来のために、MICEネットワークの事務局を担うことに誇りを持って取り組みたい」

下地氏:「勉強会などを利用してMICEネットワークのプレイヤーとして活躍してほしい。課題を一つ一つ解決し、離島も含めて沖縄全体で県民所得の向上を目標に取り組んでほしい」

パネルディスカッションの様子。左が進行役の下地芳郎氏。パネリストは左から、MPI Japan Chapter会長 山本牧子氏、日本コンベンション協会 業務執行理事 坂井太郎氏、日本展示会協会 会長補佐 田中嘉一氏、日本旅行業協会 沖縄支部 副支部長 杉本健次氏、OCVB会長 平良朝敬氏