ハワイ現地発

【ハワイ現地発】在住編集者が記念日に選んだ大正解の店。乾杯もできて1人50ドル台

 職業柄、日頃から多種多様な飲食店を取材する機会がある。そのなかで「プライベートでもう一度訪れたい」と思う店もあるわけだが、今回はアニバーサリーに、固く再訪を誓った店へ行ってきた。期待にしっかり応えてくれたうえ、想定外にリーズナブルだったので、ここに挙げておきたい。

築60年の邸宅が丸ごとレストランになっている

 2023年5月にワイキキにオープンして話題となったスパニッシュレストラン「EL CIELO BY CHEF MASA(エル・シエロ)」。本格的なスペイン料理店がなかったハワイに、アルゼンチン生まれで、日本(恵比寿)やロサンゼルス、そして本場スペインで経験を重ねた具志堅マサ・シェフが開いたのがこのレストランだった。

華美でなくシンプルなセンスが光るカウンター席
誰かの邸宅に訪れたような気分にさせてくれる内観

 築60年の邸宅を活用したこの店は、シックでシンプルなカウンター席とテーブル席のほか、奥の部屋には受け継がれてきたシャンデリアが輝いている。「行ってみたいけど、そりゃ高いよね」と思っていたが、開店当初から評判は上々で「パエリアをはじめ、何をオーダーしても感動する美味しさ。その質に十分値する価格設定なのでありがたい」と、知人のメディアコーディネーターも絶賛していた。

噴水のある庭の席は、金曜夜にヒルトンで打ち上げられる花火を見ることもできる
ワイキキの中心部に位置しているが、店に入ると心地よい異空間を感じさせてくれる

 そんな折、取材の機会があった。多くのハワイ食材を使い、スペイン料理の技とシェフのテイストを織り交ぜて作る料理が素晴らしく、加えて、店を包み込む空気感、さりげないサービスも質が高かった。そんなわけで「今年の記念日はここで奮発しよう!」と先週行ってきた。

ハワイのローカルビールとスペイン料理に欠かせないサングリア

 まずは、カイルアにあるビアブリュワリーのドラフトビール(12ドル)と、シェフの秘密のレシピによるサングリア(14ドル)で乾杯。スペインワインとフルーツと甘みのバランスが絶妙のサングリアは飲み過ぎると危ない美味しさだった。

鶏レバーのパテ。自家製バゲットとともに

 タパス(前菜)はチキンレバーのパテ(自家製バゲットが添えられて12ドル)。なめらかで濃厚なレバーパテはガーリックと新鮮なオリーブオイルの香りと相まって印象的な味わいだった。

「バゲットも僕が毎日作っているんです」とはにかむマサシェフ
表面の香ばしさと中のふんわりしっとりがたまらない焼き立てバゲット

 鶏レバーのパテをオーダーした理由の一つがバゲット。取材の際に「バゲットも自分で納得のいくものを作っているんです」と聞いて、それがめちゃくちゃ美味しくてまた食べたかったのだ(撮影後の試食は当然冷めているので、次は焼き立てを!と思った)。

ちぎったバゲットにレバーを塗って……

 皮は香ばしく、中はふんわりしっとりのバゲットとレバーのパテ。この一品とワインで1時間くらいゆっくり楽しみたいと思った。頼んでよかった!

軟らかい! タコのグリル 自家製チミチュリソース

 もう一品のタパスはタコ・アラ・ガレガ(タコのグリル 自家製チミチュリソース、23ドル)をチョイス。シェフがスペインで学んだことの一つが「料理はシンプルということ」と教えてくれた。昔ながらのタコの扱い方もスペインで学んだといい、それによってタコが軟らかくなるらしい。噛み締めると優しい弾力と同時に旨みが広がった。母親から受け継いだ秘伝のチミチュリソースを付けると味がしまって、これもよかった。

ハワイの魚介が盛りだくさんのシーフードパエリア

 完璧なタイミングでパエリアが運ばれてきた。オーダーしたのはシーフードパエリア(38ドル)。このほか、イカ墨、チキン、キノコ(ビーガン)がある。シーフードは、ハワイの新鮮な魚介などの具材がゴロゴロと乗っていた。具材への火の通り加減も素晴らしかった。

丁寧に具材をパエリアに乗せるマサシェフ

 一番美味しく仕上げるシェフ流の作り方があるというが、ハワイの食材とスペイン料理が融合したパエリアはここでしか食べられない逸品だと思う。

別腹があるとは思えないほど満腹だったが、あっという間に別腹に収まったモンブラン

 一品ずつのボリュームとその味わい深さから、この時点でかなり満腹状態に(本当はもう一品タパスを注文したかったがやめておいて正解だった)。とはいえ、手作りデザートも人気で、取材時に「モンブラン、美味しいですよ!」と聞いてたので心を決めた。芸術作品のようなモンブラン(16ドル)は、ほうじ茶入りの自家製甘栗ピューレが軽くて香ばしく、さすがだった。夜遅くにこれだけを食べに来た人もいたとか。

メッセージ入りのチョコレートケーキでアニバーサリーを祝ってくれた

 この店をオンラインで予約する際に、特別な日かどうかを答える欄があったので「アニバーサリー」を選んでおいたのだが、当日にはこんなサプライズも。濃厚なチョコレートケーキでお腹も心も十分満たされて、お会計となったが、2人で合計115ドル(税金とチップは別)で驚いた。

 最後に、参考までにあと2品、取材時に撮影したピンチョスとタパスも紹介しておこう。

中に生ハムが入っているジャガイモのコロッケ
モロカイ産エビのアヒージョ、バゲット付き

 生ハムとジャガイモのコロッケ(8ドル)は、赤ピーマンとナッツが香るロメスコソースでいただくピンチョス。エビのアヒージョ(21ドル)はモロカイ島産のエビを使っていて、エビの旨みとガーリックたっぷりのオリーブオイルをバゲットにつけると最高だった。

サンクスギビングデーやクリスマスのシーズンにも訪れたい

 店名の「エル・シエロ」はスペイン語で空・天国を意味するが、ここを訪れるとシェフの人柄とスタッフ全員の優しく穏やかな「気」に包まれて、天に昇るような至福の時間を過ごせると思う。ローカルファミリーやカップルらが店内でわいわいと食事を楽しんでいる雰囲気も心地がよく、マサシェフは日本語が堪能で日本語のメニューもあるので、日本人にとって安心できる店だった。それにしてもこんなに気軽に行ける店だったとは……。

大澤陽子

ハワイで発行している生活情報誌「ライトハウスハワイ」編集長。日本ではラジオアナウンサー、ライターとエディターとして活動。2012年にハワイへ移住。新聞やハワイのガイド本などの編集に携わる。ハワイのビーチとビールをこよなく愛している。