井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

宿泊地を“ずらす”ときのポイント

岐阜が起点の取材だから岐阜駅前で宿を確保したかったが、現実的には難しかったので大垣にした

 先日、「THE ROYAL EXPRESS」の取材に赴いた際に、朝に岐阜駅からスタートということで、前泊が必要になった。問題は、それが三連休の中日、しかも間際になって取材に行く話が決まったこと。こんなときに、どうやって宿泊を確保するか、というのが今回のお題。

主要都市の駅前が理想だが

 何か観光地、あるいはイベントを目的とする旅行であれば話は別だが、鉄道の利用そのものが目的となる旅行の場合、宿泊地は主要都市の駅前あるいは駅の近くが理想的であろう。

 駅から遠い場所に宿泊すると、駅との間の行き来に時間と費用がかかってしまう。そこでほかの交通機関が入ると、遅延リスクの原因が増えることにもなる。実は、もっとも確実なのは徒歩である。

2025年の1月にイギリスを訪れたときには、ロンドンを拠点としてキングスクロス駅(写真)とユーストン駅を利用するからということで、両駅の中間に宿をとった。どちらの駅も徒歩圏である

 それに、主要都市、列車の始発・終着になるような駅、主要幹線が分岐するような「鉄道の要衝」となる駅の近隣であれば、宿泊施設の選択肢は豊富であることが多い。鉄道の要衝については、たまに例外があるが。

 ところが、そういう場所は利用する人も多いから、盆暮れ正月みたいな繁忙期には埋まりやすいし、料金も上がりやすい。多くの人が集まるイベントがあると、イベントの告知がなされたとたんに近隣主要都市の宿泊施設がワッと埋まってしまうこともよくある。

 それなら、少し“ずらした”選択肢はどうか、という話が出てくるわけである。日程をずらすのは難しくても、宿泊する場所をずらすことはできる。

 冒頭で書いた話の場合、取材のスタート点が岐阜駅だったので、前泊するなら岐阜の駅前が最善なのはいうまでもない。しかし、三連休の真っ最中、しかも土壇場となれば、当然ながら空室は少ないうえに、あっても料金が高い。

 それでは選択肢にならないので、岐阜の近隣で探し回った。といっても、名古屋は選択肢が多い一方で料金が高いので、除外せざるを得ない。そこで筆者がどんなことを考えたか。

宿泊地を“ずらす”際のポイント

 あくまで目的地は岐阜であるし、取材だからリスクはとりたくない。

 そこでまず、「岐阜駅まで1本の列車で行けること」とした。すると、東海道本線、高山本線、名鉄名古屋本線、名鉄各務原線がリストアップされる。ただ、高山本線の岐阜近隣(鵜沼までが現実的であろうか)や名鉄各務原線の沿線は宿泊施設が多くないし、あっても大半が埋まっていた。

 そして、観光客が多そうな場所は週末や連休だと混雑しやすいし、相場も高くなるから回避したい。岐阜の近辺だと、例えば犬山がこれに近い。

 東京から行くことを考えると、新幹線を降りれば目の前だからアクセスしやすい岐阜羽島は有力候補である。そして、名鉄で岐阜に出られるから足の面でも問題はない。ただ、空室があまりなく、あっても相場がやや高めであった。

 そこで、まっ先に探したのが一宮だった。理由は「岐阜に向かうのに、JRと名鉄の両方を利用できるので、どちらか一方で輸送障害が発生しても代替手段がある」。ところが、一宮は物件が少ないうえに、空室がなかった。

 小牧にもいくつか手頃な空室があったが、小牧から岐阜に電車で移動しようとすると、犬山経由の大回りになってしまい、時間がかかる。

 そこで次に、岐阜の周辺であたってみた。岐阜各務原IC西方の岐南には空室があったが、最寄りの駅から徒歩で20~30分ぐらいかかるのは厳しい。クルマなら問題ないのだが。

 そこで地図を見ると、岐阜駅からの直線距離は、岐阜羽島でも大垣でもたいして違わない。そこで大垣駅の近所で探した結果、1万円を切る空室を確保できた。大垣なら岐阜まで東海道本線で十数分。もし何かあっても、タクシーを飛ばせばなんとかなりそうな距離である。

岐阜の近隣で探し回った結果、大垣で空室を見つけることができた
東海道本線の豊橋~大垣間は新快速や特別快速が走っており、これはかなりの韋駄天である

距離と所要時間は、比例関係にあるとは限らない

 本来の目的地から外れた場所で宿泊するということは、本来の目的地までの移動が発生するということ。すると「本来の目的地までの足の充実度」「その際の所要時間」が問題になる。

 鉄道の場合、距離と所要時間は比例関係にあるとは限らない。これは地図だけ見ていても分からない話で、時刻表を調べなければ判明しない。

 例えば、駅間距離が短い路線は停車駅が増えるから、所要時間が長くなりやすい。同じ距離でも、駅間距離が長い路線なら、停車駅が少ないから所要時間は短くなる傾向にある。その点、大垣~岐阜を結ぶ東海道本線は有利である。

 また、先に挙げた一宮~岐阜みたいに、同じ区間に複数の路線があれば、輸送障害発生時のリスク低減になる。大垣~岐阜の場合、鉄道は東海道本線しかないから、万が一のタクシー利用を想定して、クルマの所要時間も調べた。

 なお、岐阜ほどではないが、大垣もこの地域では主要な街の1つだから、「駅前に降り立ったら何もなくて途方に暮れた」なんていう事態は回避できる。これも考慮のうちだ。宿泊地は補給拠点でもある。

真冬の流氷シーズンになると、網走は混雑するし料金も上がりやすい。そこで北見に宿を取ったことが一度ならずある
網走だと時間が早過ぎて暗いうえに、適当な撮影場所がない。しかし、北見に泊まったおかげで「オホーツク2号」を撮れる余録も付いてきた。真冬の早朝だから寒かったが
東北本線から石巻線と陸羽東線が分岐する小牛田駅は、鉄道の要衝ではあるが、宿泊施設はきわめて少ない。しかし陸羽東線で3駅先の古川に行けば、ビジネスホテルが何軒もある。やはり新幹線の駅があると強い
2024年の12月に大阪まで行って、その場の成り行きでさらに北九州に向かったときには、当日の夕方に徳山の宿を確保した。工業都市で出張需要を見込めるからか、宿泊施設はけっこう豊富、かつ比較的リーズナブルだった。本当は小倉にしたかったが高かった

宿探しの悩ましさ

 どういう方法で宿泊施設を探すかにもよるが、宿泊施設を調べる手段や対象エリアによっては、ラブホテルが出てきたり、民泊やゲストハウスまで出てきたりすることがある。

 どこに宿泊するかは個人の自由、個人の好みだが、「普通のビジネスホテルだと思ったらラブホテルだった」なんていう事態は願い下げにしたい。すると例えば、高速道路のインターチェンジ近くは入念な確認が必要かもしれない。