井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

1号車はホームのどっち向きに停まる?

駅コンコースに設置されている、編成内容を案内する標示の一例。列車によって、両数や停止位置が異なる様子が分かる。なお、号車番号の並び順はすべて揃っている

 前回は「増1号車」の話に絡めて、「乗車前に案内の確認を」という話を書いた。しかし、増結の有無に関係なく、「乗るのは○号車ね」あるいは「待ち合わせは△号車のあたりで」と言われたときに、駅のホームで「ハテ、どっちだったっけ?」となる場面は起こりそうである。

よく分からずにホームに出てしまったら

 後述するように、鉄道事業者各社のWebサイト、あるいは駅の掲示や案内板など、乗車位置や号車の並びに関する情報提供はいろいろ行なわれている。しかし、それを確認できないまま、ホームに出てしまうこともあるだろう。そんなときはどうするか。

米原駅の在来線側で。左右それぞれに階段があるため、左手にある発車標の下には、それぞれの階段がどの範囲の号車に対応するかを示す標示がある
敦賀駅で。次に発車する列車名のところにランプが点灯しており、さらに、今いる跨線橋がどの号車に対応する位置にあるかが分かるようになっている。なお、これは北陸新幹線の延伸前に撮影したもの

 多くの場合、ホームの頭上あるいは足元に、乗車位置の表示が出ているものだから、まずはそれを探してみたい。もっとも分かりやすいのは可動式ホーム柵が設置されている駅で、大抵、開口ごとに号車番号(1両に複数の扉がある場合には扉番号も)の標記がある。

 とりあえず、手近にある乗車位置の標示を探す。それが、自分が目指している号車のものであれば一件落着だが、そうでない場合はどうするか。左右を見渡して、同じ列車に対応する乗車位置の標示がほかにあるかどうかを探してみる。そこで注意を要するのは、列車によって、あるいは車型によって乗車位置が異なるケースがあることだ。

 問題は、そうやって見つけたほかの乗車位置標示で、号車番号の数字が増えるか、減るか。例えば、最初に見つけたものが「3号車」で、その左手に「2号車」の乗車位置標示があれば、さらに左手に進むと1号車があると分かる。数字が増える場合には逆になる。

これも敦賀駅で。ここでは頭上に号車ごとの乗車位置を掲示してあるが、さらに編成全体の並びも掲示しているところは親切。これは5号車だから、右手(金沢方)には4号車、さらに3号車……1号車と並ぶ
東海道新幹線では、乗車位置ごとに、頭上に表示器を設置している。号車番号に加えて、次にこのホームから出る列車の情報を表示する仕組み
可動柵を設置した新幹線駅の例(北陸新幹線・金沢駅)。開口の横に号車番号が書かれている様子が分かる。その右手には編成全体の並びも示している
こちらは北海道新幹線の新函館北斗駅。ここでは号車番号の表示と編成全体の表示がひとまとめになっている
これは京浜東北線の某駅。開口に号車番号とドア番号の標示がある例
小田急の新宿駅で。ロマンスカーの車型は複数あり、それぞれ扉の位置や編成両数が異なるため、同じ位置でも複数の標示が並ぶ

基準駅における並びがベース

 では、号車番号の並びはどのようにして決められているのか。多くの場合、「下り列車の先頭から順に1号車、2号車……」となるが、例外も少なくない。どうしてそんなことになるのか。

 かつて国鉄では、「旅客輸送基準規程」において、路線ごとに基準駅を定めていたという。つまり、「この基準駅に列車がいる状態で、どちら側から順に号車番号を振る」といった按配で編成順序を定めていた。

 東海道本線や東海道・山陽新幹線なら、東京駅を基準として、新大阪方、つまり下り列車の先頭が1号車。そこから順に2号車、3号車……と続く。席番も、新大阪方の先頭から1番、2番……となる。つまり「号車番号と席番は下り列車の先頭から始まる」で分かりやすい。なお、列ごとに並んでいる席は、新大阪方に向かって左から順番に「A・B・C・D・E」(E席は普通車のみ)である。

 同じ東京駅に乗り入れている、東北・北海道・上越・北陸・秋田・山形の各新幹線も、同様の並びになっている。つまりこちらは逆順で、上り列車の先頭が1号車となる。席番も同様に逆順で、東京方の端が1番となる。

 東京駅から出る房総方面の特急列車も同様に、東京駅に向かう上り列車の先頭が1号車となる。一部が東京駅から、大半は新宿駅から出る、中央本線の「あずさ」「かいじ」も同様。東京駅基準ならこれで話は決着するが、ほかの地域はどうか。

ややこしい事例いろいろ

 JR北海道は現在、札幌から函館、帯広・釧路、旭川、網走、稚内の各方面に特急を出す体系だが、いずれも札幌駅にいる状態で号車番号の向きが揃っている。つまり「札幌発の特急列車は、進行方向に向かって前から順に1号車、2号車……」である。

 ところが、函館~札幌間を走る「北斗」は札幌始発が上り列車。そのほかは札幌始発が下り列車という違いがあるので、「常に下り列車の先頭が1号車」ではダウトになる。

南千歳駅の案内表示。JR北海道の主要駅では、ホームにアルファベットを使った乗車位置標示があり、そのアルファベットのどれがどの号車に対応するか、という形で案内をしている。例えば「北斗6号の6号車なら“K”」という具合

 複雑なのが名古屋圏。「ひだ」と「南紀」は名古屋駅にいる状態で、岐阜方の先頭車が1号車。これらは、東京駅を基準にして各地に向かって行く列車と揃う形になっている。

 ところが、東京駅基準で考えると逆になるケースもある。具体的にいうと、「しらさぎ」と「しなの」は、名古屋駅にいる状態で東京方の先頭が1号車。

「しらさぎ」は米原で進行方向が逆になるので、米原から先の北陸本線内では1号車が下り列車の先頭になる。この向きは、大阪から来る「サンダーバード」と同じ。つまり、「しらさぎ」の号車配列は「サンダーバード」に合わせたものといえる。

 一方の「しなの」は、1号車を先頭にして松本・長野方面に向かう。そして塩尻~松本間でJR東日本の「あずさ」と同じ線路を走るが、「あずさ」は前述のように松本方先頭車が12号車。だから、同じ区間を走る「しなの」とは号車番号が逆順になる。

新宿駅ホームの待合室付近に掲出されている、「あずさ」「かいじ」の号車案内。松本方の先頭車が12号車になると分かる
新宿駅でも、頭上に乗車位置案内が用意されている

事前に確認するに越したことはない

 こんな調子で例外を挙げ続けると際限がなくなるが、「基準駅で決める」というシンプルな考え方だけでは済まず、例外も多々あるのが実情だ。だから、紙の時刻表やWebサイトで公開されている「列車の編成ご案内」や、駅の掲示・案内を確認することが肝要となる。

 なお、途中で進行方向を変える列車は、区間によって先頭の号車が変わる。パッと思いついた名前を挙げると、「オホーツク」「大雪」「こまち」「スーパーいなば」「ソニック」「みどり」、それと名古屋発着の「しらさぎ」「ひだ」がある。これらは、時刻表の編成案内を見ると「○○-△△間逆編成」と注がある。

ところで「下り」「上り」とは

 ここまで、なにげなく「下り」という言葉を使っているが、これは「それぞれの路線において、起点駅から終点駅に向かうのが下り列車」という原則がある。だから、東京を起点とする東海道新幹線も東北新幹線も、東京から出るのが下り列車となる。

 なお、列車番号だけでなく愛称付き列車の号数も、「下り列車が奇数」「上り列車が偶数」と決まっている。

 ところが、列車によっては複数の路線を渡り歩き、しかも途中で経由する路線において上下の関係が逆転することがある。その場合、メインとなる区間に合わせて上下を決めてしまうので、そのほかの区間ではあべこべになる。

 例えば、「サンダーバード」は北陸本線に合わせて、大阪から敦賀に向かう方が下り列車。そのため、大阪~山科間は東海道本線の上り線を下り列車が走る形になる。同様に、同じ方向に走る列車同士で下り列車と上り列車が混在する路線として、千歳線の白石~南千歳間がある。