井上孝司の「鉄道旅行のヒント」
つい見落としてしまうかもしれない支線・別線
2023年8月16日 06:00
普通、「○○線」というと1本の路線である。ところが、同じ「○○線」の下に、メインラインに加えて、分岐する支線や平行する別線が存在することがある。そういうところはえてして列車の運転本数が少ないので、乗るのが難しくなりやすい。
有名なマイナー支線
列車の運転本数が少ない支線といえば、鶴見線の大川支線(安善~大川)、小野田線の本山支線(雀田~長門本山)あたりが著名か。いずれも朝夕しか列車の設定がないので、旅程を組むのに難儀をする。朝夕しか列車がないといえば、名古屋鉄道の築港線(大江~東名古屋港)も知られていそうだ。
ところが世の中、こういう有名どころばかりとは限らない。
1日3本、しかも片方向の函館本線(藤城線)
時刻表の冒頭にある索引地図を見ると、函館から北方に向かう函館本線が、七飯~大沼~森の区間で「8の字」になっている様子が分かる。このうち七飯~大沼間は、新函館北斗を経由する方が主軸。もう1本の途中駅がないルートが、通称「藤城線」。
藤城線は、下りの貨物列車が仁山~大沼にかけての急勾配を登らなくても済むように設けられた迂回別線。以前は下り特急「北斗」も藤城線を通っていたが、2016年3月の北海道新幹線開業に伴い、新函館北斗~仁山を経由するようになった。新幹線との乗り換えができなければ困るからだ。
そのため現在、「藤城線」を走る旅客列車は、下りの普通列車がわずか3本。2023年8月現在、函館発5時49分の5881D、同じく12時35分の823D、同じく17時35分の825D(紙の時刻表では、新函館北斗と仁山が「| |」表示になっている)。そして、片道のみ3本と3往復は同じではない。片道のみだと乗る方向が限定されるから、旅程を組む際の制約が増える。
その北方、大沼~渡島砂原~森と海沿いを通るのが、いわゆる「砂原線」。ここは、上りの貨物列車が急勾配の駒ヶ岳経由を避けるために造られた。普通列車しかないのは同じだが、こちらの方が少し本数が多いし、上下双方の運転があるだけマシ。
実は、前述の823Dで藤城線に乗ったあと、大沼で1時間57分待つと砂原線経由の下り普通列車2841Dがある。早朝の5881Dなら藤城線~砂原線を走るので手間が省けるが、函館での前泊は必須となる。
東海道本線にもある迂回別線
同じように、勾配緩和のために迂回別線を建設した事例が、東海道本線にもある。それが、大垣~関ヶ原間。地図で見ると、大垣から関ヶ原に向けてストレートに進む線路に加えて、北方に迂回する線路がある様子が分かる。
この別線は、先の藤城線と同様に下り列車専用。貨物列車だけでなく、下りの特急「しらさぎ」「ひだ」も通る、事実上のメインライン。藤城線と違うのは、ここを通る普通列車がないこと。だから、大垣~米原間を普通列車でしか行き来したことがないと、別線を乗りこぼしてしまう。
1986年までは迂回別線の途中に新垂井駅があったが、当然ながら下り列車しか来ない。新垂井から大垣に向かうには、いったん下り普通列車で関ヶ原まで行ってから上り列車で折り返す必要があった。実際にそんなことをする暇人がどれだけいただろうか。
現在、大垣~関ヶ原間を走る普通列車は上下とも垂井を通る。そして垂井経由のルートは全線が複線だから、物理的には「下り線が2本、上り線が1本」となる。下りの特急と普通列車、それとなにかしらの上り列車に乗れば、そのすべてを制覇できる。
もう1つの別線事例・長崎本線
長崎本線にも別線が増えた区間がある。それが喜々津~浦上間。ここでは、旧線は「長与経由」、新線は「市布経由」と、途中駅の名前で区別されている。
かつては特急「かもめ」が新線経由だったが、西九州新幹線の開業に伴って消滅した。しかし現在でも、大村線に直通する快速「シーサイドライナー」は新線を経由する。一方、観光列車「ふたつ星4047」は旧線経由。旧線と新線の双方に途中駅があるため、普通列車はどちらも上下双方が設定される。
こうした事情から、利用する列車の選択次第では、旧線を乗りこぼすこともあり得る。しかし「ふたつ星4047」が旧線を経由することでお分かりのとおり、車窓を楽しむなら、山のなかをショートカットする新線よりも海沿いの旧線の方がいい。
この区間を通過する旅程を立案する際には、旧線経由と新線経由の両方を調べてみてほしい。ちょうどいい時間の列車が一方になくても、他方にはある、ということが起こり得るからだ。