井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

東海道新幹線の車内チャイム、変わったはずなのに聞けない? 同じに見えて同じではない車両

見る人が見ると、これだけで「JR東海所属のN700だな」と分かる

 鉄道趣味界でしばしば聞かれる愚痴として「同じ車両ばかり来るのでつまらない」がある。その典型例として挙げられることが多いのが、東海道新幹線。しかし、同じに見えるようでいて、実は同じではないのが、東海道新幹線の車両群である。という蘊蓄ネタを1つ。

JR東海の所属とJR西日本の所属

 現在、東海道・山陽新幹線で使われている16両編成の車両は、大きく分けると「N700」「N700A」「N700S」の3系列がある。このそれぞれについて、JR東海所属の車両と、JR西日本所属の車両がいる。

 JR東海所属の車両だからといって東海道新幹線内だけを走っているわけではなく、山陽新幹線に乗り入れて博多まで行く。逆も同様で、JR西日本所属の車両が東海道新幹線に乗り入れて東京まで行く。すると、JR東海とJR西日本の間で互いに、車両の貸し借りが発生する。

 そこで、貸し借りが発生する車両キロを相互に揃えるように調整する。JR東海の車両が山陽新幹線内を走る距離の累計と、JR西日本の車両が東海道新幹線内を走る距離の累計を揃えれば差し引きゼロとなり、車両使用料をやり取りしなくても済む。

 ところが、車両数やダイヤの関係で、漫然と(?)走らせていると、JR東海の車両が山陽新幹線内を走る距離の方が多くなってしまう。そこでバランスを取るため、JR西日本の車両が東海道新幹線内だけを行き来することもある。その結果、JR西日本所属の車両が東海道新幹線内の「こだま」運用に就く場面も出てくるわけだ。

所属を見分けるポイント

 所属が違っても見た目はほとんど同じだから、パッと見には区別がつかない。しかし、ちゃんと識別点はある。分かりやすいところでは、以下の3点がある。

・車内放送チャイム。JR東海所属車は2023年7月21日から新しい「会いに行こう」チャイムに切り替わったが、JR西日本所属車は「いい日旅立ち」のまま。
・側面のJRマーク。車号標記の横にJRマークが描かれているが、JR東海所属車はオレンジ色、JR西日本所属車は青色。
・仕切扉上部の標記。デッキから客室に入るところの仕切扉上部に、「JR東海」「JR西日本」の標記がある。

JR東海所属のN700。JRマークはオレンジ色
JR西日本所属のN700A。JRマークは青色
N700Sのデッキ。左上の「15」という号車番号標記の上に、「JR東海」とあるのが分かる

 もうちょっとマニアックなところだと、編成番号がある。乗務員や駅係員が個々の編成を識別するための情報で、運転台前面窓、運転台両側面の乗務員室扉、7号車と11号車の業務用扉に書かれている。その陣容は以下のとおり。

N700: JR東海所属車は「X○○」、JR西日本所属車は「K○○」
N700A: JR東海所属車は「G○○」、JR西日本所属車は「F○○」
N700S: JR東海所属車は「J○○」、JR西日本所属車は「H○○」

両先頭車の乗務員室扉に、編成番号の標記がある。これは「J5」だから、JR東海所属のN700S・5編成目と分かる

 過去に、JR東海からJR西日本に700系が譲渡されたことがある。このときは、編成番号はJR東海時代の「C○○」のままで、側面のJRマークや車内仕切扉上部の標記だけがJR西日本仕様に変わった。そんな例外が発生することもある。

N700とN700Aの区別もつけられる

 N700Sはいろいろ目立つ変化が加わったので、区別しやすい。筆者の周囲でも、「この新幹線、なんか違う」「それは新しいN700Sだよ」といったやり取りが散見される。それと比べると、N700とN700Aは同じに見えるのだが、どうしてどうして。細かい違いはいろいろある。

 乗客の立場から見ると、まず腰掛のモケットの柄が違う。また、普通車では頭の左右に設けられた張り出しが違っていて、N700Aの方が大きい。つまり居眠りしやすい仕様になっている。このほか、車端部に設けられている大型テーブルの形状にも違いがある。

N700の普通車で使われている腰掛
N700Aの普通車で使われている腰掛。頭の左右にある張り出しの大きさや、モケットの柄が違うのが分かる

 グリーン車でも、N700とN700Aはモケットの柄が違う。それと、デッキに設けられた緊急通報装置。通話機能付きの緊急通報装置が付いたのはN700Aからだ。

通話機能付きの緊急通報装置は、N700A以降の新装備

 外観はどうか。分かりやすいポイントは側面のロゴ。また、先頭部両側面の青帯にも違いがあり、N700Aの方が前方に向けて長く伸びている。といいたいところだが、N700のうち自動動揺測定装置(レイダース)を備える一部編成もN700Aと同じ塗り分けなので、ちょっと紛らわしい(冒頭の写真がそれ)。なお、レイダースについて詳しく知りたい方は、「新幹線EX」68号の拙稿を御覧いただきたい。

N700の先頭部。青帯の先端は短い
N700Aの先頭部。青帯の先端が運転台窓の付近まで伸びている

 細かいところだと、前部標識灯ケースの形状が違う。N700と比べるとN700Aの方が、後縁部が斜めに拡大されて、少し大きくなっている。ところがこれにも例外があり、N700のうちX59編成の新大阪方先頭車だけN700Aと同じ車体が使われているため、前部標識灯ケースの形状もN700Aと同じになっている。

手前がN700、奥がN700A(と同じ車体を使っているX59編成の1号車)。前部標識灯ケース・後縁部の角度が違う様子が分かる

形態分類という沼

 今回は、多くの人が接するからという理由で東海道・山陽新幹線の16両編成を引き合いに出してみたが、よそでも似たような話はいろいろある。

 また、同じ系列で、一見したところでは同じに見えるのに、製造年次や後日の改造によって細かい仕様違いが生じるのも、よくある話。それを調べ回る「形態分類」という趣味があるぐらいだ。

 例えばN700Aのグリーン車は、製造時期によって中間肘掛の側面にあるシートヒーターと読書灯のスイッチ配置が違う。前期製造分はN700と同じ横並びだが、後期製造分では縦並びに変化した。オーディオサービスが廃止された関係で、パネルの設計が変わったためだ。

「一見しただけでも違う」よりも「一見しただけでは同じだが、よく見ると違う」方が、マニア心をくすぐるものである。