井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

鉄道の要衝だからといって油断できない食料調達事情

新幹線の車内で駅弁を。新幹線はまだしも、在来線で同じことをやろうとすると、意外とハードルが高くなってきた昨今である

 昭和40年代半ばの鉄道趣味誌を読むと「北海道は普通列車でも車内販売が多い」なんていうことが書いてあって、ビックリする。今では普通列車は言うにおよばず、特急列車でも車内販売がある方がめずらしいぐらいかもしれない。スピードアップと長距離列車の減少で、車内販売が事業として成立しにくくなってきたせいもあるだろうが。

車内がダメなら駅で調達……?

 車内で食べ物・飲み物を調達できなければ、駅ないしはその近隣で調達しよう、と考えるのは自然な発想。ところがこちらも、近年では油断がならない。さすがに飲み物については自販機でなんとかなることが多いが、食べ物については話が違う。

 売店に加えて立ち食いそば・うどんなど、多くの駅で多様な構内営業があったのは昔の話。近年ではずいぶんと数を減らしている。都市部の主要駅はともかく、それ以外では構内営業が消滅してしまったり、あっても改札の外にコンビニがあるぐらい、という場面が増えてきたように思う。

名古屋駅といえば「きしめん」である。筆者自身も何度も利用している
こちら、鹿児島本線・折尾駅の構内でいただいた、かしわうどん。やはり九州に来たらうどんである。博多駅ホームの立ち食いラーメンも有名だ
札幌駅で愛用しているのが、ラチ内コンコースのお蕎麦やさん。長距離列車用のホームでも、立ち食いそば・うどんがある

 それなら駅の外に出てみれば、なんとか……といいたいところだが。もちろん「場所による」のだが、特急列車が頻繁に停車するような「当地の代表駅」であっても、駅前で食べ物・飲み物が調達できなかったり、飲食店の類が壊滅的に存在しなかったり、ということがままある。その原因は、大きく分けて2種類ありそうだ。

 1つは先天的なもので、そもそも駅が街の中心にないケース。ことに国鉄~JRグループでは、街の中心から外れたところに駅があることが少なくない。JRの駅が街外れにある一方で、競合関係にある民鉄は街の中心に駅を構えている、なんていうこともある。

 もう1つは後天的なもので、駅が街の中心になっておらず、郊外の幹線道路沿いにお店が集中してしまっているケース。クルマで動くことが前提になっている地域では、こういうことになりやすい。

 どちらにしても、駅前に降り立ったときに徒歩で行き来している人をトンと見かけないようなところでは、お店も少ない、あるいは皆無に近いことが多いようだ。それはそうだろう。人がいないところにお店を出しても商売にならない。

 地元民ならともかく、よそ者の視点からすると、えてして「路線の分岐や列車の乗り換えなど、鉄道の要衝になるようなところなら、駅前も栄えているんじゃないか」と考えてしまいがちだ。ところが実際には……という場面は意外とある。この落とし穴にはまり、食事に難渋した経験をお持ちの方、案外といらっしゃるのではないか。特に、「青春18きっぷ」を使って普通列車を乗り継いでいると、「乗り継ぎのついでに腹ごしらえ」が成立しない悲劇が起きることがある。

手に入るときに食糧確保

 すると、いささか消極的な解決策と言われても仕方ないのだが、「その時点で空腹になっていなくても、手に入るところで食べ物・飲み物を確保しておく」という話になってしまう。めんどうな時代になったものだと思うが、需要が少なくなれば供給が途絶えるのはいたしかたない部分もある。

 また、新型コロナウイルスに起因する流動の激減が、こうした傾向に拍車をかけた感がある。最近はだいぶ利用が戻ってきているが、だからといって構内営業まで元に戻ったかというと、そうでもない。

釧路駅の1番ホームにある、「日本食堂」の売店があった名残。その昔には、改札の外に「日本食堂」の食堂があって、そこでカレーライスを食べた記憶があるのだが
「富良野駅に立ち食いそば・うどんがあったな」と思い出し、富良野を通ったときに行ってみたら新型コロナウイルスの影響で休業していた、の図

 ただ、「食べたいときに手に入らない」という問題とは別に、輸送障害に巻き込まれるなどしてスケジュールが乱れることもあるから、何か「小腹を満たせるようなもの」を常に携行しておくのはよいアイデアかもしれない。「ダイヤが乱れたら食糧確保」という鉄則(?)があるが、ダイヤ乱れに直面してから調達に走ろうとしても、前述した事情により、調達がままならない可能性がある。

駅売店のコンビニ化

 駅の構内営業というと、国鉄時代には鉄道弘済会が運営する、いわゆる「キヨスク」が主体だった。それが、JRグループ発足後はJR旅客各社の傘下で営業する形に変わった。当初は独自ブランドによる展開だったが、近年、その多くが大手コンビニエンスストアの看板を掲げる形に変わってきている。現時点で独自ブランドが残っているのは、JR東日本の「ニューデイズ」とJR東海の「ベルマート」ぐらいだろうか。その辺の事情は民鉄各社も似ている。

 それが何を意味するか。単にお店があって営業しているかどうか、ということなら営業主体が誰でも構わないのだが、大手コンビニエンスストアの看板を掲げたことで、取り扱う商品に変化が生じるのだ。例えば、セブン-イレブン化したJR北海道やJR西日本の駅売店・駅コンビニであれば、セブン&アイのオリジナル商品が店頭に並ぶようになった。

 つまり、市中のコンビニエンスストアと同じ品物が手に入るようになったわけで、「外れのない安心感」と「独自商品が減っておもしろみがない」のいずれも事実といえる。

JR東日本は「KIOSK」の看板が健在だが、正確には「KIOSK NewDays」となっている。田端駅で
小腹を満たせるものが何か手元にあるだけでも、安心感は違うのではないか。筆者は人が驚く小食なので、食いっぱぐれたときのダメージは比較的少ないが

 もう1つの変化は、流通系電子マネーが使えるようになったこと。といっても実際に影響が生じるのは、セブン-イレブン化した駅売店で「nanaco」が使えるようになった事例ぐらいか。筆者自身もそうだが「nanaco」を常用している人にとっては、使えるお店が増えたことになる。

 一方、交通系ICカードは大抵のコンビニエンスストアで使用できるから、こちらは営業主体がどこであっても、特に影響はなさそうだ。