荒木麻美のパリ生活

冬のラトビア、フィンランド、スウェーデンへ。「ストックホルムで自由過ぎる打ち上げ花火とともに迎えた新年」

 2024年の12月頭から2025年の1月頭まで、ラトビア、フィンランド、スウェーデンに行っていました。今回は3か国目のスウェーデン編です。

 フィンランドのヘルシンキからスウェーデンのストックホルムまでは船で移動しました。私が乗ったのはバイキングライン社の船です。毎日18時にヘルシンキを出て、翌日の10時にストックホルムに到着します。大きなフェリーで、船内がちょっとレトロなのが私好み。レストラン数軒、バー、免税スーパー、ゲーム・カジノコーナー、サウナ・スパなどがあり、生演奏、カラオケ大会、ディスコタイムなど、アクティビティも多数あります。夕飯にはシーフードの盛り合わせなどを食べてお腹いっぱいになったところで、バーでバンドの生演奏を聞きながらジュースを飲んでのんびりしてから、自室に戻りました。

バー、レストラン、ショップ、カジノコーナー、ゲームコーナーのほか、生演奏やディスコタイムも
船内はすべて個室。小さいバスルームも付いて一晩寝るには十分

 自室にいる間はあまり揺れを感じることなく、波の音を聞きながら快適に過ごしました。明け方に中継港に寄ったときの音で一度起きましたが、再出港後はまた眠りに落ちました。夜が明けてからは外の景色を飽きずに眺め、甲板にも出ましたが、たいして寒くもなく、風が気持ちよかったです。日の長くなる夏季はここで過ごすのもよさそうですね。

朝食ビュッフェは種類が豊富
夜が明けてからは甲板に出てしばらく外を眺めていました

 ストックホルム市は14の島で構成されていますが、船はセーデルマルム島に到着。そこから最初に向かったのはリディンゲ島にあるミレスゴーデン美術館です。ここはロダンの助手も務めた彫刻家、カール・ミレスが一時期住んでいた住宅兼アトリエでした。敷地内のいたるとこにミレスの作品があり、庭園からはストックホルムを一望できます。家のなかにはあちこちに植物が置いてあり、敷地全体がとても大事にされている感じのする、居心地のよい空間でした。

ミレスゴーデン美術館

 ストックホルム一番の観光地は旧市街(ガマルスタン)です。この辺りは現在も石畳の中世の街並みが残っています。徒歩でのガイドツアーに参加したのですが、ガイドさんによると、ガマルスタンの歴史は13世紀に遡ります。当初は住民の富によって、裕福な人は黄色の石造りの家に住み、それ以外の人は赤の木造の家に住んでいました。その後、色による富の違いが曖昧になっていくと、窓の数で豊かさを示すようになります。というのは窓税といって、欧州各国であった税金の一つなのですが、窓の多い家はこの窓税を払えるということだからです。

旧市街
旧市街のカフェ。スウェーデンだけでなく、ラトビア、フィンランドでも、シナモンロールがたくさん
ヤーンポイケ、別名「月をながめる少年」は、15cmほどの小さな像です。なでると幸運が訪れるというので、つるつるに光っています

 モーテン・トローツィグ・グレン通りはストックホルムで最も細い通りで、その幅は約90cmです。私にはよく分からなかったのですが、通りの下部は少し傾いているそう。これは、旧市街の住民が町の外側にゴミを捨て、その上に道を作ったから。おもしろいのは、後述するヴァーサ号は、このゴミのおかげもあって沈没から時を経ても、素晴らしい保存状態で発見されることとなります。

モーテン・トローツィグ・グレン通り

 スウェーデンは今も君主制です。現国王の執務室があるストックホルム王宮はなかなか豪華。王宮を守る衛兵の交代式も見てきましたが、女性が多いのが印象的でした。スケジュールはオンラインでは見られず、王宮の前に張り出されています。

ストックホルム王宮

 ストックホルム市庁舎は後述するヴァーサ博物館と1、2を争うほど、ストックホルムで行ってよかったと思ったところです。ガイドツアーでのみ見学が可能なので、予約を忘れずに。ノーベル賞の晩餐会とそのあとのパーティが行なわれるホール、市議会議事堂と、まったく異なる雰囲気の部屋になっていくのが興味深かったです。

ストックホルム市庁舎内
こんなところにもフリーメイソンのプロビデンスの目。ガイドさんによると、フリーメイソンは市庁舎建設時、大きなスポンサーの一つだったのではないかとのこと

 ユールゴーデン島にあるヴァーサ博物館は必見です。スウェーデン国王グスタフ2世アドルフの命によって1628年に完成した、当時最強クラスの戦艦が展示されているのですが、その迫力に圧倒されます。ただこの戦艦、設計ミスで船の安定性がわるく、なんと初航海の10分後に沈没してしまいます。1961年に海底から引き上げられましたが、驚くことに船体はほぼ原形を留めていました。

 これは町から廃棄されたゴミによって海が低酸素状態であったこと、海にしては塩分が少なく、海温も低いために、木をエサにするフナクイムシが育ちにくかったためで、巨大な船体に施された見事な彫刻もよく見えます。「北方のライオン」と呼ばれたグスタフ2世アドルフですが、船のあちこちにライオンが見えます。これに当時付いていたという鮮やかな色が乗れば、その豪華さにどれだけ当時の人びとは驚いたことでしょう。

ヴァーサ博物館

 ヴァーサ博物館のあとは、スカンセン野外博物館に行きました。ここでは数世紀にわたってスウェーデンのさまざまな地域で建てられた貴重な建築物を移築・展示しています。当時の衣装に身を包んだガイドさんたちが、実際に商品を販売したり、家具を作ったり印刷をしたりする様子も見せてくれます。

 動物園と水族館もあり、子供たちがはしゃいでいました。レストランもありますが、焚火で持参したものを焼いている家族もいて、私もサツマイモでも持ってくればよかった!と思いました。島からはフェリーで旧市街に戻りましたが、海から見る、日の落ちるときの旧市街は絵画のようでした。

スカンセン野外博物館

 ストックホルムの地下鉄アートが有名だというので、移動がてらいくつか見に行きました。どれもまったく違うテイストなので、時間が許せば全制覇するのも楽しそうです。

地下鉄アート

 スウェーデンに住む知り合いが、私のスウェーデン料理を食べたいというリクエストに応えて「Kvarnen」というレストランに連れて行ってくれました。ピッティパンナという、細かく切ったいろいろな肉やじゃがいもなどを炒め合わせたもの、トナカイのシチュー、甘エビをマヨネーズやディルで和えたものなど、スウェーデン料理といえばミートボールしか知らなかった私にはすべてが新鮮。店員にせかされることもなく、美味しい料理を囲んで話が弾み、気が付けば外は真っ暗。途中、隣にいたグループが誕生日を祝うためにスウェーデンの誕生日ソングを歌い出す場面もあり、穏やかな時間を過ごしました。

 別のレストランでミートボールもちゃんと食べました。クリームソース、コケモモのジャム、キュウリのピクルスが添えられて、これぞスウェーデンミートボール。ミートボールの大きさは小型のハンバーグくらい大きく、お腹いっぱい!

スウェーデンといえばミートボールも外せません
ストックホルムの市場でも、温めるだけになったミートボールを売っていました

 ストックホルムにはクリスマス後に着いたのですが、町のあちこちにまだクリスマスのデコレーションが残っていました。そのなかで気になったのは、ワラでできたヤギの人形があちこちにあること。調べると、もともとはスウェーデンの町イェヴレで1966年から作られている巨大ヤギのミニチュアでした。本家のヤギは放火などにより新年まで持たないことが多かったのですが、ここ数年はセキュリティに工夫を重ね、かなり生き残っているそうです。2024年も無事に生き残りました。攻防戦をやっている当事者たちは真剣かつ大変そうですが、くすっとする話ではないですか?

イェヴレのヤギ

 大晦日は新年を祝う花火が有名というので、0時少し前に近所の見晴らしのよいところに行ったのですが、結構な雪。遠くはよく見えなくて残念だなと思っていたら、後ろから突然花火が上がってびっくり! 一か所から集中して花火をあげるのではなくて、上げたい人が、0時を待たずに好きなところで勝手に上げていくようで、とても自由(笑)。中華圏の春節の爆竹みたいだなぁと思いながら、あちこちから上がる花火と、道行く人たちの笑顔を見ながら帰路に着きました。

想定外のところから花火が打ちあがったので、ものすごく驚いて迎えた新年となりました

 元旦は、新年クラシックコンサートを聞きに行きました。場所はストックホルム大聖堂で、ストックホルムで一番古い教会です。王室の行事も行なわれる教会で、次のスウェーデン女王ヴィクトリア王太子もここで結婚式を上げました。

新年クラシックコンサート
教会で一番有名な、聖ジョージとドラゴンの木製彫刻
玉座の布に見える部分もよく見ると木製

 ストックホルムで借りたアパートの建物は、それなりの歴史を感じるのに鍵はスマートロックでしたし、支払いで現金を使うことは一度もありませんでした。フィンランドもそうでしたが、北欧のデジタル化は進んでいますね。

借りたアパートは部屋だけでなく、ゴミを捨てる部屋などもすべてがスマートロック

 今回行った3か国(の3首都)はすべて、冬なので日照時間が短かったものの、観光客がそれほど多くなく、1日1~2か所をのんびり見て回れました。外の寒さはどうということはなく、室内は暑いくらいで、長期滞在となると太陽が恋しくなりそうですが、夏の暑さに弱い私にはどこも快適でした。治安はパリに比べて3か国ともとてもよく、物価はリガ以外の北欧2か国はパリとあまり変わらない印象です。初めて行く国々だったため今回は首都のみでしたが、機会があれば地方にも行ってみたいですね。

貴重な晴天の日、ストックホルムの高台からみた景色
とてもリフレッシュできたラトビアと北欧2か国の旅でした
荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/