荒木麻美のパリ生活

フランス第2の都市、南仏マルセイユと周辺の景勝地を巡る旅。その2「セザンヌの町と光のアート展」

セザンヌの愛した町、エクス=アン=プロヴァンス

 マルセイユの周囲には観光名所がたくさんあります。まずは日帰りで気軽にいけるところの一つ、エクス=アン=プロヴァンスに行きました。

 マルセイユからエクス=アン=プロヴァンスは、クルマなら30分なのですが、バスでも40分くらいと便利。マルセイユ駅から10分おきくらいに高速バスが出ています。電車でも行けますが、バスの方が早いです。なお、高速鉄道TGVの止まる駅はエクス=アン=プロヴァンス市内からは遠いので注意です。

バスのチケットは車内で購入でき、片道7ユーロでした

 バスを下りて少し歩くと、すぐに町の中心部となります。エクス=アン=プロヴァンスといえば画家のセザンヌ。町の中心地に着くと、さっそくセザンヌの像に迎えられました。

セザンヌの像
泉の町ともいわれるだけあって、あちこちに噴水が
町の中心部を走る、かわいいミニバス

 像を過ぎ、カフェやブティッグが並ぶ旧市街を歩いていると、コスメやサプリなどをときどき買っている自然派のサイトがあるのですが、その本店に偶然に遭遇。初めて見るオリジナル商品も多く、広い店内をじっくりと見ました。

ONATERA
エクス=アン=プロヴァンスの旧市街

 趣のある教会などをのぞきつつ、セザンヌのアトリエだった場所に到着。アトリエ自体は50m2くらいのため、20名の定員で30分ごとの入れ替え制です。満席の札がずっと出ていたので、現地でチケットを買おうとすると何時間も待つことになるかもしれません。オンラインで事前に買っておくことをお勧めします。

 アトリエに日本語のオーディオガイドはありませんが、日本語で書かれた解説ファイルはあります。大きな窓から入る光に満ちたアトリエ内には、セザンヌが描いた皿、壺、像などが置かれ、亡くなる最後の5年間をここで過ごしたというセザンヌの姿を想像しながら見学しました。

セザンヌのアトリエ

 アトリエ見学後は、庭とセザンヌの絵に関するビデオを見て、セザンヌが毎日のように通ったという、「画家たちの場所」と呼ばれるレ・ローヴの丘に向かいます。アトリエからは歩いて15分ほどです。丘からは、セザンヌも見たであろうサント・ヴィクトワール山が美しく見えました。セザンヌはこの丘で嵐にあって体調が悪化、そのまま亡くなりました。

丘でのセザンヌ制作の様子を撮った写真がありました

 普通であればこの丘から駅に引き返すと思いますが、私がエクス=アン=プロヴァンスに来た一番の目的は、セザンヌではなくて弓道の知り合いに会うことでした。この方は日本人で、日本で始めた弓道をフランスでもずっと続けているのですが、エクス=アン=プロヴァンスの自宅の庭にフランス人のご主人と私設弓道場を作ったというすごい方。しかも生徒さんたちのためにほぼ毎日庭を開放しています。

 この弓道場を見るべくレ・ローヴの丘からさらに30分ほど歩きました。たどり着いた知り合いの弓道場は完全屋外で、3人が立てる広さです。エクス=アン=プロヴァンスは天気のよい日が多く、自然を感じながら弓を引けるなんて最高! 写真では何度も見ていましたが、実物を見られてよかったです。

道場周辺にはオリーブやイチジクの実がたくさん!

石灰岩の上に建つ、フランスの最も美しい村の一つで光のアート展

 マルセイユからクルマで1時間ほどのところにある、レ・ボー=ド=プロヴァンスという町にも行きました。以前ご紹介したプロヴァンス地方の「鷹の巣村」の一つです。石灰岩の上に建てられた小さな町は美しく整備され、迷路のような狭い石の道を、ブティックやレストラン、プロヴァンスの伝統的な生活の様子を表現する土人形「サントン(小さな聖人の意)」の博物館を見ながら上っていくと、レ・ボー家により最盛期を迎えたという巨大な城塞があります。レ・ボー家は中世に強力な軍備を誇った一族で、それらしきものがあちらこちらに。

行政的にはフランスなのですが、レ・ボー侯爵の称号はモナコ大公家が保持しているため、町のなかにはモナコの紅白の国旗も飾られています
サントンの博物館

 城塞は廃墟となっていますが、塔、鳩舎、礼拝堂などはまだ形をとどめており、日本語のオーディオガイドを聞きながら、廃墟となる前の、はるか昔の様子を想像しながら見学をしました。そしてたどり着いた塔の上から眺める下界の美しいこと!

レ・ボー城塞
16世紀に作られた病院に隣接してあったという薬草園
城門を破壊するための兵器
罪人を拘束する道具

 城塞見学を終えたら、採石場跡で行なわれている光のアート展「Carrieres de Lumieres(光の採石場)」に向かいます。私が見たのは「フェルメールからゴッホまで、オランダの巨匠たち」。白い壁に映し出された絵画がゆっくりと動き、それに合わせた音楽が、採石場跡ならではの素晴らしい音響で流れ、目と耳で幻想的な世界に浸りました。

 会場内では、ここで映画の撮影をしたという、マルチな分野で活躍したフランスの芸術家、ジャン・コクトーを紹介するビデオ上映会や、カフェも入っています。

Carrieres de Lumieres
会場内にはジャン・コクトーを紹介するビデオスペースや、一休みのためのカフェも

 アート展のあとは、地産品を使ったローフードのベジタリアンレストランでランチをしました。オーナー自ら接客をしていたので少し話をしたのですが、精油の専門家でもある母が、フランスでは有名なローフード推奨者から学んだことから興味を持ち、家族で助け合いながらローフードレストランを経営するに至ったそう。オーナーにとっては家族の絆こそが健康にとって一番大事なこと、と言っていたのが印象的でした。

 ローフードは暑い季節にぴったり、とても美味しいのですが、きちんと作っているがゆえにサービスがとーってものんびりです。結局2時間半もレストランにいましたが、心地よいテラスでしたし、急いでいなかった私には快適でした。

Les Baux Jus

 レ・ボー=ド=プロヴァンスからクルマで15分のところには、アルフォンス・ドーデの短編集「風車小屋だより」で有名なフォンヴィエイユがあります。フランス人の夫は「学校で読まされた」そうですが、内容はまったく覚えていないようです。学校課題あるあるですね! という私は読んだこともないので、いつか実際に見た光景を思い浮かべながら読んでみたいと思います。

 ドーデの風車周辺には風車があと4つあるので、時間があるなら散歩がてら風車を探して歩くのも楽しいですよ。

これがドーデの風車
私はあと2つの風車を見ました

 次回はカマルグという広大な湿地帯でピンク色の塩田ツアーに参加し、自然保護区でめずらしい動植物たちに出会います。

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/