荒木麻美のパリ生活
フランス第2の都市、南仏マルセイユと周辺の景勝地を巡る旅。その1「旅の始まりは盗難事件」
2023年9月16日 08:00
旅の始まりは最悪、スーツケースがない!
私の夫はフランスの映画業界で働いています。今回は南仏のマルセイユでの撮影となったため、私も8月下旬から3週間ほど夫に会いに行ってきました。私がマルセイユに滞在するのはなんと11年ぶり!
なぜこれだけ時間が経ってしまったかというと、マルセイユでの撮影自体は多いのです。しかし11年前のマルセイユの記憶といえば、ゴミ収集車と清掃人のストライキ期間中にぶつかり、町中にうずたかく捨てられたゴミに誰かが火を点け、しょっちゅう燃えていたこと。それと、レンタカーをもちろんロックをかけたうえで数分離れた間に、車内に残したリュック(幸いにも空でしたが)を盗まれたこと。窓を開けて運転していたら、隣から来たバイクに助手席に置いていたカバンをさっと盗まれたという夫の同僚もいました。
というわけで、私にとってのマルセイユは、フランスにパリ以上に危険な町があった! という驚きの方が強く、ほかの記憶はうっすらと……ということに。マルセイユ周辺ならいいのですが、市内の滞在となると重い腰がなかなか上がりませんでした。ちなみにNumbeoという世界中から寄せられた口コミからできているデータベースを見ると、2023年もマルセイユはフランス(というか欧州)で一番治安のわるい町となっています。パリはとても意外なことにフランスでは5位です。
それでも最近パリからマルセイユに遊びに行った友人が、とても楽しかったとお勧めの場所をたくさん教えてくれたのもあり、マルセイユにまた行ってみることにしました。
こうしてはじまったマルセイユの旅ですが、到着早々にマルセイユの洗礼を受けることに。パリのリヨン駅から高速鉄道TGVに乗って約3時間半で到着。さて荷台に置いたスーツケースを、と思ったら、いくら探してもないのです! 慌てて近くを通った乗務員に説明すると、
「ほかの車両にもそういう人がいたよ。気の毒だけど、こちらでできることはないので警察に届けてね」
とあっさりしたもの。「はー、やっぱりマルセイユ……」と、もう一気に脱力です。
結果的に、スーツケースは翌日に出て来ました。衣類とコスメ類の一部が盗られていましたが、貴重品は手元に置いていましたし、大事にならなかったのは幸いでした。マルセイユ駅忘れ物預り所の職員と話したところ、マルセイユの1つ前の停車駅であるエクス=アン=プロヴァンスで泥棒は乗り込み、いくつかのスーツケースを別の車両に持って行き、終点のマルセイユに到着するまでの20分ほどの間に必要なものを取り出したら、スーツケースを車内に放置してマルセイユで下車、という手口のようです。
マルセイユ行きに限らないことかもしれませんが、電車で旅をするときは、荷物はできるだけ小さくして自分の席の足元か棚に置くか、荷台に置く場合は最悪盗まれても諦めが付くものだけを入れ、TSAロック以外のカギをスーツケースにかけたうえで、簡単に切断されない頑丈なチェーンなどで括り付けておく、停車するたびに見に行く、というのが対策になりそうです。最悪もし盗まれても、ほかの車両もすべて見に行くこと。
こうしてマルセイユ旅行のスタートは最悪でしたが、もう来ちゃったし、とすぐに気持ちを切り替えることに。この辺はパリ生活20年で鍛えられているかもしれません!
生まれ変わったジョリエット地区と、観光定番の旧港周辺とパニエ地区
今回私が滞在したアパートホテルのあるジョリエット地区は、大変化を遂げていて驚きました。
マルセイユで滞在したアパートホテル。私が滞在した部屋にこれという特徴はありませんが、部屋は広めでテラス付き。キッチンがあるので、長期滞在者には助かります。ペット同伴も可。
ホテルの近くにはテラス・デュ・ポールという大型ショッピングセンターがあります。必要なものは大抵なんでもあるでしょう。私も電車で盗まれたものをすべてここで買いました。最上階のテラスからは港を一望できます。夏の間はここでDJイベントなども行なわれます。
向かいにも倉庫をリノベーションしたドック・ヴィラージュというショッピングセンターがあり、こちらは吹き抜けに作られた広々としたレストランやバー、セレクトショップ系が入っています。
ホテルはマルセイユ観光定番、古い町並みの残る旧港や、下町情緒あるパニエ地区からも徒歩圏内でした。この辺はただぶらぶらと散策しているだけでも楽しいエリア。11年前にも見たなぁというところもいくつか思い出せ、懐かしかったです。
涼を求めて入った、旧港近くにあるコスケール洞窟ツアーは思いのほかよかったです。洞窟は1985年に発見されたのですが、現在はほぼ海に沈んでいます。何度も海に潜って調査を重ね、それをもとに精巧に再現された洞窟が、2022年に一般公開されました。
写真撮影禁止でしたが、建物の地下に着いたら定員6名の乗り物に乗り、30分ほどの洞窟探索をします。遊園地のアトラクションのようでワクワク。洞窟内に描かれた動物や手形などの壁画を見て行くのですが、これらが描かれたのは3万4000年から2万3000年前ほど前で、スピリチュアルな場所として使われていたのではないかという解説でした。
乗り物を降りて上階に行くと、洞窟が地上にあった氷河期当時の動物たちの模型などが展示されています。この日のマルセイユは猛暑日だったのもあり、ここが氷の世界だったとはとても不思議。
パニエ地区にある旧施療院(地中海考古学博物館)では、想像以上に充実した展示にうれしい驚きでした。フランスにおけるエジプトコレクションとしては、パリのルーブル美術館に次ぐ規模だそうで、本物のミイラも。思わず係員に「このミイラ、本物ですか?」と聞いて笑われました。アフリカやメキシコのコレクションは、今見ても色づかいなどがすてきな作品がたくさん。常設展は無料です。
レストランにマルシェ、食べ物関連はノアイユ地区がお勧め
ホテルで自炊をできたので、毎週水曜に開かれるオーガニックのマルシェにも行きました。場所はホテルからメトロで数駅のところにあるノアイユ地区のジュリアン広場です。11年前よりさらにストリートアートがパワーアップしたような!
マルシェでは白いナスやスベリヒユといっためずらしい野菜というか雑草まで売っていてテンションが上がります。大好きなイチジクも安い! マルシェ近くにある人気のパン屋さん「PAIN PAN!」では、グルテンフリーやスペルト小麦100%のパンもありました。
パン屋から歩いて10分ほどのところにある「Oh Faon! La Patisserie」では、乳製品フリーのビーガンパティスリーがあります。私はビスケットを買ったのですが、種類が豊富で迷ってしまいました。
パティスリー関連では、和菓子が買えるというカフェもあります。ノアイユ地区のすぐそばにある「La Brulerie MOKA」では、毎週水曜に日本人の作ったどら焼きや大福などを販売しているそうです。
夜しか営業していないレストラン「limmat」は超予約困難のお店。というのも予約は電話のみなのですが、なかなか電話に出てくれないのです。可能であれば直接お店に行って予約をするのがよさそうです。
実際行ってみて、どうしてこれだけ人気なのか分かりました。オーナーカップルをはじめ、従業員たちが陽気! 常連さんや、よく来るらしい花売りのおばさんとも、仕事をしながら和気あいあいとやり取りをしていました。
メニューには肉はなく、新鮮な野菜と魚の料理はすべてが美味しそう。食器は店内の家具同様にヴィンテージで、柄がすべて違ってとてもかわいかったです。
ノアイユ地区には、現在も営業している金物屋さんとしてはフランスで一番古い「Maison Empereur」があり、雰囲気抜群。金物屋さんといっても、雑貨的なものも多く、どれもとてもすてき。ここも11年ぶりに再訪しましたが、迷路のような店内はすてきな驚きがたくさん。大好きだった、パリにあるデパートBHVの地下がリニューアルする前に似ているかも!
マルセイユといえば忘れてならないのは海! 徒歩やバスで行けるビーチもあります。クルマを少し走らせると海水浴場はあちこちに。旧港から船に乗れば、数十分でイフ島やフリウル島にも行けます。
最後に、マルセイユでも北部は特に危険といわれるエリアですが、夫の職場が15区だったので何度か行ってみました。確かに荒れた雰囲気があり、その一方で、再開発で新しい建物が混在する、なんとも不思議なエリアでした。パリも北に行くとこういう雰囲気のところがあるので、どこかで見た景色だなという感じですが、特に日本から来た観光客があえて行く必要はないと思います。
次回からはマルセイユ市内を出てフランスの最も美しい村の一つを見学し、広大な湿地帯にあるピンク色の塩田やめずらしい動植物に出会う旅となります!