荒木麻美のパリ生活
フランス第2の都市、南仏マルセイユと周辺の景勝地を巡る旅。その3「大湿地帯でピンクの塩田に白馬の群れ」
2023年11月11日 08:00
私にとってマルセイユの一番の魅力は、周辺を美しい自然に囲まれていることです。マルセイユからクルマで2時間ほどかかりますが、せっかく近くにいるのだからと、前から行ってみたかったカマルグ地域自然公園に行きました。ここは10万ヘクタールという大湿地帯で、中心部分は国立自然保護区となっています。多種多様の動植物がおり、特に白馬、雄牛、フラミンゴはカマルグのシンボルとなっています。
広大なカマルグのどこに行こうか迷ったのですが、まずはその西端に位置するエーグ=モルトに行ってみました。ここは塩の名産地の一つで、製塩現場をプチトランで回るツアーに参加しました。ツアーを主催しているのはフランス人なら誰でも知っている塩「BALEINE」(クジラの意)などを作っている会社です。
プチトランで1時間半かけてゆっくりと、音声ガイドを聞きながら、ピンク色の塩田や、富士山を思い起こさせる塩の山などを見学しました。途中で塩のミニ博物館や、プチトランを下りて塩の丘にも上りましたが、上から見えるピンクの塩田の美しいこと!
塩田がピンク色なのは、ここに住む小さなエビ・カニに近い生物と、藻の一種のためです。カマルグのフラミンゴがピンクなのも、これらを食べているため。写真だと分かりづらいですが、遠目からでもピンクと分かるフラミンゴの姿を見ることができました!
敷地内にあるブティックではBALEINEの歴代パッケージが飾られており、フランス人の夫が「子供のころに家にあったやつはこれ!」とはしゃいでいました(笑)。
大満足の塩田見学後は、エーグ=モルトの中心部に向かいます。中心部は中世に作られた城壁に囲まれています。なかに入るとあちこちで花が咲いていて、小さなかわいい町です。
夜は城壁のなかにある建物の一つに宿泊しました。ここは3階建てで、各階に1室しかないホテルなのですが、各部屋28m2ほどで広々としています。家族経営で、カギの受け渡しは連絡をすると近所に住む誰かが来てくれます。キーボックスもあるのでその方がお互いに簡単だとは思いますが、「小さなホテルだからこそ、できるだけお客さまと交流したい、言葉を交わしたい」という方針で暖かな歓迎を受けました。
ホテルに食事は付いていませんが、近所のカフェやレストランで食べてもいいですし、水、コーヒー、お茶、少しですが食器も部屋にあるので、近所で買って来たものを部屋で食べることもできます。私は朝食には近くの朝市で買ったものを、部屋でのんびりと食べました。
エーグ=モルトのレストランには入りませんでしたが、散策がてら外に出ていたメニューを見てみると、あちこちに「Taureau」と書いてあります。これは雄牛、つまり去勢をされていない牛のことなのですが、味が濃くて美味しいのだとか。ジビエみたいな感じかもしれませんね。
雄牛を出すレストランはめずらしいと思うのですが、これはカマルグが有名な雄牛の繁殖地でもあるから。伝統的なスポーツとしての無血(といっても動画を見ると危険そうですが)闘牛用に飼育されているのです。
エーグ=モルトで一泊したのち、カマルグの自然を満喫したいならここ!と言われた、マレ・デュ・ヴィグイラに向かいます。カマルグの東にある沼地は、徒歩、馬、馬車を使って見学できるのですが、私は馬車にしました。暑いなか、二頭の馬たちには申し訳なかったのですが、じっくりと2時間、ガイドさんの説明付きで敷地内を見学しました。
1200ヘクタールのマレ・デュ・ヴィグイラには、900種の植物、菌類、地衣類、3500種を超える動植物が生息しており、その一部は絶滅の危機に瀕しているものもあります。鳥類は310種以上もおり、ハシボソガラスはフランスの自然保護区で最大の生息数となります。
これらの動植物の説明をガイドさんから聞きつつ、暑くても心地よい風を受けながら馬車に揺られていると、ピンクフラミンゴの群れが空を舞う姿に遭遇。あっという間のことで、残念ながら写真には収められなくて本当に残念!
エーグ=モルトのレストランのメニューにあった雄牛は、大自然のなかでのんびりと貫禄一杯でくつろいでいました。飼われている白いカマルグ馬はとても人懐こく、馬車が来ると寄って来て本当にかわいいです。なんだかのんびりしていそうですが、実は俊敏かつ勇敢な馬だそうで、番人と一緒に雄牛たちを上手に誘導します。
カマルグに行こうと思ったとき、とにかく恐れていたのは蚊。できる限りの対策をしていたので刺されずにすみましたが、ガイドさんいわく、湿地なので蚊は1年中いるそうです。カマルグに行かれる方は、蚊よけ対策をできるだけしていってくださいね!
3週間、夏のマルセイユ市内とその周辺を満喫しました。マルセイユ行きの車内でスーツケースを盗まれるというハプニングはあったものの大事ではなかったですし、マルセイユはパリより気さくな人が多い印象。パリよりクルマのクラクションを鳴らす頻度も少なめのような。何よりすぐ近くに絶景だらけの大自然があるのは本当に素晴らしいです。
パリからマルセイユに引っ越してきたという人とも話しましたが、その人は太陽のあるマルセイユがいい、暗くて人も冷たいパリにはもう戻れない、と言っていました。この辺は個々の感じ方ですが、言いたいことは分かります。
総合的には今回の滞在で、11年前のなかなか強烈だったマルセイユのネガティブな思い出はかなり払拭できました。といっても私のマルセイユ滞在中、夫と一緒に働く若い男性スタッフが道で若者たちに襲われ、ケガはしませんでしたが、スマホを盗られたという事件もありました。盗難にはパリ同様またそれ以上に厳重注意ですが、もしまた機会があれば、今度はもっとウキウキした気持ちで来られるのではないかなぁと思っています。