旅レポ

山形県・庄内を旅してリフレッシュ。美しい田園風景と神秘の泉に魅せられた

田園風景のキラキラな世界観のなかで目覚める幸せ

 庄内空港利用振興協議会が主催する2泊3日の「エアー&レール型ソロトリップ向けメディアツアー」に参加してきた。最終日、キラキラの太陽の光を感じて目覚めたのは、前日(2日目の記事)の夜に宿泊した「SUIDEN TERRASSE(スイデンテラス)」の一室。

 伸びをして深呼吸をした。こんなに気持ちのいい朝を迎えるのは、都会では経験できないだろう。田んぼに浮かぶこのホテルは世界的建築家の坂茂氏が設計を手掛け、客室によっては田園風景を眺められるデザインになっている。ほかにも天然温泉の露天風呂や今人気のサウナなど施設が充実。フィットネススペースでは日々の疲れを癒やせるし、共用棟2階には約1000冊の本が並ぶライブラリーがあり、施設内ならどの場所でも(自室でも)自由に閲覧可能だ。

近くには慶應義塾大学先端生命科学研究所のバイオラボ棟があるなど、産業と科学の集積地でもある
3日目も快晴に恵まれた。朝の散歩が気持ちいい
四季折々の表情をみせる田園風景と建築が見事に調和したスイデンハウス
階段上にはホテルのフロント。基礎部やコア部分以外は木造で温かみのある空間だ
共用棟のライブラリーには約1000冊の本が並ぶ。田園風景を眺めながらのんびり読書できる
宿泊棟と共用棟とを結ぶ渡り廊下。左右に広がる田園風景で解放感にあふれる
客室は木のぬくもりが生きた居心地よい空間。シングルからファミリーまでタイプもいろいろ全119室
テラスからは庄内の山々や田園ビューが広がる
スパも充実。こちらは月白の湯。虫の声や水音に日常を忘れ、季節や時間によって変わる雰囲気を楽しみながら湯浴みできる
紙管を模したベンチが印象的な月白の湯のサウナ。外へ出れば水風呂に露天風呂。自然との一体感を味わえそうだ
天色の湯の露天風呂。浴槽と天井のあいだから周囲の山々、空を望むことができる
天色の湯のサウナは天井の木の屋根、天窓、椅子、水風呂が六角形のデザインで統一されている
フィットネスは全身運動と持久トレーニングに特化したマシンを揃えている
宿泊者向けにレンタサイクルも用意。坂の少ない庄内平野の散策にはもってこい
ホテルを出てすぐにこの景色。庄内平野の向こうに鳥海山。これだけでも庄内へ行く価値アリ

 この日は快晴に恵まれ、庄内平野の向こうに堂々とそびえ立つ鳥海山を望む。まずは即身仏の拝観ができる酒田市にある砂高山 海向寺へ。

 即身仏とはミイラ状態の仏様のこと。庄内には6体の即身仏があり、海向寺の即仏堂には忠海上人(1755年入定)と円明海上人(1822年入定)の2体が祀られている。海向寺の即身仏は撮影不可であったが、拝観してみると何かを語りかけてくるような気持ちもなり、さらに内なる声が聞こえてくるようにも思えた。とはいえ言葉では語り尽くせない世界観なので、百聞は一見にしかず。ぜひとも足を運んでみてほしい。

海向寺の即身仏堂には2体の即身仏が祀られている
荘内平和観音百霊場第七十五番のここ海向寺には多くの仏像があり参拝者も多い
12年に一度、丑歳本尊御開帳のころに縁の綱(縁のつな)をつたって御本尊とご縁を結ぶことができる
即身仏堂内に祀られている忠海上人(左)と明海上人(右)を拝観できる

 続いては傘福の制作体験ができる「山王くらぶ」へ。傘福とは「暮らしを豊かに」との願いを込めた縁起物で、江戸から明治の時代にかけて大阪から北海道を結ぶ北前船が帰港した湊町酒田ならではの文化だ。山王くらぶはかつて、明治に建てられた酒田を代表する料亭で、現在は国の登録有形文化財に指定されている。

 106畳ある2階の大広間では、大小さまざまな傘福が展示される「第17回港町酒田の傘福特別展」を10月31日まで開催中。傘福の制作体験では地元のお母さんたちが縫い付け方から綿の入れ方まで丁寧に教えてくれる。こうした地元の方々との交流も楽しい。近くには江戸時代から続いた料亭をリノベーションした「舞娘茶屋 相馬樓」があり、舞娘の踊りや食事を楽しめる。

明治時代は酒田を代表する料亭であった「山王くらぶ」。傘福の制作体験ができる
傘福は「暮らしを豊かに」との願いを込めた縁起物。宝袋を作ってみた
傘福の制作体験では地元のお母さんたちが作り方を丁寧に教えてくれる。こうした交流も嬉しい
伝統文化に触れる貴重な体験。制作したものは旅の思い出に
大広間で見られる圧巻の「第17回港町酒田の傘福特別展」は10月31日まで
投網をあしらったすりガラス戸など、細部にわたって粋なデザイン
古い時代に思いを馳せながら、各部屋の見学もできる
北前船での往来時に貨幣や往来手形、印鑑などの貴重品を入れていた船箪笥。機密性が強く船が難破しても中身は濡れない構造だそうだ
舞娘の踊りや食事を楽しめる「舞娘茶屋 相馬樓」も有名スポット

 次に訪れたのは、米どころ庄内のシンボルともいえる「山居倉庫」。明治26年(1893年)に建てられた米保管倉庫で、白壁の土蔵作造り9棟からなる倉庫の米の収容能力は10万俵(1万800トン)といわれている。

 夏の高温防止のために植えられたケヤキ並木は樹齢150年以上で、フォトスポットや散策路として人気がある。実際に歩いてみると、木陰で涼しく夏でも爽やかな散歩が楽しめた。内部の湿気防止のために二重屋根になっており、自然を利用した先人の知恵が生きた低温倉庫は農業倉庫として使用されていた。建物の一部には酒田市観光物産館「酒田夢の倶楽」があり、お土産物の豊富さに驚かされた。

米どころ庄内のシンボルともいえる「山居倉庫」。ケヤキ並木はフォトスポットや散策路としても人気
倉庫鎮守の神として「山居倉庫」敷地内にある三居稲荷神社
先人の知恵が生かされた低温倉庫は農業倉庫として使用されていた
倉庫の構造もフォトジェニック。散策にちょうどいい

 ランチは酒田駅前交流拠点施設「ミライニ」にある、フランス風郷土料理「ル・ポットフー」へ。ここでは“食の都庄内”を満喫できるランチコースがオススメ。

 メイン料理はシェフおまかせの魚料理、肉料理、山形牛ハンバーグステーキからチョイスでき、庄内野菜とシェフ手作りオードブル、旬の野菜の濃厚ポタージュスープ、シェフおすすめデザート、パン、コーヒー付き。ディナーではコースやアラカルトなどのメニューも豊富とあって、地元でも人気がある。

フランス風郷土料理「ル・ポットフー」の店内
ランチのメイン料理、山形牛ハンバーグステーキ
ランチのメイン料理、シェフおまかせの魚料理。この日はスズキ
ランチのメイン料理、シェフおまかせの肉料理。この日はポークのソテー

 途中、国道7号線沿いにある「道の駅 鳥海ふらっと(遊佐町)」に立ち寄った。季節柄、天然の岩牡蠣をその場で剥いてくれて食べられるという。自分で岩牡蠣を選んで購入、剥き場へ持っていてその場で食べられる状態にしてくれる。ふらっと立ち寄ってこのクオリティ。庄内恐るべし、をここでも体感した。

国道7号線沿いの「道の駅 鳥海ふらっと」に立ち寄った。地元産の海産物をその場で味わえる
なかでも注目すべきは天然の岩牡蠣。殻ごと購入して剥き場で食べられるようにしてくれる
道の駅で天然の岩牡蠣を食べられるとは!! 恐るべし庄内
ミライニには酒田市立図書館や観光案内所などが入る

 さて次に向かったのは、庄内エリア屈指の映えスポットとして知られる遊佐町「丸池様」。神秘の泉といわれ、水源は湧水のみ。直径約20m、水深は3.5mほどで、澄み渡ったエメラルドグリーンが美しい。まるで絵画の世界へ自分が入り込んだかのような錯覚さえ覚える。太陽の光の加減で水面の表情が変わりとても神秘的。池そのものがほとりにある「丸池神社」の御神体とされており、手付かずの社叢も残っている。

 近くを流れる牛渡川は100%が湧水で、水は冷たくどこまでも透明だ。秋には鮭が遡上するという。川沿いに多くのトンボが飛び交い、カエルもあちこちに。「日本の夏ってこういうイメージだよね」という言葉が自然と出てきてしまった。

庄内屈指の映えスポット、遊佐町にある神秘の泉「丸池様」
近くを流れる牛渡川沿いを散策。「日本の田舎の夏」という言葉がピッタリの光景
カエルもあちこちに。生物多様性をテーマにした旅も面白そうだ
川沿いに多くのトンボが飛び交う
流水の100%が湧水で、水は冷たくどこまでも透明だ
澄みきったエメラルドグリーン。まるで絵画の世界へ入り込んだかのよう

 ここで庄内とはお別れし、秋田県にかほ市象潟町にある「元滝伏流水」へ向かった。駐車場から750mほど歩くと、途中から空気がひんやりしてくるのがよく分かる。滝壺の周辺はさらに天然クーラーよろしく、まるで別世界。清涼感抜群だ。「元滝伏流水」は約10万年前に流れ出た鳥海山の溶岩の末端崖から流れ落ちる湧水の滝で、水温は1年を通じてほぼ10℃とのこと。

 伏流の水源である「元滝」はこの滝よりも200mほど上流にあるそうだが、崖崩れが起きており現在は立ち入り禁止となっている。先ほどいただいた岩牡蠣も、この鳥海山からの伏流水で育っており、風味のよさの秘訣でもある。

約10万年前に流れ出た鳥海山の溶岩の末端崖から流れ落ちる「元滝伏流水」
水温は1年を通じて10℃くらい。滝壺周辺は天然クーラーのようで別世界

 ラストに見学へ訪れたのは、日本海や鳥海山の絶景を満喫しながらモンゴル遊牧民の移動式住居「ゲル」に宿泊できるグランピング施設「象潟モンゴルヴィレッジ バイガル」。昨今のブームとなっているグランピング。日常とは違う異空間かつ異文化に触れながら、アウトドアを気軽に体験できるスポットとして人気だ。

モンゴル遊牧民の移動式住居「ゲル」に宿泊できるグランピング施設「象潟モンゴルヴィレッジ バイガル」

 目の前には象潟海水浴場があり、ゲストハウスにはトイレとシャワーを完備。海の見えるレストランではグリル料理を味わえる。ゲルは全13棟あり、直径6m、高さ約2.8mで最大5名まで宿泊できる。ベッド、テレビ、冷蔵庫、エアコン、無料Wi-Fiも完備しており、ワーケーションにも利用可能だ。

日常とは違う異空間かつ異文化に触れながらアウトドアを体験できる
ゲルは全部で10棟あり、直径6m、高さ約2.8mで最大5名まで宿泊できる
ゲストハウスにある海の見えるレストランではグリル料理を味わえる
目の前は象潟海水浴場。心地よい風を受けながらブランコに乗るのも最高だろう

 山形県の庄内地方と秋田県にかほ市を満喫し、2泊3日にわたってお届けしてきた「エアー&レール型ソロトリップ向けメディアツアー」もこれにて終了。名残惜しいが筆者も東京へ帰らねばならない。

 帰路は象潟駅から「特急いなほ号」に乗って新潟駅へ。途中、村上の手前で日没を迎えた。新潟駅では到着ホームのすぐ隣に新幹線「とき号」が待機しており、乗り継ぎもスムーズ。大満足の3日間だった。

帰路は鉄道を利用。象潟駅から新潟駅へ向かう
特急いなほ号に乗る。米どころ・庄内平野を走ることから「稲穂」に由来した車名
ローカル感たっぷりの駅がたまらない
新潟駅では到着ホームのすぐ隣に新幹線「とき号」が待機。乗り継ぎもスムーズに東京へ
村上の手前で日没を迎えた。車窓から見る夕陽もノスタルジック

 最後に正直な感想を。「庄内」と聞いて一体どんな土地で、どんな体験ができるのか、これまでは何もイメージできてなかった。さらにいえば、東京から近いとはいえ、旅の目的地として候補にも挙がらなかったのがホンネだ。しかしながら、これほど魅力あふれる土地だと思い知らされる感覚を味わえた。

 羽田空港から1時間以内のフライトで到着する“近さ”に加え、豊かな自然と豊富な、いや、豊富すぎる食材の宝庫。そして、アニメで描かれる“日本の夏”のような理想のふるさとがそこにはあった。この記事をきっかけに1人でも多くの方が「庄内に行ってみようかな」と思っていただければ幸いだし、自信を持って「庄内へ行ってみて!」と声を大にしてオススメしたい。

水田の向こうに鳥海山。まさに「いなほ」号の名前そのもの
深澤 明