旅レポ
富山の魅力が満載「“アート&文化”お勧め おでかけ とやま旅」前編
コンパクトななかにも魅力が満載の“とやま”
2017年4月13日 00:00
富山県文化振興課は、2017年8月26日に全面開館を予定している富山県美術館をはじめ、県内のアート・文化施設を中心に巡る「“アート&文化”お勧め おでかけ とやま旅」と銘打ったプレスツアーを実施した。今回は3月24日から25日にかけて行なわれたそのツアー初日の内容を紹介する。
北陸新幹線の開通で首都圏からのアクセスが格段によくなった富山県に向けて、東京駅8時36分発の「かがやき505号」に乗り込む。2015年3月に東京駅~長野駅の長野新幹線が金沢駅まで延長されて北陸新幹線となり、富山までの所要時間は約1時間短縮されて最短で2時間10分程度になった。これは、東海道新幹線「のぞみ」で行く京都より気持ち短い時間で到着できるようになったということである。
旅の楽しみの1つに車窓を流れ行く風景があり、最近ではモバイル端末で、見ている風景の詳細を確認しながら進むと新しい発見もできる。そのような端末を使用するのに必要な電源が、北陸新幹線に使用されているE7系/W7系車両には全席用意されている。
長野に入るとトンネルが多くなり、途切れ途切れに覗く風景の奥に北アルプスが見えてくる。トンネルを越えるごとに変化する風景を楽しんでいると、新幹線は海岸部に入り、雪で覆われた立山連峰が姿を現わす。
天気があまりよくなくうっすらとしか見えなかったが、富士山、白山とともに日本三霊山に数えられる立山は、最高峰3015mの大汝山(おおなんじやま)、3003mの雄山(おやま)、2999mの富士ノ折立(ふじのおりたて)の総称で、立山信仰の象徴であり、この山が見えてくるとまもなく富山駅に到着する。
四季を楽しめる庭園と数寄屋建築「樂翠亭美術館」
緑を楽しむという意味の樂翠(らくすい)と名付けられたこの美術館では、周辺の自然と数寄屋建築の建物に融合するような陶磁器・ガラス作品を多く展示している。樂翠亭は1950年~1957年にかけて建てられた個人宅で、純和風木造の数寄屋建築とRC軽量鉄骨の洋館、土蔵造りの蔵で構成される。敷地面積約1200坪の富山県を代表する邸宅で、建物の周辺を四季折々の姿を見せる庭園に囲まれている。
西本願寺の光照門主がここを訪れた際に、庭園の東屋を樂翠亭と名付けたことに由来するこの建物は、2004年に民間業者に払い下げられ撤去される危機に見舞われた。そんななか、富山市内の貴重な文化遺産の保存の機運が高まり、現所有者のアイザックが買い取り、修繕を行なったうえで、2011年5月に樂翠亭美術館としてオープンした。
この日は展示物入れ替えのため、残念ながら中に入ることはできなかったが、樂翠亭美術館責任者の小西博夫さんの解説で、四季折々に姿を変える庭園の様子や、季節や天気によって変化する風景と展示物の調和などをうかがい知ることができた。
「この美術館は、単に美術品を楽しんでもらうだけでなく、館全体で四季を感じていただきたいと考えています。年4回展示物の入れ替えを行ないますが、建物全体をガラスで囲っているので、日々時間帯によって変化する作品の見え方なども楽しんでもらえると思います。
美術館所蔵の陶磁器やガラス、書、絵画は、複数ある和室や洋室、茶室、縁側とさまざまな場所に作品に合わせた形で展示しており、数寄屋造りの日本家屋の中を巡りながら、部屋全体の空間も楽しんでもらえると思います。また、元は2階層だった蔵を黒壁の吹き抜けに改修した空間や、人間国宝による茶碗や水差しなど茶道具を中心とした作品の展示を見ることができます」とカタログを片手に小西さんが解説してくれた。
樂翠亭美術館
開館時間:10時~17時
休館日:水曜
入館料:
・本館 一般800円、学生400円
・全館共通 一般1000円、学生600円
※小学生以下無料
所在地:富山県富山市奥田新町2-27
TEL:076-439-2200
とやま和牛稀少部位を堪能できる「和風焼き肉 富山育ち(JA全農とやま直営店)」
展示物はあまり見られなかったものの、樂翠亭で緑を楽しんで心を豊かにしたあとは、お腹も満足させたい。ということで、「和風焼き肉 富山育ち」へ入店。落ち着いた雰囲気の店内は、お昼の時間帯ということもあってか、ほぼ満員だった。まだ新しいブランドで、地産地消を目的としているため知名度は低いが、こだわり抜いて飼育された「とやま牛」や「とやまポーク」も、富山を訪れたらぜひ食べてもらいたい一品である。
「とやま牛」は2004年に設立された「とやま肉牛振興協会」が定義しているもので、富山県内で12カ月以上飼育され、最長飼養地を富山県とする牛で、牛枝肉格付規格の3等級のものだけが認定されている。脂肪(サシ)の質にこだわり、全農とやまの直営農場では、肉牛を出荷する3カ月前から米ぬかや粉砕したコシヒカリを与える高品質化試験を実施しており、牛肉の旨味が向上するとされるオレイン酸などの不飽和脂肪酸が多く含まれている。
「とやまポーク」は富山県産豚肉のブランドで、富山県農林水産総合技術センター畜産研究所が開発したタテヤマヨークを中心とした大ヨークシャー種と、繁殖能力に優れたランドレース種を交配して生産されたメスに、肉質の優れたデュロック種のオスを掛け合わせた3元交配種のこと。
「とやま牛」「とやまポーク」とも、生産者の創意工夫と富山の自然が育んだキレイな水や飼料によって生産された逸品である。
和風焼き肉 富山育ち(JA全農とやま直営店)
営業時間:10時~17時
定休:第3日曜日
席数:70席(カウンター10席、テーブル24席、小上がり20席、個室(有料)16席
所在地:富山県富山市桜町1-5-25
TEL:076-431-2911
8月26日全面開館予定の「富山県美術館」
今回の「“アート&文化”お勧め おでかけ とやま旅」ツアーのメインともいえるのが、2017年8月26日開館予定の「富山県美術館」である。1981年に開館し、35年間活動を続けてきた富山県立近代美術館は、老朽化のため2016年に閉館。新たに富岩運河環水公園内に富山県美術館として全面開館するのに先立ち、3月26日にアトリエ、レストラン、カフェなど一部がオープンした。
富山県美術館を設計した内藤廣氏は、「初めて受けた空間の印象や感動が心に残れば、それはその人にとって貴重な体験になるはず。訪れた人が作品と向き合った時に、どのように時間を過ごすだろうかと思い描き、設計イメージを組み立てています。この美術館の大きな特徴は、目に見えないさまざまな体験ができるというところにあると思っています。本当に大事なのは、目に見えないものです」とコメントを寄せた。
雪山行二館長は冒頭の挨拶で、「神通川と富岩運河に囲まれたこの場所に美術館を建設するにあたり、まず設計者である内藤氏に求めたのは、水害や災害に強い建物です。具体的には展示室や収蔵庫、機械室は2階以上に置いてもらいたいということでした。それから、ここはもともと“見晴らしの丘”と呼ばれた場所で、子供たちの遊び場だったことを踏まえて、美術品を鑑賞するだけではなく、作る・学ぶ・遊ぶ・楽しむといった五感で体感できるような、子供たちやご家族連れにも楽しんでいただける美術館を目指していきたい」と語った。
緑と水に囲まれた美術館の1階部分には、アトリエでの創作体験の作品など県民の発表・展示に使われる「TADギャラリー」、カフェ、ミュージアムショップ、103台分の屋内駐車場があり、2階に上がると吹き抜けの空間が広がる。
ガラス張りで高さ11mの吹き抜けになっているホワイエからは、富岩運河環水公園越しに立山連峰が望める。4つの展示室をつなぐ中央廊下は、県産材の郷山杉を壁と天井にふんだんに使用し、中に防音材が入っているため、廊下を進むと木で包まれた静かな空間になる。
展示室1、2はコレクション展示をメインとし、富山県美術館が所蔵するパブロ・ピカソ「闘牛場の入り口」「肘かけ椅子の女」、ジョアン・ミロ「パイプを吸う男」、ポール・デルヴォー「夜の汽車」、棟方志功「二菩薩釈迦十大弟子」など、2カ月ごとの展示替えで多彩なコレクションを披露する。展示室3、4では20世紀美術を中心とした展覧会やさまざまな企画展を行なう。また、屋外広場では「ANIMALS」で知られる彫刻家 三沢厚彦氏のクマをモチーフにした新作が展示される。
2階が鑑賞して楽しむ場所なら、3階は作って触って学ぶスペースが多く設けられている。3階に上がると目の前にあるのはアトリエで、ワークショップ開催中以外は、用意されている木端や素材などを利用して自由に作品作りができる。
「通常、アトリエは美術館の奥まったところにあるものですが、館内で一番開放的な場所に配置しました。子供たちのためにたくさんの素材を用意しておき、ただ作れるだけでなく1階のTADギャラリーに展示しようと思っています。展示すると言うと、より本気で作ってくれますから」と杉野副館長が解説してくれた。
アトリエの横には展示室5があり、ここにはポスターと椅子を中心にしたデザインコレクションが置かれる。実際に座ることのできる椅子のコーナーや、廊下側の壁面にある大型タッチパネルによるポスターの展示を行なう。1万3000点所有しているポスターのうち、3000点がタッチパネルによって見ることができ、その情報も確認できるようになっていて、点数は随時追加していくとのことである。
その奥には、まるで隠れ家のようにほかのスペースとは異なるサビ鉄板の外装を施された展示室6があり、富山県出身の日本を代表するシュールレアリスムの詩人で美術評論家の瀧口修造と、富山で晩年を過ごした天才バイオリニスト シモン・ゴールドベルクのコレクションが置かれる。
子供の遊び場だった場所に建てられた富山県美術館の屋上には、子供たちに人気のあった「ふわふわドーム」を移し、「ぐるぐる」や「ひそひそ」など擬態語や擬音語を使用した遊具を置いて「オノマトペの屋上」と名付けた。屋上施設は、デザインを監修したグラフィックデザイナー佐藤卓氏の「最初に目にするのは来館した子供であってほしい」という希望から取材NGだったが、館内全体に子供の遊び場の要素が含まれている。
開館前で、当然のことながら展示物がほとんどない状態であったが、多目的スペースのホールには体の動きで光のアートを作り出す「インタラクティブアート」、小さな子供でも楽しめるキッズルームなど、見て回るだけでかなりの時間を費やした。開館すれば、大人も子供も1日中時間が過ぎるのを忘れるような空間になることだろう。
富山県美術館
開館時間:美術館 9時30分~18時、屋上庭園 8時~22時
休館日:
・美術館 水曜日(祝日除く)、祝日の翌日、年末年始
・屋上庭園 12月1日~3月15日
入館料:
・コレクション展 一般300円、大学生240円
・企画展 企画展ごとに設定
※小中高生は無料
駐車場:103台
所在地:富山県富山市木場町3-20
TEL:076-431-2711
市民の憩いの広場「富岩運河環水公園」
富山駅の北側にある富岩運河環水公園は、「とやま都市MIRAI計画」のシンボルゾーンとして、使われなくなった運河の舟だまりを整備して作られた親水公園だ。遊歩道や芝生のスロープ、野鳥の観察ができるバードサンクチュアリや、各種イベントが行なえる水辺にあるステージと観客席を備える野外劇場などが配置されている。
富岩運河は、市街地で蛇行し洪水の原因となっていた神通川を1901年から直線化する工事を行ない、残った河川敷を利用して1935年に富山湾東岩瀬港までを完成させたもの。沿岸の工場地帯と市街地を結んで富山市の発展に役立ったが、1960年頃から物流の中心がトラック輸送となり、水運の機能を失った。
現在では、観光船の「富岩水上ライン」が“水のエレベータ”と呼ばれる「中島閘門」(こうもん)を通過して、岩瀬カナル会館まで運航している。
中島閘門は、運河の上流と下流の2.5mの水位差を調節するパナマ運河式の閘門で、通過できる国指定重要文化財の閘門のなかでは、その水位差は最大級。公園内では、水上ライン乗り場の近くに(規模は小さいが)閘門の構造を見ることのできる「牛島閘門」がある。
全国でも珍しい水墨をテーマにした「富山県水墨美術館」
広大な敷地面積を持つ富山県水墨美術館は、神通川のほとりに佇んでいる。開館は1999年4月。水墨画や日本画を中心に展示しており、周囲に庭園や茶室を配した和風の美術館だ。
館内を案内してくれた鈴木学芸係長は、「富山県砺波市出身の日本画家である下保昭さんの作品100点を富山市が寄贈され、その紹介のための施設を作ろうというのがきっかけ」と開館の経緯について解説した。
さらに「水墨という名前から水墨画の美術館と思われがちですが、水墨という言葉のなかに伝統的な文化や美意識というものを含めて、広く日本文化のよさや知られざる姿を紹介するために、水墨画ではなく水墨美術館と名付けられました」と由来を紹介した。
寄棟造りの美術館には2つの企画展示室と2つの常設展示室がある。入り口近くの常設展示室では「近代水墨画の系譜」と題し、狩野派や土佐派など、伝統を受け継ぎながら新たな日本画を創造してきた画家たちの作品20点を展示している。美術館の奥に配置されたもう1つの常設展示室では、寄贈された100点を含む、初期から近代まで150点ある下保昭の作品を入れ替えながら展示している。
建物を奥に進むと別棟で数寄屋造りの茶室があり、和装の女性がたててくれた抹茶を楽しめる。広い中庭にはしだれ桜があり、桜の季節には開花タイミングの異なるしだれ桜と神通川堤防のソメイヨシノとの絶妙なコントラストが楽しめるとのこと。展示室以外は入館無料のため、桜の季節になると来館者数が爆発的に増えるという。今回は時期が合わなかったが、その桜の咲いた状態をぜひ見てみたいと思いつつ、美術館をあとにした。
富山県水墨美術館
開館時間:9時30分~17時
休館日:月曜日(祝日除く)、祝日の翌日、年末年始
入館料:
・常設展 一般200円、大学生160円
・企画展 企画展ごとに設定
※18歳以下無料
所在地:富山県富山市五福777
TEL:076-431-3719