【イベントレポート】パリ航空ショー2015
ATR、LCC向けの78席仕様客室など同社航空機に導入予定の新仕様を紹介
(2015/6/16 13:52)
- 2015年6月15日~6月21日(現地時間) 開催
航空宇宙産業の展示会「パリ航空ショー(International Paris Air Show)2015」の開幕日となる6月15日、フランスに拠点を置く航空機メーカーであるATRがプレスカンファレンスを実施した。ここで発表された、JAC(日本エアコミューター)による「ATR 42-600」型機導入のニュースは関連記事のとおりだが、同カンファレンスで説明されたATRの現況と航空機関連での取り組みについて紹介する。
ATRはフランスのエアバスグループと、イタリアのアレーニア・アエロナウティカによる合弁企業で、地域輸送に向いた小型のターボプロップ(プロペラ)機に特化して製造していることが特徴の航空機メーカーだ。ATR CEOのPatrick de Castelbajac氏はカンファレンスのなかで「1年間に30億人がフライトをするが、9億人は500kmもしくは300マイル以下のフライトのみを利用する。そして、3億人はターボプロップ機でのフライトを利用している」と、この分野における市場規模は小さくないことをアピール。現在のラインアップは最大48席の「ATR 42-600」型機と、最大74席「ATR 72-600」型機の2機種で、JACは前者のATR 42-600型機の導入を決めた。
この90席以下の市場において、ATRは通算1500機以上の受注を獲得。2010年~2015年にかけての販売台数シェアはATRが38%でトップ。次いで、エンブラエルのジェット機が28%、三菱重工業および三菱航空機のMRJが13%、ボンバルディアのターボプロップ機であるDHC-8-Q400が11%、同じくボンバルディアのジェット機であるCRJ700/900が10%。この市場では、ターボプロップ機が半数程度を占めることも分かる。
同じく2010年から2015年にかけて獲得した新規の顧客数は51社、ターボプロップ機の販売台数シェアは77%と、他社との比較を交えて好調さをアピール。2015年は確定46機、オプション35機、オプションを含む受注額は19億8000万ドルとなっており、ドルの価値低下と、インドネシアやブラジルといった同社にとって重要な地域の経済失速があるなかでもビジネスは順調で、今後20年間で2500機の需要を見込んでいるとした。
また、航空機についても新たな仕様や機能の提供を発表した。
1つは客室で、現在シートピッチ31inchで最大68席、29inchで最大74席となるATR 72-600に、新たにシートピッチ28inchで、最大座席数78席という高密度仕様の客席を提供することを発表。LCCにとってよいソリューションになるとしており、この客室のローンチカスタマーについてはパリ航空ショー期間内の16日(現地時間)に発表されるとした。
また、貨物、旅客の混載型、いわゆる「コンビ」バージョンについても提供を行なう。こちらはコンテナも入る貨物室と44座席を組み合わせた仕様で、パプアニューギニアの「Airlines PNG」がローンチカスタマーになる。
客室関連ではこのほかに、モジュラー型とすることで機能を組み替えられるギャレー装備「Smart Galley」も紹介。コーヒーを温める装置、ドリンクを冷やす装置などを、季節需要に合わせて組み替えることもできる。
また、運航に関わる電子機器としては、「ClearVision」を発表。これは「Skylens」と呼ばれる眼鏡型デバイス、いわゆるヘッドマウントディスプレイ(HMD)を通じて運航に関わる情報を提供するものとなる。ILS(計器着陸システム)がない空港でも、視認性がわるいなかで着陸することを助けるものとしている。また、乱気流の一種であるウインド・シア検知システムの新しいシステムや、地上標識や管制レーダーに依存せずに高精度に滑走路へ進入する「RNP AR 0.3/0.3」に対応できるシステムも発表した。
このほか、2015年には東京オフィスを設立することを発表。中国 北京にも2015年中にオフィスを開設するとしている。また、航空機からのCO2排出量削減や騒音低減を目的としたEUの取り組みの一環として進められている、「CleanSky」と呼ばれるプロジェクトにおいて、ATR 72を用いた試験機の初飛行を近日中に行なうことも発表した。初飛行は、試験機に取り入れられた複合素材やセンサーのテストを目的としたフライトとなり、将来的には小さな亀裂の検知やメンテナンス性を高めるための光ファイバーの導入なども検討されている。