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日本旅行業協会、フランス大使官邸で旅行業界向けの「テロ後のパリの現状をテーマにしたセミナー」
フランスの現状報告と訪仏観光の回復にむけて
(2016/2/18 18:42)
- 2016年2月17日 開催
JATA(日本旅行業協会)は2月17日、フランスの現状報告と訪仏観光の回復を計る旅行業界向けの「テロ後のパリの現状をテーマにしたセミナー」(フランスリカバリーセミナー)をフランス大使官邸にて開催した。
開催に先立ち、駐日フランス大使のティエリー・ダナ氏から、「1月の視察でパリの安全治安対策を確認し、今後の日本人のパリ観光回復に向けて確かな手応えを感じた。フランスにとって観光産業は、国内総生産における約7.5%を占めるほどの割合を占めている。ホテルなど現地のさまざまなパートナー、機関の努力が実を結び、通常どおり観光客を迎えることができればと思っている。このセミナーを、旅行業界、フランスに深く関わっているみなさまの意見交換の場として、フランスの観光促進につないでいきたい」と挨拶した。
またフランスの“非常事態宣言”について、「日本人はフランスが戦争下にあるというわるいイメージを持ってしまうが、残念ながら誤解している。本当の意味は、二度とテロや悲しい事件が起きないように、フランスという国家が警察により多くの権限を与えるもの。事前に逮捕令状を取らずに逮捕することができたり、怪しい人の身柄を拘束できたり、警察が未然に事件を防ぐことができるようにしたりすることで、今まで以上に観光客、市民の安全が守られる。そのための政策が行なわれていると理解してもらいたい」と説明した。
続いて、ミキ・ツーリスト取締役執行役員の今野淳子氏が登壇し、パリミッション参加報告、フランスの警備状況、フランスをマーケットに戻すための動きなどを発表した。
パリミッションでは観光庁の審議官が同行したため、パリ条約やパリ講和会議を締結した由緒ある場所「ゴーベの間」で、外務・国際開発省のピエール官房長官と会談が実現したという。
ピエール官房長官は「各国の観光客は戻っているが、日本人観光客が戻っていないというのが大きな課題。フランスでは警戒を厳しくして万全な体制を整えているし、住民の生活も平常化している。日本人は安心・安全にもっとも敏感な観光客で、安全に対する意識が高い日本人が戻ってくれば“フランスが安全”というアピールにつながるので、戻ってきてほしい」と要望したとのこと。
続いて訪問したパリ警察庁では、警視総監から直接話を聞き、「パリ市民は650万人、パリを含む首都圏では2200万人。それに対して観光客は年間3000万人となる。住人よりも多い観光客を受け入れ、安全を守るのはフランス政府にとって優先すべき最重要課題」とのことだった。
2015年1月の新聞社テロ後に、首都圏に4000名の警察官を配備。11月のテロ後には6500名に増員し、軍隊も動員している。「口頭でお伝えできるのはこの人数です」とのことだったので、覆面捜査官などを含めるとかなりの人数になっているのでないかと今野氏は語る。
また、オペレーションルームを訪問し、市内に張り巡らした防犯テレビカメラを監視できる点や、テロの際、この部屋から監視カメラの映像を見ながら現場に指示を出していたことなどの説明を受けた。この監視カメラは高解像度で、車のナンバーも読み取れるとのこと。オペレーションルームはルーブル美術館やギャラリー・ラファイエットに設置された防犯カメラとも連動し、映像を見ることができるという。
パリ市重点警戒地区は、ユダヤ教施設、エッフェル塔やシャンゼリゼ通りなどの観光客が多い7カ所、空港、空港と市内を結ぶ交通機関、駅やメトロ、セーヌ川遊覧船発着場所、市内観光ホテルに設定されているという。ホテルの警備強化については、観光グループの到着、出発の時間をあらかじめ警察庁に連絡すると、その時間帯に周囲に警官を配備してパトロールをするとのこと。バスを降りた瞬間にひったくられる事件や、バスの荷物スペースからスーツケースが盗難するなどの事件の抑止力になっているという。
パリ警察庁による予防対策としては、安全のためのガイドブック「パリ ガイド 安全な滞在のために」を制作。日本語だけではなく中国語や韓国語など、各国の言葉でそれぞれ制作しているという。日本語の字幕が入った日本人向けの防犯ビデオもあり、今野氏は「弊社でガイドブックと防犯ビデオをお客様に見せたところ、安心してフランス旅行に行く気になってくれた」と、ガイドブックやビデオの効果を確認できたという。
外国人観光客が実際に被害に遭った場合の対応については、被害届に16カ国語に対応する会話ソフトが用意されているほか、通常は警察署に行かないと被害届が出せないが、観光スポットで発生した被害届をその場で提出できるようになっている。例えば、ルーブル美術館内で盗難に遭った場合は、美術館で被害届を出すことができる。
観光客が増える年末、夏には移動警察署を設置するなど、さまさまな取り組みをした結果、暴力事件が16%、スリが25%も減少。パリ市内、近郊で被害に遭った日本人は、2014年から2015年で23%減少している。そうした警備の取り組みに対し、結果を常に検証しているという。なかでも一番取り組みがうまくいったのはエッフェル塔周辺。逆に、観光客が一番多いオペラ座周辺、ギャラリー・ラファイエットやプランタンなどがある百貨店周辺の犯罪が減らないということで、特別部隊を追加してさらに警備を強化している。
冒頭に駐日フランス大使のティエリー・ダナ氏から説明があったとおり、「非常事態宣言」の意味を取り違えていないかと警視総監からはっきり言われたという。今野氏は、「今、日本で広く認識されているような意味ではないことを旅行業界が発信して、お客様に正しくお伝えしていかないといけない」と語った。
次に登壇したのは、フランスを熱烈に愛するブロガーの福田紀子さん。旅行業界というプロの目線ではなく、一般の方がパリをどう見ているかを語ってもらう時間となった。
福田さんは、都内に勤務する30代の会社員で、有給休暇をすべてフランス旅行に費やすほどのフランス好き。自身のブログやSNS以外にも、WEBマガジンでフランスコラムを連載している。Instagramでは、テロ以降、今まで撮りためたパリの写真を1日1枚掲載し、パリの魅力を伝えることで復興をサポートしている。
1年に1度のフランス旅行中、テロが発生。翌日からフランス国内は日常に戻ったものの、観光客は激減した。帰国してから、日本で報道される内容に恐怖を感じたという。現地では、テロ現場以外は至って穏やかで、不謹慎や自粛といった言葉は使われていなかったとのこと。平穏なその後のパリの様子は報道されず、過激な銃撃戦などイメージがぬぐい切れていないのではと分析した。
誤解の解けない日本国内で、フランス旅行に反対する家族を納得するためには、テロ対応保険をセットにする旅行商品や、パリの現状を正しく伝え、緊急時だけでなく、フライトスケジュールやツアー日程の管理などもできるパリ旅行者向けのスマートフォンアプリを作ればいいのではないかと、一旅行者として提案した。
また、“パリマニア”としてお勧めスポットをいくつか紹介した。ビューティーストア、コスメショップ「Buly(ビュリー)」は女性へのおみやげに人気。シンプルで人気のパティスリー「セバスチャン・ゴダール」、ゴーフルの「MEERT(メール)」はブログでもアクセスが多い2軒だという。ツアー日程には組み込まれていないというのみの市。パリ3大のみの市の1つ「ヴァンブののみの市」はアパレル関係の客も多い。また、エッフェル塔を見下ろせる「モンパルナスタワー(トゥール・モンパルナス)」は、日本人が少ない穴場スポットだという。
続いてフランス観光開発機構の金田レイラ氏が登壇し、“パリから先のフランス”というテーマで、昨年から今年にかけてオープンした新しいスポットを地方ごとに紹介した。アキテーヌでは、ボルドーの「ワイン文明館」「ラスコー洞窟」について紹介。2016年秋公開予定の「ラスコー4」は洞窟全体を復元したもので、現在公開中の洞窟の一部を復元した「ラスコー2」とは規模が違うという。「ラスコー4」がオープンすると「ラスコー2」は閉鎖される。また、「ラスコー3」は移動展示用のもので、2016年に日本で巡回展示される。
エールフランス航空日本支社長ステファン・ヴァノヴェルメール氏は、「1月のパリミッションに参加したが、これがフランス復興の第一歩と感じた。日仏間の文化的交流は活性化している。どちらの旅行業界も不調なところはあるが、情報交換をしてお互いの経済が回っていくことを願っている」と語った。また、「3月にフランス観光開発機構とエールフランス航空の共催で、モンペリエにてワークショップを開催する。こういったイベントがきっかけで訪仏観光客が伸びていくことを期待する。エールフランスは少しでも多く参加してもらうため、無料航空券の提供枠を増やしていく」と意欲を見せた。
JATA副会長・ワールド航空サービス会長の菊間潤吾氏は、「フランスはいち早く安全を取り戻した。安全は国が守るものだと思っている。驚いたのは、パリ警察の本部と話した際、日本では考えられないほどしっかりやっていたこと。例えば、軽犯罪でも、どういう国の観光客がどういう事件・事故に遭いやすいか統計を取っている。パリを7つの地区のエリアに分け、エリアごとに事件の統計や対策、どう減ってきたかを分析している。実際、現地では不安を感じる要素がなかった。我々は安心を感じてもらうために、いろいろな国がどういう形で守っているのかを共有するべき。我々が考えている以上に国が国民と観光客を守っている。旅行業界の我々が、躊躇なくツアーを作っていくことが大事。みんなでヨーロッパを盛り上げていきたい」と語った。
最後に、フランス観光開発機構フレデリック・マゼンク氏は、「自分はパリに6年住んでいたが、今野さん、福田さんの紹介されたお店のことは知らなかった。観光開発機構、そしてフランス人として、フランスへの愛情と知識に感謝している。今年は特別大事にしなくてはならない年。今年こそマーケットを復活しないといけない。そのためにも、エールフランス、JATA、みなさんと協力してプロモーションを増やしていきたい」と締めくくった。
セミナーを通して、「非常事態宣言」という言葉のイメージを何とか払拭したいという旅行業界の意気込みを感じた。各氏の報告を聞き、「非常事態宣言」とは“非常事態に備えた警備強化対策の宣言”という意味で捉えると、現在のパリの安全性に対して不安を感じなくなった。これから本格化する海外旅行シーズンに向け、今後の訪仏観光客増加を期待したい。