ニュース
日本旅行業協会、来日したパリ市長との意見交換会を開催
(2016/3/2 15:59)
- 2016年2月29日 実施
JATA(日本旅行業協会)は2月29日、パリ市長との意見交換会をフランス大使館で実施した。「パリへ訪れる日本人観光客の1日も早い復活を実現したい」という市長の意向から、1月に行なわれたパリミッション(パリ視察)に参加した日本の旅行業界との意見交換を行なう機会を実現した催しとなった。
フランス側の出席者は、パリ市からアンヌ・イダルゴ市長ら7名、イル・ド・フランス地域圏議会からヴァレリー・ペクレス議長ら5名、駐日フランス大使のティエリー・ダナ氏を含めた計13名。日本側はパリミッションに参加したJATA会員をはじめとした21名が出席した。
ティエリー・ダナ駐日フランス大使の挨拶のあと、パリ市長アンヌ・イダルゴ氏がスピーチした。アンヌ・イダルゴ氏は、2014年4月5日パリ市長に選出。2015年12月にパリ大都市圏議会議員に選出、2016年1月に同議会副議長に就任している。
イダルゴ市長は来日後、日本のスタートアップ企業と会合し、それらの企業が3月24日にスタートアップ企業の国際的な会合が開催されるパリに行くことが決定している、このような突き進んだ協力が必要と述べた。また、パリで問題となっている大気汚染などの環境問題について、日本の電車を中心とした移動手段やディーゼルエンジンの規制、エコロジー対策の成功についても触れた。
イダルゴ市長は、「皆さんをパリへの旅に誘うためにやってきた。日本の旅行者がパリに来ていただくことを望んでいる。本日は初めての会合で、新しいことが発見できることを期待している。皆さんと協力して、パリに観光客が戻ってきてくれるよう努力したい」と、本題に入った。
パリの安全問題に関しては、「一番の問題。我々はまず安全確保を図り、パリに住んでいる人、働いている人、観光で訪れる人に対して安全強化を行なった。警察や軍の配備を、交通機関や観光地に対して増員し、エッフェル塔なども以前の警備より厳しくなっている。2600名の警察の増員に加え、治安維持のため監視システムを強化した。ヨーロッパのさまざまなサービスと協力し、我々の脅威になるような人間に対して追跡できるシステムを作った。このシステムはすでに効果をあげている」とした。
現在のパリの様子については、「パリでは正常な生活が戻っている。レストランもいっぱいで、劇場、映画館、街に人があふれている。もちろん、テロ事件によって傷付き、その傷はまだ残っている。警戒をしているとはいえ、普段の生活が戻るほどの安全がそこに存在している」と語った。
イダルゴ市長は、「パリにはまだ、多くの見るべきものがある。市内だけではなく、フランスのさまざまな地方の楽しみもある。我々は、さまざまな見学コースやオリジナルのツアーを作ろうとしている。パリをすでに知っている人も、再びパリを訪れて、我々の生活のなかから新しい発見をしてほしい」と述べた。
続いて、イル・ド・フランス地域圏議会議長のヴァレリー・ペクレス氏がスピーチした。ヴァレリー氏は2002年に国民議会議員に初当選。その後、高等教育・研究大臣、予算・公会計国家改革大臣、政府報道官に就任している。2012年から2015年まで、イル・ド・フランス地域圏議会における野党陣営のリーダー、国民議会議員、財務委員会委員を務め、2015年12月に地域圏議会選挙に勝利し、イル・ド・フランス地域圏議会議長に就任した。
ヴァレリー議長は冒頭、日本語で「私は18歳の時、日本に恋をして留学した。日本語を勉強したが難しい言語で苦労した。日本の企業で働いたこともある。12月にイル・ド・フランス地域圏の議長に就任した」と挨拶した。
議長に就任した際、アンヌ・イダルゴ市長に会いに行き、パリでテロ事件が起きたあと、パリの観光客が減少したが、特に日本からの観光客が減少したことについて、2人で心配したという。今回の来日では、パリの2024年の五輪開催誘致に向けて、東京がオリンピック開催を獲得したことを学ぶとともに、女性2人のトップが来ることでフランスの安全性をアピールしたいと語った。
非常事態宣言について、「治安のレベルが高いということをお伝えしたい。私達は高い安全な状態。3000人の兵員が空港や交通機関観の警備を行なっている。国家が行なった安全措置だけではなく、地域圏、また地域の観光のリーダーとして、そして交通の責任者としてさまざまなことを行なった。現在は地域圏観光警察が配備され、交通機関内の観光客を対象とした軽犯罪が1年間で20%減少した」と説明した。
また、「日本の観光客は私達がもっとも求める観光客。日本の観光客はもっとも洗練された観光客で、同じように洗練したおもてなしをしなければならない。そのために、さまざまな研修を実施している。また、英語だけという考え方を止めて、各国語に対応したさまざまな表示や案内を進めている。スマートフォンアプリ『Welcome to Paris』も日本語に対応させたい」とした。
ヴァレリー議長は、「ホテル業界でもオファーの多様化を考えている。新たな取り組みとして、その国限定の観光客を迎え入れる大がかりなホテルの開設を検討している。その国限定の仕様にして、各国の伝統をホテルに泊まってもそのまま維持できるというもの。また、フランスではまだ浸透していない“ベッド・アンド・ブレックファスト”のイノベーション的なホテルの開設も考えている」と述べた。
イル・ド・フランス地域圏については、「人口が1200万人で、ほぼ東京都と同じ。しかし、広大な面積があり、パリのまわりにあるベルサイユやディズニーランドなど多くの観光地、パリ・シャルル・ド・ゴール空港などがある。地域圏にある文化遺産の有効利用も考えている。パリが人を引き付けるのは当然だが、地方にも本当に素晴らしい場所があり、観光客に訪れてほしい」と説明。
その一例として、「昭和天皇が訪れたバルビゾン村はマルヌ川沿いにバーがあり、フランスの遺産の一つ。バルビゾンは印象派画家に大きな影響を与えた。日本人は印象派画家たちが好きなので、印象派をたどる観光パッケージを作ろうと思っている。パリだけではなく、ほかの地方に訪れることができ、首都の喧騒を越えて、静けさも発見できるパッケージにしたい」と語った。
ほかにも、「パリ・シャルル・ド・ゴール空港からパリを直接結ぶ高速列車を、官民のインフラが計画している。実現すれば、パリに来る人々を簡単に迎えることができる。イル・ド・フランス地域圏はビジネス観光の需要も多く、ビジネス観光の活性化も考えている。また、国際規模の見本市に対して、会場の候補になることを支持している」と、さまざまな取り組みについて触れた。
日本側の意見として、最初にJATA副会長、海外旅行推進委員長の菊間潤吾氏が、「テロのあと、日本からの観光客が減って苦労している。1月にパリに視察に行き、警察で警備について説明してもらった。パリの街を歩いていても、昔と変わらない。自信を持って観光客を送り出したいと思っていても、旅行会社がいうと説得力がなく、観光客は戻っていない。今回、市長の来日で、直接フランスが安心というメッセージを伝えてもらえることは大変有効だと思っている」と挨拶した。
KNT-CTホールディングス執行役員の池畑孝治氏は、「日本人は、フランスが非常事態宣言を延長するほど大変な時期なんだと思っている。このような機会にお話しいただけるのはありがたいが、日本に対して恒常的に発信してほしい。具体的には、フランス観光開発機構のホームページで、市長や議長が、現在の状況、非常事態宣言とはどういうものか、観光客をどのように守るのかという発信をしてほしい」と意見した。
JAL(日本航空)取締役 専務執行役員 旅客販売総括本部長の藤田真志氏は「JALは1月にいったん成田からの便を運休したが、3月16日から再開し、パリに2便運行する。これは私達のパリに対するコミットメントであり、覚悟である。日本の皆さんにパリにもう一度行ってもらおうと再開した」と切り出した。
藤田氏は「テレビや雑誌、新聞で、パリの悲惨なニュースは伝えたが、その後のパリがどうなっているのかが伝わっていない。テレビの取材や新聞記者などをパリに招待して、パリの現状を取材し伝えてもらうコンスタントな取り組みが必要だと思う。JALでは、機内誌やホームページでパリの情報を正確に伝えようと努力している、また、営業は、キャンセルした修学旅行の学校に、パリの状況について理解してもらえるようまわっている。日本人は臆病な人種。パリの街の美しさや人々の魅力は、臆病な人間に心から勇気を与えてくれる。今、必要なのは、マスメディアの取材や情報発信を通じて、人の心に勇気を与えてもらうこと。少しずつ勇気を持った日本人がパリを観光するトレンドを作っていきたい」と述べた。
JTBワールドバケーションズ代表取締役社長の井上聡氏は、「パリに行った観光客からアンケートを取っている。お客様の声をお届けしたい」とし、「一番多かったのは、地下鉄(メトロ)の雰囲気が暗く、もう少し明るい雰囲気にしてほしいという意見。観光客の利便性としては、エレベータの設置などバリアフリーが進んでいない場所が多い。また、日本語の案内を観光客が多いところにおいてほしいという声もあった。もう1点は、パリ市内の店の営業日について、日曜日が休業の店が多い。土日を含めて行く観光客も多いので、日曜日に営業している店を増やしてほしい」と報告した。
H.I.S.執行役員 海外営業本部本部長の波多野英夫氏からは、「視察に行くことはできなかったが、2015年12月にパリに行く機会があった。街は普通の状況だと確認できたが、日本人の観光客は少なかった。日本に戻って、なんとかしなければと、2月6日から、“We Love Parisキャンペーン”を展開した。まずはマーケットの復活を目指そうと、エールフランスの協力もあり、料金を安く抑えることができて、すぐに完売した。先週は新しい出発日を設定するほど集客が伸びている」とうれしい報告があった。
また、「3月には表参道でフランス料理の鉄人、坂井宏行シェフとタイアップしてフランスの美食セミナーを行ない、フランスを全面的にピーアールできるイベントを実施する。3月下旬から4月にかけては、フランス観光開発機構、エールフランスと協力して大きなタイアップの広告を東京で行ない、新たな商品を市場に出していく。1月の集客は前年の30%程度だったが、2月のキャンペーンを始めてからは前年の70%近い数字が確認できた。今後もキャンペーンに力を入れていきたい」と語った。
ミキ・ツーリスト取締役執行委員の今野淳子氏からは、「ツアーオペレーターの会社なので、パリを含めて、ヨーロッパに17カ国20都市の事務所がある。パリの事務所を役に立てられないかと考え、シティホールに観光担当を設置していただき、日本人観光客の誘致活動のサポートに、パリ事務所からスタッフを派遣したい。一緒に日本人観光客の誘致活動をしていくことで、日本のマーケット、生の声、最新の情報、旅行業界の動向、日本人観光客のトレンドなども伝えられる」と提案があった。
さらに、「日本では、テレビの影響力が大きい。テレビでスポットCM『パリは皆さんを待っています』というアピールをしてはどうか。マレーシア観光局は、テーマソングを作り、頻繁に観光客誘致のCMを流している。旅先からの温かいウエルカムの気持ちが伝わると行きたいと思うモチペーションも生まれる」と意見した。
グローバルユースビューロー代表執行役会長の古木康太郎氏は、「7月14日のパリ祭の翌日15日に、シャンソンのコンサートをやりたい。エディット・ピアフ(シャンソン歌手)生誕100年を記念して、日本人を連れて行く企画で、パリの方もお招きしたコンサート。そのコンサートの会場、パリの劇場をぜひ貸してほしい。ただ、パリに行きませんかと呼びかけてもなかなか難しい。このような企画をすることで、パリに目が向いていくのではないかと考えた」と市長に要望を出した。
JATA会長、JTB代表取締役会長の田川博己氏は、「今から10数年前のニューヨークのテロで、どうやって観光客を引き戻したかというプロセスを参考にしたい。ニューヨークが大好きな人間にリーダーシップを取ってもらい、それを大衆化、一般化していく。当時は今ほどインターネットが普及していなかったが、情報の流通がある今回はもっと回復が早いかもしれない。情報が豊かなだけにマイナス情報が多く流れる可能性もある。いかにマイナスを減らしてプラスの情報を増やすかがポイント。日本のマスコミはマイナス情報が多い」と意見した。
また、「JATAとしても、なんとしてもパリを復活させなければ、ヨーロッパ全体の復活はないと考えている。2月17日に、旅行業界向けのセミナーを開催した。3月18日に、一般消費者向けのセミナーを開催する予定。6月中旬にはフランスフェアをやって大キャンペーンを展開し、9月に開催されるツーリズムEXPOジャパンでは大フランス展をやる準備をしている。復活のためには、いくつかのプロセスが必要。1つだけお願いをしたい。焦らず、着実に前を向いてプロセスを進んでほしい」と語った。
エールフランスKLM日本支社長のステファン・ヴァノヴェルメール氏は、「日本観光客がフランスに行く数が減ったが、エールフランスでは成田、羽田でも便を減らさないことを決定し、売上が下がり苦しんだ。最近の日本の外務省の発表では、“非常事態宣言”とは何かを説明しており、これは、ダナ大使の外務省に対する努力の成果。エールフランスもフランス観光開発機構と共にフランス視察派遣に協力し、なるべく日本の観光客を戻す努力をした。これは、私達にとって出発点、徐々によい数字が伸びて行くことを期待している。モンペリエで7月に大きなイベントが開かれるが、エールフランスでは、さらなる日本の参加者を増やすことにした」と意欲を見せた。
一通り日本側出席者の意見を聞き、イダルゴ市長は、「皆さんの話、意見、提案に対しては詳しく検討したい」と答えたあと、「これは共通のテーマ。お互いを支えなければならない。日本人はパリやフランスを愛してくれている。私達も心から日本を愛している」と語った。
パリの取り組みとしては、「国内キャンペーン、インターネットキャンペーンなどを展開する。まもなく始まるものは、アカデミー賞を取った映画スター“ジャン・デュジャルダン”が出演するショートフィルムが現在編集中で、国際的な空港のすべてで流すことになっている。日本語吹き替え版も作る予定。また、写真とビデオのデータバンクをパリ市の公式サイトに設置する予定」と説明した。
また、インターネット関連では、「世界一のTwitterアカウントで、写真や情報、日常生活、イベントについて、大きいもの、小さいものに限らずお知らせしている」と、パリの人気ぶりをアピール。パリ市のTwitterアカウントは、今年2月に大都市では初の100万フォロワーを達成している。
日本の旅行業界に対して「今年(2016年)6月に開催されるサッカーのヨーロッパ選手権(UEFA EURO 2016)にまつわるパッケージングはいかがでしょうか。1カ月にわたってパリで開催される大きなサッカーの祭典で、もちろん安全の措置は最大レベル。7月14日のパリ祭もまた、コースのツアーを考えられるのでないか」と提案した。
「日本の観光客の要求は高く、満足いただけるように、我々のレベルを上げることが需要。パリの首都にふさわしいレベルで観光客を迎えたい。そのための観光研修も行なう。皆さん提案を出発点として、実際の行為に具体化したいと思う」と締めくくった。
ヴァレリー議長は、「地下鉄の件は、RATP(パリ交通営公団)の会長に伝える。私も大使を通じてお願いしたい。10名ほどの日本人を選んでいただき、印象派ツアーのコースを試していただきたい。著名な人を招待すれば、パリに行きたい人が増えるかもしれない」と、ダナ大使に依頼した。
意見交換会の最後にダナ大使は、「今回の参加ありがとうございました。今回の意見交換会をお互いに活かしていきたい」と締めくくった。
その後、一行はフランス大使公邸に移動し、報道陣向けに「パリとイル・ド・フランスの今と未来:観光、投資、美食、文化、2024夏季五輪」というタイトルで記者発表会が行なわれた。
司会は、スポーツキャスターとしても有名なフランス人ジャーナリストのフローラン・ダバディ氏。まずは、ティエリー・ダナ駐日フランス大使より挨拶があり、その後、パリ市長アンヌ・イダルゴ氏が登壇。パリの現状、日本人観光客の激減について、パリの安全性などについて説明した。イダルゴ市長は「東京とパリ、2つの街の関係は、美しく強く、利益になるものです。その関係がさらに強化されるものと望みます」と語った。
イル・ド・フランス地域圏議会議長ヴァレリー・ペクレス氏は、「皆さんこんばんは。以前に日本語を学ぶ機会がありましたので、少し日本語でお話ししたいと思います」と、冒頭は日本語でスピーチ。政党も違う2人の女性のトップが、揃って日本に来て話すことの意義は大きいと語った。
この春パリに招待される、4人のインフルエンサー(ブログやSNSで影響を持つ人)の紹介のあと、パリとスポーツについてイル・ド・フランス地域圏議会副議長、国際活動および観光担当のダビッド・ドゥイエ氏が登壇。「パリ2024年の五輪開催誘致に向けて、現在開催に向けて動いている東京に学びにやってきた。人生でもスポーツでも、いつでも学ぶということが大切」と述べた。ダビッド・ドゥイエ氏は、柔道家として2度のオリンピックで金メダルを獲得したあと政治家に転身。スポーツ大臣を経験し、現在はイル・ド・フランス地域圏議会で活躍している。
ゲストスピーカーとして、パリ再開発プロジェクトのコンペで勝ち抜いた日本人建築家2人が登壇。パリ13区メセナ駅の再開発を提案した田根剛さんと、パリ17区ペルシング通りの再開発を提案した藤本壮介さんは、提案内容や経緯などを説明。
また、2008年フランス観光親善大使を務めた2人も登壇。パリで生まれ、3歳までフランスで過ごした滝川クリステルさんは、好きな場所ということで、リュクサンブール公園と、セーヌ川を紹介。パリが好きで、4日スケジュールが空くとパリ行きのチケットを買ってしまうという華道家の假屋崎省吾さんは、パリでの思い出を語った。