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関空展開から松島基地帰投まで。万博ブルーインパルス展示飛行の4日間を追った!

2025年7月12日~13日 実施
万博のブルーインパルス展示飛行の追跡レポをお届け

 2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のちょうど会期折り返しとなる7月12日~13日にわたり、航空自衛隊ブルーインパルスが大阪府下のランドマークで航過飛行を、万博会場で展示飛行を実施した。

 筆者らは今回のブルーインパルス来阪に際し、関西空港と万博会場でその様子を見てきたので、ブルーインパルスの到着、展示飛行、そして関空をあとにするまでの様子をダイジェストでお伝えする。

ブルーインパルスの“リベンジ”が決定!

 万博開幕初日の4月13日、悪天候のため展示飛行が行なえなかったブルーインパルス。展示飛行の“やり直し”を求める声はその当日からあったようで、実は再挑戦の具体的な日程も早々に決まっていた。ただ、5月14日に発生したT-4練習機の墜落事故を受け、正式な発表は7月1日まで行なわれなかった。その一方で、水面下での調整は着々と進行し、機体を再び受け入れることになった関空でも関係者らが準備を進めていた。4月の経験から、いくつかの点で運用も改善されることになった。

 4月の計画では、予行がかろうじて実施でき、本番ができなかった。その結果、今回は「予行なし、本番を2日間連続で行なう」というものに決まったようだ。実施日が7月12日~13日になったのは、万博会期のちょうど中間にあたるということが決め手になったのだろうか。いずれにしても、大都市上空で2日連続のショーを行なうのは、ブルーインパルスの歴史上でも非常にまれな……というより、筆者の記憶では初の出来事なのではないかと思う。絶対に成功させるという、関係者らの強い意志を感じた。

7月11日:関西空港への2度目の飛来

 7月11日、午前7時ごろに順次松島基地を飛び立ったブルーインパルスは、8時15分ごろに関空の管制圏に接近した。このときの関空は、2本ある滑走路を通常の運用どおりに着陸R/W06R(東側)、離陸R/W06L(西側)に割り当てていたが、ブルーインパルスはR/W06Lへの着陸がアサインされた。これは、駐機スポットがR/W06L近くに設けられていたためで、関空に不慣れなブルーインパルス各機がスムーズに駐機スポットまで移動できるよう配慮したため。もちろん、ブルーインパルスの着陸の間は旅客機が離陸できず、出発するJAL機が滑走路手前で待機していた。

 1・2番機は8時24分にフォーメーションランディング(編隊着陸)、続いて3番機が着陸し、待機していたフォローミーカー(先導車)に従って駐機スポットへ移動した。次に4・5番機が着陸し、最後に6・7番機(7番機は予備機)が8時41分に着陸。こちらも別のフォローミーカーが先導して駐機スポットへ移動した。なお、駐機スポットは空港2期島の最も南東にあたる259、260が割り当てられていたため、一般が立ち入り可能なエリアからは見えなかった。これも見学者が押し寄せないよう考慮したものだろう。なお、SPOT259、260は通常は国際貨物輸送のFedExが貨物の積み下ろしに使用している場所で、ブルーインパルスの展開にあわせてこちらも運用を変更している。

8時24分、1・2番機がフォーメーションランディング。着陸後は地上での衝突を避けるため減速しながら距離をとる
出発準備を進めるピーチのエアバス A320neoの脇を通過。関西空港ならではの光景だ
ブルーインパルス第2・第3編隊の着陸を待つJALの737-800と、その奥をタキシングしていく第1編隊
着陸した第3編隊。6番機と予備機だが、どちらの機体も尾翼に「6」を貼り付けている
トラフィックの多い関空の忙しさが垣間見られるシーンだ
第2、第3編隊が揃って駐機スポットへ移動する

7月12日:ブルーインパルス展示飛行1日目

 もともとブルーインパルスの知名度は高く、また関西エリアでのフライトは非常にレアで、ましてや注目されている万博会場を飛ぶということもあって、7月1日の正式発表以来、地元大阪府の住民を中心に関西ではやや異様な盛り上がりとなっていた。

 博覧会協会は、ブルーインパルスの観覧のみのために舞洲駅付近への来訪を控えるよう呼びかけ、Osaka Metroも舞洲駅や弁天町駅の入場規制を行なう可能性を告知、周辺一般道路は駐停車禁止や通行規制などを行ない、阪神高速道路も近隣7か所のPAを臨時閉鎖した。

 関空でも、1期島と2期島を結ぶ道路や、第1ターミナルの自家用車送迎用の道路などにカラーコーンを並べ警備員を配置するなどして混乱を防ぐ措置をとった。関空の展望ホールや大阪湾岸エリアで旅客船を運航する会社、近隣の商業施設などは、一大イベントを楽しんでもらえるよう特別営業や観覧クルーズなどを企画した。警戒も期待も徐々に高まっていった。

 筆者は当日11時ごろに万博会場に西ゲートから入場。この時点では(過去3回の入場と比較しても)それほど混雑しているという感覚はなかったが、12時30分くらいに大屋根リングを仰ぎ見たところ、観覧場所を確保する人々がチラホラと見え始めたので早めにリング上に移動。展示飛行時の光線や背景を考慮して、あらかじめ決めておいた場所でブルーインパルスの到着を待った。

 大屋根リングはその後もどんどん人が増え、14時過ぎにはエレベーター、エスカレーター、階段が規制された。また、リング上に多くの人が滞留していることから、緊急用の通路を開け、座らずに待つように繰り返し係員が注意を呼びかけていた。

14時10分ごろ(左)と、15時ごろの会場の様子
14時20分ごろ、大屋根リング上でフライトを待つ来場者

 14時30分ごろ、持っていった受信機でブルーインパルスと関空管制塔との交信を確認、無事に離陸に向けて進行中なのを確認した。スマートフォンで在阪テレビ局のYouTube生配信を視聴しはじめ、無線と映像の両方で現在位置を把握するようにした。大勢の観客がいるにも関わらず、ドコモ回線は遅延なくスムーズに動画データを受信し続けていた。

 14時41分、1~3番機がフォーメーションテイクオフ(編隊離陸)。4、5、6番機はセパレート(1機ずつ)で離陸した。後半の離陸は、先行機のエンジン排気などで空気の温度が高くなりがちで気流も乱れるため、安全のため編隊を組まないことも多い。離陸すると、ブルーインパルスの無線が聞こえやすくなった。周波数を切り替え、展示飛行の態勢に。大屋根リング上のどこかに展開していると思われるブルーインパルスの地上管制局もオープンし、交信を開始した。

 15時50分、大屋根リングの東方向、おそらく大阪市内中心部付近を飛ぶブルーインパルスを遠望できた。リング上の観客がいっせいに歓声をあげる。編隊はスモークをひきながら大阪城を通過後、左旋回して伊丹空港方向へ変針。そのあと筆者の位置からは見えなくなったが、スモークオン・オフや旋回開始の交信は聞こえていたため、飛行位置はおおむね把握できた。

 14時57分ごろ、予定されていたランドマークの航過飛行を終えたブルーインパルスが、大阪市中心部付近をいったん南方向に離脱。その後大きく右旋回し、今度は会場に向かって北上してきた。会場ではブルーインパルスのナレーションが日本語と英語ではじまり、編隊が近く、大きく、ハッキリと見えるにつれて観客の歓声も大きくなっていった。

大阪府中心部を南下していく。会場近隣にあって背が高いデリック(クレーン)がいつのまにか折りたたまれていた
会場上空に姿を現わしたブルーインパルス。いよいよ万博会場での展示飛行が始まる

7月12日の展示飛行課目

1. デルタ360°ターン
2. サクラ
3. レベルキューピッド
4. 720°ターン(ソロ)
5. チェンジオーバーターン
6. 360°ターン(ソロ)
7. レベルサンライズ

1. 「デルタ360°ターン」大きな三角形を形作り、大屋根リングの外側を1周
2. 「サクラ」大きく開いた6機がそれぞれ360°ターン、大輪のサクラを咲かせる
3. 「レベルキューピッド」2機がレベル(水平)に巨大なハートを描く
4. 「720°ターン(ソロ)」ソロ機右旋回で360°、左旋回で360°ターンし、水平に8の字を描く
5. 「チェンジオーバーターン」トレイルで進入後、傘型に隊形を変えて会場を1周。後半は編隊の間隔を詰めていく
6. 「360°ターン(ソロ)」5番機がリングをなぞるように360°ターン
7. 「レベルサンライズ」5機が大きく散開。スモークの軌跡が旭光を思わせるため、“サンライズ”と名付けられている

 ブルーインパルスの各機がスモークを出したり、旋回を開始したり、大空に模様を描いたりするたびにどよめきや歓声が沸き起こっていた。万博会場での演技は15時10分に終了、会場では誰もが自然に拍手した。隊長機がミッションの完了を告げ、ブルーインパルスは空中集合しつつ南方向に離脱していった。

 大阪府の上空でブルーインパルスの展示飛行が行なわれるのは、1990年の「国際花と緑の博覧会(花博)」の開幕日以来35年ぶり。さらにいうと、当時のブルーインパルス使用機はT-2高等練習機であり、現在のT-4練習機での展示は今回が初めてとなった。

 前述のとおり、この日は4月12日の万博開幕からちょうど3か月目で、前半の最終日にあたった。当日の一般来場者は17万1509人で、過去2番目の人出を記録。また、開幕以来の累計一般来場者は1011万人となり、1000万人の大台を突破した。ただ、会場で聞こえてくるのは圧倒的に関西弁で、関西以外からの来場者はまだ少ない印象を受けた。

7月13日:ブルーインパルス展示飛行2日目

 万博会期の“後半戦”初日にあたる7月13日は、前日以上の晴天と36℃の最高気温が予想されていた。筆者は10時過ぎに西ゲートから入場、東西エリアを会場の南側を経由して結ぶeMover(EVバス)を利用して一気に東ゲート付近に移動して会場内を巡っていた。

 大屋根リング下のベンチで持ち込んでいた昼食をとって、13時ごろにあらかじめ決めていた西ゲート側の大きなミャクミャク像の前に到着。このころ、すでにテレビ局やブルーインパルスファンが集まりはじめており、ミャクミャクを半円状に囲んだ異様な集団が形成されつつあった。狙う構図はみな同じである。

14時過ぎの西ゲート側ミャクミャク前。展示飛行2時間前の13時ごろには人が集まり始めていた

 この日筆者はひとつ大きなミスをした。航空無線を聞くための受信機を忘れてきたのだ。課目の開始やスモークオンのタイミングは経験上どうにでもなるが、天候やトラフィック(ほかの航空機)によってフライトが変更や中止になった場合でも、その情報が入ってこない。また、前日の大屋根リング上とは違って、ナレーションがほとんど聞こえてこなかった。そこでこの日も、YouTubeのライブを参考にすることにした(結果論だが、万博会場での演技中はヘリテレが編隊を見失い、進入などのタイミングの把握にはほとんど役に立たなかった)。

 大勢のカメラマンに囲まれ気恥ずかしそうにしながらミャクミャクと記念写真を撮る人たちを見ている間に、展示飛行の時間が迫ってきた。14時40分、ライブ放送で離陸を確認。前日の大屋根リングと異なり、大阪市内を飛ぶ姿などはまったく見えないため、ライブ配信と時計を交互に見ながら、ブルーインパルスが上空に姿を現わすのを待ち受けた。

14時40分、関空R/W24Lを編隊離陸する1~3番機と4番機を、チャーターしたボートから(撮影:S.K.2)
続いて5番機、6番機が離陸。背後は管制塔で、5番機後席員が手を振っているのが分かる(撮影:S.K.2)

7月13日の展示飛行課目

1. フェニックスローパス
2. デルタ360°ターン
3. サクラ
4. レベルキューピット
5. 720°ターン(ソロ)
6. チェンジオーバーターン
7. 360°ターン(ソロ)
8. レベルサンライズ

1. 「フェニックスローパス」6機が大きく翼を広げた不死鳥を形づくり、スモークをひいて一直線に通過する
2. 「デルタ360°ターン」大きな三角形を作り、会場周囲を1周
3. 「サクラ」雲一つない空に大輪が咲く。14mm超広角でも入り切らないビッグサイズだ
4. 「レベルキューピット」万博テーマ「いのち」にふさわしい演技。拍手が沸き起こる
5. 「720°ターン(ソロ)」水平に8の字を描く。ミャクミャクがいつもよりはしゃいでいるようにも見える
6. 「チェンジオーバーターン」
会場南側のシグネチャーゾーン ウォータープラザ付近から。こちらも万博でのフライトを印象付けるシーン(撮影:南幸雄)
7. 「360°ターン(ソロ)」リングをなぞるように飛ぶため、会場のどこからでも近くに見えた
8. 「レベルサンライズ」大トリはやはり、来場者が最も喜んだこの課目
ウォータープラザ付近から。想像以上の青空で、誰もが満足したショーだった(撮影:南幸雄)
15時12分に演技を終了したブルーインパルスは、15時16分にエシュロン隊形で関西空港上空に戻ってきた(撮影:S.K.2)
編隊解散し1機ずつR/W24Lにアプローチする。この日のブルーインパルスの経路上に雲はなかったが、周辺には積乱雲も多く、奇跡的な晴れ間だったのかもしれない(撮影:S.K.2)
関西空港に着陸進入するブルーインパルス1番機から6番機(撮影:S.K.2)

 7月13日のショーは、夏の午後にもかかわらず雲がいっさいない、完璧な“晴れ舞台”で行なわれた。課目も、冒頭に会場の真上を通過する「フェニックスローパス」が加わり、12日よりインパクトのある内容となった。筆者は30年以上にわたりのべ数百回ブルーインパルスを見てきたが、これほどまでにインパクトのあるショーを見た経験はそう多くはない。多くの来場者にとっても、印象深いイベントになったと思う。なお、万博協会によると、13日の入場者数は一般15万4000人(速報値)で過去4番目の人出となった。

7月14日:松島基地へ帰投

 万博での展示飛行を成功させたブルーインパルスのT-4は、7月14日午前に関空を離陸し、ホームベースである松島基地に帰投した。8時40分から58分ごろにかけて、1・2・3番機、4・5番機、6・7番機(7番機は予備機)と編隊で離陸、その際には関空の管制官が万博での展示飛行への感謝を短く述べ、ブルーインパルス側も返答している。各機は離陸から約1時間後の10時前後に、順次松島基地に順次着陸した。

1・2・3番機の離陸。使用滑走路は、駐機場から直ぐ目の前のRW06L(撮影:南幸雄)
4・5番機は8時50分ごろ離陸(撮影:南幸雄)
6・7番機(7番機は予備機)の離陸。来たときのまま、予備機は尾翼に「6」をつけている(撮影:南幸雄)

“リベンジ”成功を支えた関係者に感謝

 ブルーインパルスによる“万博リベンジ”は大成功に終わった。

 しかしそれは天候やブルーインパルスの隊員の技量によるものだけではない。関西空港への展開と大阪府下でのフライトにあたり、水面下で非常に多くの関係機関や航空会社、地上で支援を行なう企業などが情報を共有し、また協力にあたっている。ブルーインパルスの演技中、担当の航空管制官は、ブルーインパルス側に周辺の情報を逐一伝え、また報道ヘリを適切な位置に誘導していた。

 筆者も万博会場へ向かう道すがら閉鎖されたPAを見たし、会場から海上保安庁の巡視船艇も見え、また大阪南港のデリックが折りたたまれているのも見えた。そして、これらすべてがスムーズに連携できないと、民間機の離着陸が多い関空を予定どおりに離陸し、スケジュールどおりの航過飛行、展示飛行を実施できない。

 35年ぶりの大阪でのフライト、そして万博での完璧なショーと感動の影に、多くの尽力があったことを改めてお知らせするとともに、いちブルーインパルスファンとして、関わったすべての方に感謝を申し上げたいと思う。