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リニア・鉄道館にドクターイエローT4編成がやってきた! 再塗装した先頭部はなぜ手塗りに?

2025年6月7日 実施
34組38名の参加者が、ドクターイエローの「最後の移動」に手を添えた

 愛知県の「リニア・鉄道館」(愛知県名古屋市港区金城ふ頭3-2-2)で6月7日、ドクターイエローこと923系・電気軌道総合試験車が搬入された。その搬入・設置に際して、“一般参加者が手を添えて、一緒に最後の移動を行なおう”というイベントが開催された。

 この「ドクターイエローT4編成 搬入作業体験イベント」の参加者は34組38名。推し旅「鉄推し!~バトンタッチ!感謝を込めて~」に参加する形で、4月2日から5月14日にかけて募集を行ない、応募倍率は約22倍に達したという。

「リニア・鉄道館」の屋外でも、展示車両の交代に関する掲示が行なわれていた

搬入されたのは7号車

「ドクターイエロー」923形T4編成は最後の検測運転、そして大井車両基地における「お掃除体験イベント」を終えたあと、2月20日に静岡県浜松市のJR東海浜松工場まで回送された。そこで編成が解かれて、7号車(923-7)が「リニア・鉄道館」に運ばれてきた。

 これまで、「リニア・鉄道館」には前任の922形T3編成の7号車(922-26)が展示されていたが、これと入れ替える形である。

2月20日に行なわれた廃車回送で、浜松工場の敷地に入っていくT4編成
こちらは現役で検測走行を実施していたときの923-7

 922-26は、石川県にあるJR西日本の北陸新幹線担当車両基地・白山総合車両所に隣接する「トレインパーク白山」への移転が決まっており、6月4日に搬出された。

 それによってできた空きスペースに、923-7が搬入された。先頭車は2両あるが、検討の結果、1号車ではなく7号車が展示されることになった。なお、リニア・鉄道館に設置する前に、浜松工場で再塗装などの整備作業が行なわれた。

浜松工場長からリニア・鉄道館館長への引継ぎ式

 イベントは、11時10分から「引継ぎ式」が行なわれた。「JR東海の事業用車」から「リニア・鉄道館の展示車両」に変わる節目である。

東海旅客鉄道株式会社 新幹線鉄道事業本部 浜松工場 工場長 榊原孝二氏「3月初頭から2か月ほどかけて、展示のために、浜松工場の社員と協力会社の社員とで、丁寧に整備を実施しました。通常、車体の塗装はロボットで行ないますが、T4は700系ベースで形状が異なることもあり、先頭部はスプレーガンによる手塗りを行ないました。今後も引き続き、愛される車両であったらいいなと思います」
リニア・鉄道館 館長岡部仁氏「実は東京の車両所で交番検査を担当していた関係で、T3には親しみがありました。当時はまだ、特殊な車両という認識はなく、あまり世の中には認知されていなかったと思います。(ドクターイエローのあとは)営業車検測に変わり、より高頻度・高精度の検査を行なえるようになります」

 ここでちょっと解説。ロボットが自動塗装を行なうには、車体の形状に関するデータが必要になる。700系はすでに引退しており、それと同じ先頭部形状を持つ車両は2編成のドクターイエローしかいない。これが、手塗りが用いられた理由と思われる。

 ちなみに交番検査とは、3万キロ走行あるいは30日ごとに、主要機器のカバーを開けて内部の検査を行なったり、消耗品を交換したりする作業である。

榊原工場長から岡部館長に、引き渡しの象徴として「ブレーキハンドル」をかたどったプレートが渡された
そのプレートを2人で持って記念撮影。ちなみに、本物の新幹線電車のブレーキハンドルは固定されていて外すことはできないが、古い在来線車両ではブレーキハンドルが着脱可能で、使用するときだけ取り付けるのが一般的

参加者が手を添えて展示位置に搬入

 続いて11時30分から、搬入作業が始まる。この時点ですでに屋内への搬入は済んでおり、最終的な設置場所まで移動するのみとなっていた。

 といっても、40トンぐらいある大物であり、動かすよりも、止めることの方が難しい。そのため、移動そのものは専門の業者が担当して、参加者は移動する車両に手を添えて「一緒に押す」という内容になった。

移動が行なわれたエリアの全景。どんづまりに923-7がいるのが分かる
移動そのものは専門の業者が担当した
そこでイベント参加者が手を添えて、スタッフの掛け声に合わせて車両とともに移動する。
無事に最終的な展示位置まで到着。
その後、さっそく写真を撮る参加者の姿も。
展示スペースの手前には、もう923形の概要を紹介するパネルが設置されていた。なお、現役時代の車内の模様については、写真の右手にある画面で「バーチャル展示」として見ることができる
「923-7」という車番の標記、号車番号「7」の標記、そして乗務員室扉にある編成番号「T4」の標記を1枚に

 ところで。923-7の展示場所は、これまで、922-26が展示されていたのと同じ場所だ。ただし、この場所は直接、外部との出入りができない。

 そこでまず、922-26の搬出と923-7の搬入を実施するために、その後方で展示されていた急行型電車、クモハ165形を一時的にどかして、出入りのためのスペースを確保した。イベントが始まった時点で、すでに923-7は、クモハ165が展示されていた場所まで搬入済み。それを、参加者が押して展示場所まで移動する流れとなった。

イベント開始の時点で923-7が置かれていた場所。レールが、標準軌と狭軌の両方の車両に対応できる三線軌になっているのが分かる
奥の扉が開いた先の屋外に、クモハ165がいた。普段は急行「東海」のヘッドマークを付けて展示されているが、このときには、おでこの行先表示は「大垣」。かつての「大垣夜行」に親しんだ方も多いから、ということだそうだ

923-7を眺めながら食事会、続いてガイドツアー

 その後、12時00分からは食事会が行なわれた。その場所は、923-7に隣接する場所に展示されている100系新幹線電車の食堂車、168-9001。2階建て車両の2階がホールになっているから、大きな窓からドクターイエローを眺めつつ食事会、という趣向になった。

923-7と168-9001は隣接している
用意されたお弁当の器も「ドクターイエロー仕様」
それではさっそく「いただきます」……の前に、スマホで記念撮影?

 このあと、参加者は複数のグループに分かれて順次、923-7をバックにした記念撮影やガイドツアーとなった。

まず連結面側に全員集合して……
グループごとに先頭部に向けて移動する
まず、ドクターイエローの紹介と、ちょっとしたクイズ大会を行なった
「これは車内の模様を撮影した写真ですが、何をしているところでしょう?」
記念撮影用に用意したアイテムいろいろ。参加者のなかには「どれにしようか」と、しばらく迷ってしまう方もいたようだ
リニア・鉄道館のスタッフがシャッターを押して記念撮影

浜松から名古屋までは道路輸送

 リニア・鉄道館は名古屋市の南部、港区の金城ふ頭にある。一方、整備が行なわれた浜松工場は静岡県の浜松市にある。では、その間の移動はどのように行なわれたのだろうか。

 なにしろ、全長が約27m、全幅が約3.4mもある大荷物だ。トラックに載せて運びましょうというわけにいかない。そもそも、道路法で定められている「一般道路を通行できる車両のサイズ」の上限(長さ12m、幅2.5m)をはるかにオーバーしている。

 リニア・鉄道館の敷地が海に隣接していることから、豊橋から船で輸送するのかと思ったら、さにあらず。実は、2日がかりで道路を使った陸送が行なわれた。台車は外して別のトラックに載せて、車体の下には道路輸送用の専用台車を履かせる。それを牽引車で牽引して運ぶのだ。

 ただ、道路を使って陸送するといっても簡単ではない。新幹線電車の道路輸送は「制限を超える特殊車両の通行」にあたるため、道路管理者に申請して「特殊車両通行許可」を取得する必要がある。申請したとおりの経路を通らなければならず、しかも時間帯は深夜に限定される。

 実は、豊橋港と浜松工場の間の新幹線電車の陸送は、新車の搬入でも使われたことがあるルートだ。今回は、途中まではそれを逆行したことになる。全体では100kmを超える距離になるので、一晩での移動は不可能。二晩がかりとなり、昼間は豊橋港で待機していたのだった。

 一方、リニア・鉄道館から、石川県の「トレインパーク白山」に場を移す922-26は、金沢まで陸送するのは現実的とはいえず、海上輸送された。6月7日の時点で、すでに船積みを終えて名古屋港を出港、航行中だったという。

 そして、金沢港からトレインパーク白山までは陸送になる。これは、隣接する白山総合車両所への新車搬入と同じルートだ。なお、トレインパーク白山での展示開始は既報のように、6月20日9時からである。

このあと、923-7は展示車両として多くの人を楽しませてくれることだろう。