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視覚障害者向け案内ロボット「AIスーツケース」体験してみた。大阪・関西万博で新モデルを運用予定

2025年1月22日 実施

日本科学未来館を中心に開発している「AIスーツケース」の新モデル

 日本科学未来館は1月22日、視覚障害者向けナビゲーションロボット「AIスーツケース」新モデルの体験会を行なった。

 AIスーツケースは、視覚に障害がある人の移動を支援するもの。見た目は一般的なスーツケースと同じながら、内部にはコンピュータやセンサー、モーターが組み込まれている。

 盲導犬よりも街なかで目立ちにくく、第三者による誘導のように、近くにいる人や障害物をリアルタイムで認識し、うまく避けながらユーザーを目的地まで安全に案内するという。

 体験会のはじめに、日本科学未来館 館長の浅川智恵子氏、副館長の高木啓伸氏が新機能の詳細を説明した。

日本科学未来館 館長 浅川智恵子氏
日本科学未来館 副館長 高木啓伸氏

開発のきっかけと実証実験について

 浅川氏は視覚障害の当事者(全盲)で、出張の際に「スーツケースが自動で動いて道案内してくれたら」と感じたことをきっかけに、2017年ごろからAIスーツケースの研究開発を始めたとのこと。

 2019年に設立した次世代移動支援技術開発コンソーシアム(アルプスアルパイン、オムロン、清水建設、日本アイ・ビー・エム)と協力し、これまで新千歳空港や日本橋室町地区(地下道と5つの商業ビル)などの屋内、未来館周辺の屋外で検証を重ね、2024年4月からは未来館での実証実験「AIスーツケースで常設展を歩こう」を展開している。

 今回発表した新モデルは、4月13日に開幕する大阪・関西万博での実証実験に向けて開発したもの。万博コンテンツ「ロボットエクスぺリエンス」の1つとして会場内で複数運用し、視覚障害者だけでなく一般ユーザーの実証データも収集する。

 高木氏は「まずは対象施設のお客さんがいつでもレンタルできる運用を目指しており、未来館の常設展や万博での実証実験がその第一モデルとなっている」と説明。

 また万博での夢として、浅川氏は「会場をぐるっと囲む大屋根リングをスーツケースと一緒に1人で散歩してみたい」と語った。

AIスーツケース
スーツケースが移動を支援するメリット
AIスーツケースの進化
次世代移動支援技術開発コンソーシアム

使い方と主な新機能

 AIスーツケースを使うには、専用アプリの入ったスマートフォンを本体にセットし、画面タッチや声で目的地を設定。ハンドルのスタートボタンを押してグリップを握ると動き出し、グリップから手を離すと動きが止まる。動くスピードはボタンで調節できるほか、進む方向はハンドルの両側についている端子の振動で知らせてくれる。

 新モデルでは低位置の周囲環境センサーを追加し、車輪機構を改善したことで、横断歩道や点字ブロックなどの段差をよりスムーズに乗り越えられる。また、これまで市販のスーツケースを改造していたが、今回はオリジナルモデルを採用し、ユーザーの身長や利き手を問わず利用できるようになった。

 さらに進行方向をわかりやすくするため、ハンドル部分にディスク型方向提示装置を搭載。どのくらいの角度で曲がるのがよいか、より直感で分かるようになった。困ったときは周囲の状況をAIが音声でアナウンスする機能もボタン1つで呼び出せる。

AIスーツケース新モデルの構造
新機能の詳細
スマホをセットした様子
低位置の周囲環境センサー
旧モデルのハンドル
新モデルのハンドル。赤い矢印部分がディスク型方向提示装置
進行方向(角度)について、手のひらで感じる振動から指で矢印をなぞる仕組みに進化して分かりやすくなった
AIスーツケースを屋外で利用する浅川氏

記者も実際に体験してみた

 記者(晴眼者)も目を閉じて体験してみたところ、広々とした屋外にもかかわらず、このまま進んでもよいのか、それとも止まるべきなのか、AIスーツケースの動きに頼るのを迷う場面があった。また道の形状や障害物によって、動くスピードが遅くなったり止まったりするので、慣れないうちは少しびっくりする。

 そこで便利なのがAIの音声案内。「注意、段差あり」「前方に人がいるので止まりました」「目的地に着きました」といった動作の説明だけでなく、ボタンを長めに押すと「たくさんの人がカメラを持っています」「その奥にはビルが建っています」「右側から陽の光が差し込んでいます」といったように、周りの風景をまるで添乗員のように案内してくれる。話せることでより頼れる相棒となった。

人がどのくらい集まっているかを表示しているディスプレイ。利用環境によって表示は変えられるとのこと
AIスーツケースと横断歩道を渡る浅川氏

現状の課題

 取材当日は体験できなかったが、今後はAIによる自然な音声対話機能も実装される予定。具体的には、パビリオンや施設情報についてユーザーの質問に答えたり、お勧めの行き先や案内ルートを提案したりできるという。

 ただし“スーツケース”の機能はデザインのみで、現状では空冷や大容量バッテリーの搭載に多くのスペースが必要なため、なかに荷物を入れることはできない。

 浅川氏が掲げる最終ゴールは「AIスーツケースと一緒に旅行すること」。読者のみなさんも、まずは未来館や万博会場で散歩から楽しんでみてほしい。