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ヨーロッパ観光委員会、欧州旅行のトレンド発表。長期滞在が増加も渡航費は2~3倍に

バス台数や最低滞在時間制などオーバーツーリズムを防ぐ取り組みも

2024年2月1日 開催

ヨーロッパ観光委員会は2024年の旅のスタイルやトレンド予測を説明

 ヨーロッパ観光委員会(ETC)は2月1日、ヨーロッパ各国の観光政府局と共同でメディア向けイベントを初めて開催した。ETCの概要と今後の活動計画を紹介し、ETC日本支部代表によるパネルディスカッションも行なった。

 ETCは、ヨーロッパ以外の長距離市場へ向けたプロモーションを行なうために1948年に設立された組織で70年以上の歴史を持つ。年代からも分かるように、第二次世界大戦後の復興活動のために立ち上げられた。

 現在の加盟国は36か国で、2023年にはトルコが加わり、参加国は増加傾向という。本部はブリュッセルにあり、アメリカやカナダ、ブラジル、中国、日本などに支部を設置している。

 日本支部は一時期活動を停止していたが、2021年春に再開。多様性・創造性・団結力・包括的・協調性という5つの価値観をもとに、リサーチ、マーケティング、観光業発展のための提唱などを行なっている。

ETC委員長であるEduardo Santander氏がビデオで挨拶
ETCの活動内容

 ETCの調査結果によると、2024年1月のヨーロッパ渡航需要は2023年同時期と比べて5%増加しており、1人旅もしくはパートナーとの2人旅で、滞在は1~2週間を想定している回答者が多かったとのこと。また人気渡航先は、フランス、ドイツ、イギリス、イタリアの順番であると紹介した。

ヨーロッパ渡航需要の傾向(2024年1月)

 日本における渡航意欲はほかの国と比較するとまだ弱い傾向にあるが、2023年に比べて5%ほど増えるなど明るい兆しも見えているそうだ。

 逆に中国では、経済状況が不安視されている状況からか14%の落ち込みとなり、懸念材料になっている。

日本の渡航意欲はまだまだ低い数字であるが、回復への兆しも見えつつある

 パネルディスカッションでは、現在の日本の状況について、フランス観光開発機構 日本代表のフレデリック・マゼンク氏が見解を述べた。

 海外からのインバウンドはコロナ前と比較しても8割から9割は戻ってきているものの、日本から出発するアウトバウンドに関してはまだまだ弱い数字が続いているのが現状であると説明。

 業界関係者と意見交換の場で出てくるのは、飛行機の座席数が足りていないのと、ユーロに対して円が安いこと。ロシアの上空が飛べない現在、ヨーロッパに向かう便は北ないし南を大きく迂回するルートになってしまい、燃油の増加、パイロットの不足により便数が増やせない状況でもあるという。

 必然的に航空券は高くなっており、「コロナ前と比較すると2倍、3倍になっているといっても過言ではない」と経済的な理由がアウトバウンドが伸びない理由になっていることを説明した。

 それらを踏まえ、現在は比較的お金に余裕のある層をターゲットにプロモーション活動を行なっていく考えを示している。

ドイツ観光局 日本支局長 西山晃氏(左)、オーストリア政府観光局 日本支局長 ニコール・キルヒマイヤー氏(中)、フランス観光開発機構 日本代表 フレデリック・マゼンク氏(右)

 ヨーロッパ旅行の現在のトレンドについては、ドイツ観光局 日本支局長の西山晃氏が説明した。

 アウトバウンドが各国と比べても弱い数字になっているが、意識調査では前年よりも渡航意欲が現われていることに触れ、今後は伸長していくのではないかと述べた。

 そして旅費が高くなっている現在においては、「渡航先で長く滞在すると同時に、より多く消費するという傾向が明確に出ている」と話し、長期滞在型の旅行がトレンドであることを説明。また、ヨーロッパでは二酸化炭素削減の観点から飛行機の利用がやり玉に上げられることも多いため、せっかく飛んでいくなら長期滞在するというのはサステナビリティの取り組みにも合致するスタイルであることも付け加えた。

 サステナビリティに関してはオーバーツーリズムの問題にも触れ、観光客を規制するといった一極集中を避ける取り組み、環境に優しい鉄道旅行を促進していることなども紹介。

 ほかにもオーストリアにおける具体例について、オーストリア政府観光局 日本支局長のニコール・キルヒマイヤー氏が説明した。

 撮影スポットとして人気のあるハルシュタットでは、数年前から観光バスの台数を規制し、写真撮影で短時間のみ訪れるのを防ぐため、日帰り客に対しては最低滞在時間のルールを設けるなどして対応しているという。

 そのほかの都市においては、オフシーズンの過ごし方や、まだまだ人に知られていないスポットに焦点を当てるなど、オーバーツーリズムを防ぐプロモーションを行なっているそうだ。

 また、オーストリア政府観光局の日本支局が開設されてから50年を迎えるということで、新たにロゴを作成したことも紹介した。

設立50年を迎える駐日欧州連合代表部とオーストリア政府観光局の日本支局

 パネルディスカッションの後半では、サステナビリティだけでは現在の割高な旅費に魅力を感じる人は少ないということで、食でアピールする「ガストロノミー」も有効なプロモーションになると紹介した。

 アウトバウンド促進協議会(JOTC)の欧州部会では、ガストロノミーをテーマに「美味しいヨーロッパ100選」を2019年に選定してプロモーション活動を行なおうという矢先にコロナが直撃した苦い歴史があるものの、落ち着いてきた現在、新しい情報を仕入れて選定した2024年版を発表する意向も伝えた。