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紅葉シーズン突入の黒部峡谷鉄道、秘境でもスマホが使えるナゾに迫る

2022年10月21日 取材

黒部峡谷鉄道

 これから紅葉の見ごろを迎える黒部峡谷鉄道。エメラルドグリーンに輝く川の流れと赤や黄色に色づいた木々のコントラストが美しく、風を感じながらその中を走り抜けるトロッコ電車に揺られ、終点・欅平の秘湯につかれば、まさにそこは非日常の世界だ。

 日本有数の秘境でありながらも、色鮮やかな絶景の感動をスマホでシェアできるように携帯電話各社は各駅周辺をエリア化しているが、トンネルのような遮蔽空間はそう簡単ではないようだ。

狭く出口が見通せないトンネル(特別な許可を得て撮影)

 黒部峡谷鉄道 営業部 営業企画・広報グループ チーフマネジャーの谷本悟氏によると、元々、同鉄道は水力発電施設を建設するために敷設され、後に観光向けにも開放されたという経緯もあり、762mmのナローゲージの線路幅で、列車がギリギリ通り抜けられるだけの小さなトンネル径となっている。

 一般的にトンネル内で通信が行なえるようにするには、トンネルの端から中に向けて電波を吹くか、トンネル内に通信機器を設置する必要がある。

 KDDIエンジニアリング 建設事業本部 モバイルプロセス本部 工程管理センター 執行管理4G グループリーダーの船本一弥氏によれば、トンネル内が曲がりくねっているため、両端にアンテナを設置しても、電波が届かない場所ができてしまう。列車がいない場合に内部まで電波が届いたとしても、列車が走り、狭いトンネル内の空間を埋め尽くすと、電波が車体に遮られ、実際には乗客のスマホまで電波が届かないといった状況も発生しやすいのだとか。

 au(KDDI)では、こうした課題に真剣に向き合い、3年をかけてトンネルを含む全区間で通信可能な状態を実現したという。

白い筒状のものがアンテナ。基地局設備は茶色く塗られている
トンネルの端から内部に向けて電波を吹く
曲がりくねったトンネル内にもアンテナが設置されている

 KDDIエンジニアリング 建設事業本部 モバイルプロセス本部 屋内センター 屋内設計Gの嶋田直樹氏によると、トンネルの両端にアンテナを設置し、中央に向けて電波を吹くことに加え、トンネル内にも同軸ケーブルを這わせてアンテナを設置するなど、さまざまな工夫を行なうことで、ようやく全域をカバーできるようになった。

 一帯が中部山岳国立公園に指定されていることもあり、塗料を塗ると性能が落ちてしまうアンテナ以外を茶色く塗装するなど、景観への配慮も必要となった。

 KDDI 技術統括本部 エンジニアリング推進本部 品質管理部 エリア企画G グループリーダーの金月昭太氏は、「新たにアンテナを50か所に設置して、41のトンネルを全て繋がるようにした。冬には雪も多く、設備が壊れないような場所に設置する必要があった」と説明する。

 深い渓谷を縫うように走る鉄道であるため側道は無く、トロッコ電車の通常ダイヤ内で機材を運搬し、運行が無い夜間に設置作業を進めたという。

auのスマホならトンネル内でも通信できる

 ちなみに、終点の欅平から黒部ダムを結ぶルートは、関西電力が水力発電施設を管理・運用するために使用するのみで、現時点では観光目的で使用されていないが、2024年から「黒部宇奈月キャニオンルート」として一般開放される予定だ。

 工事用トロッコやインクライン、竪坑エレベーターといった重機を乗り継ぎながら、高熱隧道など地底に造られたさまざまな電源施設を見学でき、黒部ダムで人気の立山黒部アルペンルートとも接続できる注目の新観光ルートとして期待される。

 キャニオンルートのエリア化の可能性については、「今のところ計画はないが、一般開放されるという話は聞いており、お客さまの声を聞きながら検討していくことになる。難易度はさらに高くなることが予想される」(金月氏)とのこと。

(左から)オプテージ ソリューション事業推進本部 パートナー営業部 モバイルキャリア営業チームの柴草芳美氏、KDDI 技術統括本部 エンジニアリング推進本部 品質管理部 エリア企画G グループリーダーの金月昭太氏、黒部峡谷鉄道 営業部 営業企画・広報グループ チーフマネジャーの谷本悟氏、KDDIエンジニアリング 建設事業本部 モバイルプロセス本部 工程管理センター 執行管理4G グループリーダーの船本一弥氏、KDDIエンジニアリング 建設事業本部 モバイルプロセス本部 屋内センター 屋内設計Gの嶋田直樹氏

 普段の生活ではスマホの電波は繋がるのが当たり前だが、大自然の中にある観光スポットをエリア化するために想像を超える苦労があるようだ。そんな技術者たちの苦労に思いを馳せながら、絶景の写真をシェアしよう。

 始発の宇奈月駅までは、北陸新幹線の黒部宇奈月温泉駅で降車し、隣接する富山地方鉄道の新黒部駅から電車で約25分。クルマの場合は北陸自動車道の黒部ICから約20分。

 なお、10月11日~11月30日には、宇奈月~欅平の往復乗車券(3960円)と1000円分のおみやげ券がセットになった「オータムパック」が3000円で販売されている。さらに条件を満たせば富山県内の加盟店で使用できる「富山おみやげクーポン券」ももらえる。