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西九州新幹線「かもめ」初公開。白地に紅のボディ、クラシックモダンな内装
2021年12月22日 20:48
- 2021年12月22日 公開
JR九州(九州旅客鉄道)は12月22日、日立製作所の笠戸事業所において、西九州新幹線で使用する新幹線電車、N700S(8000番台)の報道公開を実施した。
すでに東海道・山陽新幹線で使われている16両編成のN700Sがベースだが、編成両数をはじめとして、さまざまな相違点がある。
青柳社長「JR九州らしいオンリーワンの車両を作ろうと考えた」
車両の報道公開に先立ち、まずセレモニーが行なわれた。登壇したのは、JR九州 代表取締役社長執行役員の青柳俊彦氏と、日立製作所 鉄道ビジネスユニット COO RollingStockJapan 笠戸事業所長の三浦淳氏。
青柳氏は、「この車両は、東海道・山陽新幹線で使われている最新鋭のN700Sがベースですが、JR九州らしさのある、オンリーワンの車両を作ろうと考えました」という。N700Sというベースは変わらないので、主に内外装で独自色を打ち出している。とはいうものの、新幹線電車の設計・製作に際しては、コストだけでなく軽量化など、さまざまな面で厳しい要求がある。そのため、車両を実際に製作する立場の三浦氏によると、開発・製造の過程では、いろいろ苦労があったようだ。
JR九州ならではの特色
ほかのJR九州の車両と同様に、西九州新幹線向けのN700Sでも、水戸岡鋭治氏率いるドーンデザイン研究所が車内外のデザインを担当している。そのため、九州新幹線の800系などとも共通する「JR九州のテイスト」が、いたるところに現われている。例えば外装では、コーポレートカラーである「赤」の多用、毛筆書体で記した列車の愛称名「かもめ」などが、JR九州らしさを感じさせるところ。
これまでのJR九州の車両では、鉄道の存在感を出すために目立たなければならないということで、過激なデザインになる場面もあった。しかし、西九州新幹線のN700Sでは、落ち着きや上品といった方向に軸足を移しているという。では、実際にどのような仕上がりになっているかを見てみよう。
指定席車と自由席車で異なる内装
西九州新幹線のN700Sは輸送需要を考慮して、6両編成(編成定員396名)となっている。そのうち、長崎方の3両(1~3号車)が指定席車で、座席は2-2列配置。武雄温泉方の3両(4~6号車)は自由席車で、座席は2-3列配置。グリーン車の設定はない。
定員は、1号車(40名)、2号車(76名)、3号車(47名)、4号車(86名)、5号車(86名)、6号車(61名)。車椅子スペースなどの関係から、4または5の倍数になっていない車両がある。
内装は、「優しい、明るい、楽しい、心地良い、美しい」というテーマのもと、和と洋、クラシックとモダンの組み合わせにより、「懐かしく、そして新しい空間」を表現したという。窓まわりや天井の造作は東海道・山陽新幹線のN700Sと同一で、カラースキームのみが変えられている。客室天井で、パネルの継目を利用して監視カメラを組み込んだ構造も同じだ。一方、指定席車の座席や、座席に張られているモケットの柄にはJR九州の独自色がある。
指定席車の座席は、九州新幹線の800系で使われているものがベースだが、ACコンセントを追加するなど、若干の改良が入っている。特徴として、背ずり(背もたれ)のフレームや左右の肘掛けに曲げ加工を施した木材が用いられている点がある。なお、モケットの柄は1両ずつ異なる。号車ごとに内装に違いを持たせる手法は、九州新幹線の800系とも共通する。
今回は公開対象になっていないが、自由席車もある。こちらの座席は、東海道・山陽新幹線で使われているN700Sと同じものになるようだ。指定席車と異なり、3両とも同じ柄のモケットを使用する。
トイレ・洗面所は新幹線の通例どおり、奇数号車の武雄温泉方・車端に設けられている。バリアフリー対応設備は3号車に設けられており、この車両のトイレ・洗面所は車椅子対応仕様となっている。また、ここには授乳など、あるいは気分がわるくなった乗客が休むための場所として、多目的室が設けられている。
N700Sの「標準車両」コンセプトが活きる
東海道・山陽新幹線で使われているものと同系列の車両をJR九州の新幹線で導入した事例というと、すでにN700系(8000番台)がある。東海道・山陽新幹線では16両編成、山陽・九州新幹線用は8両と編成長が異なるほか、外部塗装も異なる。しかし、車体の形状や構造、主要機器は、おおむね同じである。
ところが、同じ「N700系」を名乗っていても、16両編成と8両編成では床下の機器配置がまったく異なっており、設計変更には多大な手間がかかっている。それに対して、西九州新幹線向けのN700Sは、N700Sの「標準車両」コンセプトを活用することで、設計変更の手間を最小限に留めている。また、停電時の自走を可能とするバッテリ自走システムをはじめとするN700Sの特徴は、西九州新幹線のN700Sにも引き継がれている。
なお、西九州新幹線の武雄温泉~長崎間は、2022年秋の開業を予定している。青柳社長は「西九州新幹線の開業をきっかけにして、これまでのモヤモヤを一気に吹き飛ばしたい」と意気込みを語っていた。