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紙の在学証明書なしで通学定期を買えるようになる? マイナカードで学割きっぷを購入する実証実験が公開

2025年3月24日 実施
マイナンバーカードを活用した学割きっぷ購入の実証実験をJR大阪駅で実施

 デジタル庁、JR西日本、NII(国立情報学研究所)、OIDF-J(OpenID ファウンデーション・ジャパン)、大阪大学は、マイナンバーカードによる本人確認とデジタル在学証明書を組み合わせ、大学の証明書発行業務と駅での検証業務の省人化に向けた実証実験を行なった。

 マイナンバーカードは、3月6日時点で発行枚数が約9600万枚、保有率が77%超となっており、国内で最も浸透している本人確認ツールに成長している。デジタル庁では、マイナンバーカードの利用拡大や社会的な実装を目指してさまざまな取り組みを実施しており、今回の実証実験もその取り組みの1つ。

 現在、学生が交通機関の通学定期券など学割きっぷを購入する場合には、在学証明書を入手して窓口で提示と本人確認を経て購入する、という流れになる。

 ただ、春や夏の長期休暇前には学校の窓口が混雑して学割証明書の発行に時間がかかるだけでなく、窓口係員の業務負担も増える。同時に交通機関では、インバウンド観光客の増加による有人窓口の混雑が顕著となっており、学割きっぷの入手までに時間がかかるだけでなく、窓口従業員の負担にもなっている。そして、紙の在学証明書はなりすましによる不正利用を防ぐことが難しいという課題もある。

 そこで、在学証明書をデジタル化し、マイナンバーカードによる本人確認と組み合わせることで、それぞれの負担軽減や省人化が可能かどうかを検証するとともに、採用技術の実効性、横展開可能性などの模索が今回の実証実験の概要となる。

マイナカードとデジタル認証で学割きっぷも改札を顔パス通過

今回の実証実験で利用したサービスとアプリ
実証実験のデモンストレーションは、JR大阪駅うめきた地下口の顔認証改札で実施

 実証実験で利用するアプリは、デジタル庁が発行している「デジタル認証アプリ」と、デジタル在学証明書を格納するウォレットになる「Microsoft Authenticator」、デジタルチケットを購入する「まちのヲトモパスポート」の3種類。

 これらアプリと、NIIが構築した「在学証明発行サービス」、JR西日本の会員基盤サービス「MAB」を連携させることで、オンラインでの在学証明書の発行やユーザー認証、デジタルチケットの購入を実現している。そのうえで、実際に大阪大学の学生が自らアプリを操作してオンラインで在学証明書を入手し、マイナンバーカードを利用した本人確認と合わせてJR西日本が販売する学生向けのデジタルきっぷを購入。

 そして、あらかじめ登録しておいた顔情報を利用して、JR大阪駅に設置されている顔認証改札機を手ぶらで通過する、という流れのデモンストレーションを実施した。

デジタル在学証明書の入手から学生向けのきっぷを購入するまでの流れ
ブラウザで在学証明発行サービスにアクセスし、デジタル在学証明書を発行
発行されたデジタル在学証明書をMicrosoft Authenticatorにダウンロードし格納
学生向けのきっぷを購入するために、まちのヲトモパスポートにアクセス
まちのヲトモパスポートへ、デジタル認証アプリを利用してログインを行なう
マイナンバーカードを読み取って本人確認を行なう
本人確認の認証情報とサービスで利用する情報が、JR西日本の会員基盤サービス「MAB」に提供され、ログイン
学生限定きっぷ「学生旅行応援チケット」を選択
購入にはデジタル在学証明書の提示が必要となる
Microsoft Authenticatorに格納したデジタル在学証明書を、まちのヲトモパスポートと共有
デジタル認証アプリでの本人確認情報と個人情報、デジタル在学証明書の共有によりチケットを購入
実際に大阪大学の学生がデジタル在学証明書の発行からチケット購入までを行なった
あらかじめ登録しておいた顔情報を利用して、JR大阪駅の顔認証改札を手ぶらで通過

 今回のシステムでは、実証実験ということもあり、複数のアプリやWebサービスを使い分ける必要があることから、デジタル在学証明書の入手からきっぷの購入までの手順がやや煩雑な印象。実証実験に参加した大阪大学の学生はスマートフォンの操作に慣れていると思われるが、やや操作にとまどうような場面も見られた。

 それでも、参加した学生は、用事がなくても大学の窓口に行なって在学証明書を入手する必要があったり、交通機関の窓口で30分以上待たされたりといった、現在めんどうと感じていることがなくなることで、とても便利になると好意的な感想だった。

今後は複数の大学、海外への展開も視野に

デジタル化によって、これまで有人で対応してきた証明書発行機関と検証機関の省人化、利用者の利便性向上の両立を目指す
今回の実証実験では、在学証明書をデジタル化し、マイナンバーカードによる本人確認と組み合わせることで、学生、教育機関、交通機関それぞれの負担軽減や省人化が可能かどうかを検証
デジタル庁 デジタル大臣政務官 岸信千世氏

 デジタル庁でマイナンバーカードの利活用を担当している、国民向けサービスグループ企画調整官の鳥山高典氏は、今回の実証実験によるメリットとして「学生が学校や交通機関の窓口に並ぶことなく在学証明書の入手と学割きっぷの購入が可能になることによる利便性の向上と、教育機関および交通機関の窓口業務の軽減や省人化を期待している」と説明。

 また、今回の実証実験では、デジタル庁、JR西日本、NII、OIDF-J、大阪大学と産学官で連携してモデルを構築することで、信頼性を担保したうえで検証コストを抑え、発行機関(今回は在学証明書の発行)と検証機関(今回はJR西日本による在学証明書と本人の確認)の拡張性を見込んでいるというのがポイントであると指摘。そして「今回はJR西日本と大阪大学に参加してもらったが、今後は複数の大学、複数の学割検証機関への対応による利用シーンの拡大、海外への展開も含めて実証を進めていきたい」とした。

デジタル庁 国民向けサービスグループ企画調整官 鳥山高典氏
実証実験では、デジタル在学証明書の発行機関をNII、その検証機関をJR西日本が担当
今後は、複数の大学、複数の学割検証機関への対応による利用シーンの拡大、海外への展開も含めて実証を進める計画

 今回の実証実験で検証機関の役割を担う、JR西日本の取締役兼常務執行役員 デジタルソリューション本部長の奥田英雄氏は、「デジタル庁が掲げるデジタルの活用によって目指す社会の姿と、JR西日本が掲げるデジタル戦略を駆使して目指す姿が非常に近いこともあって、もっと素晴らしい未来をスピード感を高めて実現できると考えて(実証実験に)手を挙げた」と、今回の取り組みについて説明。

 そして、「我々民間だけでやるということではなく、産学官が一体となって進めるところに特に意義深いものを感じている」と述べつつ、自治体や企業とつながれるオープン型会員基盤サービス「MAB(Mobility Auth Bridge)」でのマイナンバーカード連携や、JR西日本の「WESTER」サービスとの連携などにより、サービスの拡がりや新しいサービスの展開につなげていきたいとした。

西日本旅客鉄道株式会社 取締役兼常務執行役員 デジタルソリューション本部長 奥田英雄氏
デジタル庁とJR西日本が目指すデジタルを活用した将来の目指す姿が近いことから実証実験に参加
オープン型会員基盤「MAB」でのマイナンバーカード連携や「WESTER」との連携などで、サービスの拡がりや新しい展開につなげる
NIIの教授でトラスト・デジタルID基盤研究開発センターセンター長の佐藤周行氏
OpenID ファウンデーション・ジャパン 代表理事の富士榮尚寛氏
大阪大学 OUDX推進室 副室長・教授 兼 D3センターDX研究部門長 鎗水徹氏

 なお、実証実験は3月24日に実施されたデモンストレーションのみで終了となる。今後は、きっぷ購入までの手順の改善も含めて、デモンストレーションを通して得られた知見をもとに課題を洗い出し、社会実装に向けてさらなる研究開発を進めていくとともに、大阪大学以外の教育機関などとも連携しながら、次のステップへ進めていきたいとした。