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西武鉄道とミライロ、障害者手帳アプリの利用を実演。将来は「改札機タッチで運賃適用」を目指す

2021年3月25日 実施

西武鉄道とミライロが障害者手帳アプリ「ミライロID」を説明

 ミライロが開発する障害者手帳アプリ「ミライロID」は、対応する鉄道事業者が3月13日以降に大幅に拡大した。それを受けて、ミライロIDをいち早く導入していた西武鉄道が共同で説明会を実施。実際の利用シーンも公開した。

ミライロIDについて説明する、株式会社ミライロ 代表取締役社長 垣内俊哉氏

 まずはじめに、ミライロ 代表取締役社長の垣内俊哉氏が、障害者手帳の現状とミライロIDについて説明した。

 障害者手帳は、障害のある方を支援するために用意されている制度で、障害者手帳を示すことによって公共交通機関の割引きが受けられるなど、さまざまな支援サービスが受けられるようになっている。

 しかし、この手帳には所有者の顔写真だけでなく、住所や障害の程度など、さまざまな個人情報が記載されているため、持ち歩きたくないと考えている人が多いという。また、支援サービスを受ける際に、障害者手帳を示す必要があるため、個人情報をさらけ出すという心理的負担もある。

 さらに、支援サービスを提供する事業者側も課題を抱えている。障害者手帳は都道府県や政令指定都市、中核市などが発行を行なっているが、フォーマットが統一されておらず、全国で実に265種類も存在するという。そのため、事業者側が障害者手帳を示されても、それが正規のものなのか判断するのが難しく、確認に時間がかかっていたそうだ。

障害者手帳には、利用者と受け入れる事業者双方にさまざまな課題が存在
障害者手帳はフォーマットが統一されておらず、全国で256種類もあるという

 こうした課題は、実際に障害のある垣内氏が体験しており、以前からこの状況を改善したいと考えていたという。そんななか、2019年1月に国土交通省が交通事業者に対し、手帳の現物確認不要とする通達を発出。これによってアプリ化への道筋が整い、ミライロIDが開発されることになった。

 障害者手帳をスマートフォンアプリのミライロID内に登録することで、全国のフォーマットの違いを解消し、利用者・事業者双方の負担を軽減。提示の際は必要な情報のみを表示することで、個人情報も保護するようになっている。

 登録データはすべて国内のサーバーで暗号化したうえで管理。また、不正が発生しないように、登録時には障害者手帳が正しいものか厳重に確認するとともに、SMS認証による電話番号との紐付けによって、1台のスマートフォンのみで利用できるようにするなど、安全性についてもしっかりとした対策が施されていると垣内氏は説明した。

ミライロIDの画面。上部には登録した障害者手帳の写真、その下に必要な情報が表示される
ミライロIDには、障害者手帳を登録して表示するだけでなく、使用している福祉機器などの登録、障害者向けクーポンの配布、障害者向けの情報の表示といった機能を用意
SMS認証による電話番号との紐付けや、国内サーバーで暗号化してデータ管理を行なうなど安全性もしっかり対策されている

 ミライロIDがリリースされたのは2019年7月。そして、ミライロIDを公的なインフラとして活用していくために、2020年6月にマイナポータルとの連携を開始するとともに、内閣官房から事業者に対し、ミライロID導入推奨の通達が発出。これによりミライロIDが公的なアプリとして認められるようになり、現時点で1040の事業者が障害者手帳の確認手段としてミライロIDを導入するにいたっている。

ミライロIDは2020年6月にマイナポータルとの連携を実現し、公的なアプリとして認められる存在となっている
3月25日時点で1040の企業がミライロIDを導入している

 共同で説明を行なった西武鉄道は、ミライロIDのリリース日である2019年7月1日よりいち早く導入している。取締役 常務執行役員 鉄道本部長の藤井高明氏はミライロIDについて、「鉄道事業者としてはフォーマットの異なる障害者手帳を確認する作業は非常に手間となっていたし、なりすましのようなことも可能だったが、ミライロIDによってそれらが払拭されて、非常に取り扱いが楽になった」と評価した。

西武鉄道でのミライロIDの扱いについて説明する、西武鉄道株式会社 取締役 常務執行役員 鉄道本部長の藤井高明氏

 ただ、ミライロIDの利用率はまだまだ低く、そこを改善することが大きな課題であるとも指摘。この点についてミライロの垣内氏は、「これまで圧倒的にPR不足だったことや、スタート時点で利用できる事業者が6社のみで少なかったことが要因」と分析しつつ、今回の事業者拡大や積極的な周知などによって、利用者を増やしていきたいと説明。また、大阪府を皮切りに自治体での導入も進みつつあり、国や自治体などとも協力して普及させたいとした。

 加えて、ミライロIDで利用できる機能も拡充していくという。その1つが障害者向けクーポンの提供。すでに飲食店やコンビニエンスストアなど、これまで障害者向けのサービスを提供していなかった企業が参画してクーポンの提供を始めており、今後も拡充していく計画だ。

 また、コロナ禍で露見した新たなバリアがオンラインチケット購入だという。映画館やレジャー施設、新幹線の指定席券など、一般のチケットはオンラインで購入できるものの、障害者向けチケットは窓口で障害者手帳を示したうえで購入する手段しかなく、大きな課題になっていると指摘。そのうえで、オンラインで障害者手帳を提示・照合し、購入できる新しいソリューションを構築したいという。

 そして、最も注力したいのが、自動改札機にタッチするだけで障害者運賃で鉄道などを利用できるようにすることだという。「ミライロIDを示すだけでよくなったとはいえ、それは示すものが障害者手帳からミライロIDに変わっただけ」と垣内氏は強調する。今後は国や交通事業者などと協議しつつ、利用者と事業者の双方が不便、負担なく利用できる新しい仕組みを作っていきたいと意気込みを述べた。

今後は、自治体での導入や、障害者向けクーポンの拡充、障害者向けオンラインチケットの提供などに注力したいと説明
自治体では、大阪府や東村山市、八代市で導入されているが、今後はさらに導入を推進したいという
現在、ミライロIDでは飲食店やコンビニなどの障害者向けクーポンを提供しているが、今後は提供企業を増やす計画
障害者が、オンラインでレジャー施設のチケットや新幹線の指定席などをオンラインで購入できるソリューションを構築したいという
垣内氏は、自動改札機にタッチするだけで障害者運賃で鉄道などを利用できるようにすることが、最も注力したい部分だと力強く述べた

ミライロIDの実際の利用の様子

 続いて、実際に障害を持つ方による、ミライロIDを使った乗車券購入の様子が公開された。参加したのは、視覚障害を持つ方と車椅子を使っている方の2名だ。

 実際の乗車券購入の流れは、有人窓口に出向いてミライロIDを係員に示し、障害者向け乗車券を購入することになる。先に垣内氏が指摘しているように、現時点ではPASMOやSuicaのように自動改札にタッチして改札を通れる仕組みとはなっておらず、これまで示していた障害者手帳がミライロIDに変わっただけになっている。

有人窓口に出向いてミライロIDを提示
ミライロIDを提示を提示することで障害者向け乗車券を購入できる

 それでも、参加した2名とも、「ミライロIDはアプリの扱いも簡単で、心理的負担や物理的負担が軽減されて非常にありがたいと感じた」と口を揃えた。

 これまでは、「個人情報の固まりと言ってもよい障害者手帳を取り出して提示することはかなり心理的負担があった」という。障害者手帳を落とした場合も、記載されている個人情報が見られてしまうことにつながるため、障害者手帳自体の扱いもかなりの負担になっていた。そのため、「多くの人に助けていただけるのは非常にありがたいものの、申し訳ないという気持ちが立って外に出るのをためらう人も多い」そうだ。

 しかしミライロIDでは、必要な情報だけがスマートフォンに表示され、万が一落としたとしてもスマートフォンにセキュリティの仕組みがあることで個人情報が見られてしまう心配がない。そのため、「ミライロIDは障害者手帳と比べて安心感がまったく違う」と感じたという。また、障害者にとってもスマートフォンは欠かせない機器となっており、「スマートフォンを使うという普段から慣れた動作でミライロIDを使えるという点でも、とても便利になる」と実感したそうだ。

普段から使い慣れているスマートフォンで便利に使えるため、心理的にも物理的にも負担が軽減されてありがたいと感じたそうだ

 ところで、今回参加した2名とも、今回がミライロIDを初めて使う機会だったという。これまでは、存在は知っていても、使えるところが少ないなどの理由で使っていなかったそうだ。

 しかし、使える事業者がかなり増えたことと、実際にミライロIDを使ってみてとても便利に感じたことから、今後は積極的に使っていきたいと話す。また、「これまで障害者は、選択肢が狭まることはあっても拡がることはほとんどなかった。でもミライロIDは便利に使えるだけでなく、クーポンや障害者向けの情報も表示されて、選択肢が拡がるツールにもなると思う」とも指摘。そして、「障害者は横のつながりが強いので、多くの人が使うように積極的に広めていきたい」と笑顔で答えてくれた。