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三菱スペースジェット、前進を強調。ベラミー氏「信頼の回復には成果を出すしかない」

2019年12月20日 実施

三菱航空機株式会社 最高開発責任者 アレックス・ベラミー(Alex Bellamy)氏

 三菱航空機は12月20日、名古屋で定例会見「Quarterly Update(四半期アップデート)」を開き、同社が開発を進める国産ジェット旅客機「三菱スペースジェット M90」(旧称MRJ)の現況を説明した。

 会見の冒頭で代表取締役社長の水谷久和氏は2019年を振り返ると、6月にはパリ航空ショーでスペースジェットへのリブランドを発表し、10月には日本経済新聞による納入延期報道に対して親会社の三菱重工業とともに声明を出したことなどに触れ、「本日は皆さんが驚くような報告があるわけではない」と前置きしつつ、2019年末までの同社とスペースジェットの進捗について説明したいと続けた。

 なお、量産に移るための型式証明(TC:Type Certificate)の取得進捗や、製造中の次の飛行試験機(10号機)の状況については明言しなかった。

会見する三菱航空機株式会社 代表取締役社長 水谷久和氏
スライドの前で2019年を振り返る水谷氏

 最高開発責任者のアレックス・ベラミー(Alex Bellamy)氏は、2008年にMRJを事業化、その後2017年までに5度の納入延期があったことを振り返った。2008年当時の設計はTC取得を前提としていたが、実際にはさまざまな不足があることを認識し、機体の配線やアビオニクスベイ(航空機の制御装置の格納場所)の変更に踏み切った。同時に、公開していなかった広範な設計変更が必要であることが判明し、2017年から2019年の間に900件以上の改良に取り組んだという。

 ベラミー氏は、2016年の時点では組織全体が経験不足であり、製品の設計も市場の要求に最適化されていなかったと認める一方、示したスライドには、2019年1月に設計変更中の試験機のなかに5000か所以上のブラケット設置する様子、6月に配線・艤装を進める様子、この12月には完成間際であるという写真も含まれており、プロジェクトが前進していることを強調した。

 会見終盤の受け答えのなかでは、「2008年時点の設計でTCを取得するつもりでいたが、実際にはそこに至らない、プロトタイプに過ぎなかった。5度目の延期と再設計でTCに向けて改めて舵を切ったが、チャレンジは多くあり、信頼を回復するためにはパフォーマンスを発揮して、成果を出すしかない。我々の製品は学んだことに基づいて作るものであり、どの会社も最初の設計で結果を出せるような業界ではない。これまでの教訓を活かして前に進むしかなく、これからも学ぶことになる」と述べ、現状への理解を求めた。

ベラミー氏の示したスライド

 市場予測については海外営業部長 デイビット・バロー(David Barrow)氏が引き継いだ。三菱航空機は、今後20年間でリージョナルジェット市場において(置き換えなどで)5000機を超える需要があるとたびたび説明しているが、バロー氏も改めてこの点に触れ、同社の予測と第三者による予測がほぼ一致していると展望を述べた。

今後20年の市場予測
三菱航空機株式会社 海外営業部長 デイビット・バロー(David Barrow)氏

 なお、競合と目されるエンブラエルの175-E2型機が12月12日(現地時間)に初飛行を成功させたことについては、標準仕様で88席のE175-E2型機もスペースジェット M90と同様に米国のスコープクローズ(航空会社とパイロットの労使協定で、ジェット機パイロットの職域を侵さないようにリージョナルジェットの座席数に上限など設けるもの)の制約を受けるもので、同社がプログラムローンチを目指している「三菱スペースジェット M100」への影響については、「驚くような変化があったとは思わない」と水谷氏。バロー氏も「北米が最大の市場であり、北米で通用する機体であることが重要」と補足した。M100は70席クラスであり、スコープクローズの制約を受けないが、その進捗については「説明できるときが来たら」という表現にとどまった。

パリ航空ショー2019に展示した三菱スペースジェット M90