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阪神高速、4号湾岸線リニューアル工事を現場公開。「IH式舗装撤去工法」で古い舗装を剥がす

2019年11月20日~30日 リニューアル工事

「IH式舗装撤去工法」により古い舗装を剥がす工程を公開

 阪神高速道路は11月30日まで、4号湾岸線でリニューアル工事を実施している。この工事は交通規制および通行止めを伴うもので、11月20日4時~11月30日6時にかけて南港北IC(インターチェンジ)~大浜IC間が終日通行止めとなっている。

 またこの区間に接続する6号大和川線の三宝JCT(ジャンクション)~鉄砲ICも利用できない。通行止め初日の11月20日には周辺道路や高速道路への迂回による交通渋滞も発生しており、阪神高速では「自動車の利用を控える」「利用時間を(交通量の少ない時間帯に)変更する」「迂回乗り継ぎルートを利用する」といった対策を呼びかけている。

Webサイト: 阪神高速4号湾岸線 リニューアル工事

4号湾岸線の大規模リニューアル工事により11月20日から30日まで終日通行止を実施
迂回乗り継ぎルート
阪神高速4号湾岸線のリニューアル工事。「IH式舗装撤去工法」により古い舗装を剥がす工程を公開

 リニューアル工事を実施中の4号湾岸線 南港北IC~大浜IC間は、1982年に開通して以来37年が経過している。同区間の大半は橋の道路床面に「鋼床版」を敷き、その上にアスファルト舗装を施しているが、大型車の通過による繰り返し荷重によって、鋼床版を支える「Uリブ」と呼ばれる構造部に疲労亀裂などの損傷が多数発生しているという。また、舗装面にも「ポットホール」(舗装が剥がれてできる穴)や亀裂などが多く見られる。

ポットホールと呼ばれる舗装面の穴
舗装面のひび割れ
舗装面のひび割れに樹脂を流し込んで補修した跡
舗装の一部をはぎ取って再舗装した跡。これらはいずれも応急的な処置であり、いずれ大規模な補修が必要

 今回のリニューアル工事は、大規模な補修工事を行ない鋼床版の疲労耐久性を向上させるとともに、長寿命化を図り、快適な走行性を確保するという目的で実施する。なお、同区間では1999年(南港南~三宝)と2001年(南港北~南港南)に大規模補修工事を実施しており、それ以来約20年ぶりの工事となる。通行止めを伴う工事を開始した11月20日午前に、三宝JCT~南港南での工事状況を報道陣に公開した。

三宝JCTから南港南方面(北方向)の工事
三宝JCTから大浜方面(南方向)の工事

 見学した工事は、「IH式舗装撤去工法」。鋼床版の上に載っているアスファルトを剥がす工程で、原理としては家庭用のIH(電磁誘導加熱)クッキングヒーターと同じものだそう。

 約75mm厚のアスファルトの下にある鋼床版を60℃~90℃まで発熱させ、鋼床版と舗装をつないでいる接着層を軟化し、重機で舗装をめくりあげて剥がす。もちろん、アスファルト舗装の下に鋼床版がある道路でのみ有効な方法である。

 従来は振動によりアスファルトを砕いて剥離する方法などが用いられていたが、この方法なら振動や音を抑えることができ、沿道への迷惑を極力抑えることができるという。なお、工事全体は24時間行なっているが、夜間はこうした作業を停止して、照明の設置などほとんど騒音を出さない工事のみを行なっている。

「IH式舗装撤去工法」の説明のあと、現場を見学
緑の直方体のものがIH機器で、剥がした舗装の下に見えているのが鋼床版。この鋼床版を直接発熱させることで、舗装の接着剤を剥がしアスファルトを柔らかくする
舗装を剥がす油圧ショベル。先端はブレーカ(ハンマー)でも一般的なバケットでもない
バケットの先端が尖った爪になっており、舗装を持ち上げたり引きずったり爪で割ったりできる
舗装を剥がし折る
爪を剥がした舗装に挿し込んで引きずり出す

 作業にあたっていた光工業 工事部の玉井禎一氏によると、4号湾岸線リニューアル工事には計4ユニットが投入されているとのこと。1時間で1車線分の舗装を約15m剥がすことが可能で、工事が静かになったのはもちろん、振動を抑えた作業になるため鋼床版への負荷も少なく、さらに作業ペースも従来工法より5割程度向上しているという。

 玉井氏は、導入数の関係で現在はまだアスファルトを直接切削するなどほかの方法が主流だが、今後はこの「IH式舗装撤去工法」の割合が増えてくるのではないかと話した。

路面表面温度と、IHにより発熱した鋼床版の温度。玉井氏は「熱すぎず冷たすぎない温度にすることが必要」と説明
鋼床版が冷たいと、このように簡単に舗装を剥がすことは不可能だという

 なお、従来の施工は、下から鋼床版+接着剤+アスファルト舗装だが、今回は新たにSFRC舗装を導入しており、鋼床版+接着剤+SFRC(鋼繊維強化コンクリート)舗装+防水層+アスファルト舗装となる。

 SFRCは剛性が高く、また気温の変化にも強いため、大型車が繰り返し走行しても鋼床版の変形を小さくすることができる。鋼床版を下から支えている「Uリブ」への亀裂発生も抑えることができるなど耐久性を向上させ、長寿命を実現するという。

右車線はSFRC打設済で、この上に防水層、アスファルト舗装が施工される。中央車線は「IH式舗装撤去工法」で剥がしたアスファルト舗装。左車線は作業車両の通行用に残してあり、未施工の状態
移動中の車両の中から、アスファルト舗装の切削の様子も見られた。切削車が舗装の表面を削りながらゆっくり前進、削ったアスファルトはそのまま前方のダンプトラックに積み込まれる
積みこぼしたアスファルトを集塵する
工事中も道路上は一方通行。工事区間の両端はこのように中央分離帯のコンクリートブロックが取り外され、車両はここを経由して上下線間を渡る
すでに舗装が完了し白線も引かれたレーンを移動する。トラックが停車している車線は未施工
大和川橋梁での工事の様子。左右の車線は舗装表面を掘削済み

 このリニューアル工事について、阪神高速 管理本部 大阪保全部 保全管理課 主任の池本佳代氏が報道陣の質問に対応した。池本氏は湾岸線の開通から35年以上が経過していることや、大型車の交通量が多いという事情に触れ、道路の損傷が多く、対策が必要となっていたと状況を説明。特に「鋼床版を用いている区間について、強い高速道路にしたうえでお客さまにご利用いただけるようにします」と話す。

 IH式舗装撤去工法については、「近隣の住民の方にも騒音を抑えた工事を心がけております。IHの機械を使うことで、通常よりも低騒音で工事ができます」と導入の意義を強調した。

 また、通行止めを伴う工事については、「毎年どこかの路線で、(通行止めを伴う)大規模な工事を行なっています。今回も10日間通行止めは続きますが、長期間車線規制を行うよりも総合的に影響が少ないと判断して実施しております。ぜひご理解とご協力をお願いしたいと思います」と話した。

阪神高速道路株式会社 管理本部 大阪保全部 保全管理課 主任 池本佳代氏

 なお、リニューアル工事では、上記のほかに「高耐久排水性舗装」や、慢性的な渋滞発生区間への「速度回復誘導灯」の設置、南港JCTでの車線構成の見直しによる安全性の向上と渋滞対策、分岐部などでのカラー舗装や案内標識の充実、現在建設中の大和川線全線供用(2019年度末)に向けた設備や標識の設置なども並行して行っており、完了後はこれまで以上に強じんな湾岸線に生まれ変わる。