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大丸心斎橋店、86年ぶりに建て替えた本館がついに開業。旧本館から復元した内外装を見てみた
2019年9月20日 13:18
- 2019年9月20日13時 開業
かねてより建て替え工事を進めていた大丸(大丸松坂屋百貨店)心斎橋店本館が工事を終え、9月20日13時にグランドオープンした。これに先立ち、9月18日にプレス内覧会を行なった。
大丸は、京都・伏見に1717年に開業した老舗百貨店。心斎橋で呉服屋を開業したのは1726年で、以来302年間にわたりこの地で営業を続けている。先代の本館建物はウィリアム・メレル・ヴォーリズ設計の名建築としても知られ、86年間にわたって心斎橋の顔にもなってきた。その本館が生まれ変わるとあって、内覧会には多くのメディアが参加した。
外観と1階、7階にはかつての雰囲気も復元
大丸心斎橋店本館は、ヴォーリズ建築の外観がひときわ目を引いていた。新本館では、ヴォーリズの内外装をなるべく復元するとともに、今後100年使用できる商業ビルとしての空間づくりを行なっている。
新本館は10階建て(地下2フロアも合わせて全12フロア)。1階から7階までの外壁に旧本館の石積をそのまま使用し、外観はこれまでの面影を色濃く残している。それに対して8階以上は未来的なデザインとすることで、新本館の個性が埋没しないように工夫。旧本館屋上にあった「水晶塔」は7階にそっくりそのまま復元され、誰もが見学できるようなテラスも設けた。
内装では1階がヴォーリズの名建築をもっとも色濃く保存・再現している。当時の装飾と現代の鏡面天井を組み合わせた圧倒的な美の空間は、ここでしか味わえない雰囲気だ。特にエレベーターホール付近には旧建築の部材を使用した部分が間近に見られるので、大丸心斎橋店を訪れた際はぜひ立ち寄りたい。
1階フロアのヴォーリズデザインの再現について、施工を担当した竹中工務店 大阪本店設計部 設計第4部長の松本伸洋氏に話をうかがった。氏は、「旧本館から1254ピースを外して保管しており、うち67%を再利用しています。現在の商業ビルの空間にあわせて、柱間も旧本館の6mから8.5mに広げていますが、取り外したパーツをそのまま組み合わせるだけでは足りなくなります。そこでその部分は新造して対処しました。また、石膏製の装飾などはガラス繊維を加えたもので作り直すなどして強度も増しています。さらに天井のシャンデリアは、旧本館の建設時にあったものですが、これは当時の写真をもとに復元しました」などと語った。
また、ストアデザインを担当した大丸松坂屋百貨店 本社営業本部の森田徹夫氏は「“ヴォーリズの継承と創造”をテーマにデザインを練り上げました。エスカレーターやエレベーターホールは、100年間変わらないエターナル空間として仕上げ、売場は時代に合わせて変更していける設計としています。1階のクラシカルな装飾と鏡面天井の融合、かつて屋上にあった水晶塔をそのまま7階に再建したものなど、随所にかつての面影を残しています。86年間継承されてきた愛を感じていただきたいですね」と述べた。
7階は旧本館の屋上にあたる。かつての大丸心斎橋店の趣を残すため、ここには旧本館から「水晶塔」がそのまま移築されたほか、8階以上のフロア面積を少し縮めて建物全体の一体感をあえてスポイルしている。こうして7階部分にできた空間は「心斎橋ひとときテラス」と位置付け、憩いの場に仕上げた。この開放的なエリアにはカフェが設けられ、都心部の緑の空間でリラックスできる。また、フロア内への外光の採り込みにも一役買っているようだ。
エスカレーターがおもてなし空間へ
1階から10階までのエスカレーター部分には、伝統と最新技術を融合させたシンボル「D-WALL」を設置した。これはライゾマティクスの有國恵介氏が手掛けたもので、高さ約50m、幅約4mの巨大LEDモニター装置の前面にヴォーリズ建築の伝統に由来する彫刻を格子状に組んだもの。これにより、エスカレーターに乗っていると、ゆっくりと壁面に光の模様がみえはじめ、やがて明るく広がっていき、そしてまた見えなくなっていく。エスカレーター部分をそのまま新たな環境演出スペースにしたというこの取り組みは、もちろん世界でも最大のものだ。表示される映像は、季節や時間帯によっても変化していくという。
有國氏は「ステンドグラスを現代技術を用いてアップデートしたような新しい見せ方で、単なる移動空間だったエスカレーターをおもてなしの空間に仕上げました。大丸心斎橋店では買い物だけでなく、その空間も楽しんでいただきたいです」とコメントしている。
また、常設ではないが、本館のグランドオープンを記念し、1階ホールには彫刻家 名和晃平氏による「鳳/凰」を10月11日まで展示する。実はこの「鳳/凰」については、少し逸話がある。1925年の大丸心斎橋店(2期工事)竣工時、心斎橋川の中央玄関の上には陶製の「孔雀」が掲げられ、長らく大丸のシンボルとして孔雀が使われてきた。しかしこの孔雀は、当時の大丸社長が「フェニックス」を発注したものが、なんらかの事情で孔雀になったという。つまり今回は“復活の「鳳/凰」”というわけだ。このいきさつと名和氏の略歴については、鳳凰の台座にも書かれている。非常に精巧で美しく輝いているので、展示期間中に見ておきたい。
5つのフィロソフィとそれを具現化したフロア
大丸心斎橋店本館は、売場面積約4万m 2 で旧本館より3割程度広くなっている。全部で368の専門店が開店(※2019年9月20日現在)し、そのうち新業態は47店舗、関西初出店は41店舗。最新のトレンドが結集した文字どおりミナミのランドマークとして生まれ変わった。それは従来の百貨店のイメージをも大きく変えるもので、時代の流れに合わせた新たな挑戦とも言えるものだ。店内は今回新たに策定した「5つのフィロソフィ(提供価値)」に基づき、それを具現化したフロア構成となっている。
9階「ローカリティを極め、グローバルに発信する」
9階は北館とつながるフロアで、日本が世界に誇るポップカルチャーが集合したグローバル拠点となっている。なかにはカフェ併設のショップもあり、その世界観にゆっくりと浸ることができる。外国人観光客が特に多いミナミに外国人にも人気のコンテンツができたことで、さらなるインバウンドにも期待できそうだ。
1階、B2階「顧客がメディアとなるような、ドラマチックな世界観を演出する」
1階はヴォーリズ建築のレトロな世界観が醸す圧倒的な美の空間であることは前述のとおり。
B2階は“心斎橋フードホール”と位置付けた食の空間だ。洗練されたNYスタイルをイメージしたライブキッチンで、ソムリエがオススメのドリンクを提供するなど、百貨店クオリティのフードホールを目指している。
フードホールでは、料理の注文、提供にも新たな方法を導入した。席についてからスマートフォンで料理を選んで注文、決済し、料理ができたらとりにいくだけという画期的なもの。これにより、席を確保してから交代で料理を注文しに行ったり、フードホール内を歩き回って料理を選んだりといった手間から解放されるため、子供連れやグループ、荷物が多い場合などにもスマートに食事が楽しめる。システムを開発したプットメニュー取締役の中山朝之氏によると、大阪では初の展開だという。9月20日時点でフードホール内の大半の店舗が対応している。なお、B2階のBluetooth網を利用するため、例えば建物外からの注文は不可能。また、従来どおりにレジでの注文、現金決済も可能だ。
また、世界初の試みとして、リカーショップGRAND CERCLE(グランセルクル)がSAKELAVO(酒ラボ)、一般社団法人酒類総合情報センターと提携した好みのワインを探すシステムも興味深い。これは、赤白それぞれの「味わい探しの基準ワイン」を口に含み、それを基準として、味覚センサーを用いて甘口・辛口、軽さ・濃さとコクのマトリクスに位置付けたワインを見つけ出すというもの。例えば、「少し軽めでかなり甘口のワイン」なども視覚的に見つけられ、さらに価格帯で絞り込むことも可能。SAKELAVO代表の坂下慧志郎氏は「例えば、普段口にするワインや贈答用のワインなどを選ぶ際も、その人の好みや値段によって視覚的に選びやすくなります」と話す。
フロア全体「目利き力で、有名無名に関わらず、正当性の高い商品を提供する」「次世代のアーツ・アンド・クラフツを育む」
総店舗数368店舗、うち新業態47店舗、関西初出店41店舗。フロアごとのコンセプトに合わせた空間づくりや、特別な体験ができる新業態の店舗など、ここにしかない体験も多く用意されている。
2階から6階はファッション、ラグジュアリーファッション、シューズ、ジュエリーをゾーニング。新業態、関西初の店舗も多く、またITなど最新技術の導入により、従来よりも魅力的な商品提案を行なうショップも目に留まった。
例えば5階の「ワコール3D smart&try」。全国で2店目、関西初出店となる同店では、測定室で3Dボディスキャナを使用し、わずか5秒で全身19か所のサイズを測定。タブレット端末を操作して、体型データや好みのデザインや色、悩み、シルエットなどを選んでいくことで、接客AIが数多くの下着からその人に合う品を提案する。商品はその場で購入することも可能だが、データをカードにプリントして持ち帰り、QRコードを読むことでどこにいても同社販売サイトを介して購入できる。
また、8階の「@aroma store」は関西2店舗目の出店。エスカレーターホールに隣接しておりフロアを訪れるだけで心地よい香りに包まれる。店内ではデジタルパネルを操作して複数の香りを瞬時に調合するアロマオイルブレンダーを使用、香りのシャワーを浴びるといった体験も可能だ。
9階は日本の食文化を世界に発信するフロア。創業130年の老舗「京都祇園 天ぷら圓堂」も大阪初出店。外国人観光客にも人気が高い天ぷらを中心とした会席料理が大阪の中心地で味わえる。店内は和のしつらえにこだわっており、贅沢な時間を過ごせそうだ。
今回の大丸心斎橋店グランドオープンにあたって、店長の西坂義晴氏がインタビューに応じた。西坂氏は冒頭で関係各位に謝意を表わしたあと、改めてコンセプトである「Delite the World -世界が憧れる、心斎橋へ。」とそれを具現化するための「5つのフィロソフィ」を説明。「大丸心斎橋を訪れたすべての人々の物語の舞台となる店を目指しております。大丸心斎橋店でしか体験できない、驚きや発見、高揚、予感を感じていただきたい。そして、そういう体験ができるお店だということを世界に発信していきたい」と述べた。
また、これからのお店は百貨店という狭義の定義ではなく、リアル店舗としてネットにも負けない存在感が必要と考えてフィロソフィを考え、お客さまにどのような価値を提供できるかを突き詰めながら、店舗づくり、環境サービス、商品づくりを進めてきたと話し、「お客さまには、大丸心斎橋店ならではの価値をぜひ体験をしていただきたい」と結んだ。
大丸心斎橋店は創業300有余年。歴史の節目での開発プロジェクトは現在も進行中で、今後は北館もリニューアル工事に入り、2021年春のグランドオープンを目指す。本館のグランドオープンはこの通過点であり、“新・百貨店”大丸心斎橋店の挑戦は今後も続く。