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2018佐賀インターナショナルバルーンフェスタ開催。毎年バルーン競技に参加するキャセイパシフィック航空のフライトに密着してみた
2018年11月2日 15:13
- 2018年10月30日~11月4日 開催
毎年11月の初旬に開催される「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」。日本だけでなく海外からの参加も多く、さまざまなクラスに分かれて合計100以上の熱気球が会場である嘉瀬川を起点に飛び立ち、佐賀平野上空で技を競う。
このバルーンフェスタ、イベント内で競技が複数行なわれており、パシフィックカップ、熱気球日本選手権(今回は第35回。日本人のみ)、熱気球グランプリ(今回は第4戦)、バルーンファンタジアなどと4クラスが存在している。
熱気球には、企業ロゴが入ったのものや立体的なキャラクターなどユニークなタイプと、バリエーションに富んでいることも特徴で、特に会期中の最後の2日間、夜間には「ラ・モンゴルフィエ・ノクチューン(夜間係留)」と呼ばれる生演奏とバーナーに灯され発光する熱気球との共演も見ものとなっている。
とにかく広大な敷地を使って行なわれるため、5日間の会期中、毎日熱気球が目指すゴールポイントも違う。風向き次第では市内中心部の上空がルートとなることもあり、佐賀市民にとっても一大イベントだ。この時期だけ、会場の敷地内を通るJR長崎本線に臨時駅「バルーンさが駅」が登場する。
このイベントにキャセイパシフィック航空が競技に参加、しかも企業としてはすでに20回以上もの参加実績を誇っているという。今回操縦するパイロットは、日頃エアバス A350型機のシニアトレーニングキャプテンを務めている人物。そのフライトに密着してきた。
早朝、ローンチエリアから一斉に飛び立つバルーンを眺めつつ、自チームのゴンドラを組み立て
会期中、競技は1日に2フライトすることとなっており、大会運営による事前ブリーフィングで「ターゲット」と呼ばれるゴールが設定される。そのターゲットに「マーカー」と呼ばれる砂袋を投下し、着地したポイントとの距離の短さ(正確さ)を競う。基本的に熱気球は風向きそのままに進むので、その日の風下方面にターゲットが設定される。
取材日は会期2日目(11月1日)だったが、初日の午後はフライトがキャンセルされたという。風速4~5m/sでは競技中止となるとのこと。
会場のローンチエリアに到着すると、違うクラスのバルーンが一斉に飛び立っていくタイミングだった。多くのバルーンがターゲットに向かってゆっくりと向かっていく様子はかなり貴重といえる。この時期、道端で立ち止まって上空のバルーンに手を降って応援する様子が街のアチコチで見られる。
さて、キャセイパシフィック航空のバルーンチームだが、車両待機場所からローンチエリアへの移動が許可され、まだバラバラの状態のゴンドラをサービスカーから下ろし、組み立てをはじめる。ゴンドラの上には2基のバーナーをやぐら状に組み上げ、芝生に熱気球のエンベロープと呼ばれる巨大な袋を伸ばしていく。エンベロープを膨らませていくことについては、なんとなく想像できるが、最初から熱気で膨らませていくわけではなく、大型のブロアーである程度まで膨らませていた。
エンベロープは地面に横たわるように引き伸ばされているので、ゴンドラも横倒しの状態から膨らませることとなる。ブロアーからバーナーに切り替えると、その熱気で球体ができあがっていくが、いきなり熱気を入れるとバラスト(重り)役でもある搭乗員がゴンドラに居ない状態なので、簡単に浮き上がってしまい危険だという。
今回、操縦するバルーンパイロットは、参加15回目を迎えたブラック・ナイジェル氏。19歳から航空機の操縦をはじめ、総飛行時間は2万2000時間、約40年以上の経験を誇るベテランパイロット。キャセイパシフィック航空ではシニアトレーニングキャプテンを務めており、現在はエアバス A350型機の社内トレーナーとのこと。
音もなく佐賀平野へテイクオフ。風と一緒に動く熱気球は上空でも静か
当初、地上から撮影し競技後にインタビューという段取りだったが、「せっかくですし乗りませんか?」とお誘いを受け、急遽フライトに同行することに。筆者は熱気球初体験&高所が苦手ということで、どうなることやら、と緊張していたが、ゴンドラは静かに浮き上がった。
熱気球を自分で操作できるのは上昇と下降だけ。上空で風の流れを読み、ターゲットに向かう風が流れている高さまで行く。高さによって風の向きが変わり、また時間が経過するごとに角度も変わるので、ほかの熱気球の動きなども確認しながら、自分の道を探っていく。
早朝の佐賀平野を上空から眺める経験は、そうあるものではない。そして飛んでいる熱気球を上から見る機会もそうないだろう。時折、バーナーの「ゴーッ」という音がする以外は、風切り音などまったくしない。もともと飛行できる条件が風の弱い状態、かつ流れている風に押されているのでゴンドラ内は、ほぼ無風・無音状態。風力が弱ければ熱気球の進むスピードは遅く、飛行時間も長くなる。
パイロット以外の同乗者が周囲を見回して、ほかの熱気球と接触しないか見張る必要がある。ゴンドラの四隅には燃料に使用するプロパンガスのボンベが固定されているが、フライトの途中でバーナーとつながっているホースをつなぎ直していた。ちなみに1本はスペアとして使用する。
そうして50分ほどゆったりとしたフライトを楽しみ、ターゲットに近付くと同時に降下。ブラック氏がマーカーを準備し、ギリギリまで近付いて投下した。そのころには風向きも反対から吹いており、スタート方向に戻る方向に進む。無線でサービスカーと連絡を取り合い、着地ポイントに向かう。着地作業は収穫の終わった田畑などの平地をめがけて高度を下げていく。
着陸しても、エンベロープの中はまだまだ浮力たっぷりの状態なので、スタッフ全員でゴンドラを押さえつけないと動いてしまう。田畑の広さを活かして撤収作業となるが、私有地であるため立ち入った田畑の所有者に事後承諾ではあるが、報告と書類にサインをもらうようになっている。刈り入れが終了している時期(上空から見て茶色いゾーンを目指していく)ということで街全体がバルーンフェスタに協力していることが分かる。
ギャラリーも県内外からやってくるとのことだが、気軽に競技者に話しかけて、ときには撤収作業を手伝ってもらうシーンも当たり前になっているという。こうして早朝のフライトは終了した。陽が昇る前の時間は、風も穏やかで飛行時間が比較的伸びる傾向にあるとか。太陽が昇りきると大気の滞留も活発になり、状況が変わるようだ。今回は、バルーンの動きも終始おだやかな挙動で、ゴンドラが揺れることはなかった。
パイロットとして15回目の参加となったブラック・ナイジェル氏に聞く
「92年にバルーンクラブを紹介され、最初の4~5年はグランドクルーとしてサポートしていました。それから上空でパイロットをサポートするコ・パイロットになり、95年にライセンスを取得しました。佐賀の大会は100時間以上の飛行経験が必要なので、97年から自分で飛ばせるようになりました。しかし、まだ400時間ほどしか経験はありません。参加しているパイロットのなかでは少ない方ですね。
航空機は17歳でライセンスを取得して40年以上飛んでいるので、2万2000時間くらい総飛行時間はあるんですけどね。19歳でオーストラリアのダーウィンでインストラクターをしていました。自動車の免許取得もそのころ取得したので飛行機の方が早いくらいです(笑)。
そして21歳のときに航空会社のパイロットになりました。キャセイには91年に入り27年ほど経ちましたが、2万時間を超えるのは2000人のうち100人くらいだと思います。現在シニアトレーニングキャプテンとして教える立場ですが、入社から10年経ったころ、キャセイからオファーを受けてなりました。私もトレーナーになりたかったのです。
エアクラフトとバルーン、共通することはやはり『安全』です。それができて、初めて楽しむことができる。違いは、バルーンはセンシティブで風を肌で感じながら高さを変えたりするので、常に考えなければいけないものです。そうした経験が最新の航空機でも活かせることがあると思います。そしてそれをトレーナーとして伝えることができます。
今日のフライトは、正確に飛ぶことができ、ターゲットに近付けました。たった50フィート違うだけで風が変わるとてもセンシティブな競技ですが、よい結果で終われるフライトはうれしいです。キャセイでの乗務でもこうした経験を活かして、安全で快適なフライトをしようと心掛けていますので、ビジネスや旅行問わず、私たちが提供する快適なフライトを体験していただきたいですね。常に最新の機材を導入するのもキャセイの特徴といえます」とコメントしてくれた。
バルーンが飛んでいない時間でも、充実の飲食店が立ち並ぶ
さて、佐賀インターナショナルバルーンフェスタの楽しみは「テント」や「ステージ」にもある。まず、駐車場から先が見えないほど続く屋台。どこでお腹を空かせていても大丈夫なラインアップ。ステージのあるテントや、地元特産品が販売されているバルーンモールなど、とにかく飽きさせない。
大型ビジョンのある屋外ステージでは、常に催し物があり、会場内のモニターに中継の様子が映し出されている。マイカーで来場する際は、周辺にも駐車場が用意されているが、一律で1000円の環境整備協力金が必要となる。また鉄道を利用する際は、JR長崎本線の「バルーンさが駅」で降りることとなる。会期中の特別ダイヤを確認してでかけよう。