ニュース

JAL、新LCC設立会見。中長距離路線でジェットスターと差別化、マイレージ利用は検討

「引き算ではなく、まったく新しいものを組み立てていく発想が大事」と赤坂社長

2018年5月14日 発表

JALは成田空港を拠点とした国際線中長距離LCCの設立と、2020年サマースケジュールからの就航を目指すことを発表した

 JAL(日本航空)は5月14日、東京・天王洲の本社で会見を開き、LCC(ローコストキャリア)の新会社を設立し、2020年のサマースケジュールでの就航を目指すことを発表した。

 JALが2011年にカンタス航空らと設立したジェットスター・ジャパンが国内線と短距離国際線のLCCであるのに対し、新会社は成田国際空港を拠点とした中長距離国際線のLCCとして、JALの既存路線とすみ分けながらアジア・欧米などに展開していく。

「FSCからの引き算ではなく、まったく新しいものを組み立てていくという発想がLCCでは一番大事」

日本航空株式会社 社長執行役員 赤坂祐二氏。2018年6月の定時株主総会以降は、代表取締役社長となる

 会見でJAL 社長の赤坂祐二氏は新会社の概要を説明した。新会社は成田空港を拠点とし、アジアや欧米などの中長距離国際線に就航。当初はボーイング 787-8型機2機を使用して、成田空港の機能強化が予定されている2020年のサマースケジュールでの就航を目指して調整を進めていく。この787-8型機2機について、JAL所有の機材を転用するか、新規機材になるのかは未定とのこと。

 新会社の設立の背景は、近年の旅行に対する価値観の多様化にあるという。中長距離のLCCという新たな選択肢を提供することで交流人口を増加させ、日本政府が2030年に6000万人という目標を掲げている訪日外国人増加促進の一翼を担っていきたいと語った。2020年に訪日外国人4000万人という目標があるが、そこから10年でさらに2000万人を上積みするには、近距離からの新規やリピーターだけではなく、広くアジア圏や欧米から観光客が気軽に日本を訪れるようになる必要があるという考えだ。また、JALの既存の国際線はビジネス層が多いが、価格志向のプライベート旅行をメインターゲットにしていくとのことで、「需要喚起」によって新しい旅行者、新しいJALグループファンを増やしていく。

 新会社は、JALの「中期経営計画2017-2020」で掲げている「事業領域を拡げる、新たな領域」事業の1つという位置付けであり、FSC(フルサービスキャリア)のJAL、国内線と短距離国際線のLCCであるジェットスター・ジャパン、そして中長距離国際線の新会社と展開することで、グループの今後のさらなる成長を実現していくという。

「JALの社長に就任して初めての施策の発表でして、挑戦と成長をキーワードにする中期経営計画をスピーディに積極的に実行していきたいと思っています。LCCの中長距離は技術的にもそう簡単ではないと思っていますが、JALグループが長年培ってきた経験と、成田空港というホームグラウンドであることを活かして、お客さまに安全で快適な新しいLCCモデルをご提供できるようにがんばってまいります」と語った。

 短距離国際線のジェットスター・ジャパンを拡大して中長距離へ対応するのではなく新会社を設立する理由は、「広大なエリアをカバーすることは、技術的にかなり大きな違い」があり、機材が大型化することで設備や整備などの条件も増え、「高度なオペレーション技術が背景にないと運用は難しい」という。そこで国際線の短距離はジェットスター・ジャパン、中長距離は新会社と分けることに至ったとのこと。

 新会社設立にあたっては、FSCのJALがLCCをやろうとしたときに、「FSCからの引き算ではなく、まったく新しいものを組み立てていくという発想がLCCでは一番大事」であり「それが事業の成功のカギになる」と述べた。

既存の787型機から「40~50%ほど座席数は増える」、マイレージ利用は「検討に値すると思っている」

日本航空株式会社 常務執行役員 経営企画本部長 西尾忠男氏

 JAL 常務執行役員 経営企画本部長の西尾忠男氏が、新会社についてさらに詳細を説明した。新会社設立にあたっては、準備会社を2018年7月に設立予定。ブランド名は検討中だが、FSCとは違う層を狙っており、イメージが混同する「JALや鶴丸と重なってしまうようなもの」は避け、あくまで別ブランドであることが分かるようなものにしたいという。

 JALの連結子会社となるが、「新会社はお客さまに合ったバリュー、ニーズに応えるためにはさまざまなパートナーが必要と考えている」ため、出資者は航空など分野にこだわらず幅広く募っていきたいと語った。

JALの西尾忠男氏がスライドとともに新会社について説明した

 新会社のターゲットは、「競争の激しい短距離国際線ではなく、他社があまり参入しておらず、価格のみで顧客の支持を得ることが難しい」と思われる中長距離路線。東京を中心に就航可能エリアの円を描いたときに、ジェットスター・ジャパンはナローボディ(単通路)のエアバス A320-200型機(航続距離約4800km)が届く範囲、新会社は787型機(航続距離約1万4800km)が届く範囲としており、「就航地は検討中」だがアジア全域や欧州、北米などが範囲として図示されていた。

 東アジア、東南アジアの中長距離国際線市場は年平均5%程度で成長しており、そういった成長を取り込めるのでは、欧米では長距離路線は市場規模が大きく安定した成長が見込めるのではないか、そこにあるLCCニーズを開拓していくという。中長距離ということで、LCCとして単に低価格を追求していくだけではなく、JALが長年培ってきた「安全・安心」に、「シンプルで先進的なサービス」を取り入れて、「日本発着の中長距離国際線で、お客さまに新たな選択肢を提供していきたい」と意気込みを語った。

JALのLCC新会社のターゲットエリア

 ビジネスモデルとしては、「魅力的な運賃」「利用客自身がカスタマイズしたサービス」「機材の稼働の効率化」「LCCとしての座席配置」「貨物スペースの販売」などで、FSCと比べて1人あたりの単価を下げつつも利用者数を増やして売り上げを確保していく。

 費用は、FSCでは一律に提供していたサービスを、利用客自身に選んでもらうようにして提供。「デジタル技術を活用した省力化とシンプルなプロセスで、FSCにありがちな間接コスト、人件費、支店コストなどは徹底的に削減」し、「ユニットコストについてはFSCの半分ぐらいを目指していきたい」という。JALの「中期経営計画2017-2020」にある「特別成長投資枠:500億円」から100~200億円ほどが新会社に使われる見込みであり、「3年以内には黒字化したい」と語った。

JALのLCC新会社の売り上げや費用のイメージ

 FSCではプレミアム、フルパッケージ、フォーマル、ラグジュアリーといったイメージがあるが、利用客の価値観の多様化に合わせて、リーズナブル、バリューコンシャス、パーソナルな価値を提供していくという。快適性を犠牲にして低価格のみを追求するのではなく、さまざまなサービスを有料で用意することも検討している。

 JALが運航する国際線での787型機の仕様は2クラスで200弱の座席数だが、新会社の787型機では「40~50%ほど座席数は増える見込み」で、「中長距離なので座席が狭くなるのではという心配もあるかと思いますが、中長距離路線に適した座席配置をしっかり検討していきたい」と語った。新会社の787型機でも座席は1クラスではなく2クラスを想定しているとのことだ。

 JALグループのマイレージ利用については「せっかく貯めたマイルを使いたいという声も出てくると思うし、現状マイルを使った座席が取りづらいという声もあるので、検討に値すると思っている」と語った。

 2020年のサマースケジュール就航というのは、成田空港の機能拡張を目処にしたあくまで目標であり、新会社を設立し、乗務員の採用や訓練、施設の整備などを安全を基本にしつつ進めて、場合によっては延期する可能性もあるとし、「安全・安心、日本の価値で、お客さまの望むバリューを提供する新たなLCCを目指していきたい」と述べた。

FSCのJALと、LCC新会社のイメージ