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JALと外務省、日本初のパスポート発券から150周年を記念したイベントを成田空港で実施

第1号はパリ万博に参加する曲芸団に発券、裏面には“江戸”

2016年10月17日 実施

 外務省とJAL(日本航空)は10月17日、150年前の同日に日本第1号のパスポートが発券されたことを記念した「パスポート発券150周年記念イベント」を、成田空港第2旅客ターミナル3階のSKYRIUM(スカイリウム)で実施した。

 日本で初めてのパスポートは、1867年にフランスのパリで開催された「パリ万国博覧会」に出場する18名の曲芸団「日本帝国一座」に発券されたもの。第1号は「隅田川波五郎」氏に発券された。18名の記録は当時の江戸幕府が保管し、明治維新を乗り越えて現在も外務省に保管されているという。

 イベントでは、この18枚のうち、「亀吉」という人物に発券された「第3号」パスポートのレプリカが展示された。これは1866年10月17日に発券されたの18枚のうち、所持人に渡されたものでは唯一現存するもので、原本は外務省の外交史料館に保管されている。公開されているのはレプリカとはいえ、専門家が集まって、原本に使われている用紙や墨、朱印などにもこだわり、細部まで再現されたというこのレプリカも2枚しかなく、慎重に取り扱われている。実際、外務省の担当者によれば、「外交史料館のスタッフでも見分けがつかないという人がいるほど」の高い再現性とのことだ。

外務省旅券課 上席専門官 青柳芳克氏

 イベントでスピーチした外務省旅券課 上席専門官の青柳芳克氏は、「西暦では1866年、和暦では慶応2年、江戸幕府が海外渡航の禁制を解き、『海外行き許可の認証に関する布告』を出して海外渡航文書の発給事務を開始した。この年の10月17日、つまりちょうど150年前の今日、外務省で保管する最古の旅券(パスポート)が発券された。このパスポートはパリ万博に参加する総勢18名の曲芸団、日本帝国一座に発給された。当時は船旅で、アメリカを経由したとの記録もあるので、さぞや長旅だったことと思う。パリ万博は1867年4月1日から11月3日までフランスのパリで開催され、42カ国が参加し、会期中1500万人が来場したとある。もしかするとパスポートが作られてから、半年程度かけてパリに赴いたのかもしれない」と、日本初のパスポート発給に関するエピソードを紹介。

 当時のパスポートは表面が日本語、裏面が英語で書かれている。裏面の英語の末尾は、当時の政府機関が江戸幕府であったことから、「The Foreign Office Yedo(またはJedo、江戸を表わす) Japan」と書かれている。江戸幕府が海外行き許可の認証に関する布告を出したのが1866年4月7日(旧暦)のことで、大政奉還が1867年10月14日(同)のことなので、2年に満たない期間に発給された、極めて貴重な歴史資料と言えるだろう。

 ただし、150年前は写真がないため、個人を特定するものとして「年齢」「身の丈(身長)」や「眼」「鼻」「口」の形、「両腕に草花の彫り物」といった身体的な特徴が文字で記載されている。

1866年10月17日に発券された、現存する最古のパスポート(表面)
1866年10月17日に発券された、現存する最古のパスポート(裏面)
裏面の末尾に「The Foreign Office Yedo(もしくはJedo) Japan」の記載

 加えて青柳氏は、「パスポートは日本人であることを証明する、国際的な身分証明書であり、その意義は150年前となんら変わらない。所持人の個人情報と、日本政府から外国政府に対し所持人の無事な通行を依頼する内容が書かれている。特に海外旅行中には紛失したり、盗難に遭ったりしないよう、十分にご注意くださいとお願いしている。パスポートがなくなると楽しい旅行も中断される」と注意喚起。

 さらに、外務省が行なっている取り組みとして、海外滞在情報を登録しておくことで、安全情報を登録者のスマートフォンへ自動送信する安全情報配信システム「たびレジ」を紹介。その登録・利用を呼びかけた。

 現在のパスポートについては、「年間1700万人が海外旅行に出かける時代になった。海外旅行の必需品であるパスポートは年間300万冊上作成しており、友好パスポートは3000万冊におよび、国民の4人に1人がパスポートを持っている計算」とのデータを紹介。現在のパスポートは2006年に導入されたいわゆる“ICパスポート”をベースに、2014年3月に導入された「記載事項変更旅券」の発給が始まったのが直近の変更となる。

 この先は、2019年9月にビザ(査証)のページに富嶽三十六景をモチーフにしたデザインを導入することが予定されている。これは24見開きあるビザのページそれぞれで、富嶽三十六景の別々の絵柄を用いるとのことだ。イベントではその一部が展示された。

2019年に導入予定のビザ(査証)ページデザイン
24見開きあるビザページそれぞれに、富嶽三十六景から別々の絵をデザインする予定
パスポートの歴史や、パスポート発券数のデータ。後述の記念品として配布されたパンフレットに同様の内容が記載されていた
日本航空株式会社 成田空港支店長 石橋正二郎氏

 続いてJAL成田空港支店長の石橋正二郎氏が挨拶。「JALは1954年に羽田からハワイ経由でサンフランシスコという国際線を就航させた。60年以上にわたり、国際線のハンドリングを行なっており、その意味では我々の仕事とパスポートは切っても切れない仲」と、外務省と共同でセレモニーを開催した理由を説明。パスポートに携わってきたなかでのパスポートにまつわるメジャーなトラブルを紹介した。

 そこで挙げられたのは、「パスポートを家に忘れてきた」「(新しいパスポートを所持している人が)古いパスポートを持ってきてしまった」「有効期限が切れている」といった窓口のトラブルのほか、飛行機で目的地の空港に着いたうえで「必要な有効残存期間を満たさないために入国できなかった」ということも多いそうだ。

 石橋氏は「旅慣れている方でもうっかり持ってくるのを忘れた、期限が切れていたということがある。海外に行くのは非日常的なもので、どこかで平常心を保つのが難しいのかなと思っている。こういったパスポートのトラブルは空港に来てから気付いても遅かったというケースがほとんど。気付いて家に帰っても間に合わない人は多い。我々の思いは、皆さまが本当に安心して気持ちよく海外に出かけていただけることなので、どうかご旅行、出張に出かける際は、事前に入念にチェックをされて、一息おいてお出かけになることをお願いしたい」と呼びかけた。

 ちなみに、日本初のパスポートがパリ万博への渡航目的であることは先述のとおりで、JALは1961年に羽田~パリ便を就航。イベントでは、当時の制服を着用したCA(客室乗務員)が司会を務めたほか、同日の成田~パリ便の搭乗口で記念品の配布も行なわれた。ちなみに、このときのCAの制服は3代目制服となる。

JALがパリ便を開設した1961年当時の制服(3代目)
成田国際空港株式会社 エアライン営業 遠藤麻美氏

 このほかイベントでは、NAA(成田国際空港株式会社) エアライン営業部 遠藤麻美氏から、NAAとJATA(日本旅行業協会)が、観光庁の後援を得て7月から共同実施しているパスポート取得応援キャンペーン「『旅立て若者!キャンペーン』~海外旅行も国内旅行も成田から~」の紹介も行なわれた。

 これは、「18歳から23歳のパスポート取得率が非常に低い状況のため、海外旅行を応援するために、パスポート取得費用の1万円をこの世代の方々にプレゼントするキャンペーン」(遠藤氏)という、パスポートを新規取得または更新時に、指定の条件を満たした先着500名に、パスポート取得費用の一部として1万円をプレゼントするというもの。

 遠藤氏は「私自身を思い返してみると、初めて海外旅行へ行ったのが家族旅行でのグアムだったが、パスポートを手にしたときに、これで本当にいろいろな国行けるという高揚感があったことを思い出す。パスポートを振り返ってみると、自分がどこの国に行ったのかが分かって思い出になっていると感じる。文化や歴史に触れることで、本当に世界が広がったと思うので、ぜひ若い世代の方々にも同じような経験をしていただきたいと思っている」と若い世代の海外旅行活性化に期待を寄せた。

 この「『旅立て若者!キャンペーン』~海外旅行も国内旅行も成田から~」の概要は下記のとおり。下記の応募条件をすべて満たすことで応募可能。現時点では400名以上の余裕があるとのことで、遠藤氏は「お近くにこの世代の方々がこれから年末にかけて出発する機会があれば、このキャンペーンを紹介していただければ」と呼びかけた。

パスポート取得応援キャンペーン「『旅立て若者!キャンペーン』~海外旅行も国内旅行も成田から~」

対象期間:2016年7月15日~12月31日
応募期間:2016年7月15日~2017年1月15日※先着500名に達し次第終了
応募条件:日本国内在住で、2016年4月1日現在の年齢が満18歳以上、23歳未満であること
応募条件:2016年7月15日~12月31日の期間中、パスポート(日本国旅券)を新規取得か更新すること
応募条件:2016年7月15日~12月31日の期間中、成田空港発着の国内線を利用すること(出発/到着/国際線乗り継ぎ、いずれも可)
応募条件:2016年7月15日~12月31日の期間中、JATA会員旅行会社が扱う成田空港発の海外旅行商品(航空券やツアーなど)を購入して海外旅行へ出かけること(地方発成田空港乗り継ぎも可)
Webサイト:『旅立て若者!キャンペーン』~海外旅行も国内旅行も成田から~(応募用紙のダウンロードなどが可能)

成田国際空港株式会社が、日本旅行業協会と共催しているパスポート取得キャンペーン「『旅立て若者!キャンペーン』~海外旅行も国内旅行も成田から~」。18歳~23歳のパスポート取得費用の一部として1万円をサポートするもの

10月17日のパリ行き便搭乗客に記念品を配布

 パスポート第1号がパリ万博に向かう曲芸団に発券されたことにちなみ、同日の成田~パリ便(JL415便、成田11時40分発~パリ17時10分着)の搭乗ゲート前で、乗客への記念品配布も行なわれた。

 館内アナウンスでも日本初のパスポート発券から150周年の記念日であることや、1961年のパリ便就航当時の制服を着用したCAと並んでの撮影が可能であることなどをアナウンス。

 記念品として、日本最古のパスポートの写真入りクリアファイルのほか、最古のパスポートのコピーと記載内容の紹介、パスポートの歴史などが記載されたパンフレットが乗客に配布された。

パリ行きのJL415便の搭乗ゲートで記念品の配布などを実施
1961年当時の制服を着用したCAとの記念撮影
配布された記念品は、日本最古のパスポートが描かれたクリアファイルや、パスポートの歴史やエピソードが記載されたパンフレットなど
搭乗客に配布
11時45分頃、プッシュバックを開始するJL415便。機材はSKY SUITE仕様のボーイング 787-8型機(登録記号:JA841J)
手を振るように動くワイパーと、ターミナルに向かって手を振る機長と副操縦士
出発準備完了。あいにくの天気のなか、乗客122名を乗せてパリへ向かうJL415便