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ヤマハ発動機、プール事業開始42年で累計6000基のFRP製スクールプールを出荷

6月1日の記念セレモニーと工場見学をレポート

2016年6月1日 開催

FRP製スクールプール6000基出荷記念セレモニーの出荷トラック前にて、写真左から、ヤマハ発動機株式会社 プール事業推進部 営業部長 小川恭弘氏、プール事業推進部長 新子緑朗氏、取締役常務執行役員 ビークル&ソリューション事業本部長 加藤敏純氏、ヤマハプール会長 朝比奈尚希氏、プール事業推進部 製造部長 中島浩和氏

 ヤマハ発動機は6月1日、プール事業開始から42年、20m以上のプールとなるスクールプール生産開始から38年で生産累計6000基目のFRP製スクールプールを出荷。出荷に合わせて記念セレモニーが開催され、社員一同で記念の出荷トラック見送った。同時に報道陣向けにプールを生産する工場の見学も行なわれたので、レポートする。

 FRPは、ガラス繊維強化プラスチックで、硬質発泡剤をポリエステル樹脂とガラス繊維で強化した素材。プールではそれに表面化粧用のゲルコートが塗られている。堅く割れにくく、また腐食しにくく耐久性が高い。ボートやオートバイ、クルマのフェアリング、浴槽などにも利用されている。国内で古くはコンクリート製が主流だったが、近年ではFRP製のシェアが増えてきている。国内20m超FRP製スクールプールシェアでヤマハ発動機は92%という圧倒的シェアを誇る。

 ヤマハ発動機では、プレジャーボートでの技術をもとに1974年3月、循環装置を内蔵した子供用FRPプールの販売を開始。幼稚園を中心に新たな市場を開拓していった。1978年には、静岡県の磐田市立東部小学校にスクールプールの第1号プールを納入。このプールは現在でも利用されていて、FRPプールの耐久性の高さを実証している。

 FRPプールは分解組み立てが可能で、イベントなどの目的に合わせて組み上げ、利用期間が終われば分解して別の場所に移動してリユースできるというメリットもある。

ヤマハ発動機株式会社 新居事務所。静岡県湖西市にあり、浜名湖のほとりになる
事務所の脇には、プールやボートを製作する工場棟が建ち並ぶ
工場の壁に「YAMAHA FRP POOL」の看板
工場を入口から見渡す
工場のすぐそばからは浜名湖が見渡せる
事務所棟ロビーの展示コーナー
幼児用のユニットプールのカットモデル展示。各ユニットをスパナとレンチで接続して組み立てる。シーズン後分解して保管可能
循環式濾過器「スイムフレンド」。100Vで動作し、メンテナンスもしやすい
水中運動用のフラットプール「グランシーナ」。デザインも優れ2013年にグッドデザイン賞を受賞
歩く際に滑らないようにブロックパターンを付けた、スリップレスフロア「アクウォーク」。コースラインは塗り替え不要
ブロックパターンのアップ。しっかりとグリップして素足に優しい作り
ブロックパターンがない標準床(左)とある床「アクウォーク」(右)との比較
FRPを構成する素材
作成に使う工具
写真手前がFRPの断片。奥は繊維で強化していない断片で、手で簡単に割れてしまう。FRPは堅く、割るにはかなりの力が必要
プールのパーツを接続する部分の解説模型。パッキンがあり、ボルトでパーツ同士を合わせるだけで水漏れしない
コンクリート製プールにかぶせてリニューアルできる。新たに作るよりも低コストで新品と変わらないプールになる
「第9回世界水泳選手権大会福岡2001」のキャラクター「ぱちゃぽ」。50m水深3mの国際公認プールをFRP製で組立14日、解体7日という短期間でコンベンションホール内に納入
国内での2015年末までのFRPスクールプール実績
国内プールはFRPとステンレスが二分している。FRP製に限るとヤマハ発動機が国内シェアをほぼ独占

 FRPプールを製作する工場内も見学した。ユニット型準備、ゲルコート吹きつけ、樹脂ガンによる吹きつけ成形、離型、トリミング、仕上げバフがけ、検査といった一連の作業を見ることができた。工場内はかすかに有機溶剤系のにおいが漂う。

 ほぼ手作業による製作で、吹きつけやトリミングは、隔離された作業部屋でマスクなどの防具を着けての厳重な作業だった。フチを削るトリミング作業をするサンディングブースは、削った繊維を吸わないように全身を覆い、頭部を覆うマスクに空気を送り込んで作業をしていた。

 経験に基づく手作業が主体の状況だが、今後は射出成形機材により機械化していくことも研究中だとのこと。

工場の内部
型を製作するエリア
型の製作中。細かな手作業で角の部分が難しいそうだ
吹きつけ作業は隔離されたブース内で行なわれている
吹きつけ作業中
補強剤の貼り付け
型からFRPパーツを分離する離型の瞬間
フチをトリミングする作業。頭部を覆うマスクに空気を入れ、全身を防護しての作業
仕上げ作業を行なうスペース
研磨剤を塗ってバフがけで磨く
幼児用のプール。これは分解できないタイプ
こちらは分解可能なタイプ
検査をするコーナー。手前の赤いパーツはウォータースライダー
叩いた音で異常な部分がないかを判断。検査する
6000基目のFRP製スクールシリーズのプール出荷トラックの前で記念セレモニーが行なわれた

 工場の一角にて、FRP製スクールシリーズのプール6000基出荷記念セレモニーが、社員一同も出席して行なわれた。6000基目となるスクールプールが納入されるのは、立命館大学びわこ・くさつキャンパスの50m競泳プール。

ヤマハ発動機株式会社 取締役常務執行役員 ビークル&ソリューション事業本部長 加藤敏純氏

 セレモニー冒頭、ヤマハ発動機 取締役常務執行役員 ビークル&ソリューション事業本部長 加藤敏純氏は、「当社のプール事業は42年前の1974年にスタートしています。この年は前年に起きた第4次中東戦争などの影響から、戦後初めて日本の経済成長がマイナスに陥りました。プレジャーボートの販売も落ちるなか、ボートや漁船の製造で培われたFRP加工技術を活かせないかと生まれたのが、このプールという製品です。当初は小型の家庭向けに開発された製品でしたが、幼稚園や保育園といった幼児教育の場へ普及しました。

 次に製品化されたのが、25mを標準とする学校教育向けのスクールシリーズです。1978年に初号機が地元磐田市の東部小に納入されました。38年経ったいまでも活躍しています。当時はほとんどのプールがコンクリートに防水を施していましたが、当社はプールを工業製品ととらえ、機能と安全性を兼ね備えた製品作りを行なってきました。

 これを可能としたのがFRP成形技術です。軽くて強く、完全な防水性をもつFRPの特性、工場で管理された高い品質が評価され、現在では日本の学校プールの半数以上がFRP製です。当社はその90%以上を供給しています。レジャー型の流水プール、ウォータースライダーなどのバリエーションも増やしています。いまでは、企画設計から製造、施工、運営、メンテナンスまで一貫して行なえるプールトータル企業として、ナンバーワンブランドとして成長してきました。

 今年はオリンピックの年でもあります。トップスイマーが大きな感動を与えてくれることを楽しみにしています。プールは子供達を育て、人々を健康にし、ときには感動の舞台ともなる、付加価値をもって社会に貢献できる事業だと思っています。

 本日のユニットの出荷は、スクールシリーズのプールの6000基目となります。誇りに思うと同時に、1つのマイルストーンとして、『Revs Your Heart』(Rev:エンジン回転を上げる、わくわくさせる、高ぶらせる)に込められた思い、情熱をもち続け、よりよい製品を提供し、社会に貢献し続けたいと思います」と、ヤマハ発動機のFRPプール事業の歴史を紹介を交えて挨拶した。

ヤマハプール会長 朝比奈尚希氏

 続けて、ヤマハプール会長 朝比奈尚希氏が、「ヤマハプール会を代表してお祝い申し上げます。ヤマハプール会は、プールを販売する販売部会、現場で組み立て施工する施工部会、アフターサービスや周辺機材を販売する協力メンテ部会があり、43社で構成されます。1978年に磐田市東部小へ弊社が販売させていただきましたので、弊社はヤマハ発動機の各種事業部とお付き合いをさせていただいています。

 プールを始められた当時、私の父親の前社長にお話を頂きました。父親は以前に教員をしていました。当時の専務も元校長を務めていました。学校関係のつながりもあり、この事業に関わるようになりました。当時はまだFRPが知られていなかったので、当時の営業はFRP板とハンマーを持って学校関係者や設計事務所の目の前で、FRPの強さをデモンストレーションして営業したと聞いています。1号目を納入するまでは、並大抵の努力ではなかったと聞かされています。それが6000基を数え、全国に普及したのは喜ばしい限りです。

 1つのプールが完成するまでには、多くの人が関わり竣工に至ります。物件毎に内容は異なります。地道な取り組みと、積極的な営業活動など苦労があります。ピカピカのヤマハFRPプールが完成し、キラキラした水が張られたプールに、子供達の笑顔と歓声が響き渡るプール開きは、この仕事に携わる我々が一番うれしいときでもあります。4月に発生した熊本地震で被害の大きかった益城町で、一足早いプール開きのニュースがありました。この被災地の子供達に笑顔をもたらしたのは、平成6年(1994年)に納入され、地震被害がなかったヤマハスクールプールでした。社会に大きく貢献していることを誇りに思います」と挨拶した。

 プールのパーツを載せた出荷トラック前にてセレモニーが行なわれ、テープカット後、社員一同が見守るなか、3台のトラックによって工場から出荷されていった。

6000基目のFRP製スクールシリーズが3台のトラックで出荷される
出荷トラックの前で社員一同で記念撮影