井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

「後続の遅れで時間調整」はどこまで許せる? 列車の遅延と接続待ち・接続の崩壊

東海道新幹線の主要駅では、乗車口ごとにPICと呼ばれる情報表示装置が設置されている。ここには次に出る列車の情報だけでなく、このように遅延の情報が表示されることもある

 海外旅行では、ときおり「遅延で乗り継ぎができなくなりそうだったので、空港で走るハメになった」という話が出てくるし、筆者も経験がある。鉄道旅行でも同じようなことは起きる。

遅延と接続待ち

 1本の列車でA地点からB地点に移動するだけの行程であれば、その列車が時刻どおりに走ってくれるかどうかだけが問題になる。ところが多くの場合には、複数の列車を乗り継ぐ行程になる。そこで、先に乗った列車が遅延すれば、その後の行程にも影響がおよぶ。

 特に近年では、系統分割、つまり1本の長距離列車にする代わりに、区間ごとに短区間の列車に分ける形が増えているので、それらを乗り継ごうとすると遅延は大問題になる。

 乗り継ぎ元となる列車が遅れたときに、乗り継ぎ先となる列車が所定時刻で発車してしまえば、そこで乗り継ぎは崩壊する。

新白河駅で、当駅止まりの普通列車から仙台方面に向かう普通列車に乗り換えたときの撮影。「18きっぷ」のシーズンにはしばしば見られる光景
最近では、発車標に遅延に関する情報を表示することが多くなった。発車標と運行管理システムがつながっているので、こういう情報提供を容易に実現できる

 複数の列車を乗り継ぐ場合、乗り継ぎの崩壊がさらなる乗り継ぎの崩壊を呼ぶこともある。筆者がスウェーデンで遭遇したケースでは、1本目の列車が39分遅れた結果として次々に乗り継ぎが崩壊して、最後には2時間を超える遅れに拡大した。

リンシェーピン中央駅の発車標。「16:01」が所定時刻で「16:45」は遅れを受けた見込み出発時刻
こちらはイギリス。スマートフォンアプリで遅延などの運行状況を確認できる。こうした情報提供の充実は、近年のありがたい改善点
これは東海道新幹線の運行状況表示画面例。個別の列車ごとに、どこの駅間に在線しているか、どれぐらい遅れているか、といった情報が分かる
ある日の博多駅で。ダイヤの乱れが発生した場合には、まず発車標や駅の放送などを活用して遅延状況を把握するようにしたい

 そこで登場するのが「接続待ち」。つまり、乗り継ぎ元となる列車が遅れたときに、乗り継ぎ先となる列車が出発を待ってくれるというやつである。

 乗り継ぎ元の列車が遅れたときに「これから車掌が車内を回りますので、○○にお乗り継ぎのお客さまはお知らせください」と放送がかかることがある。逆に、乗り継ぎ先の列車で「○○列車からのお客さまを待つため、発車が遅れます」と放送がかかることもある。

 これがうまくいけば乗り継ぎの崩壊は避けられるが、遅延の波及という問題がある。接続待ちに起因する遅延が、その先でさらなる接続待ちを呼んでしまうからだ。

 例えば、東海道・山陽新幹線の上り列車が博多や小倉や岡山で、遅れた在来線特急のために接続待ちを行なえば、その先に影響がおよぶ。新幹線は走っているエリアが広いだけに、影響がおよぶ範囲も広い。

 そこで極端な話、「九州で発生した遅延に起因する接続待ちのために、東京駅から出る在来線の列車が接続待ちをします」となれば、待たされる側の乗客は果たして納得してくれるか。

接続待ちには限界がある

 新幹線でも在来線でも、ダイヤを組む際には、若干の余裕時間を盛り込んである。だから、その範囲であれば所定時刻に戻せる。しかし余裕時間を超える遅延が生じれば、簡単には取り返せない。

 だから大抵の場合、「○○分までの遅れなら待つ、それを過ぎたら切る」という判断をする。そのための基準はあらかじめ定められているのが一般的。基準を超える遅れが生じて所定の乗り継ぎができなければ、後続列車へのご案内、とするわけだ。

 ところが、その後続列車がないと話が難しくなる。筆者が実際に見たケースでは、旭川を20時06分に出る稚内行き「サロベツ3号」が、実際には21時20分に出発した事例がある。

 これは、札幌から来る「ライラック」と「サロベツ」が接続するダイヤになっていて、その「ライラック」が札幌付近の大雪が原因で遅れたため。

「サロベツ3号」は旭川から出る稚内行きの最終だから、接続を切るわけにはいかなかったのだ。運行に関する指示を出す輸送指令は、遅延の状況や、遅らせた場合の影響の度合を勘案して、接続待ちをするか、接続を切るかを決めている。

ある日の旭川駅で。20時06分発の「サロベツ3号」がホームで待機中
しかしこの時点で、すでに所定の発車時刻を1時間以上も過ぎていた

利用者としてできることは

 列車の運行本数がそれなりに多くあれば、乗り継ぎスケジュールに余裕を持たせて「ギリギリではなく1本落とす」手がある。ダイヤを組む際に、余裕時間を盛り込むのと似た話ではある。しかし、運行本数が少なければどうにもならない。

 すると、遅延や輸送障害が発生したときに、いかにして代替手段を迅速に決めて手を打つか、という話になる。最悪なのは、乗っている列車が本線上で止まってしまった場合で、これはもう、動き出して最寄りの駅に到着するまで身動きがとれない。

 いったん代替手段の利用が可能な状況になれば、別の交通機関を探してそちらに移動するとか、予約が必要なものは直ちに予約を入れるとかいう話になる。ときには、あきらめてもう1泊ということもあり得るだろう。

 ネット予約の普及は、こういうときに威力を発揮する。ただし、交通機関の空席にしても宿泊施設の空室にしても、数に限りがあるから先手必勝である。

 すると、行程を立案する段階で、代替になりそうな鉄道路線、バス路線、航空便といったものについて、思いつく範囲で調べておくのがよい。全区間でなくても、「ここで乗り継ぎが崩壊したら致命的」という、いわばクリティカルパスとなる部分で、代替手段の検討はしておきたい。

 そんなときに、紙の時刻表の冒頭に載っている索引地図は役に立つ(こともある)。JRも民鉄も、一部のバス路線も載っているからだ。後の方のページには航空時刻表も載っている。

ときには、こんな豪快な(?)遅延が表示されることもある
あまりにも遅延がひどくなると、こんな表示になってしまうこともある
秋葉原駅で。つくばエクスプレスはJRが遅れても接続待ちはしない、と告知している。こういう例もある