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JAL、女性活躍推進プロジェクトのイベント「JALなでしこフォーラム」を開催
他社のダイバーシティ推進とワークスタイル変革への理解を深める初の試み
2016年6月3日 13:03
- 2016年5月30日 開催
JAL(日本航空)は同社グループの垣根を越えた取り組みとして、「JALなでしこラボ」を2015年9月に発足。ダイバーシティ(多様性)の推進およびワークスタイルの変革について研究活動を行なっているが、5月30日に女性活躍推進について理解を深めるためのフォーラムが開催された。
このフォーラムの目的は、他社における人財育成や女性が活躍する環境のあり方を学ぶというもの。JALグループ社員が集まるなか、両備ホールディングス 両備スカイサービスカンパニー 執行役員 カンパニー長の槙尾恵氏による講演が行なわれた。両備ホールディングスは岡山県南部を中心に展開し、交通・運輸、情報、生活関連などを手掛ける両備グループの中核企業だ。同氏が所属する両備スカイサービスカンパニーは、岡山空港の旅客業務・貨物業務・グランドハンドリング業務・運航支援業務を担っている。
女性向けにキャリアアッププログラムを新設
フォーラムではまず、JALの代表取締役専務執行役員の大川順子氏による挨拶からスタート。今回スピーチを行なう槙尾氏が女性の感性や価値観を活かしたサービスを作り上げた実績があることを紹介しつつ、「なでしこラボは女性の力を実現していくというところに向けて取り組んでいかなければいけない。その実現の形が、例えば機内サービスやいろいろな商品サービス、もしくはそういうものでなくても、それを決断するプロセスのなかでなにか女性の力、多様な力が化学反応を起こすようなものを」と話した。
続いて槙尾氏が登壇。槙尾氏は両備ホールディングスの前身であった両備運輸に途中入社、なおかつ事務職として勤務。その後、総合職に職種転換をし、人事部で11年、両備グレースタクシーに出向し執行役員 営業本部長を務め、2015年に両備スカイサービスカンパニーの執行役員 カンパニー長になったという経歴の持ち主だ。また、家庭では3人の子供の母親でもある。
槙尾氏は両備グループのキャリアアッププログラムを紹介。若い社員全員に行なわれる「フレッシュアップ研修」、選抜されたグループ会社の30歳以下の社員が約15人集まり、1年間勉強を行なう「U-30」。そして幹部候補生が4年間、人事・情報・マーケティング・財務を学ぶ「経営管理基礎講座」「経営管理基礎講座」を修了した者を対象に1年間、COO(執行責任者)の考え方を学ぶ「青年重役会」とあるという。
これらのプログラムを経ることによって、キャリアへのチャンスが開かれるものの、槙尾氏は「経営管理基礎講座」のメンバーの年齢が27歳~29歳であること、また週1回、6時~9時に開催されることを挙げ、「女性がなかなかこれに乗っていくというのは、人生の選択でありますから、ちょっと女性には難しい制度だとは思います」と指摘。同氏もかつて、プログラムを修了したものの、家庭を持ち子供がいる女性にとってエントリーや参加が難しいものになっていると話した。
そのため、女性のキャリアアップをフォローするべく、また政府の女性活躍推進の導入に向け、管理職に占める女性の割合を10年間で10%に上げる取り組みとして、2年前にトップが女性幹部を養成する講座を開催したとのこと。
女性ならではのプラスアルファのサービスを展開
講演では、槙尾氏は自身が運営に携わった「両備グレースタクシー」についても説明がなされた。元々は小嶋会長が「女性の特性を活かした他に例のない新しいタクシー事業」という構想を立て、会社が実現することになったのがきっかけだ。新会社の女性の管理職を募集していたことから、槙尾氏は自ら手を挙げる形で出向になり、執行役員営業本部長として会社の立ち上げに携わることになったという。槙尾氏は初めてのタクシー事業で四苦八苦しつつも人事部で培ったキャリアを活かして、7月に辞令を受けてから5カ月後の12月に開業したと話す。
同社では女性の気遣いを活かしたサービスを展開。例えば、訳あって保育園に子供を送り迎えできないときにスタッフが親の代わりに保育園の先生まで送迎する「お子様送迎」。また、足がわるく買物できない高齢者の代わりに両備グループのスーパーと提携して買物を行ない、品物を運ぶ「まごころタクシー便」、陣痛時に妊産婦を病院まで送迎する「こうのとりタクシー」といったサービスも行なっている。
「通常のタクシーの業務もやりますけれども、それじゃダメですよね。どこのタクシーでもいいわけで。そこでもう1つプラスアルファのサービスというのを考えました」と槙尾氏は話す。
また、グレースタクシー社にピンククラウンを導入する際、小嶋会長に熱い思いをつづったメールを送り、絵文字入りの「やってみなはれ」という返信が届き、実現につながったというエピソードを明かした。
女性のキャリア形成に必要なものとは
また槙尾氏は講演の終盤、女性のキャリア形成になにが必要かについて紹介した。その1つめが家族などの協力が必須であること。同氏は自分が完璧主義で何事も1人でやらないと気が済まないタイプと自身で分析しながらも、「主人や両親はもちろん、あと公共の相談やお手伝いをしてくれているところを、必ず巻き込んでいかないと。自分1人で家庭と仕事と子育てをやるというのは本当に限界があると思います」と話した。
2つめが、キャリア形成のカーブの考え方について。女性の場合、どうしても結婚や出産というライフイベントが仕事に影響することが多い。「キャリアの形成は、最初は男性と一緒ですよね、でも家庭と仕事をもつと、女性はこのキャリアのカーブって絶対ちょっと緩やかか、もしくは水平か、もしくは下がると思います」と説明。しかし、このカーブに変化が訪れる時間をどう過ごすか、授乳の時間や通勤時間を仕事において有効に使うことで、子育て後、早いペースで急なカーブに戻せるのでは、と槙尾氏は説く。
また、会社が環境整備を行なうことは十分必要であるが、女性の側の意識改革も必要だと指摘。「マネージメント層、管理職に女性がなっていくということは、そこに従業員がいて、その後ろの家族も全部、自分が背負うことになるのでやっぱり覚悟をもってその職に就くことが必要」と語った。
最後に説明したのが、女性管理職ネットワークの重要性だ。女性管理職はいまだ少数派で孤立しやすく悩みをため込みやすいという問題がある。槙尾氏は、「仕事の解決は自分でやるしかないですけども、『こういうことがあるのだけど、みんなはどう思う』っていう話をしたときに、『いや、私もそう思うわ』ということを聞いていただけるだけ非常に心が落ち着くんですね」と、ネットワークで女性同士のメリットについて話した。
槙尾氏は「男性管理職の皆さんに言いたいのですが、女性は『あなたがいたからよかったよ』とか、『あなたのアイデアがすごくよかったよ』ということを言われると、2倍も3倍も4倍も仕事します。なので女性をどう使うか、という表現は変かもしれませんが、女性のポテンシャルを最大限に活かすためには、やっぱり声掛けといいますか配慮、そういうことが必要になります」と提言。また「女性がやろうとすることに『えっ?』と思うことがあるかもしれないですが、ぜひそういう機会を与えていただいて、もちろん私も失敗してまいりましたけども、そういう経験をどんどん積み上げていくというのが会社としての務めではないかな、という風に思っております」と話し、講演を締めくくった。
アウトプットを出すためにも「実行力」が必要
講演の終了後、質疑応答が行なわれたが、ここでJALの代表取締役副社長執行役員 藤田直志氏も参加。「突き出てくる奴は放っておいてもドンドン行くのでしょうが、通常、日常生活を大事に送っている女性たちが働く、そういう風土・仕組みを作るのがすごく大事だと思いました」と話すと、槙尾氏は「本当にキャリアアップしようと思っている女性に対しては、やっぱり手厚くしていただきたいと思いますし、義務を果たさなくて、権利だけ主張する女性をいかにどう取り込むのか。多くの女性も『同じ女性として見られたくない』と思っていますし」と働く女性の本音を交えてコメント。
再度、大川氏が登壇し「今日のお話は女性の活躍やダイバーシティだけではなくて、新任管理職研修であるとか、他社との差別化の話もありましたし、いろいろなところでお話しいただきたい内容だったと思いました」と感想を述べフォーラムは閉会した。
閉会後に行なわれた囲み取材で、大川氏は3月になでしこ銘柄に選出されてからの社内の変化について、「残業時間がけっこう減りましたね。昨年の下期対比で2割くらい。本当に集中していい仕事をするっていう風土には変わってきています」とし、「『形から入る』というのはあまりいい言葉で使われることはないですけども、形というのはきっかけになると思っています。私たちは5時半以降の会議はやっていけないとか、6時半以降のメールはいけませんとか、8時までには退社しましょうとか、そういう形をいま、作っているんです」とワークスタイル変革が現在進行形で起きていることを強調。
また、今回の講演でなでしこラボプロジェクトにどんなフィードバックを期待しているかについて、大川氏は「槙尾様のお話を聞いていて思ったのですが、やはり『実行力』ですね。いま、意識改革とワークスタイル変革を土台にして、まず環境を整えたり、意識をもってやっていこうとしています。土台作るってことはすごく大事なことだと思っているんですが、やっぱりそのあと、実行力でアウトプットを出さなきゃダメです。そこをラボメンバーも感じたと思います。だからよく言うんですが『一流の計画力と三流の実行力』はよくないですね。ちゃんと『一流の実行力』にしていきたいと思います」と、なでしこラボプロジェクトの成果を実際のアクションに結び付けていく意欲を語った。