荒木麻美のパリ生活

パリのリサイクルショップを活用しよう

世界中に広がるホームレスの自立支援団体

 パリに来て大変驚いたことは、そのホームレスの数の多さでした。東京に住んでいたときももちろん見かけましたが、パリのホームレスの数はその比ではありません。エリアにもよるのですが、私の家の周辺ではもはや日常生活の一部となっています。道端ではもちろん、メトロなどの公共交通機関の中でも物乞いをする人を毎日のように見かけます。

 今回は、そんなホームレスの人たちに生涯寄り添った人にまつわる話をしたいと思います。アベ・ピエール神父といい、1912年にリヨンの裕福な家庭に生まれました。15歳のときに神の声を聞き、19歳で出家。戦時中はユダヤ人の子供たちを救うためにレジスタンス運動を行なったり、国会議員であったりした時期もありました。

 いろいろな批判のあった人でもありましたが、1988年より行なわれている「フランス人の愛する有名人」というアンケートでは16回も1位になっており、フランスで彼を知らない人はいないのではないかというくらい有名な人です。

 そのアベ・ピエール神父が1949年にパリで立ち上げたNGO団体が「Emmaus(エマウス)」です。Emmausとは、聖書によると、復活したキリストが使徒の前に現れた村の名前だそう。

 Emmausが広く知られるようになったのは1954年2月のこと。家賃を払えずに家を追い出された1人の女性が、路上で凍死したことに神父は激怒。このことをラジオで伝えました。さらに毛布やテント、ストーブを寄付してくれるように呼びかけました。

 この呼びかけにパリ市民は立ち上がります。それまでも神父はフランス政府にホームレス対策を再三訴えてきてはいたのですが、この日のラジオ放送をきっかけにパリ市民自らがホームレスのために動くようになったのです。そして現在、このホームレスの人たちの自立を支援する団体は、フランスのみならず世界37カ国にその活動の場を大きく広げています。

 元ホームレスの人たちは、フランス国内に複数あるEmmausのセンターで衣類、本、おもちゃ、家具、食器などの不要品の回収、修理、販売をします。販売はセンターだけではなく、ブティックでも販売されており、販売の売り上げが彼らの生活費および自立支援に充てられています。なお、このセンターへ入る条件は、滞在許可証の有無も含めて何もありません。過去に何があったか、宗教、国籍、過去の一切も問われません。

 私はEmmausのことを知ってはいたものの、今のアパートに約1年前に引っ越してくるまでは、ブティックに行ったことはありませんでした。それが、家の近くにある「104」という、パリ市が運営する文化施設を見学しに行ったところ、そこにたまたまEmmausのブティックが入っていたのです。ここはこじんまりしたブティックで、店内はきれいに整頓されていますから、入るのに抵抗感はありませんでした。

「104」内にあるEmmaus
104では各種展示会や演劇などの公演が通年で行なわれています。また、毎日多くの若者がダンスや演劇の練習をしており、これも見るのも楽しいです

 そしてこれをきっかけに、このブティックのそばにある別の大型ブティックにも足を運びました。ここは巨大倉庫のようなブティックです。こちらは水曜日と土曜日しか開いていないのですが、開店と同時にものすごい人がやってきて、ちょっと圧倒……。商品の陳列も104に比べるとかなり雑然としていますが、ここの特徴は大型の家具も置いていることです。

広い店内には家具、洋服、本、台所用品、オーディオ機器などなど、所狭しと物が並んでいます。よいものはあっという間に売れていきます

 蚤の市だったらとてもこの値段では買えないような、質のよい家具も置いてあるので、アンティーク家具を好きな人にはお勧めです。そのほか鍋や食器などもあるので、例えばパリでの滞在が期間限定の人などには、ここで一通りの生活用品を揃えるのもよいのではないでしょうか。

 正直、このEmmausに来るお客さんは決して裕福には見えません。ボランティアで働いている人のほか、元ホームレスだった人たちも多数働いていて、最初は独特の雰囲気に驚くかもしれません。でも元ホームレスであっただろう、しかもドラックかアルコール中毒などであったと思われる人が、震える手でサービスをしてくれるのを見たりすると、「どうかこれからもがんばってください」と思わずにはいられません。

 パリでは、市が各所に洋服のリサイクルボックスを設置しているほか、リサイクルショップも多数あり、フリーマーケットも頻繁に開催されています。日本にいた頃は「お古なんて絶対に嫌だー!」と思っていた私ですが、今ではリサイクルはすっかり生活に溶け込んでいます。買うだけでなく、不要になった洋服や食器などは、以前からリサイクルボックスや知り合いにあげたりしていましたが、今はEmmausに持って行くようにしています。持って行くたびに係の人が「あなたの親切に感謝します。本当にどうもありがとう」などと言ってくれるので、こんなささやかなことで恐縮ですが、それでもやはりうれしいものです。

 ピエール神父は生涯清貧を貫き、94歳で亡くなりました。最期まで貧しい人たちのために尽くした彼の活動は、これからも受け継がれていくでしょう。神父の墓碑には、「Il a essaye d'aimer(彼は愛そうとした)」と刻まれています。神父がそう刻んでくれと頼んだのだそうです。

 パリのホームレス問題が解決する様子は今もってまったくありません。それでも、だからこそ私はパリでホームレスを見かけるたびに、この文句を思い出さずにはいられないのです。

パリ18区の公園の壁に描かれたアベ・ピエール神父の顔。国際的に著名なアメリカ人アーティストであるJonOne(ジョンワン)が描きました。神父の顔を近くでよく見ると、1954年2月に神父がラジオで話した言葉で書かれています! 最後に「MERCI(ありがとう)」と書いてあるのが読めますか?
Emmaus Defi - Centquatre 104 -

所在地:104 rue d'Aubervilliers / 5 rue Curial, 75019 Paris
TEL:+33(0)9 70 81 89 60
営業時間:水曜日13時30~18時15分、木・金曜日13時30~17時45分、土曜日11時30~18時45分

Emmaus Defi a Riquet

所在地:40 Rue Riquet, 75019 Paris
TEL:+33(0)9 70 81 89 60
営業時間:水曜日13時30分~18時、土曜日10時~18時

 下記EmmausのWebサイトでは、どこにブティックがあるのか、寄付をしたいときにはどこに行けばいいのかも検索することができます。また、Emmausでは常時ボランティアも募集しています。サイトにも募集しているボランティアを掲載してありますし、ブティックのスタッフに問い合わせても教えてくれます

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。フランス人の夫と黒猫と暮らしています。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。2016年は卒業論文を執筆しながらカウンセリングも少しずつ始める予定です。