荒木麻美のパリ生活

ジャパンエキスポで和弓を引く

「MANGA」「COSPLAY」だけではない日本文化の祭典

 7月のパリの一大イベントとなった「ジャパンエキスポ」。アニメやポップカルチャー関連の部分はよく知られていると思いますが、そもそもは日本文化の祭典。日本の現代・伝統文化部門の紹介も約15%はあるのです。今回は私が参加した弓道を中心に、今年のジャパンエキスポでどのように日本の現代・伝統文化が紹介されていたかをご報告したいと思います。

電車の中からすでにジャパンエキスポ

 今年も会場はシャルル・ド・ゴール空港から近いParis Nord Villepinteで、パリ市内中心部からはパリ高速鉄道のRERで約25分です。会期は2015年7月2日(木)~5日(金)の4日間。パリは猛暑注意報が出た日もあった暑い週でしたが、来場者数は約24万7000人と今年も大盛況でした。

 私は日本で始めた弓道をフランスでも続けているのですが、ジャパンエキスポで弓道を紹介するお手伝いをするため、最終日の日曜日に弓を引きに行きました。約2mの弓を持っていたこともあり、電車の混雑を避けるべく開場時間より1時間早い8時に着くように向かったのですが、それでも電車の中はほぼ満員。空港へ向かうスーツケースを持った人たちと、大きなぬいぐるみを持ったり、コスプレしている人たちが混在する不思議な空間でした。

会場最寄り駅改札を出てきた人たち
駅から会場まで延々と人が続いていきます
開場直後の場内はまだまだ静か

 会場に入って弓道スペースに行くと、弓を引くスペースと、弓道に興味を持った来場者にゴム弓というものを体験してもらうスペースの2カ所に分かれていました。この2つを合わせるとジャパンエキスポ内でもかなり大きなスペースとなります。しかし今年の「弓引き隊」は総勢10名ちょっと。あれ? フランスの弓道人口は確か600人くらいだったような?

 ありがたいことに観客そして体験者が絶えることはまったくなかったので、各自ちょこちょこと休憩を挟みつつ、弓引き隊総出でがんばりました。

和弓を引く様子を興味深そうに眺める人たち
……を別の角度から見るとこんな感じ。普段なかなか見られない光景
弓を引くガイコツ
弓道のデモンストレーションを長い間眺めていた姉弟。「アニメとコスプレが好きでジャパンエキスポに初めて来たけれど、弓道を初めて生で見た。サムライ映画だけの世界だと思っていたのでとってもおもしろい!」と話していました

 弓を引いたり、ゴム弓を教えながら観客や体験者の方々といろいろなお話をしてみましたが、たくさんの方がおっしゃっていたのは「弓道というものを知らなかった」「実際に引いている姿を初めて見た」という感想です。

 そして、弓道には「『ZEN』を感じる」とおっしゃっていた人も何人か。『ZEN』というのはフランス語としてすっかり定着している言葉なのですが、意味としては本来の意味とは違って、「冷静」「安らぎ」という感じでしょうか。そして弓道からこの『ZEN』を感じるというのです。

 実験の結果、和弓を引いているときの脳波は、瞑想をしているときと同じ状態だといっているTV番組を観たことがあります。弓道は肉体面だけでなく、精神面にもよいということがよく分かる話です。私のレベルでは瞑想状態に入っているとはとても思えませんが、その状態に近づくべく日々精進をしています。弓道を初めて見た人たちが、的に当たる、当たらないだけでなく、喧騒のジャパンエキスポにあっても、弓道から『ZEN』を感じ、それに魅せられる人がいたのは大変うれしいことでした(その一方で「何これ! 動きがおっそ!」とつぶやきながら、速足に去る人も何人か見ましたけど)。

そのほかの武道や匠の技術紹介なども盛りだくさん

 ジャパンエキスポでは弓道のほか、剣道、合気道、居合道などといった武道のほか、日本の伝統文化や工芸品、食材を紹介するコーナーも充実しています。

 実は今回、ジャパンエキスポ初体験の夫も一緒に行ったのですが、アニメやゲーム、ポップカルチャーにまったく興味がない彼も、終日歩き回っていろいろなものを見て楽しかったそうです。彼が撮った写真を見たら確かに楽しそうだったので、私も短い休憩時間の合間を縫って、彼が興味を持ったブースを中心にいくつか訪ねてみました。

(写真左から)居合道、合気道、チャンバラの体験中。このほかにも、なぎなた、日本武道、剣道、少林寺拳法などの体験を終日やっていました。どの時間も大入り満員だった模様
東映剣会の役者による殺陣の披露(写真左)。神前式結婚式の紹介や、和食の調理法についての紹介もありました
囲碁に挑戦中(写真左)。ほかには書道や折り紙の体験コーナーも
着物の伝統文様を描く方が作ったポストカード(写真左)。デザインはもちろんのこと、活版印刷のやさしい手触りにうっとりです。写真右は、夫が絶賛していた組子製品。ジャパンエキスポに出展するために、工房のお2人がわざわざ日本からパリにいらっしゃいました
(おまけ)今年もパリに来てくれたくまモンとドラえもん

とにかく暑かった4日間も無事に終わり……

 手の皮が痛くなってテーピンクを巻いたり、途中で“すね”がつりそうになったりしつつも、終わってみればあっという間に閉場時刻の18時。それから持ち込んだ道具などを会場から運び出し、すべて終わったのは19時でした。朝の9時から動きっぱなしで疲労困憊でしたが、普段ではあり得ない喧騒の中にあって、いかにいつも通りに弓を引くかを考え、普通なら弓道場に来ないであろう人々と接することができたのはとてもよい経験でした。

 さて、ここから未来のフランス弓道仲間が何人誕生するのでしょうか?

アーチェリーをやっているという人にゴム弓を教えているところ。アーチェリーと弓道では引き方がまったく違うので苦戦中
弓引き隊に疲れが見え始めた閉場1時間前。常に引いている人がいるように、こうして1人で引いているときも

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。フランス人の夫と黒猫と暮らしています。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。2016年は卒業論文を執筆しながらカウンセリングも少しずつ始める予定です。