旅レポ

ふるさと納税のお礼で乗れる東京上空ヘリコプター遊覧を体験してみた

神奈川県松田町が提供するユニークなお礼品

ヘリコプターで東京遊覧。自治体への寄付、いわゆる「ふるさと納税」でこんな体験ができるとは

 いきなりヘリコプターから撮影したことが分かる写真を掲載したとおり、本稿ではヘリコプターに乗った体験談を記そうとしているわけだが、ヘリに乗るまでの流れがちょっと変わっている。地方自治体へ寄付をすることで所得税や個人住民税が控除される制度、いわゆる「ふるさと納税」のお礼品としてヘリに乗せてもらうプランがあり、その体験をしたのである。

 この変わったお礼品を提供しているのは神奈川県足柄上郡松田町(まつだ“まち”と読む)。ふるさと納税ポータルサイトの「さとふる」を通じて、地元産品を中心としたさまざまなお礼品を用意している。利用者はさとふるから寄付を行なうことで、こうしたお礼品を入手できるわけだが、そのお礼品として、9月4日に「ヘリコプターで空中散歩」というものが追加されたのだ。

「さとふる」で松田町のお礼品一覧を見ると、4プランの「ヘリコプターで空中散歩」が用意されている
松田町 政策推進課 課長補佐兼財政係長の椎野晃一氏

 ここで気になるのが、「なんでヘリコプター?」ということだろう。まずは、その疑問を解消すべく、松田町役場で政策推進課 課長補佐兼財政係長の椎野晃一氏に、同町でのふるさと納税の取り組みについて話を聞いた。

――さとふるでの募集は今年(2015年)7月から始まっていますが、それ以前はどのような取り組みをしていたのでしょうか?

椎野氏:2012年からお礼品を用意して取り組みを始めましたが、実績は年5~6件が最大。それも松田町に縁のある方がほとんど。お礼品は足柄茶、キウイ、日本酒といったものを用意していました。

――その頃は、どのような形で告知をしていたのでしょうか?

椎野氏:多くの市町村が同じだと思うのですが、いただいたものに対して返すのが中心でした。町のWebサイトでも寄付を受け付けている告知はしていましたが、ボタンやフォームを設けて積極的に集めるということはしていませんでした。

――さとふるで募集を行なうようになった経緯を聞かせてください。

椎野氏:寄付額を多く集めて実績があがっている自治体があるといったニュースを耳にするようになり、議会答弁でも取り組みについて指摘をされる状態でした。そこに、さとふるさんが話を持って来られたんですね。ほかにも同様の話があったんですが、熱意というか、ふるさと納税の本来の主旨に即した“地域活性化”というところに主眼を置いた取り組みをしていくとのことで、比較的速やかに決まりました。

――ヘリコプター遊覧のお礼品を用意することになったのは、どのようなことがきっかけなのでしょうか?

椎野氏:(隣町の)大井町の赤田というところに防災ヘリとして協定を結んでいるヘリコプターの発着場があり、そこからヘリを飛ばしてくれるということは知っていて、私も以前に防災にいた関係で仕事上の付き合いもありました。1度乗せてもらったことがあって、この地域の上から見る景色が、非日常的で素晴らしいものだと思っていたんです。これをお礼品として活用できないか、というのがそもそものきっかけでした。

――実現までには、どのような話し合いがあったのでしょうか?

椎野氏:赤田のヘリポートでライセンス教室などをやっている山昌さんに話を持ち込んだんですが、最初はあまり乗り気でないようでした(笑)。申し込みがあったら何でも受けなければならないとなると、ヘリを1回飛ばすにはスケジュール調整や天気の影響があるから少ない金額でやるのは難しい、申し込みが多いと厳しい、というお話でした。最初は私がうまく伝えられなかった部分があって、そうではなくて町としてはこれを目玉の1つに据えたいので、寄付額は多いけど楽しんでもらえる要素を取り入れたお礼品を用意したいという主旨を改めて伝えたところ、それだったら、ということで検討していただけることになりました。さまざまな事情を解決する手段としてDHCさんにも協力を仰いで何とか実現にこぎ着けられました(注:山昌、DHCの協力については詳細を後述する)。

――松田町民や役場内からの反応はありましたか?

椎野氏:身近なところからの反応はないですね。ただ、これは町長にも、お礼品としてヘリの遊覧飛行を用意したいがどうだろうか、と相談していて、いいんじゃないの、と言われています。うちの町長は新しいものにはどんどんチャレンジしていこうという、そういう気概のある若い町長ですね。役場にPepperがいますが、これも町長の発想でぜひ入れたいと。松田町のWebページのトップにもPepperが出てきます。

――松田町発着のヘリ遊覧での見どころを教えてください。

椎野氏:やっぱり富士山ですね。それに相模湾、大島も見えます。初春には「まつだ桜まつり」をやっていて、富士山をバックに松田山の中腹にカワヅザクラ(河津桜)が咲きます。ハイシーズンは本当に綺麗で、一度乗れば本当に素晴らしいと思っていただけるはずです。

――さとふると取り組んだことで、どのような点が大きく変わったと考えていますか?

椎野氏:お礼品を独自に編み出せるというかアイデアを盛り込める点と、ポータルサイトとしての強みでしょうか。アイデアというのは、ヘリコプターもそうですし、ほかにも「墓地清掃サービス」というのを始めました。これは松田町に家があって、お墓があるが、普段は都会で生活していてなかなかこちらに来られない人をターゲットにしています。松田町も少子化で人口が減っています。そうした状況で、お墓の清掃を代行しますよ、というものです。

――今年7月以降の寄付状況はどうですか?

椎野氏:300件を超えていて、寄付金額ベースで例年の20倍ぐらいは見込めそうだと思っています。一番人気はミカンに関するもので、これは意外でした。ここでは普通のもので、買う物ではなくてもらう物というイメージも結構あります(笑)。これに全国の皆さんが興味を持たれるのが意外でした。自治体担当者にとって一番の手間がお礼品の調達や発送で、そこを全部さとふるにやってもらえるのは自治体にとっても大きなメリットです。それもあって以前はミカンを提供していなかったのですが、こんなに人気が出るとは思いませんでした。

――ふるさと納税での寄付金はどのような方向で活用されるのでしょうか?

椎野氏:総合計画に位置付けられている事業に充てさせていただくことになります。例えば、松田町では歌手の北川大介さんと、俳優の山崎一さんを「ふるさと大使」として任命していますが、ふるさと大使に関する活動に充てて、一緒に盛り上げていけるようなことができればよいなとも思っています。

――寄付金額を伸ばすために考えていることは何かありますか?

椎野氏:例えばミカンは最初オーナー組合というところだけが調達先でしたが、そこで品切れになってしまったので、今はJA(全国農業協同組合連合会)さんにお願いして調達できるようにしています。実はミカンは今年は豊作の年で、1年ごとに表作と裏作のようなものがあって、来年は今年ほど提供できないと農家さんから聞いています。だから調達が今年ほど順調にいくか分からないので、ミカンに代わる何かを用意しないと寄付金額が減ってしまうのではないかという危惧があります。ですので、なおさらアイデアでいかないといけないと思っています。

――そういったアイデアとして、どのようなものを考えていますか?

椎野氏:当初の目的である地域活性化、松田町の魅力をどう発信していくかに主眼を置きたいと思っています。例えば、松田町に来てもらってお茶摘みなどを体験していただくツアーのようなものができればよいと思っています。ニジマスのつかみ取りも現在提供していますが、これも体験型の1つです。また、ふるさと納税の寄付金は単純にお金を集めるということではなく、その先に地域を活性化させることが主旨ということで、例えばミカン農家も後継者不足に悩んでいるところがありますが、こういった形で販路が広がって、継続する農家が1軒でも2軒でも現われれば、荒廃農地解消にも繋がる、といったサイクルで回ればよいと思っています。


 このように話をうかがうと、収穫量によって提供数が変化しかねない農作物などは言わば“水物”であるが、アイデア勝負の体験型であれば安定してお礼品として提供できる点で意味がある。最近はこうしたお礼品も目立っており、さとふるが取り扱っているほかの自治体でも、乗馬体験や、町長の案内による地元ツアーなど、自治体の土地へ行って楽しむお礼品がある。

 主題であるヘリコプター遊覧についても、これによって松田町に来てもらうことができ、さらに松田町の魅力を空から見てもらえる。正直、ヘリコプター遊覧は突飛なアイデアだと思っていた。椎野氏も「目玉として」と、話題性も多少は意識しているようではあるものの、ふるさと納税の課題に向き合って、その主旨に沿って合理的に考え出されたものであることが分かる。

松田町役場
役場にはPepperがいる
お礼品として提供している焼酎「まつだ乃華」。手にしているのは松田町 政策推進課の大久保渚氏

 その、松田町がお礼品として用意している「ヘリコプターで空中散歩」のプランは、「発着地」「飛行時間と食事の有無」で分けられており、

・ヘリコプターで空中散歩「鎌倉」コース(松田町発)
・ヘリコプターで空中散歩「東京」コース(東京発)
・ヘリコプターで空中散歩「横浜・鎌倉」&お食事コース(松田町発)
・ヘリコプターで空中散歩「東京・横浜」&お食事コース(東京発)

の4種類が用意されている。

 寄付額は食事なしコースが30万円、食事付きコースが50万円。費用対効果を考えても、これを安いと言えるほど豊かな生活は送っていないが、金額の高い、安いは個人的な感覚でもあるので、もう少し論理的な理由を挙げてみたい。

 それは、ふるさと納税で控除できる金額の上限額だ。ふるさと納税は、自治体に「寄付」を行ない、確定申告することで2000円を超える寄付金額の一部が所得税、住民税から控除される制度である。

 上限額は収入や家族構成によって変化するが、実は2015年の制度改革で上限額が引き上げられた。30万円、50万円といった高額寄付が必要なお礼品を目的とする場合、控除できる金額の上限が高くなることは素直に歓迎してよいだろう。

 そして、その引き上げ後の上限額の目安として、総務省が4月に示したもの(http://www.soumu.go.jp/main_content/000351931.pdf、PDF)を抜粋したのが下記の表である。ちなみに、さとふるのWebサイトには、収入から最大控除額をシミュレートできるページも用意されているので試してみるとよいだろう(http://www.satofull.jp/static/calculation01.php)。

全額控除されるふるさと納税枠の目安
出典:総務省情報誌 4月号(平成27年4月1日発行 第172号)
給与収入独身者夫婦夫婦+子供2人
(高校生、大学生)
300万円3万1000円2万3000円4000円
400万円4万6000円3万8000円1万7000円
500万円6万7000円5万9000円3万3000円
600万円8万4000円7万6000円5万3000円
700万円11万8000円10万8000円7万5000円
800万円14万1000円13万1000円10万9000円
900万円16万4000円15万4000円13万2000円
1000万円18万8000円17万9000円15万7000円
1100万円22万4000円21万5000円18万3000円
1200万円25万2000円24万2000円20万9000円
1300万円33万0000円26万9000円24万6000円
1400万円36万2000円35万0000円27万3000円
1500万円39万4000円38万2000円35万5000円

 ご覧のとおり30万円、50万円といった寄付額から2000円を差し引いたぶんを最大限控除できるのは千数百万円の収入がある人に限られることになる。国税庁が発表した2014年の「民間給与実体統計調査」(http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2014/pdf/001.pdf、PDF)によると、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は415万円で、「800万円以上の給与所得者は、全体の給与所得者の8.5%に過ぎない」とされており、ここからさらに対象者が絞られることになる。

 と書くと、自分には意味がないのではないかと思われるかも知れないが、少なくとも多くの人にとって上限額一杯までは控除できることになる。また、実はヘリコプターには3名まで搭乗できる。両親と一緒に乗ったり、恋人へのプレゼント(プロポーズの場)としたりなど、税金控除だけでなくプラスアルファの活用を考えることで“元を取る”ことはできるのではないだろうか。

地元の専門家「山昌」とDHCの協力で実現したヘリ遊覧のお礼品

山昌 代表取締役の山口好一氏

 さて、実際にお礼品として提供されるヘリコプター遊覧のことを、もう少し詳細に紹介しよう。このヘリコプター遊覧を提供するのが山昌である。同社はヘリコプターのライセンス教室や、さまざまな目的のヘリコプター運用を請け負うなどの事業を行なっている企業で、代表取締役の山口好一氏もヘリコプターの操縦士。言ってみれば、“地元のヘリコプターの専門家”というわけだ。

 この山口氏は、実際にヘリコプター遊覧をお礼品として提供する場合にも、最寄り駅までの送迎や、さまざまな案内役として同行してくれる。

 もっとも、さらに重要なのはヘリコプターを飛ばすスケジュールの調整である。風速や視程といった天候の条件によってヘリコプターを飛ばせないことは、ままあるという。例えば、東京発着の場合、東京上空では2000フィート以上まで上がるといった通達があるため雲が低いと飛べないといったこともあるそうだ。

 寄付者がいざヘリポートを訪れて、そこで“飛べない”ということは絶対に避けたいと山口氏は話している。つまり、ヘリポートに行く=ヘリに乗れるという状態を作ることを原則にしているそうで、そのために綿密な予測を立てるという。そして、飛行可能と判断される候補日をいくつか提示し、寄付者の都合のよい日に実施をしてくれる。

 そして、実際のヘリコプター遊覧の運航は、DHC(ディーエイチシー)のヘリコプター事業部が担う。化粧品やサプリメントで知られる、あのDHCである。同社は東京・新木場の東京ヘリポートに運航基地を有し、ヘリコプターによる運航受託や遊覧飛行などを実施している。

「あれ? 山口さんもヘリの操縦士じゃないの?」と思うかも知れないが、旅客を乗せて運航するには事業者としての免許や、そうした事業に供することができるよう登録されたヘリコプターが必要になるという。クルマの二種免許や緑ナンバーをイメージすると分かりやすいだろう。そのようなことから、山口氏本人や同氏が運用可能なヘリコプターで今回の施策を行なうことには法令上の課題がある。そこで、もともと同氏と縁があったDHCに相談。実際の遊覧飛行をDHCが運航することで課題を解決した。

 ちなみに、東京発着の場合は東京ヘリポートから発着するのでDHCの基地があるが、松田発着の場合は、DHCが東京ヘリポートと大井町赤田のヘリポート間を回航して、赤田ヘリポートを発着地として運航をする。このフェリーは事実上DHCが負担をする形となっているそうだ。

 専門知識のある人が窓口となってヘリコプター運航会社と交渉をし、そのヘリコプター運航会社も協力的な姿勢で応えるというチームがあってこそのお礼品であり、具体的に言ってしまえば、山口氏という地元の専門家、DHCという協力者なくしては実現できなかっただろうことが容易に想像できる。

東京ヘリポートにあるDHC ヘリコプター事業部の運航基地
神奈川県足柄上郡大井町赤田にあるヘリポート。このヘリポートの利用については松田町も防災協定を結んでいる

 提供されるプランごとのコースや飛行時間、そのほかの詳細は下記のとおり。申し込みから1週間程度で連絡があり、関係書類が送付されるので、必要事項を記入して返送する。フライトは昼間(10時~16時)で夜間フライトはできない。

ヘリコプターで空中散歩「鎌倉」コース(松田町発)

飛行時間:約25分
飛行コース:松田町~湘南海岸~江ノ島~鎌倉~大磯~松田町
集合場所:JR松田駅または小田急電鉄 新松田駅。クルマで送迎

ヘリコプターで空中散歩「東京」コース(東京発)

飛行時間:約20分
飛行ルート:東京ヘリポート~スカイツリー~東京ドーム~池袋~新宿~渋谷~東京タワー~銀座~お台場/レインボーブリッジ~東京ヘリポート
集合場所:JR/東京メトロ/臨海高速鉄道 新木場駅。クルマで送迎

ヘリコプターで空中散歩「横浜・鎌倉」&お食事コース(松田町発)

飛行時間:約40分
飛行コース:松田町~横浜(みなとみらい)~鎌倉~江ノ島~湘南海岸~小田原~南足柄平野~松田町
集合場所:JR松田駅または小田急電鉄 新松田駅。クルマで送迎
食事:「アサヒビール園 神奈川・足柄店」、レストラン「地中海の風」、日本料理「綿屋」のいずれか

ヘリコプターで空中散歩「東京・横浜」&お食事コース(東京発)

飛行時間:約40分
飛行ルート:東京ヘリポート~スカイツリー~東京ドーム~池袋~新宿~横浜みなとみらい~東京タワー~銀座~お台場/レインボーブリッジ~東京ヘリポート
集合場所:JR/東京メトロ/臨海高速鉄道 新木場駅。クルマで送迎
食事:(すべてヒルトン東京お台場内)日本料理「さくら」、「鉄板焼きカウンター」、地中海料理「オーシャン ダイニング」、中国料理「唐宮」のいずれか

 いずれも最寄り駅までの送迎があるが、これも山口氏自らが出迎え、ヘリの遊覧飛行前後も同行してサポートしてくれる。特にヘリコプターに乗るのが初めてで不安という人には、疑問や不安を解消できる心強い存在になるだろう。食事付きコースの場合は、ヘリ遊覧終了後に希望のレストランへ送り届け、1人もしくはグループでゆっくり楽しんでもらうために、ここで山口氏はお別れするという。

東京発着のヘリコプター遊覧を体験

ヘリコプター遊覧で搭乗した、DHC ヘリコプター事業部所有のロビンソン R44I型機

 今回、山昌とさとふるの協力で、上記プランのなかから東京コースの20分遊覧と食事コースを組み合わせた、特別プランを体験させてもらった。前置きが長くなったが、そのワンシーンが冒頭に掲載した写真である。

 ちなみに“体験”というのはあくまで当方の事情で、ヘリコプターに乗ることには変わりがない。ヘリコプターに乗るまでの流れは、すべて実際の流れに沿ったものとなる。例えば、搭乗時には小さく折りたたまれた救命胴衣が各人に手渡されるので、その使い方のレクチャーを受けなければならない。飛行機に乗ったときの安全ビデオと同じである。

 そのほかの基本的な流れとしては、荷物の検査が行なわれるほか、金属探知機による身体検査も行なわれる。刃物などの金属類や、長い棒状のものなどは持ち込みできない。このルールも飛行機と変わりないと考えてよいそうだ。

 なお、搭乗するヘリコプターは必要な耐空検査を毎年受けているほか、飛行前検査も実施。搭乗者に対する搭乗者保険もしっかりかけている。

 搭乗前に一通りの説明を聞いて、手荷物などの検査を終えたら、ハンガーを通って発着場(ランプ)へ。テールローターに巻き込まれないようにヘリコプターの反対側へまわり込む時は必ず前方を通過する、などの注意事項を守りつつ、案内に従って乗り込んだ。

DHC ヘリコプター事業部の渡辺清一氏による救命胴衣の説明
ハンガーに駐機中のロビンソン R44I。全長11m70cm、全幅2m10cm、全高3m28cmの小型ヘリコプター
パイロット1名+乗客3名の計4名乗り
座席の下に荷物収納スペースがある
搭乗者同士の会話にも必要なインカム
ライカミング製のレシプロエンジンを搭載し、およそ2時間30分、約450kmの飛行が可能という
ヘリコプターの牽引は、足(スキッド)に車輪を取り付けて発着場へ移動する
トーイングカーが外されて出発の準備が進められるなか、案内に従って搭乗する
田中裕規機長から機内での説明を軽く受けて、いざテイクオフ

 浮き上がったヘリコプターは、まず東へ向かい、葛西や浦安近辺をかすめて東京スカイツリー上空へ。そこで進路を都心方向へ向けて、東京ドーム上空へ向かい、池袋、新宿、渋谷の西側を飛行した。そして、霞ヶ関、芝公園方面へ向かって東京タワーを眺め、豊洲やお台場を見て東京ヘリポートへ戻るというルートで進んだ。

 ヘリコプターの窓からの眺めは、月並みな言葉だが東京という街を新鮮な気持ちで見せてくれる。上空からの東京のレイアウトはどうしても地図のイメージがあるが、ここに立体的な建物や公園の緑、海や川の水の色が加わるだけで、まったく違うものに見える。そして地上から見ると無機質な高層ビルも、遠く俯瞰すると人の活動する有機的な場所であることを逆に感じさせてもくれる。

 この日は天気はよかったのだが、若干霞がかった空気で、遠望は難しい条件だった。しかし、高層ビルに霧が立ち込めたような雰囲気になっていて、これはこれで趣のある眺めだ。前述のとおり、一定の高度まで上がれない場合はヘリを飛ばせないことや、「ヘリポートに来たら絶対に乗れる」という日を山口氏が予測して候補日を案内することから、お礼品のヘリ遊覧はそれなりによい天気での実施が期待できる。しかし、そうであっても、季節や空気の透明度で眺めは変わってくる。仮に再び同じルートでヘリ遊覧をする機会を得たとしても、眼下の眺めはまた違って見えるのだろう。

 以下にいくつかのシーンを写真で紹介するが、東京の空撮写真はそれほど珍しいものではないし、霞がかっているため、少し鮮明さに欠ける。そもそも、写真だけでは実際に見たときの新鮮な気持ちと感動を伝えられないという思いは強く、そう簡単なことではないとはいえ、ぜひ多くの人に実際に目にしてほしい光景だ。

記者は今回、後部左側の座席に搭乗。離陸すると、東京メトロの新木場車両基地や貯木場が見える
すぐに右旋回し、葛西臨海公園の上空を通って北東方向へ
首都高速 湾岸線や夢の島、砂町運河などを望む
旧江戸川にかかる東京メトロ 東西線の第一江戸川橋梁付近から西方面を見ている
そのまま一路スカイツリーへ。模型ではなく、本物のスカリツリーの展望台を横から見られる。偶然居合わせた飛行船も印象に残った
スカイツリーと隅田川。高層ビルに埋もれ気味だが、奥には東京タワーも見える
隅田川。下に見えるX型の橋はご存じ「桜橋」
浅草上空より、隅田川をもう一度。左下の橋は東武スカイツリーラインの橋梁で、小さくて分かりにくいが、写真では橋の上をスペーシアが走行している
上野駅と上野公園。左奥が皇居方面、右奥が新宿方面となる
左手前に東京ドーム。中央奥が皇居で、シルエットでも屋根の形でそれと分かる武道館も見える
下に見える一際高いビルがサンシャイン60。つまりここは池袋上空だ。左手に見える緑の四角いエリアが六義園。この大きさで識別は無理だが、写真左端が巣鴨のとげぬき地蔵尊の付近である
新宿付近。空から見ると西新宿の超高層ビル群が一層際立つ
西新宿を西側から。正面に都庁を見る
渋谷上空から皇居方面を見たところで、左下が渋谷駅周辺。中央を奥に伸びている道路が青山通り(国道246号)だ
左下のビルがおなじみの六本木ヒルズで、左奥の金色がかった建物が東京ミッドタウンのミッドタウン・タワーで東京都でもっとも高い高層ビル。そして、中央右寄りにある三角形の高層ビルが東京で2番目に高い高層ビルである虎ノ門ヒルズ。奥に見えるスカイツリー(634m)、右端の東京タワー(333m)、そしてミッドタウン・タワー(248.1m)、虎ノ門ヒルズ(247m)と東京都にある高さ1~4位の建造物を一望しているのだ
東京タワーとスカイツリー。スカイツリーは高層建造物がないエリアに建てられていることが分かる対比だ
汐留や浜離宮の近辺
左が築地市場、中央奥の橋が有名なかちどき(勝鬨)橋
豊洲のタワーマンション群
荒川。手前の橋が清洲大橋。この橋を東京側へ渡った先が永代通りへ通じる
夢の国
このまま荒川沿いに下って着陸へのアプローチに入る。この日は北風だったので、東京ヘリポートの南側にまわって進入。目の前に東京ゲートブリッジが見える
着陸。乗降時は必要に応じて踏み台も用意してもらえるので安心。名残惜しさもある一方で、空から東京を見た充足感に晴れやかな気持ちにもなれた
ヘリ遊覧後にはDHCの海洋深層水を提供。疲れた体(?)にやさしい

東京コースの食事は「ヒルトン東京お台場」で

 ヘリコプターによる東京遊覧を楽しんだあとはグルメの時間である。寄付金50万円の食事付き東京コースをお礼品として選んだ場合、東京ヘリポートから、東京・お台場にある「ヒルトン東京お台場」へ移動して、日本料理「さくら」、「鉄板焼きカウンター」、地中海料理「オーシャン ダイニング」、中国料理「唐宮」のいずれかのレストランで楽しむ。

日本料理「さくら」(写真提供:ヒルトン東京お台場)
「鉄板焼きカウンター」(写真提供:ヒルトン東京お台場)
地中海料理「オーシャン ダイニング」(写真提供:ヒルトン東京お台場)
中国料理「唐宮」(写真提供:ヒルトン東京お台場)

 誤解のないよう再度記しておくが、上記のヘリコプター遊覧は、寄付金30万円の場合に飛行する約20分間のコースであり、本来これには食事は付かない。食事付きのコースを選んだ場合は、ヘリコプター遊覧も約40分間で東京だけでなく横浜上空も楽しめるコースとなる。

 ところで、お台場のスポットに明るい人は「ヒルトン東京お台場ってどこ?」と思うかもしれない。ここは「ホテル日航東京」が10月1日に改称したホテルなのである。JAL(日本航空)が資本を引き上げてからも同名で営業していたが、2015年3月にヒルトン・ワールドワイドが同ホテルの運営会社である東京ヒューマニアエンタプライズとマネージメント契約を締結。「ヒルトン東京お台場」として生まれ変わった。

 余談ながら、松田町が「ヘリコプターで空中散歩」をお礼品として提供し始めたのが9月4日からなので、当然、当時は「ホテル日航東京」として資料を制作したのだが、10月1日にホテルが改称されたために、わずか1カ月足らずで資料を作り直すことになった、なんてエピソードも。

 それはさておき、今回は日本料理「さくら」でいただくことにした。メニューは「胡蝶」というランチコースで、前菜、お椀に続き、「松花堂」と名付けられた幕の内御膳が並んだ。さらに赤だしに、揚げ舞茸のご飯と、季節感もある内容で日本料理の魅力を存分に堪能。

 締めのデザートも豪華で、葛切りやぜんざい、マンゴープリンなど6品に加えて、これまた季節感のある造形のねりきりなどから1品で、最大計7品を提供。“最大”と表現したように、食べたいデザートだけを選んで供してもらうこともできるので、とにかく甘い物に目がない記者のような人から、甘い物は少しでよいという人まで、好みや気分に合わせて選べるのが魅力だ。

日本料理「さくら」

所在地:ヒルトン東京お台場(東京都港区台場1-9-1) 3階
席数:90席、個室3室、テラス20席、宴会場1室
営業時間:11時30分~14時30分(昼食)、17時30分~21時30分(夕食)

和食のランチボックス「松花堂」
鶏松風、くるみ淋掛け、松葉刺しなどの「口代り」
小芋、きぬさや、もみじ麩などの「焚合せ」
揚げ舞茸御飯と赤だし、香の物
ワゴンで運ばれてくるデザート6種類から好きな物を選ぶ
加えて、柿や撫子のねりきりなど、季節感のあるデザートのお盆から1品を選べる
「これ全部ちょうだい」ということで7品をいただいた

自然に恵まれた松田町

 このようなユニークなお礼品を用意している松田町についても紹介しておこう。神奈川県足柄上郡松田町は、神奈川県西部に位置し、小田原市から北へ約10kmの位置にある。東名高速道路には大井松田IC(インターチェンジ)と同町名のICがある(下り線は左右ルートの分岐に気を取られがちで意外に印象が薄いのが惜しいところか)。東京からは国道246号、小田原市からは国道255号が伸び、ちょうど同町内で両国道が接続している。

 鉄道駅も松田町駅、新松田町駅があり、小田急 小田原線、JR御殿場線でアクセスできる。東京在勤者には“小田原までだいたい100km”という感覚がある人も多いと思うが、松田町は(アクセス経路により)その前後10km程度の距離をイメージしておけばよい。クルマ、鉄道とも同町へのアクセスには恵まれている土地と言って差し支えないだろう。

 町内のほとんどは山林で、西丹沢をから流れる酒匂川(さかわがわ)や、その支流の川音川(かわおとがわ)があり、緑と水に恵まれている。

松田山ハーブガーデン

 そんな松田町の主要スポットが「松田山ハーブガーデン」だ。松田町中心部の北側にある松田山の中腹にある「西平畑公園」の一角にあるハーブ園。西平畑公園には松田山の散策路などがあり、手軽に楽しめる自然公園といった風情だ。

 先のインタビューでも触れられたカワヅザクラもハーブガーデンの周辺に植樹されており、春の「まつだ桜まつり」の会場もここ。訪問時は葉が色付くのを待つ季節ではあったものの、2月頃には、一足早く春の訪れを告げてくれるはずだ。ちなみに、カワヅザクラやソメイヨシノの苗木もお礼品に用意されている。

 ハーブガーデンは多種多様なハーブが植えられており、ランドマークのように建てられているハーブ館では、これらを使った商品の販売も行なわれている。

 さらに、このハーブガーデンの脇にはミカン畑が広がっているが、ここのミカンの木のオーナー権もお礼品として用意されている(原稿執筆時は受け付け期間外だったが)。松田山みかんの木オーナー組合による提供品で、オーナーとなった木の丸ごと1本分のミカンが自分のものになるという、これまたユニークなお礼品だ。

松田山ハーブガーデンのゲート
ハーブガーデンからは東名高速の下り線の左右ルートが分かれるあたりが見渡せる
ハーブ館のなかには同公園の植物を使ったさまざまな商品が売られている
サクラの風味が楽しめる「桜塩」や、ハーブを使ったパイ、香り袋などいろいろな商品が並ぶ
ふるさと納税のお礼品で用意されている「ミカンの木のオーナー権」で提供されているミカンの木もここに植えられている

 松田町でもう1カ所の見どころが「寄」地区だ。「やどりき」と読む。先述した川音川の上流から中流にかけての地域で、静かな渓流が続いている。やはり先のインタビューで話題に上ったニジマスのつかみ取りや、同じくニジマスの釣り券もこの地区で行なわれるもの。また、同じくお礼品に用意されているさくら鱒の燻製も同地区で作られている。

 寄地区周辺の山々は丹沢山地の一角を成しており、ハイキングコースも多数設定されている。バス路線もあって新松田町駅からのアクセスもよい。

 いずれのスポットもアットホームな雰囲気のある適度な規模感がよく、週末の気軽な遊び場としても魅力を感じたし、近くを通りがかったら、ふらっと立ち寄ってみたくなる、そんな印象が残る土地だった。

「寄」と書いて「やどりき」という地名も印象的な場所
寄地区にある、釣りやキャンプなどを楽しめる渓流。お礼品で提供されているニジマスの釣りやつかみ取りもここで行なわれている
こちらもお礼品の「さくら鱒の燻製」
ドッグラン場もあるので愛犬家にもうれしい
丹沢山地の一角を巡れるハイキングコースも多数設定されている。1時間程度でまわれるコースも多く、季候のよい今の季節にぴったりだ

 このように、首都圏にありながら自然に恵まれた松田町。地域の活性化に繋げようと、ふるさと納税をいかに活用するかを検討した結果、地元の専門家の力を借りてヘリ遊覧というユニークなお礼品が生み出された。

 記者個人もそうだったのだが、ヘリコプターでの遊覧飛行というものを人生で一度は体験してみたいと思っている人は実は多いのではないだろうか。そのきっかけとして、寄付という形で地域に貢献でき、節税にも繋がるというのは、自分の心はもちろん、家族達にも納得してもらいやすいかもしれない。

 もっとも、ふるさと納税のお礼品という事情を差し引いて普通のヘリ遊覧として見ても、(主にコストの理由で)日付ありきで遊覧飛行日が決まっており天候不良などで飛べない場合は返金といったケースも多いなか、このプランは申し込み者個人のニーズに応えつつ“飛べる日”を徹底的に追求してくれる点で、まさにオーダーメイドのチャーター遊覧飛行と言ってよいリッチなものだ。

 最初は単に面白い取り組みだから……と思って体験させてもらったのだが、その背景を知れば知るほど、この遊覧飛行そのものの価値も見えてきた。忙しくて時間に追われる人のほか、遠方から両親や知人を招待しようと思っている人には魅力に映るのではないだろうか。

編集部:多和田新也