旅レポ
「えひめいやしの南予博2016」の旅(後編)
大地の幸と歴史文化との2日目。愛媛県南予地域の自然と食、文化に触れる旅
(2016/3/25 00:00)
愛媛県が企画した「えひめいやしの南予博2016」プレスツアー。前編では1日目の様子として、真珠やスマといった豊かな海の恵みを中心にお届けしてきた。後半である2日目は愛媛の陸側に焦点を当て、食べ物から産業、歴史文化についてお送りしたい。
みかん研究所で愛媛みかんの品種改良について聞く
2日目のスタートはみかんから始まった。前編を読まれた方は「また、みかん愛をこじらせたのか」と思われるかもしれない。こじらせている点については完全に否定はできないが、今回は愛媛県の柑橘類の研究を行なっている「みかん研究所」を訪ねたのだ。
「みかん研究所」では県の柑橘類における栽培の技術や新品種の研究開発を担っている中核機関。施設の周囲はもちろん、施設を取り囲む小高い山の斜面一面にさまざまな品種の木が植えられている。中田治人所長に愛媛みかんの品種改良について話をうかがった。
愛媛のみかんというとある年齢以上の方は「愛媛のいよかん、いい予感」というキャッチフレーズが思い浮かぶかもしれない。伊予の名前を冠したいよかんは愛媛の代表とも言える品種だが、中田所長によると「皮の油分で手が汚れる」「中袋を取って食べないといけないので面倒」という理由から消費量が減っているという。
そんななか、みかん研究所では「甘みが強くて酸味が少ない」「手で皮がむけて中袋も食べられる」「種が少ない方がいい」という消費者のニーズに応えた品種作りを行なっている。ひとつの品種を作り出すには交配から品種登録まで15~20年かかり、さらに市場に流通させるまで10年かかるとのこと。みかん研究所では1年間でのべ1000本の新品種の候補を育てているが、新品種として世に出すことができたのが今まで8種類。厳しい世界だ。
そして現在、新品種の代表として現在、愛媛県で推しているのが、ゼリーのような食感の「紅まどんな」と大きく平たい外見の「甘平(かんぺい)」、レモンイエローの「媛小春」の3種類だ。
今回、「甘平」と「媛小春」、そしてイタリア原産ではあるものの愛媛ブランドで栽培しているブラッドオレンジ「タロッコ」を試食させていただいた。「甘平」はポンカンをさらに濃厚にした味わいでその名のとおり甘く、「媛小春」は甘いながらも柑橘らしい爽やかな味わい、「タロッコ」はベリーのようなコクがあって大人の味だ。
また、施設の外の果樹を見学させていただいたときに、小ぶりの果実がたわわに実った木を発見。中田所長によると「マートルリーフ」という観賞用の品種とのこと。食用ではないが試しに試食させていただいたところ、味はほのかに苦みがある以外、薄甘い味だった。所長いわく「これを食べる人を初めて見た」とのこと。
みかん好きにはたまらなさそうなこの「みかん研究所」は、残念ながら一般公開されていない。しかし研究所で品種改良された柑橘類「紅まどんな」「甘平」「媛小春」は県内外で購入が可能。どれも愛媛県が誇る美味しい品種なので、見つけたらぜひ食べてみてほしい。
みかん研究所
所在地: 愛媛県宇和島市吉田町法花津7-115
TEL:0895-52-1004
「西予市野村シルク博物館」で絹織物ができるまでを見学
さて、宇和島市のみかん研究所をあとにして次に向かったのは西予市。実は西予市野村町は国の内外で高い評価を受けている絹糸の生産地だという。明治初期から始まった野村町の養蚕および絹糸生産における資料を残しているのが「西予市野村シルク博物館」だ。
この野村町のシルクは「カメリアシルク」というブランドで京都などに販売され、博物館を案内してくれた亀崎壽治館長によると、伊勢神宮式年遷宮の御用生糸として使われているという。博物館内で繭や絹糸、絹製品が展示されていたが、記者が惹かれたのは天然の蚕「天蚕」。
「天蚕」の繭は普通の蚕と違って繭が緑色をしておりその色合いが美しいのはもちろん、希少性から超高級素材として知られているそうだ。「西予市野村シルク博物館」では敷地の一角に「天蚕」が育てられる場所を設け、展示用としてのみ少量ながら繭を生産しているとのこと。もし、この繭で小物が作られたら買ってしまいそうだ。繭1個でもちょっと欲しいと思ってしまった。
また、今回は併設されている「絹織物館」で絹糸の生産や機織りの様子も見学。ここでは伝統的な染織の講座を開催しており、館内では受講生による作業風景を見ることができるのだ。
絹織物館に入ると早速、糸作りの作業が行なわれていた。繭を熱湯で煮て繭の糸をほどき、糸を巻き取っていく。ひとつの繭から採取できる糸はなんと約1600m。機械での製糸と昔ながらの方法での製糸作業の両方が行なわれている。この後、小さな枠に巻き取った糸を製品として出せるよう大きな枠に巻きなおす作業や乾燥を経て生糸が完成。この生糸からセリシンと呼ばれるタンパク質を取り除いたものが絹糸になる。
絹織物館の別の部屋では出来上がった絹で機織りをしているご婦人も。「西予市野村シルク博物館」では、一般観光客向けに大人500円、子供300円で機織り機を使いコースター織りができる体験コーナーも設けられている。
西予市野村シルク博物館
所在地: 愛媛県西予市野村町野村8-177-1
TEL:0894-72-3710
肉のプロによる「はなが牛」の熟成肉を堪能
ツアー1日目は愛媛の海の幸として「幻の魚」と呼ばれるスマをいただいたが、2日目は陸の幸でお昼をいただくことに。西予市には自社牧場で「はなが牛」というブランドの牛を育て、その熟成肉を出している直営のレストランがある。レストラン「ゆうぼく民」だ。
このレストランを取り仕切るのは30歳の若き経営者、ゆうぼくの岡崎晋也専務取締役。ご両親が「ゆうぼくの里 おかざき牧場」で育てた牛をレストランで出しているのだ。牧場で「はなが牛」として育てられているのは、ホルスタイン種を中心に黒毛和牛と乳用種の交雑種、そしてジャージー牛乳で知られるジャージー種。
ホルスタイン種というと牛乳でおなじみだが、「和牛」と表記されない国産牛はホルスタイン種が用いられており肉牛としても実はポピュラー。「ゆうぼくの里 おかざき牧場」ではオスが食肉用として育てられている。岡崎専務によると肉は真空包装して氷温で寝かせる「ウエットエイジング」という手法で熟成させ、お店で提供しているとのこと。牛肉は霜降りが高級と見られがちなものの、熟成肉の場合、熟成の段階で脂肪が酸化して美味しくなくなってしまう。ホルスタイン種のように赤みが多い肉質なら熟成肉に適しているのだ。
「ゆうぼく民」では「はなが牛」のステーキランチが1500円、ハンバーグランチを1200円というリーズナブルな価格で提供している。ステーキランチで使われる部位は日によって変わるが、今回いただいたのはマルシンと呼ばれる太ももの芯の部分。
食べてみると、あっさりした肉質ながら噛んでいると後から牛本来の風味とうま味がやってくる。調味料として塩とタレが用意され、記者は通常はタレ派なのだが牛の味があまりにも美味しいため、結局ほとんどを塩だけで食べてしまった。岡崎専務は「エサは自家配合で抗生物質を使っておりません。牧場で育てて肉の加工も行なっているので肉の美味しいところが分かります」と話す。
お手頃な価格で国産牛のメニューがいただけるだけでなく、併設のショップでは愛媛県産の「媛ポーク」を使った無添加のソーセージやベーコンの肉加工品も販売。食事はもちろん、お土産や自宅用におみやげも買っていくのにもよさそうなお店だ。
ゆうぼく民
所在地:愛媛県西予市宇和町坂戸673-1
TEL:0894-62-5877
漆喰の大壁が連なる内子町の街並みを散策
旅の終盤は内子町の街道と本町通りの散策コースをぶらり歩き。内子町は江戸末期からハゼの木から作る木蝋や和紙の生産地として知られ、特に明治から大正にかけて栄えた町だ。木蝋で得た富を元に漆喰をふんだんに使った豪華な土蔵建築や町屋が建てられ、街道のうち600mは重要伝統的建造物群として昔の面影が保存されている。
そんな街並みを歩いていると1軒の商店が。日よけ幕を落とした店先からチラリと見えるのは乾物とみかん。みかんのラインナップを見ると、先ほど「みかん研究所」で食べた新品種の極甘みかん「甘平」がある! 思わずテンションが上がってしまい購入。
早くもみかん欲を満たしたあとで向かったのは「木蝋資料館上芳我邸」。内子町の木蝋生産で財を成した芳我邸の筆頭分家の屋敷だが、分家とはいえ3階建ての豪奢な作りだ。入ってすぐのところには、内子町の繁栄を支えたハゼの実と木蝋が展示されている。木蝋というと真っ先に思い浮かべるのはろうそくだが、それ以外にも髪につける油や化粧品、せっけん、クレヨンなどさまざまな用途に使われていたという。
母屋から梅や松などさまざまな木々が植えられた坪庭を眺めると、向こうに客屋敷が見える。客屋敷では、商売で遠方から屋敷に訪れた人と商談を行ない、宿泊してもらっていたという。そしてこの屋敷、珍しいのが母屋の3階に上がると屋根の小屋組が間近に見られることである。どのように屋根が支えられているのか、梁や柱のダイナミックな構造を見るだけでも古建築・古民家ファンにはたまらない場所だ。
また、母屋や炊事場の隣には、木蝋を日光でさらしたという砂利が敷かれたさらし場があるが、ここでは4月23日に一夜限りで地元食材を活用したディナーが楽しめる屋外イベント「南予プレミアムダイニング」が開催されるとのこと。
木蝋資料館上芳我邸
所在地: 愛媛県喜多郡内子町内子2696
TEL: 0893-44-2771
職人が作る木のおもちゃで童心に帰るひととき
街道に沿って下って次に訪れたのが「うちこの和」というお店。ここでは木や和紙で作られた小物や道具、おもちゃが売られている。ここで販売されている製品はすべて「内子手しごとの会」で作られているという。
「内子手しごとの会」とは伝統工芸の職人たちなどで構成されている団体で、内子の木工や和紙、切り絵をコラボレーションさせた手しごとの商品を企画・製作している。会長の山本勝美さんに話をうかがっていたら、山本さんが笑顔で出してくれたのはなんと輪ゴム鉄砲。昔の子供は割りばしを組んで作った鉄砲で輪ゴムを飛ばして遊んでいたが、山本さんが見せてくれたのはヒノキの木材を組み合わせて作った本物の銃のようなデザイン。作りを銃に似せているだけでなく8連発や20連発も可能なものもあり、大人の本気を見た思いだ。
試しに20連発式の輪ゴム鉄砲を撃たせてもらったが、トリガーを引くとバラバラバラと弾(輪ゴム)が撃ち出されるのは気持ちいい。思わず、一定以上の年齢の方なら分かる映画「セーラー服と機関銃」のあのフレーズ「カ・イ・カ・ン……」が思い浮かんでしまった。山本さんは「ね、楽しいでしょ。意外に大人の方が夢中になるんです」と笑顔で話す。
また、もうひとつ人気なのが紙相撲。元々は箱の上に紙の力士を乗せて指でトントンと叩くが、「内子手しごとの会」では木で本格的な土俵が作られており、握りこぶしで土俵を叩いて紙の力士を動かす仕組みだ。大人も子供も夢中になるこれら木のおもちゃは「うちこの和」で体験することができる。童心に帰ってみたい大人にこそオススメのスポットだ。
うちこの和
所在地: 愛媛県喜多郡内子町内子2899-1
TEL: 0893-44-7776
創建100年の木造の劇場「内子座」
漆喰の屋敷が続く街道を抜け、本町通りを歩くこと数分。角を曲がれば見えてくるのが入母屋作りの木造建築「内子座」だ。大正時代、商家の旦那衆が建てた劇場で、豪華な作りから当時の内子町のにぎわいぶりが伝わってくる。この「内子座」は今年で建設から100年、今でも歌舞伎や文楽、落語といった伝統芸能はもちろん、アーティストのコンサート、地元の発表会などさまざまな用途で利用されているという。
中を見学させていただくと、レトロな木の風合いにモダンな照明がマッチしており懐かしさを感じる空間になっている。2階の桟敷席を見上げると旦那衆の店の名前が。今でいうところのスポンサー広告だ。中を見渡すと、回り舞台、花道、すっぽんといった歌舞伎でおなじみの舞台機構が設置されているのが見える。
今回は舞台の地下、いわゆる「奈落」も見学させてもらった。石積みの壁や柱に回り舞台とすっぽんの仕掛けが設置されているのみで、舞台や客席の華やかさと違って殺風景だが、普通の劇場ではなかなか見られない場所だ。
この「内子座」は公演がない時は、劇場内を「奈落」を含め見学できるようになっている。ちょっと街道から外れた場所ではあるが、内子町に来た時には必ず見ておきたいスポットだろう。
内子座
所在地: 愛媛県喜多郡内子町内子2102
TEL:0893-44-2840
旅の最後はふたたび道の駅。内子町の「内子フレッシュパークからり」は広く、青果売り場から加工食品、工芸品、種や鉢植えといった園芸系と品揃え豊富な道の駅だ。柑橘類の売り場も広いが、ただし柑橘の種類に関しては前編で紹介した「みしょうMIC」の方が種類は多い。
「旅の最後は甘いもの」と心に決めていた記者が足を止めたのは、道の駅内にあるアイスクリームショップ。今回の旅に同行してくださった愛媛県の方によると、「内子フレッシュパークからり」のアイスは人気とのこと。ならば食べるしかない。記者が頼んだのは「じゃばら」と「もち麦」のダブル。「じゃばら」とはスダチやカボス同様、さわやかな酸味を楽しむ柑橘類。最後までみかんか、という気がしないでもないが、青臭いクセがあるもののさっぱりとした「じゃばら」と香ばしくてコクのある「もち麦」の相性は抜群だった。
内子フレッシュパークからり
所在地: 愛媛県喜多郡内子町内子2452
TEL: 0893-43-1122
南予の魅力を満喫した今回の旅。ただ、四国を旅するには空港や港に着いてからの交通手段で悩むところだろう。今回は車での旅になったが、実は「えひめいやしの南予博2016」開催に伴い、四国西南地域の電車とバスが割引で利用できる「四国西南周遊レール&バスきっぷ」が2016年12月28日までの期間限定で発売中で、12月31日まで利用可能だ。
南予の風景や名所に加え、イベントが楽しめる「えひめいやしの南予博2016」。愛媛県というと松山と道後温泉というイメージが強いが、足を伸ばして南西まで行ってみれば自然やグルメ、歴史など記事で紹介した場所以外にも思わぬ出会いが待っているはず。暖かくなるこれからの時期、旅行に行きたいと思ったなら、南予を候補に入れてみてはいかがだろうか。