旅レポ

「ユーレイルパス」で欧州を鉄道で巡る旅(その6)

2度目の夜行列車はシャワー付き。オランダ・ヒンデローペンで「塗り」体験

のどかな田園風景が広がるオランダ・ヒンデローペン

 ヨーロッパ28カ国の鉄道などを自由に乗り降りできるユーレイルパスを利用して、日本旅行業協会(JATA)が選定した「ヨーロッパの美しい村30選」のうち6つを巡る旅。ついに最終目的地、オランダはヒンデローペンを残すのみとなった。ドイツ・ベルリンからこの旅2回目となる夜行列車を使い、計700km弱の移動となる。

夜行列車はほとんど遅れなし。インターシティを3つ乗り継ぎ、のどかな村へ

 この日はドイツ・クヴェドリンブルクからいったんベルリン中央駅に戻り、23時44分発の夜行列車「CityNightLine(シティナイトライン)」でデュッセルドルフまで一気に移動する。今回の夜行列車では、途中の連結や切り離しがほとんどなかったためか、デュッセルドルフにはわずか5分の遅れのみで到着した。ドイツ人の勤勉さがなせる技なのだろうか。

 デュッセルドルフからはインターシティに乗り換えて国境を越え、ライン川のほとりのオランダ・アーネムでまた別のインターシティに乗り、北上してズヴォレでさらにインターシティを乗り継ぐ。その先のレーワールデンからは普通列車でヒンデローペンへ。駅前で待ち構えていた蒸気機関車風の観光バスで15~20分、のどかな田園風景のなかをのんびり走り、集落に入った。

ベルリン中央駅から乗車したCityNightLine
寝台車の廊下
筆者が宿泊したエコノミー寝台(二等車扱い)
2段ベッドの状態だが、3段ベッドにすることも可能な構造
扉を開くと洗面台が出現する
こちらはデラックス寝台(一等車扱い)で、トイレ兼シャワー室を完備している。寝台車両にはこの他に共有トイレ兼シャワー室もある。やや汚く、ちょっぴり臭うが、シャワーでリフレッシュできるだけでもありがたい
車掌は朝5時45分と言っていたにもかかわらず、5時半には運ばれてきた朝食。選ぶことはできないが、それなりに充実した内容。ただ、いかんせんパンが多い……
朝6時半過ぎ、デュッセルドルフ到着
入線してきた8×2両編成のICE
連結している部分はまるで“チュー”しているかのよう?
左が乗り換えたインターシティ
移動中に雷雨に見舞われたが、オランダに入ると雨は上がっていた
インターシティの車内の様子
オランダ・アーネム
オランダ鉄道(NS)と民営のアリーヴァの乗り継ぎ用端末
オランダでは乗車券としてチャージ式の非接触ICカード(NFCを採用していると思われる)が全面的に採用されており、このカードを端末に正しい順番でかざすことで乗り降り(乗り継ぎ)を記録する
改札口にも端末が設けられている
これはヒンデローペン駅前にあった券売機。右側の端末でICカードの発行も行なえるが、7.5ユーロ(デポジットではない)とやや高額だった。場所によって値段は変わってくるようだ
さらに別のインターシティに乗り換え
乗り換えたインターシティの車内。これは2階席
二階建て車両となっている
これは1階席
おしゃれな柄が至るところにデザインされていた
これはスピーカーカバー
天井にも
ちなみにヨーロッパでは列車内でこのようなマークを見かけることがある。サイレントカーであることを表わし、車内で大声で話してはいけない
このマークの車両は会話してもOK
ズヴォレでまた乗り換え
車内の様子。頭上の収納は高さがあまりなく、ほとんどのスーツケースは入りそうにない
レーワールデンで最後の乗り換え
ヒンデローペン駅に到着
迎えに来ていた観光用バス。ヒンデローペンまで1人なら片道2ユーロ。団体貸切で往復20ユーロ
蒸気機関車風にきれいに改造している
駅前にあるこの並木道をバスで通る
乗車中
ヒンデローペンまでの道中は、のどかな田園風景が広がっている
牛が放牧されている
村の周辺は風の音しか聞こえないのではないか、と思うほど静か

日本人愛好家も多いヒンデローペン塗りとは?

 ヒンデローペンはオランダ北部のフリースランド州にある、人口わずか700人の村。1本の道路が敷設された大堤防のみで北海と隔てられた、広大な人造のアイセル湖(エイセル湖)を臨む位置にある。村のなかでは、アムステルダム市内にあるシンゲルのような細い運河が張り巡らされており、家の前に個人所有のものと思われるボートが多数係留されていることもあって、まるで水上都市(水上村?)のようでもある。あちこちにある運河をまたぐ跳ね橋も雰囲気たっぷり。

 村で最も高い建物は、中心部にある教会の塔。遠くから見ると傾いているようで、ちょっと不思議なランドマークとなっている。1時間もあれば村のなかをひと通り歩き回ることができ、静かで慎ましやかな村の人々の生活の一端を見ることができるだろう。集落の外に広がる、牛や羊などが放牧された穏やかで牧歌的な風景のなか、気持ちのよい風に吹かれながら、水平線のかすむアイセル湖をずっと眺めていたい……そんな気分にさせてくれる場所だ。

村の風景
レンガ造りではあるが、あまり古さを感じさせない整った家並み
往時の貿易で栄えた雰囲気をたたえる港
クルマやポストなどちょっとしたところにも風情が感じられる
子供たちが鬼ごっこらしき遊びをしていた。子供の遊びは世界共通のようだ
宿泊したホテル
宿泊したホテルの横のレストラン
ホテルの前を走る村のメインストリート
こういった跳ね橋もあちこちにある
遠くから見ると傾いているかのような教会の塔
フリースランド州の州旗がはためく
オランダでは運河をスケートで駆け抜ける「11都市スケートマラソン」も有名。ルート全体の氷の厚みが一定以上にならないと実施されず、前回は1997年に行なわれたが、その後は開催されていない
レンタル自転車もある。土産物店で扱っていたこの自転車は1日8ユーロで借りられる
集落の外に広がる湖と牧草地帯
カイトボードを楽しむ人も

 ヒンデローペンでは、伝統工芸のヒンデローペン塗りが有名。アクリル絵の具を用い、シンメトリックなパターン柄になるよう一定のルールに従って花や鳥などが描かれたもので、ヒンデローペン塗りを施したオランダ木靴や家具などが作られている。

 オランダ在住の日系企業の日本人駐在員の妻らがヒンデローペン塗りを日本に伝え、現在では日本国内でもこの独特の絵作りをたしなむ人が多いとされている。ただ、村内にはいくつかのヒンデローペン塗りの工房が存在するものの、後継者不足に悩まされているところが少なくないようだ。

ヒンデローペン塗りの工房、スケート博物館、レストランが併設されたミュージアム
ヒンデローペン塗りの木靴や家具が販売、または展示されている
工房を見学することもできる
ヒンデローペン塗りのデモンストレーション。まずは下地を塗る
その後にアクリル絵の具で絵を描いていく。1日乾燥させれば完成だ
筆者も体験。大胆な筆致になってしまった。本来はもっと繊細な筆遣いで描きたいところ
併設のレストランでランチ。店員が400~500年の歴史があるという民族衣装で歓迎してくれた
レストラン店内の様子
レストランのテーブルにもヒンデローペン塗りが施されている
オランダと言えばパンケーキ。クレープの皮のような見た目をしている。ランチでは甘くないチーズとハムのパンケーキが1人2つもだされ、お腹いっぱいに
デザートはバニラ味とバナナ味のアイスクリームに手作りパン

8日間の移動距離は計約4000km。でもまだまだ行ける!?

 初日のイタリア・チヴィタからオランダ・ヒンデローペンまで、列車の乗車区間としてはオルビエトからスキポール空港まで、トータルで約4000kmにも及ぶ行程を実質8日間で走り通した。タフなヨーロッパ縦断・横断旅行ではあったが、幸運なことに滞在期間中はほぼ常に好天に恵まれ(ドイツ~オランダの列車移動中に雷雨に遭遇したが濡れることはなかった)、ヨーロッパの「美しい村」をそのままの美しい姿で目に焼き付けることができた。

 今回利用したユーレイルパスは、有効期間2カ月で10日間分乗車できるグローバルパス。今回の旅ではまだ8日間分しか消費していないため、あと2日間分の“余力”を残していることになる。もし有効期限内に再びヨーロッパを訪れることがあるなら、同じユーレイルパスの続きを使うというのもアリだ。

 といっても、当然ながら通常の旅行であれば、ここまで乗り換えを急いで駆け足で観光する必要はない。じっくり時間をかけて移動し、それぞれの美しい村にのんびり滞在したりして、余裕のある日程でヨーロッパのさまざまな場所を巡るのがおすすめ。気軽に自転車を乗せられるヨーロッパの鉄道の利点も活かして、サイクリングしながらの観光にチャレンジするのも面白いかもしれない。

最終日、ヒンデローペンからスキポール空港までに乗った列車

日沼諭史