【イベントレポート】ツーリズムEXPOジャパン2016

MICEとオリンピック・パラリンピックを鍵に訪日客の増加を目指して議論

アジア・ツーリズム・リーダーズ・フォーラム開催

2016年9月22日~25日 開催

ツーリズムEXPOジャパンの併催イベントとして行なわれたアジア・ツーリズム・リーダーズ・フォーラム

 ツーリズムEXPOジャパン2016のカンファンレンスプログラムの1つ、「アジア・ツーリズム・リーダーズ・フォーラム」が、東京ビッグサイト会議棟 レセプションホールにおいて9月23日に開催された。同フォーラムは、日本を含むアジア地域の旅行業界のトレンドなどについて議論する会議で、「サステイナブル・ツーリズム・ディベロップメント ~アジアが世界をリードする」を2016年から3年間のテーマとして行なわれる予定。今年はその中でも「MICE & Sports」をメインテーマにした。

MICEとスポーツを活用して観光振興を目指す

 MICE(マイスと発音する)は“Meeting Incentive Convention Exhibition”の頭文字をとった用語で、Meeting(小規模の会議)、Incentive(インセンティブイベント、報奨・研修旅行などのこと)、Convention(国際会議)、Exhibition(展示会)といった、国家や企業などが開催する旅行を伴うビジネスイベントの総称。

 例えば、企業がコンベンションを行なうと、取引先の関係者などを招待する。すると、会場近隣のホテルに宿泊の需要が発生するし、海外にいる取引先であれば航空会社から航空券を購入して航空需要が発生する。また、コンベンションの期間中には、夜に取引先を接待することもあるから飲食店の需要が発生することになる。このような経済効果をもたらすという意味で、MICEへの取り組みは各国ともに注目しており、日本でも観光庁がMICE需要を掘り起こそうとさまざまな政策を打ち出している(その取り組みに関しては観光庁のWebサイトで確認できる)。

 また、スポーツ振興もすでに旅行業界とは切っても切れない関係だ。というのも、スポーツイベントが行なわれれば、当然観戦する観客は、イベントが行なわれる会場近くにホテルをとることになるのでホテルの需要が発生する。また、人が集まれば同じようにレストランへの需要も発生するなど、スポーツイベントを開催することが、旅行業界にとっての需要喚起につながることはもはや常識といってよい。特に、日本は2019年にラグビーのワールドカップ、2020年にオリンピック・パラリンピックと大きなスポーツイベントが開催される予定になっており、旅行業界にとっても大きなチャンスと捉えている。

 今回行なわれたアジア・ツーリズム・リーダーズ・フォーラムでは、旅行業界の大きなテーマであるMICEとスポーツを中心的な議題として行なわれた。冒頭で挨拶に立ったのは日本旅行業協会 会長 田川博己氏。田川氏は「アジアの観光をどう持続的に発展させていくかを、日本と世界の知見を集めて世界に発信していくためのイベント。今回はMICEとスポーツという、オリンピック開催を控えた国らしい活発な議論を期待している」と述べ、オリンピック開催を控えてMICEとスポーツが旅行業界にとって重要なテーマになるとした。

 続いて挨拶にたったのは、太平洋アジア観光協会(PATA)CEOのマリオ・ハーディ氏。ハーディ氏は「アジア太平洋地域の旅行業界は急速に成長しており、日本では2019年のラグビーのワールドカップ、さらには2020年のオリンピック・パラリンピックが控えており、さらなる成長が期待できる。PATAはそれに協力していきたい」と挨拶した。

一般社団法人日本旅行業協会 会長 田川博己氏
太平洋アジア観光協会(PATA) CEOのマリオ・ハーディ氏

MICEを振興して、2020年に4000万人、2030年には6000万人という訪日客を目指す

国土交通大臣政務官 藤井比早之氏

 午前中にはMICEに関するセッションが行なわれた。MICEセッションの冒頭では、国土交通大臣政務官の藤井比早之氏が登壇し、「我が国にとって観光は地方創生の切り札で、柱である。そのなかでもMICEは非常に重要な要素の一つ。今年中にはインバウンドが2000万人を越え、2020年4000万人、2030年までに6000万人というという新しい目標を打ち出した。それを実現するための政策を実行していく。MICEに関しても誘致促進に向けて政府レベルで促進、地方などと連携しながら推進する」と述べ、今後政府のレベルでもMICEの推進を行なっていくと表明した。

ザ・トラベルショー BBCワールドニュース・プレゼンター カルメン・ロバーツ氏

 そのMICEのセッションは、ザ・トラベルショー BBCワールドニュース・プレゼンターのカルメン・ロバーツ氏の進行により行なわれた。ロバーツ氏は「旅行業界にとって持続成長性は鍵となる。うまく環境的なリソースを活用し、現地の文化を尊重し、さらには長期間に渡って現地経済へ貢献することなどが鍵となる。それらをどのように旅行業界が実現していくかが今日のテーマだ」と述べ、それらについて話し合う3人のプレゼンターを紹介した。

ロバーツ氏のプレゼンスライド
株式会社JTBコミュニケーションデザイン 常務取締役 大塚雅樹氏

 トップバッターはJTBコミュニケーションデザイン 常務取締役 大塚雅樹氏。大塚氏は、MICEのなかでもIncentive(インセンティブイベント、報奨・研修旅行)にフォーカスして説明した。「インセンティブ・イベントを持続的に成長させるには、企画、実行、点検、次回への改善といったサイクルを回していくことが重要。現在で言えば環境への配慮は欠かせないテーマで、リユースしにくい木工のステージからデジタルを活用したステージにするなどの工夫が行なわれている。大事なことは螺旋的進化で、イベント後に経済的評価や参加者へのアンケートをとるなどして次のステージへ上がっていかなければならない」と述べ、持続的に開催できるような取り組みが大事であると説明した。

大塚氏のプレゼンスライド
ビジット・シアトル 代表取締役 兼 CEOのトム・ノーウォーク氏

 2人目のプレゼンテーターはビジット・シアトル 代表取締役 兼 CEOのトム・ノーウォーク氏。シアトルの観光振興を担当するノーウォーク氏は、マイクロソフトやボーイングといった世界的に名前が知られた企業の本拠地があるシアトル市に、どのようにMICEを誘致するかの戦略について説明した。

 ノーウォーク氏によればシアトルはMICE誘致に2300万ドルの投資を行なっており、2017年には新しいコンベンションセンターが完成するという。そのため「現在ホテルの部屋数を増やしたり、空港の拡張、さらにはライトレールなどの公共交通機関に投資を行なっている」と述べ、MICEを開催する都市としてのシアトルのと魅力を増やしていくことなどについて説明した。

ノーウォーク氏のプレゼンスライド
マカオ政府観光局 局長 マリア・ヘレナ・デ・セナ・フェルナンデス氏

 3人目のプレゼンテーターはマカオ政府観光局 局長 マリア・ヘレナ・デ・セナ・フェルナンデス氏。フェルナンデス氏は「MICEはカジノ一辺倒からの脱却を目指しているマカオにとって新しい可能性。雇用創出にもなると考えており、ホテルなどの建設、さらには環境配慮などに関しての取り組みを多々行なっている」と述べ、2016年の前半を終えた段階で、すでに2015年より多くのイベント誘致に成功していることなどを説明した。

フェルナンデス氏のプレゼン資料

2020年のオリンピック。パラリンピックを活用してスポーツによる観光振興を目指す

 昼食時には、ASEAN(アセアン、東南アジア諸国連合)による、ASEAN諸国への観光誘致の取り組みに関する説明や、ASEANが50周年を迎えることを記念した観光誘致のセレモニーなどが行なわれた。

ASEANが50周年を迎えることを記念した観光誘致の記念撮影

 午後には、スポーツ振興がテーマでセッションが行なわれ、冒頭ではスポーツ庁 スポーツ総括官 平井明成氏による挨拶が行なわれた。平井氏は「リオデジャネイロオリンピック・パラリンピックがあり、大きく盛り上がった。地方では人口減などもあり、活性化を望む声が増えているが、スポーツをイベントとして持ち込むことで活性化を図れると理解が進んでいる。スポーツ庁は文化庁、観光庁と一体になってスポーツ振興を行なっており、スポーツイベントと文化を組み合わせたアワードなどを行なっている。3年後(2019年)にはラグビーワールドカップ、4年後(2020年)にはオリンピック・パラリンピックが行なわれることもあり、この機会を捉えてアジアでのスポーツツーリズムを盛んにし、それを持続可能にしていきたい」と述べた。

 その後、午後のスポーツ振興のモデレータとして国際観光学研究センター 副センター長 兼 和歌山大学 特別主幹教授 兼 サリー大学教授 グレアム・ミラー氏が紹介された。

スポーツ庁 スポーツ総括官 平井明成氏
国際観光学研究センター 副センター長 兼 和歌山大学 特別主幹教授 兼 サリー大学教授 グレアム・ミラー氏
内閣官房 東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会 推進本部事務局 企画・推進統括官 岡西康博氏

 最初のプレゼンテーターは内閣官房 東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会 推進本部事務局 企画・推進統括官 岡西康博氏。岡西氏は「政府としてはパラリンピックを軸にして、それをレガシーとして残していきたい。過去最高のパラリンピックにすることで、ダイバーシティを許容する社会にしていきたい。オリンピックの年に4000万人、2030年に6000万人の訪日観光客を目指しており、それに向けた各種の政策を実行していく。また、持続可能なスポーツイベントを目指す意味でも、自国選手の活躍や地方でも競技大会を誘致していくなどの取り組みが必要になる」と述べ、政府としても、2020年のオリンピック・パラリンピックを成功させ、それを観光振興につなげる政策を行なっていくことを説明した。

タイ 観光・スポーツ大臣 コープガーン・ワッタナワラーングーン氏

 2人目のプレゼンテーターはタイ 観光・スポーツ大臣のコープガーン・ワッタナワラーングーン氏。ワッタナワラーングーン氏はタイがさまざまなスポーツ振興に取り組んでおり、その成果としてリオデジャネイロオリンピックでは2つの金メダルを含む6つのメダルを獲得し、従来の同国の成績から大きく向上したことなどを紹介した。また、2017年には毎日新聞社との共催でアユタヤで“絆駅伝”と呼ばれる日本とタイが国交を樹立して130年が経過したことを祝う駅伝のイベントを行なう予定であることなどを紹介した。

ワッタナワラーングーン氏のプレゼンスライド
YTLホテルズ エグゼクティブ・ディレクター ダトー・マーク・ヨー・シオック・カー氏

 3人目のプレゼンテーターは、YTLホテルズ エグゼクティブ・ディレクター ダトー・マーク・ヨー・シオック・カー氏。YTLホテルズは、マレーシアの大手企業グループであるYTLグループのホテル部門で、世界各地のリゾート地などでホテルなどを運営している。カー氏は、同社が北海道のニセコで運営しているリゾートホテルとスキーの関わりなどについて説明し、冬期オリンピックの会場になったことが認知度の向上につながっていること、さらには現地での人材育成などが重要などと説明した。

カー氏のプレゼンスライド
近畿日本ツーリスト株式会社 代表取締役社長 田ヶ原聡氏

 最後のプレゼンテーターは近畿日本ツーリスト 代表取締役社長 田ヶ原聡氏。田ヶ原氏は、近畿日本ツーリストが行なっている3つのスポーツ振興の取り組みについて説明した。具体的には東京マラソンフレッドシップラン、伊勢志摩サイクリングフェスティバル、温泉ランナーズスペースの3つ。

 東京マラソンフレッドシップランは、東京マラソンの直前に行なわれるイベントで、海外からのランナーや国内のランナーがふれあうイベントとして行なわれている。ランナーだけでなく、地元の子供たちも参加して海外からの参加者とふれあったり、地元企業が受付やおもてなしに参加するなどして、参加者からも高い評価を受けているという。

 伊勢志摩サイクリングフェスティバルは、志摩市などが行なっているサイクリングのイベントで、プロ向けではなくアマチュア向けのイベントとして行なわれているという。このため、イベントの参加者に郷土料理を提供するなど、特産品のプロモーションとしても活用されているという。

 温泉ランナーズスペースは、同社が「Runtrip」という投稿型のWebサイトと協業して行なっている取り組み。RuntripはランナーのためのSNSといった形で、ランナーが走った場所を投稿してほかの参加者と情報をシェアしたりできる。近畿日本ツーリストでは、そうしたランナーのために、温泉宿と協力して走ったあとに温泉に入れるプランを作成するなどして、ランナーのニーズに答えていく計画。今年の秋から取り組みを開始するということだった。

【お詫びと訂正:2016年9月28日】初出時、近畿日本ツーリスト 代表取締役社長 田ヶ原聡氏のお名前に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。