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羽田空港、ITで多言語対応や情報バリアフリーを目指す「情報UD高度化の共同実験」

訪日外国人観光客や障害のある人に世界最高のおもてなしを提供

2015年12月3日 実施

 TIAT(東京国際空港ターミナル)とJAT(日本空港ビルデング)、NTT、パナソニックは、訪日外国人観光客や高齢者、障害のある人をターゲットとし、音、光、画像、無線などの最先端情報技術を活用した、世界初の情報UD(ユニバーサルデザイン)高度化の共同実験を、12月3日より開始すると発表した。

 今回の共同実験は、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に向けての訪日外国人観光客増加や、少子高齢化の進展などが想定される中で、顧客ニーズの多様化が高まるとともに、多言語対応、混雑時の柔軟な対応などが求められるという課題に対し、各種最先端技術を利用してどの程度解決を図ることができるか、その有効性を検証するために行なわれる。

東京国際空港ターミナル株式会社 代表取締役社長 土井勝二氏

 今年(2015年)は10月末の時点で訪日外国人観光客が1630万人を超えているという。そういった中で羽田空港は、国際線ターミナル開業から5年が経過しているが、開業の4年前(2011年)にUD検討委員会を立ち上げ、外国人や障害者など当事者参加型でUDを作ってきたという。それだけでなく、開業後も定期的にUDの改善を行なっているそうで、TIAT代表取締役社長の土井勝二氏は「国内外からのターミナルへの視察も非常に多く、UDの最先端施設だと自負している」と、UDへの取り組みについて自信のほどを示した。今回の共同実験も、その定期的なUDの改善に向けた取り組みの一環となるが、土井氏は「共同実験へのパートナー企業や、他の空港の方々などのさらなる参画も目指しながら、本日を出発点として、UDのひとつのショーケースとして進めていきたい」と、共同実験への意気込みを語った。

 今回、実際に羽田空港で行なわれる共同実験では、NTTとパナソニックが、それぞれの持つ技術を活用したUDを導入し、その有効性が検証される。発表会では、その実証実験の一部がデモされたので、そのデモの様子を紹介する。

NTTの実証実験

 NTTが行なう実証実験は、訪日外国人観光客向けに、スマートフォンやタブレットを案内板にかざすことで様々な情報を提示する「かざして案内」、視覚障害のある人向けに、音が聞き取りにくい環境でも明瞭な音サインを実現する「インテリジェント音サイン」、大勢の空港利用客向けに、プロジェクションマッピングを利用した案内システム「プロジェクションサイン」の3種類。今回はこのうち、「かざして案内」と「プロジェクションサイン」の2種類のデモが行なわれた。

NTTは、3種類の技術を活用した実証実験を行なう
実証実験の詳細を説明する、NTTサービスエボリューション研究所 主幹研究員の手塚博久氏
かざして案内

 かざして案内は、空港内の案内看板など、あらかじめ訪日外国人観光客が情報を入手したいと考えられる場所でスマートフォンやタブレットをかざすと、対応した情報が画面に表示されるというもの。案内板などにかざすと、母国語に翻訳した案内板の画像を表示したり、現在位置の表示、目的地までのナビゲーション、交通機関の運賃や時刻表などが表示される。

 このシステムは、画像認識技術を応用したもの。スマートフォンをかざして写っている映像を解析し、あらかじめ登録された案内板などの画像と照らし合わせ、合致した画像にひも付けられている情報を表示する。画像認識技術には「アングルフリー物体検索技術」という技術が活用されており、斜めから看板を写したり、看板前に人などの遮蔽物があったとしても、正確に物体を認識できるという。実際のデモでも、斜めから案内板を捉えても、問題なく画像解析され、正確な情報が表示されることが確認できた。

 システムはHTML5ベースで実現されており、HTML5対応のWebブラウザのみで利用できる。空港のフリーWi-Fi接続時などに表示される空港ポータルにリンクを用意するなどして、そこから簡単に利用できるようになるという。今回のデモでは、対応言語が英語、とタイ語のみとなっており、あらかじめ選択した言語で表示されるという状態だったが、将来的にはブラウザの言語情報を読み取るなどして自動的に母国語で表示したり、言語数も200言語ほどに対応させたいという。

「かざして案内」では、空港内の案内看板などにスマートフォンをかざすことで、各種情報を表示する
NTTの画像認識技術「アングルフリー物体検索技術」を利用することで、斜めから物体を捉えても正確に情報が得られる
HTML5ベースで実現され、専用アプリ不要で利用できる
カメラで案内板を捉えると、画像認識で適合した画像が下に表示される
適合画像をタップすると、その画像にひも付けられた情報を表示
画像内のリンクをタップすることで、様々な情報を表示可能。対応言語は200言語以上に増やしたいという
プロジェクションサイン

 プロジェクションサインは、空港内の壁などに、プロジェクションマッピングの技術を利用して、各種情報を表示するというもの。例えば、複数ある検査場の混雑具合を表示しつつ、空いている検査場に誘導して混雑を緩和するといった用途が想定されている。プロジェクションマッピングは、エンターテインメント用途として、日没後に利用される例がまだ大半を占めているが、今回の実証実験のように、日中も含め、UDに活用する例は、世界初とのことだ。

 実証実験では、羽田空港国際線ターミナル出発フロアのDカウンター屋上などにプロジェクターが設置され、その先の壁にプロジェクションマッピングで各種情報が表示される。今回は、羽田空港国際線ターミナルに2ヶ所ある出国検査場の混雑具合を示しながら、空いている検査場に案内する情報を表示するというデモが行なわれた。チェックインカウンターの先にある壁に情報が表示されるため、チェックイン後にどちらに進めばいいのか、簡単に把握できると感じた。

 当初は、表示される情報は、毎日の空港の混雑具合をベースとして、時間ごとに設定した情報を表示するだけとのことだが、今後、実際の混雑具合などをチェックしながら、オペレータが表示内容を変更するようにするという。また、将来的には、人の流れをセンサーでチェックしながら、その変化に応じて案内内容を動的に変更し表示するようにしたいとのこと。

プロジェクションマッピングを活用して各種情報を表示する「プロジェクションサイン」
羽田空港国際線ターミナル出発フロアのDカウンター屋上に設置された、プロジェクションマッピング用のプロジェクター
Dカウンター奥の壁に、プロジェクションマッピングによって情報を表示する
検査場の混雑度合いなどを表示
空いている検査場に誘導する情報を表示して、混雑の緩和を図る
将来は、センサーで人の流れをチェックし、動的に案内内容を変更して表示するようにしたいという

パナソニックの実証実験

 パナソニックが行なう実証実験は、訪日外国人観光客向けに、空港ターミナルビル内の商業施設を認知し、案内や誘導を行なうことを目的とし、光や無線ビーコンなどを活用した技術の有効性を検証するものとなっている。そして、この実証実験では、「光IDサイン」と「高指向性ビーコン」という2つの技術が活用されている。

パナソニックが行なう実証実験の詳細を説明する、パナソニック AVCネットワークス社 イノベーションセンター システムエンジニアリング部 部長の村上茂樹氏
パナソニックの実証実験では、「光IDサイン」と「高指向性ビーコン」という2つの技術を活用している

 光IDサインは、デジタルサイネージなどのLEDを利用した光源を、人間には識別できないほど高速に点滅させることで、特定のIDとして認識させるというもの。スマートフォンのカメラでその光源を捉えると、IDが読み取られ、そのIDにひも付けられた情報が画面に表示される。

 光IDサインの利点は、電波のような干渉がないため、光IDを発信する光源を隣接して置いても問題なく運用できるという点や、大勢に対して問題なく同時に情報を送信できる点などがある。実際のデモでは、横に並べて置かれた光ID送信光源に対してスマートフォンをかざすことで、それぞれにひも付けられた情報が瞬時に表示されることが確認できた。利用時には、専用アプリが必要になるが、空港のフリーWi-Fi利用時のポータルページにダウンロードのリンクを用意するなどして対応したいという。

 対応言語は、今回のデモでは日本語、英語など4言語のみだったが、基本的に言語の制約はなく、拡充を予定しているという。また、表示される情報は全てサーバに登録され、光ID認識後にサーバからひも付けられた情報をダウンロードして表示することになる。そのため、表示する情報も好きなタイミングで変更できるという。

光IDサインは、LED光源を利用してID信号を送信し、スマートフォンで受信したIDにひも付けられた情報を表示するという仕組み
光IDサインは、専用アプリを利用して実現。デモでは4言語に対応していたが、今後増やしていく予定とのこと
デジタルサイネージなどのLED光源から発せられる光IDを受信し、その光IDに対応した情報を表示
光IDを発信する光源が隣接していても、双方が干渉することなく情報を表示できる
光IDサインで情報を表示する様子

 もうひとつ、高指向性Bluetoothビーコンを利用した実験は、GPS電波の届かない室内でのスムーズに誘導するナビゲーションシステムを実現するというものだ。一般的に利用されているBluetoothビーコンは、無指向性のアンテナを利用しているため、隣接するビーコンから届く信号の位置関係を特定しづらく、ナビゲーションに活用するのが難しい。しかし、今回の実証実験では、指向性を高めたアンテナを利用することで、狭いスポットに対してのみビーコン信号が届くようにすることで、ビーコン信号から正確な位置を割り出し、室内での正確なナビゲーションを実現している。実際に、羽田空港国際線ターミナルの4階の天井に、約10m間隔でビーコンを設置し、実験が行なわれるという。

 デモでは、実際にターミナル内でのデモではなく、発表会場内でのデモだったが、移動すると特定の場所でビーコン信号を受信し、目的地までのナビゲーションが正確に行なわれることを確認した。

 なお、このナビゲーションシステムでは、地図を表示して行き先をリアルタイムに表示するのではなく、目的地までの間にある目立つ場所までの案内を順次表示するという方法を採用している。これは、常にスマートフォンの画面を見ながら移動することことがないようにするための配慮とのこと。また、音声を使ったナビゲーションも行なえるという。

高指向性Bluetoothビーコンを利用した屋内ナビゲーションシステム
空港内の施設情報を表示し、その場所までのナビゲーションが行なえる
ナビゲーションでは、常に画面を見ながら移動する必要がないように配慮し、道中の目立つ場所までのナビを繰り返すという方法を採用
指定された場所にたどり着くと、次の場所までのナビに切り替わる
目的地に到着すると、目的地の詳しい情報が表示される
高指向性Bluetoothビーコンを利用したナビゲーションデモの様子
過去に行なわれた、音声案内を利用した実証実験の様子

 これら実証実験は、2015年12月3日から2016年3月31日の期間で実施される。なお、今回の実証実験は、主に実験に協力してもらえる訪日外国人観光客を対象としているため、実験で利用されるWebサイトやアプリは一般には公開されない。

(平澤寿康)