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日本旅行業協会、田川会長が記者会見。国内からの海外旅行の喚起が重要課題

2015年7月1日 開催

JATA(日本旅行業協会)の記者会見の様子。中央が会長 田川博己氏、左は理事長 中村達朗氏、右は理事 事務局長 越智良典氏

 JATA(日本旅行業協会)は7月1日、旅行に関するマーケット動向と、2015年のJATAの取り組みについて会長 田川博己氏が会見を行なった。

日本旅行業協会 会長 田川博己氏

 JATA 会長 田川博己氏は会見でまず、インバウンドについて「まだまだ円安やビザの緩和、免税拡充などの効果がありまして、中国を中心として東アジアから訪日が拡大している状況です。1月~5月は750万人が訪日しており、このままの勢いで推移すれば、1500万人を遙かに超える可能性があります。2000万人行くと言う政治家もいますが、そこまで行くかは分かりませんが、それにかなり近いのではないかと予想しています。インバウンドの拡大は、旅行業界だけではなく、流通業や食品業なども含め、日本経済に与える影響が大きくなっています。旅行業界からみた訪日というのは、航空運賃などを扱うわけではないので、増加しても大きな影響はありませんが、宿泊業や飲食業、お土産物など国内の様々な産業に与える裾野が広いので、引き続きフォローしていきたいと思います」と好調な状況であると説明した。

 続いて国内旅行や日本からの海外旅行に関して「国内旅行に関して、旅行会社各社の需要は、北陸新幹線の開業やUSJの効果で順調に推移しています。9月にシルバーウィークがあるのも好調な要因の1つです。しかし、問題なのは日本からの海外旅行です。残念ながら1月~5月の海外旅行者数は5%減少しています。これはインバウンドの数を下回っています。インバウンドの増加でアジア路線の航空チケットが予約しにくくなっているというのも原因の1つとしてあります。また燃油サーチャージが安くなっているものの、円安の影響で旅行者数の増加への効果が低い結果となっています。そのため、4月以降の海外旅行商品で価格が安くなったというイメージが出ていません。旅行の市場動向調査でも6月期は震災以降、最も厳しいという数字です。さらに夏期についてもなかなか数字が上がってきておらず、9月のシルバーウィーク以外は厳しい状況です。これからしっかりと対策を採っていく必要があると感じています。海外旅行については、私の個人的な所感としては、海外旅行の自由化により最大1800万人台まで増加しましたが、海外旅行に1つの区切りがつき始めていると思います。なぜ海外旅行をするのかという理由づけが改めて必要になってきています。渡航する地域も例えばビジネスでは米国や欧州が多かった昔に比べるとアジアなどが多くなっているなど状況が変わってきています。特にレジャーマーケットなどは時代にあったものを検討していく必要があります。海外旅行の需要が厳しい今だからこそ、しっかりと対応が必要だと感じています。過去に湾岸戦争や阪神淡路大震災など様々な事件が要因で海外旅行が低迷した時期がありました。それでもそれを乗り越えて50年来ましたので、これからもこの流れの中でやっていきたいと思います」と厳しい現状について語った。

 また2015年のJATAの重点施策しては「海外旅行の需要喚起が重要です。中国への旅行に関しては底を打って改善の兆しがあります。韓国については、MERSコロナウイルスの影響で予定していたイベントが中止になるなどの影響で厳しい状況です。WHOからどのような判断が出るかがファイナルステージなのではないかと思います。米国に関しては、オバマ大統領が全米50州をあげて旅行の需要喚起を行なっています。日本に対する訪米の期待感も高いものがあります。米国がキューバと国交正常化できれば、大きな動きが出てくる可能性があります。カリブ海クルーズや、テーマパークとして整備が進められているケネディ宇宙センターなど、新しい旅行素材をしっかりと発掘していきたいと思います」と海外旅行の需要喚起に力を入れていくと語っていた。

 国内旅行の施策に関して「『ニッポンを、遊びつくせ!』というWeb動画を中心にしたキャンペーンをやっていますが、まだ東北に十分な旅客数が得られていないため、動画の舞台を東北に移すなど宿泊の拡大をしていきたいと考えています。今年は交流人口3000万人時代を迎えており、来たる4000万人時代をどう迎えるか、“交流大国ニッポン”というのをキーワードに検討しています。インバウンド、アウトバンドの両方の側面で交流立国の実現という政策提言を行なっています。JATAの総会では100人以上の大使館からのゲストが来ており、海外旅行でのJATAの役割が評価されています」と述べた。

 JATAが7月1日に発表した「JATA政策提言-海外・国内・訪日旅行」に関しても触れ「若者の国際化というのも1つの重要な施策です。18歳以上に選挙権が与えられるということもあり、私は18歳になったら若者に旅券を配布してもよいのではないかと思っています。また、海外での取得単位を国内で認定するなど教育旅行のグローバル化も必要だと思います。また、海外への修学旅行など、今まで日本が行なってきた教育支援制度を世界に発信していくのも必要です。

 国内旅行に関しては、国連世界観光機関(UNWTO)が推進している、DMO(Destination Management Organization)、日本版の観光情報プラットフォームを各地域に作っていく必要があると思います。観光地経営という観点では十分な組織を持っているところが少ないので、日本観光振興協会とも共同してやっていきます。

 訪日旅行の政策提言に関しては、これから旅行者が増えていけば、当然、量の次は質といわれるように、質の向上や地域分散がキーワードになると思います。リピーターが増えれば増えるほど質の向上をどうやってやっていくか、地域分散へどう繋げるかが課題です。質の向上に関しては2013年から『ツアーオペレーター品質認証制度』というのをやっていますが、世界にまだ十分に伝えきれていません。この問題も日本政府観光局(JNTO)やJATAが世界の協議会などで日本のツアーオペレーターのレベルの高さを発信していく必要があると感じています。特に訪日客の7割前後がアジアからですので、そこにターゲットを絞ってしっかりとやっていく必要があります。

 JATAの提言書のなかの3つのポイントをお伝えします。1つは、地方創生やインバウンドの増加のためには、地方がしっかり国際化していく必要があるということです。日本には98もの空港がありますが、国際線は、東京、名古屋、大阪地区に集中しています。このため、地方空港発の海外需要を増やす必要があります。2つめは、クルーズです。クルーズ船の寄港に相応しい港湾やターミナルの整備、出入国管理の施設が必要です。日本に来る外国人が倉庫街のような港に降りるのは恥ずかしいと思います。現在、外国人をお迎えする設備は十分に整っているとはいえません。ハード面での対応もしっかりやって、クルーズ船の日本への寄港を増やしていく必要があります。3つ目は、地域の伝統芸能や祭事、特産品などの地域ブランドを高める必要があります。地域の外から来た人に対して人的交流はもちろん、これらの情報を旅行会社がしっかり届けて、地方の国際化推進に貢献する必要があります。

 また、旅行需要の創出には、企業の休暇制度の普及や、国内の安全・安心の確保が必要です。JATAは旅行安全マネジメントに力を注いで来ました。これをさらにレベルを上げていきたいと思います。

 9月24日~27日まで東京ビッグサイトで『ツーリズムEXPOジャパン』を開催します。本イベントでは、丸ノ内エリアを“都市型MICE”として『JAPAN NIGHT 2015』を開催するほか、『第1回 アジア・ツーリズム ・リーダーズ ・フォーラム』、ツーリズムの社会的地位を向上させるため2015年より新設する『ジャパン・ツーリズム・アワード』の表彰式などを予定しています。

 今年は政策提言を元に、想定外の事件が起こる事も加味しながらしっかりとやっていきたいと思います。先進国の観光立国大国と呼ばれる国は、インバウンドとアウトバウンドのバランスが良い国です。そのバランスをしっかり取れるように一翼を担っていきたいと思います。JATAの会長をやって1年経ちました。おかげさまで色々な業界の方からお声がけを頂けるようになりました。ツーリズムで解決できる問題、ツーリズムが入ればスムーズに行く課題が多くあります。特にその象徴は地方創生だと考えます」と語った。

編集部:柴田 進