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木更津市道125号が日本初「ポルシェ通り」に。本当に前例がないか、全国の道路標識を調べてみた

2021年10月1日 発表

ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京周辺の市道125号の一部が「ポルシェ通り」に

「外国車ブランド名が付いた道路標識」はホントに日本初?

 ポルシェジャパンは10月1日、世界で9番目となるブランド体験施設「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」を千葉・木更津にオープンした。また同日、周辺の市道125号線の一部が「ポルシェ通り」と命名されたことを発表している。本ネーミングライツの期間は2021年10月1日~2026年9月30日の5年間。

 ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京は、全長2.1kmの三次元コース、カフェ、レストラン、MICE施設を擁し、この広大な敷地に接する木更津市道125号の一部(1km)が「ポルシェ通り」と正式に命名、7か所に道路標識が設置された。

千葉県木更津市の「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」
施設周辺の市道が「ポルシェ通り」に
木更津市道125号に7か所設置される「ポルシェ通り」の標識
日本語とともに、ドイツ語(Porsche Strasse:ポルシェストラッセ)でも表記されている

 ポルシェジャパンは千葉県および木更津市と産業・観光振興・環境保全など総合的なCSR活動を行なう協定を結んでいる。そして地域との連携を深める取り組みの一環として「木更津市道125号のネーミングライツ契約」が実現。単に愛称として名乗るだけではなく、正式な道路標識を伴う「ポルシェ通り」が誕生することとなった。

 機密保持を結んだうえで事前にこの情報を知った記者がまっ先に思ったのは、「ポルシェ通り」のように外国車ブランド名が付けられた道路標識は見たことがない、ということだ。日頃から道路情報を扱う編集部でも聞いたことがないという。

 気になったことは調べるしかない、というわけで日本全国にほかの「外国車ブランド名通り」があるのか、調査を開始した。

そもそも道路の「通り名(通りの名前)」とは

 街中で「○○通り」という看板を見かけることは多い。古くから地元で親しまれている名前が付けられていたり、町内会で独自に設置したというものがあったり、由来やデザイン・掲示場所は数限りなくある。

 国土交通省では、2008年(平成20年)に社会実験として「通り名で道案内」プロジェクトを実施。Webサイトでは「土地に不慣れな方に、通りの名前と距離を表わす番号を記載した『標識板』で、目的地への案内をしようという試み」という説明とともに、全国27自治体の取り組みを地図と一緒に紹介している。

 だが、ここで紹介されている「通り名 標識板」はデザインがまちまちで、掲示場所も道路標識としてではなく、建物の壁や街路灯に設置されているものがほとんど。東京都の「六本木通り」など、正式な道路標識(道路法上の道路に道路管理者が道路標識を整備したもの)はごくわずかのようだ。

 いずれにしても、この情報が掲載されているということは、「正式な標識」かつ「外国車ブランド名」がいくつあるのか、調べれば分かるはずだ。

国交省の通り名で道案内プロジェクト

国交省 道路局でも「正式な通り名」は管理していない

 道路管理の総本山、国土交通省の道路局であれば全国の「正式な」通り名標識について一覧表がでてくるに違いない。そう期待して問い合わせてみたが、現実は甘くなかった。

 まず、一部例外を除いて、国道と都道府県道は都道府県が、市道は市が、町道は町が、それぞれ維持管理を行なっている。そして、日本全国すべての道路法に基づく道路には路線番号と路線名が割り当てられ、もちろん国交省 道路局にはそのすべての情報がある。

 しかし、今回知りたいのはネーミングライツ制度などで「正式に命名された、行政が道路標識を立てた通り名」について。残念ながらこの情報は国交省でも一元管理しておらず、「通り名で道案内」プロジェクト以降は特にWebサイトなどでの情報更新もしていないという。

 だが、今回の目的である「外国車ブランド名が正式に付けられた道路標識」を調べるための方法は知ることができた。

 まず、47都道府県それぞれの道路局あるいは担当部署に連絡し、県単位で情報が整理されているかを確認。そこでリストが手に入ればよいが、ない場合は県市町村の告示を当たってみる。

 というのも、ネーミングライツ制度などで正式な道路標識を立てる場合、行政と企業・団体が必ず契約を結ぶ必要があり、行政が結ぶ契約は「告示」という形で公開される。そしてその情報はWeb上でも公開するので、キーワードを使って公報のWebデータベースを検索すればよいというわけだ。

道路そのもののネーミングライツ制度はまだ始まったばかり

 あいにく、取材時点で「都道府県全体の正式通り名がリスト化されている」自治体は長野県のみだった。

・毎年1回、県から各市町村へ照会し、地域の了解が得られている通り名を「長野県 道路愛称名誉普及検討会議」が承認
・承認を受けた通り名のみが「道路法に定める道路標識へ記載」できる
・現時点での(正式)通り名数は313

 直近では、8月に長野県と岐阜県を結ぶ長野県道84号(乗鞍エコーライン)と岐阜県道5号(乗鞍スカイライン/マイカー規制区間)の愛称について、観光関係者が主体となって2つを「乗鞍ライチョウルート」と命名。上記プロセスによって長野県の「正式な通り名」に制定されたそうだ。

長野県は県全体の正式通り名について全国で唯一、一元管理していた

 このほか、北海道は正式道路名での標識のみ、青森県は愛称は定めているがあくまで愛称なので道路標識ではなく看板を設置、岩手県もすべて観光用として設置しており道路法での標識化はなし、などなど……。

 ネーミングライツ制度については、都道府県として行なっているところは存在せず、富山県、石川県、福井県、埼玉県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、大阪府、兵庫県、そして今回ポルシェ通りを制定した千葉県の「市町村」レベルでは実施を確認できた。

 歩道橋やトンネルなどでは全国的にネーミングライツ制度を実施しているが、道路そのものでの実施が少ない理由を聞いたところ、「ほかがやっていないから」「維持管理費用の区分が大変だからでは」などの回答だったが、「今後は検討している」「正式に要望申請があれば検討する」という回答も多かった。

東京都の通り名は東京オリンピックから始まった

 では、首都・東京ではどうか。都内をドライブすると、「駒沢通り」「青山通り」など全国的にも有名な「正式な通り名標識」を頻繁に目にする。東京都建設局に取材したところ、通り名の歴史について詳しく説明していただけたので紹介したい。

 東京都の正式な通り名は「東京都通称道路名」として、過去3回にわたり制定されている。

 第1回の年度を見てピンとくる方もいるだろうが、1964年(昭和39年)東京オリンピック開催に向けて整備されたのが東京の正式通り名のはじまりだ。

 印刷版の資料も制作しており、東京都庁 都民情報ルームや都内の各建設事務所(来所は要事前連絡)で配布している。

過去3回の東京都通称道路名
実施年路線数整理番号
第1回昭和37~38年69路線1~44(昭和37年)、45~69(昭和38年)
第2回昭和59年60路線70~129
第3回平成26年42路線130~171


日本に「ポルシェ通り」や「外国車ブランド名通り」は過去存在したのか

 さて、そもそもの疑問である「日本に過去ポルシェ通りは存在したのか」「日本全国にいくつぐらい外国車ブランド名通りはあるのか」だが、調査結果は以下のとおりだ。

調査対象ブランド名

 日本自動車輸入組合(JAIA)のWebサイトに記載している「輸入車ラインアップ」36ブランド、加えて「メルセデス」と「ベンツ」に分解した2ブランド(計38ブランド)

調査方法

・国土交通省 道路局、東京都 建設局に問い合わせ
・47都道府県 担当部局に問い合わせ
・公報/告示データベースを機械検索
・ネーミングライツ実施市町村 担当部局に問い合わせ

結論

・過去に正式な道路通り名として「ポルシェ通り」は存在しない
・正式な道路通り名として「外国車ブランド名通り」も存在しない

 1964年東京オリンピックに向けて東京の通り名が制定され、2021年東京オリンピックの年に「ポルシェ通り」が誕生した。普段、道路の正式な通り名を意識することはあまりないかもしれないが、調べてみると実に興味深かった。